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おやじ彼女  作者: ponta
壮士凌雲
509/570

気分転換

次の日。


朝起きると、私は完全に女だった。

生理でもないのに、お腹が痛く、私は苛立ちを覚えた。


私は男の部分も持っている。


だから、強くなれたし、生きがいを持つこともできた。


でも、男と合わさって戦って勝っても、

女だけの感覚になると夢でも見たかのような感じで、

実体験とは思えないのだ。


体の痛みは、昨日の勝利は嘘ではないと言っているのに、

どうにも自分のことだと思うことができない。


そのことが、ジレンマとなって、イライラしてしまって、

今朝は明美に辛くあたってしまった。


パジャマから服に着替える。

白のブラウスに、黒のストッキングを履き、

ブラウンのミニフレアスカートを身につける。

深緑のフライトジャケット風のブルゾンを着る。


気分を変えようと外にでる。

空は鉛色で、風は冷たく、私の気分同様にすっきりしない天気だ。


バス停までの道を下っていくと、10m程先に、一台のスクーターが止まった。

ノーヘルの二人乗りだ。


二人とも学ランを着ていて、運転手はマスクつけ、

荷台に座っている方はサングラスをしている。


私の方を睨んでいる。

朝鮮高校の連中か。


ちょうどイライラしていたところだ。発散させてもらうことにしよう。


私は2人に微笑み。そのまま歩き続ける。

跳び膝蹴りの射程内に入る前に、スクーターは発進する。


「ちょ、ちょっと待って!」


二人は、にやっと笑いながら、去っていく。

今から走りだしても、おいつくことは難しい。


私は咄嗟に、スカートを捲った。


二人は唖然とした顔で、私を凝視し、

そのまま路上駐車されていた車にぶつかった。


恥ずかしい真似をした甲斐があった。


私は、他に見ている人がいないことを確認しつつ、路上に倒れこんだ二人に駆け寄った。

サングラスをしていた方が、立ち上がって構える。


「いいもん見せてくれんじゃねえか。

 気にいったぜ。俺がもらった!!」


右手を振りかぶった男の鼻面に、左の突きをあてたが、

相手はなおも右手を突き出してきた


私はダッキングで避け、右の掌底を相手の顎にあてた。


男の膝は折れ、片膝をついて、驚愕の顔をする。


「何、驚いてるの? 私、実力の半分もだしてないわよ?」


「ざけんな!」


男は無理に立ち上がって殴りかかってくるが、足がついてきていない。


私は左右のパンチを避け、右の前蹴りを鳩尾にいれた。

男はお腹を押さえて、蹲る。


「私ね、昨日お腹殴られて、イライラしてるの。

 女の子のお腹殴るなんて信じられる?

 ほんとは、本人に仕返ししたいところだけど、

 入院しちゃってるから、絡んできたあなた達で我慢するわ」


「ふ、ふざけ」


男の頭を左ミドルで打ち抜くと、男は倒れ気を失った。


右手を押さえて、座っていたマスクをした男が立ちあがった。

膝が痛いのか、右足を引きずっている。


「かかってこいやー! おお!!」


私は左のローキックをマスク男の右膝にあてる。


「あっつつ。このー!」


思い切り右手を振りかぶったかと思ったらフェイントで、

左のショートボディを打ってきた。


昨日の試合を参考にしたんだろう。

あれはプロの身のこなしがあってこそ意味があるのに。


私は左手で男の左手首を掴んで流し、右の猿臂を側頭部に叩き込んだ。

マスク男は、ふらふらと後に下がり、尻もちをついた。


「う、動け足-!」


「叫んだって、立てないわよ。あーあ。がっかり。

 全然ストレス発散にならないわ。

 ねえ、あなた刃物は持ってないの?」


「……。持ってたら、何だって言うんだ?」


「出しなさい」


「お前、頭おかしいのか?」


「いいから、出しなさい」


私がマスク男の足を蹴ると、マスク男は上着のポケットから、

ジャックナイフを取り出し、刃をだした。


ゾクゾクした快感が背中を走る。

こいつの言うように、私はどうかしている。


マスク男は、まだ言うことを聞かない足で、

必死に立ち上がる。


「俺は、刺せる男だぞ。後悔したって、もう遅いぜ」


私を脅しながらも、マスク男の手は震えている。

人など刺したことがないのだろう。


相手の命を奪う可能性がある時、相手から命を奪われる危険がある時、

そのどちらであっても、人は恐怖する。


私は無造作に近付き、左右のローキックを、

男の痛めている右膝に当てる。


マスク男は、膝を押さえて蹲る。


「痛そうねえ。刺さないなら、膝を蹴り続けようかな。

 立てなくなったら、思い切り上から踏みつけてあげる。

 そうされたくないんだったら、私を殺す気でかかってきなさい」


マスク男は、恐れを抱いた眼で、私を見ながら浅く速い呼吸を繰り返す。

額からは汗が噴き出ている。


「あら。こんなに寒いのに、汗だくじゃない。

 緊張してる? 深呼吸したら?

 はい。すってー。はいてー」


「う、う、う、うおー!!」


マスク男が左手でナイフを突き出す。

私は右に回り込み、男の手首を肘と膝で挟んだ。


「ぐぎゃっ」


"ミシ"という骨がきしむ音がして、マスク男はナイフを落とし、

左手首をだらんとしたまま、左手を前にだすようなポーズで、

両膝をついた。


まるで、下手な役者が幽霊を演じているかのようで、

滑稽だ。


「ぷっ。何それ? さあ、早くナイフを拾いなさい」


「勘弁してくれ。右手は利かねえ。左手も今ので折れてんだ」


「折れてる? ほんと?」


私はマスク男の前にしゃがんで、男の左手を取って、上下に大きく振った。


「いつつっ! 止めっ」


「折れてないわよ。筋を痛めたぐらいでしょう。

 さあ、ナイフを取って」


「……」


マスク男は、下を向いて答えない。

私はマスクを限界まで引っ張ってから放し、

男の顔にぱちんと当てた。


「つまんないのー。金さんか李さんか、どっちの配下か知らないけど、

 覚悟のある人を揃えておいてって伝えてね。

 私をがっかりさせたら、全員こうするって」


私は立ち上がり、マスク男の顔面に左の膝蹴りを入れ、倒した。


周りにまだ潜んでいるものがいないかと期待したが、

誰も出てこないので、光臨会に行くことにした。


バス停まで歩いていくが、一向に気分は晴れない。

イライラしたままだ。


やってきたバスに乗り込むと、吊革に捕まっていたスーツ姿の

男性が私をデレっとした顔で見つめてきた。


いつもなら、見られていることを意識して、すまし顔でいるところだけど、

今日は何だかムカムカしてくる。


私は男性の頭の上から足の先まで、軽蔑した目でジロジロと見た。


「ふん」


不機嫌そうに私が声を出すと、男性は肩を落として前の方へ移動していった。


あーあ。私、何してるんだろう。

こんな風に、他人にあたっても何も解決しないのに。


この気分を変える方法は一つしかない。

思い切り技を振るえる相手と戦うこと。


中央駅前のバス停でバスを下り、光臨会までの道を歩く。

私に気付いた人たちは、羨望の眼差しを向けてくる。


前はそれが、心地よかったけど、今日は嫌で仕方ない。


「サインもらえませんか?」


近寄ってきた同い年ぐらいの女の子を見もせずに、

私は歩き続ける。


後方で、女の子とその友人が、何あれー? と私を非難する声をあげる。


きっとあの娘たちの目には、私はお高く留まった嫌な女と映っているんだろう。

ああ、やだやだ。こんな風に後悔するんだったら、愛想よくすればよかった。


いつもそうだ。自分の態度で人を不快にさせておいて、

後悔する。

相手が欲望をもった男性だと心は痛まないが、

同性だとことのほか、ダメージを受ける。


相手を不快にさせる行動をとっておいて、嫌わないでいてほしいなんて、

なんて自分勝手なんだろう。自己嫌悪してしまう。

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