演技
「おはようございます。校内を見て回りたいのですが、
職員室はどちらでしょうか?」
「ちょっと、あなた危ないわよ!
他校の制服で、こんなところにいたら。
どっかの高校と喧嘩するとかで、男共が殺気立ってるんだから」
「そうなんですか? 困ったな。
父の母校を見ておきたかったんですけど」
「あなた、在日?」
「いえ。国籍は日本ですし、母は日本人なので、生粋の朝鮮人というわけではありません。
父が在日三世です」
まるっきりの出まかせだが、バレやしないだろう。
女子生徒は俺の言葉に、感心する。
「ふーん。ハーフなのかー。そっかー。
ハーフは、すごく綺麗な人がいるって聞くけど、本当なのね。
女優さんか、モデルしたほうがいいんじゃないの?
いや、待って。どこかで見た気が……」
「あ、私、モデルしてるんですよ。それで、時たま地方番組に出たりするし。
街角ウォッチっていう番組に。それでじゃないかな」
「やっぱり! なんか見たことあると思ったのよねー。
すげえっ。私、芸能人としゃべっちゃったよ。
じゃあ、よけい危ないじゃん。私が案内してあげる。
私と一緒なら、襲われることなんてないし」
「そんな。それは、悪いですよ」
「いいのいいの。気にしない。気にしない。
私たちは仲間なんだから」
あれま。いい人みたいだな。だますのは気が引けるが、この際、甘えておくか。
女子生徒の案内で、校内を歩いていると、後方からバタバタと数人が走ってきた。
追い抜いていったかと思うと、
2m程前で、急に立ち止まり、振り返った。
「ミョンエー、なんなんこの娘! めちゃくちゃかわいいじゃん!
紹介して、紹介!」
「俺も! 俺も!」
「おほー! どこの娘なん?」
「まったく、あんたたちときたら、いい、この娘はねー……。
あ、名前聞いてなかったね。名前は?」
「大野奈津美です。どうぞよろしく」
「よろしく、よろしく!」
「奈津美ちゃんかー」
「声もかわいいねー。いいねーいいねー」
ミョンエーは、三人を蹴る真似をする。
「あんたら、早く行きなさいよ。金に呼ばれてんでしょ?」
「そうだった。ミョンエーも奈津美ちゃんも早く、こっから離れたほうがいいよ。
昼過ぎに三鷹水産の奴らが攻めてくるんだよ。
なんでも、車で突っ込んできたり、火炎瓶投げたり、あぶねえことするらしい。
特に田崎に取って代わった女がめちゃくちゃで、すぐ人を刺すらしいんだわ。
すげえ不細工らしくって、綺麗な娘はいきなり顔切られるらしい」
なんか話に尾ひれがついてるみたいだな。まあ、人の噂なんてこんなもんか。
俺の顔も知らないみたいだし、まだ大丈夫だな。




