序戦
「えー。ひげ面親父の相手を私がー?
そうねえ。西田、相手してあげて。
西田に勝ったら、私が相手してあげるわ」
西田は喜々として、金の前に進んで、右の拳で左手の平を打った。
「おーし! 見せ場だぜ!」
金は俺の方を、いぶかしい顔で見る。
「お前、何なんじゃ? 態度コロコロかえやがって。
まあ、ええわい。こいつやったら、相手してもらえるんじゃろうの?」
「ええ。勝てたらね」
西田が、殴りかかると、金は右のパンチをかわして、
身構えた。
「空手使うか何か知らんが、ぽっと出の女に尻尾振るような奴に、儂がやられるかいや!」
俺は三人に寄るようにジャスチャーして、耳打ちする。
「金は単純そうだが、李の出方が気になる。
不意打ちしてこないとも限らない。周囲を警戒しててくれ」
三人がこくりとうなずき、俺は松下からクラブケースに入れて,
持ってきてもらっていた棒を受け取る。
金と西田は、最初は慎重だったものの、
すぐにノーガードでど突き合いをはじめた。
肉や骨を打つ音が響き渡り、血や汗のしぶきが飛ぶ。
「だぁー! しつけえぞ! いい加減、くたばれや!」
「くかかか。甘いのー。大甘じゃー。女の尻に敷かれとるような奴は、
言うことが違うわい」
「お前も一辺敷かれてみろや。最高の尻だぜ! いくぞ、おらー!」
殴りあう二人を見ていると、田崎が二の腕を突いてきた。
「おい、気付いてるか?」
「うん。ちょろちょろ変な奴らが動いてるな」
「囲まれてるぜ。どうするよ?」
「任せなって。棒持った俺は、20、30人じゃ倒せねえよ」
「はっ。言うねえ。このお姫様は。頼りにしてるぜ」
二人は10分近くも殴りあい、お互い顔を腫らし、血を流しふらつきながらも、
手を止めようとはしない。
「や、やるじゃねえか。ち、ちっと疲れてきたぜ」
「当たり前じゃ。わしゃー、朝鮮高校のあ、頭じゃぞ。
しっかし、ぬしゃー、しつこいのー」
俺は殴りあっている二人の傍へいって、肩に手を置いた。
「よーし。ちょっと休憩! 見たところ二人の実力は互角。
一息ついて、お互い全力の一撃をだしあって、決着をつけてはどう?」
「はぁはぁはぁ。お、俺はそれでいいぜ」
「くはっ。わ、儂もじゃ」
二人が離れ、疲労困憊という西田に、松下がペットボトルを差し出す。
「気合い入ってんじゃねえの。金って、タイマン負けなしって聞くぜ」
西田は、500mlのお茶を飲み干すと、にやっと笑った。
前歯の下の歯が無くなっている。
「よほど、弱い奴らとやってきたんだろ。大したことねえよ」
三野が笑いながら、西田のほっぺを突いた。
「うおっ。やめろ! 痛えんだぞ!」
「顔、パンパンのくせによく言うぜー。第二ラウンドもあるんだから、
さっさっと決めろよな」
「第二ラウンド?」
田崎が煙草に火をつけながら、顎でしゃくる。
20m程離れた路地から、こちらをうかがっている奴が見える。
「うへー。マジかよ。俺、もうおなか一杯だって」
俺は首を回しながら、金の方へと歩いていく。
「ちょ、ちょ、ちょっ! 姫は何するつもりだよ?!」
「うん? やんないんだろ? なら、金はもらおうかなって」
「馬鹿やろ! ここまでやって、引けるか!」
「その意気、その意気。後のことは、考えなくていい。
久々に、俺の棒さばき見せてやるよ」
「うーむ」
「なんだよ?」
「いや、姫が棒とかいうとエロイなって」
「この馬鹿チン!」
西田の股間を蹴り上げると、西田は内股になって、
うずくまった。
「目覚めたか? がつーんと一発、かましてこい」
「いちちち。うちの姫君は相変わらず厳しいなあ。わーったよ。気合い入ったわ」
西田が、腕を回しながら進んでいく。
金もそれを見て、首を回しながら近付いてきた。
「いくぜー!」
「吠えるなや。儂の本気みせたらあーや!」
田崎が横に来て、ふっと鼻で笑った。
「意外だな。男っぽいお前は、勝ちにこだわるかと思ったが、
成り行き任せとは」
「せっかく西田が頑張ってるからさー。あからさまだと、西田に悪いだろ?」
俺は右に移動して、金がよく見える位置に立つ。
二人が振り被ったところで口笛を吹いて、スカートを捲った。
金が俺を見て、固まったところで、西田の渾身の右が、金の顔面にヒットして、
金はもんどりうって、倒れる。
金の手下が、騒ぎだす。
「金さーん!」
「金さん、立ってー!」
「汚いぞ!」
「なんて、汚い女だ!」
西田は、意味がわからず、困惑した顔で振り返る。
田崎が、歯を剥いて前に出た。




