潜入
「ちょっと!! それ、あたしんだよ?! 汚ねえケツ載せてんじゃねえよ!」
男たちは、年の頃21、2才。平日のお昼近くに、こんなところにいるところを見ると、
まともな社会人というわけではないだろう。
バイクの側にしゃがんでいた一人が立ち上がり、私たちたちを威嚇するように、
顎を上げ、睨みつけてくる。
「威勢のいい姉ちゃんだな。ここらで俺らにそういう口きくと、
おいおい、こっちの姉ちゃんはえらくレベル高けえな」
他の二人も鼻の下を伸ばして、私に近寄ってくる。
三人とも隙だらけだ。股間を蹴ってくださいと言わんばかりに、
股を開いている。
「付き合えよ。そしたら、勘弁してやっから」
「カラオケ行こうぜ。なあ?」
「うふふふ」
私が微笑むと、男たちはOKの返事と取ったのか、浮足立った。
「ヒロシ、車、車回してこいって」
チャコは私を不安気な顔で見てから、三人に言い放った。
「あんたたち、誰を相手にしてんのかわかってんのかい?
この娘は、三鷹水産の頭、大野奈津美だよ!」
三人は顔を見合わせて、にやっと笑った。帽子を被った男がチャコに近づく。
「その名前だしゃー、びびるとでも思ったか?
不細工な手前にゃ用はねえ、さっさと消えな」
「チャコ、さっきの話、その通りね。
私の容姿に騙されて、馬鹿な男は隙だらけで近づいてくれる」
私は正面の男の股間を蹴り上げ、動こうとしたひげ面男の目を払って、
顔を下げさせ、頭を掴んで、左の跳び膝蹴りで倒す。
残った帽子の男は、わなわなと震えている。
「初めまして。大野奈津美です。私のことはご存知?」
「あ、ああ……」
私は帽子の男に近付き、平手打ちする。
「ああって何? 口の利き方がなってないわね」
「か、勘弁してくれ……。俺らはただ……」
私は右の膝蹴りを男の鳩尾に入れ、跪づかせる。
「ぐぅ。や、やめて」
私は男の髪の毛を掴み、顔をあげさせる。
「私の友達に、さっきなんて言った?
手をついて謝りなさい」
私が手を放すと、男は両手をついて頭をさげる。
私は男の右手の甲を踏みつける。
「や、やめて……」
「チャコも踏んでいいんだよ? すっきりするから」
チャコはブルブルと首を振る。
「いいっ。私、いい。あんたってば、ドSだね。
ドン引きだわ」
「そう? でも、いいの。これが私だもん」
それから、チャコのバイクで、家まで送ってもらった。
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2月の最終週となった。
ベッドから起き、朝日を浴びながら、軽く体を動かす。
3月1日の卒業式前に、朝鮮高校へいく必要がある。
松下には、連絡を取るように言っておいたが、
さて、うまくいったかどうか。
携帯を確認すると、夜中に松下からメールがきていた。
今日の午後に行くと伝え、向こうも了承したと書いてある。
右足をまっすぐに上げ、頭の上で止める。
本当にこの体は柔らかい。
そのおかげで、障害が残るような深刻なダメージは、
受けずに済んでいるのだろう。
右足を時計回りにゆっくりと下す。
ゆっくりと深呼吸していると、まだ7時前だというのに、
部屋のドアがノックされた。
「どうぞ」
ドアが少し開かれ、明美がその隙間から顔半分だけのぞかせる。
「お、おはよう、お姉ちゃん。音がしたから、起きてるのかなって」
明美には先日、辛く当たってしまった。
そのことをまだ気にしているんだろう。
俺は笑顔で手巻きねする。
明美はおどおどしながら、部屋に入ってきて伏し目がちに、俺を見る。
俺は明美を引き寄せ、抱きしめた。
「明美、ごめんね。この前、ちょっとイライラしちゃってて」
明美がぎゅっと抱き着いてくる。
「よかった。お姉ちゃんに嫌われたかと思ったよ」
「嫌うわけないじゃない。明美は、かわいい妹だよ?」
「えへへ。お姉ちゃん、大好き!」
「明美、今度の大会いつ? ずっといけなかったから、
応援しに行こうかな」
「ほんと?! わーい。うれしい!」
「うふふ。でも、お姉ちゃんが応援に行くってことは、
手を抜けないわよ? 気合の抜けたところ見せたら、
後でひどいからね。なんて言ってもあなたは、
日本最強女子、大野奈津美の妹なんだから」
「うん。頑張るよ!」
「さて、私も着替えて出かけるかな」
「また、空手の練習?」
「ううん。今日はボーイフレンド達とデート」
「大平さんと? いいなあ」
「違うよ。たっくさんのボーイフレンド達と遊ぶの」
「あー、お姉ちゃん、また喧嘩するんだー」
「うふふ。だって、楽しいでしょ?」
明美が部屋を出てから、制服に着替える。
半年も着ていないこの制服を着るのも後2回か。
三鷹水産の制服は、女子のものは可愛かったから、
気にいっていたんだけどな。
家を7時前には出て、朝鮮高校へ向かう。
8時過ぎには、朝鮮高校へ着いたので、
校門をくぐり、登校してきた女子生徒に話かけた。




