再開
「私、こ、怖い……」
肩をすぼめて、怖がる真似をすると、男の一人がどんと胸をたたいた。
「大丈夫だって。金一家は、そんな卑怯な奴らにゃ負けねえって。
奈津美ちゃんも守ってやっから」
「本当ですか? ありがとうございます」
「礼には及ばねえよ。不細工で顔切られる心配のないミョンエーは守る必要ねえけどさー」
「なんですって?! あんた目がおかしいんじゃないの?」
掴みかかろうとしたミョンエーから、男は逃げ出し、ほかの二人は笑っている。
あんまり殺伐としてないんだな。想像してたのと違ってて、
だましてるのが何か悪い気がしてきたぞ。
「カズ、今日バイク?」
刈り上げの奴が、茶髪に聞く。
「おう。そうだけど?」
「お前、奈津美ちゃんを駅までおくってやれよ。三鷹水産の連中が来る前にさ」
「いいけど、あいつら五人で来るんじゃねえの?」
「ばーか。嘘に決まってるんだろ? うじゃうじゃ来るに決まってる」
「そうだな。じゃあ、奈津美ちゃん行こうか。2つ離れた駅なら特急とまっから、
そこまで行けば大丈夫だと思うよ」
「ありがとうございます。でも、後からお母さんに迎えに来てもらうことになってるんです。
ですから、怖い人が来るときは、隠れておきます」
「うーん。なら、どうすっかなあ」
刈り上げが首を捻ると、茶髪がそれならと声をあげた。
「俺らと一緒にいたほうがよくねえ? 後から、金さん来るんだし」
茶髪の言葉に、刈り上げも同意する。
「だな。俺らの傍なら守ってやれるし。そうしよ。そうしよ」
「ありがとうございます。日本人と違って、頼りになりますね」
俺のお世辞に、二人とも胸をはる。
「当たり前だって! 李の一派と違って、俺らは男を磨いてっから」
「そうそう。金さんはさ、李と違って汚ねえ手は使わねえんだ。
いつだって、真向勝負! かっこいいよなー」
「李たちと比べて、俺ら数はすくねえけど、朝鮮高校を二分してんのは、
金さんが慕われてっからさ。李の配下でも金さんを慕ってる奴多いし、
冷酷非情な李も金さんのこと無視できねえんだ」
「お二人も素敵なのに、金さんって方は、すごい方なんですね」
「おうよ! 金さんは最高さ。俺ら金さんのためなら、死ねるってな!」
「なははは。お前じゃ役に立たねえって」
「なんだと、このー」
金の人柄なのか、こいつらも悪いやつではないらしい。
後からぶちのめすかと思うと、胸が痛むな。
茶髪と刈り上げに連れられて、正門の方へ行くと長ランや短ランといった
変形学生服を着た14,5人の集団がいた。
昭和のヤンキーといった感じだ。
ノスタルジックだな。
集団の中にいたリーゼントが、怖い顔で近づいてきて、茶髪の胸ぐらをつかんだ。
「今から戦争って時に、何ナンパしてんだ! しかも、こんなかわいい娘を!
うらやましいじゃねえか!」
「違うって。この娘はたまたま見学に来てたらしいんだわ。
三鷹水産の奴らに襲われでもしたら、大変だから俺らで守ろうって。
なあ、ヨンニ?」
「そうだぜ。ミョンエーの友達らしいんだ」
リーゼントは、きょとんとした顔で俺を見る。
「大変な時に来てしまって、ごめんなさい。
ここは、父の母校なんですが、見ておきたくて」
「おー……」
リーゼントは、ため息まじりに俺の顔から足元まで見て、
後の集団をみた。
「おまえらー! 命に代えてもこの娘は守れよ!
朝鮮魂みせたらんかい!!」
『おおー!!』
男たちは、駆け寄ってきて俺の周りを取り囲み、
テンション高く騒ぎ出す。
「ぜってえ、守るぜ!」
「こんな娘襲おうなんぜ、なんて悪い奴らだ!」
「悪人退治しようぜ!」
なんか勝手に、俺が襲われることになってるんだな。
まあ、自分たちは正義の味方って誰でも思いたいよな。
「皆さん頼もしいんですね。でも、立ってたら疲れちゃった」
刈り上げが、一目散に校舎の中へ走っていったかと思うと、
どこからもってきたのか、パイプ椅子と持ってきた。
「はぁはぁはぁ。こ、これ使って!」
「ありがとうございます。奈津美、優しい人、大好き」
俺がスカートを抑えて、椅子に腰かけると、男たちは次々に校舎へと駆け込み、
ジュースや雑誌といった貢物を持ってくる。
どこで見つけたのか、ビーチパラソルまで持ってきてくれて、すっかり快適に過ごすことができた。
馬鹿どもの相手をしばらくしていると、12時半過ぎに金がバイクで現れた。
校門両脇に男どもとは整列し、金を出迎える。
金はバイクを校門脇に止め、首を回しながら男たちに近寄った。
「よー、寝たわい。お前らー、いい顔しとるのー!
今日の勝ちは決まったようなもんじゃ!
わーははははっ! ……。な、なんでじゃ?! なんで、そこにおる?」
俺は椅子から立ち上がり、頭を下げる。
「こんにちは。怖い人たちがもうすぐ攻めてくるそうで、
皆さんが守ってくださるというものですから」
「そがな話があるか!! ええい、やったるわい!」
俺にかかってこようとする金を男たちが押しとどめる。
「金さん、なにやってんすか!」
「この娘は敵じゃないっす!」
「やめてください!
俺が顔を両手で覆って、泣き真似をしだすと男たちは、ぴたりとおとなしくなった。




