記者会見3
「お初にお目に掛かります。月刊ノックアウトの久野です」
ボクシング雑誌の記者か。空手の俺が試合に出ることに対して、
文句の一つでも言いたいだろう。
ここは、下手にでておくか。
「はじめまして。ボクシングは全くの素人ですので、
いたらない点が多くあると思います。ご容赦ください。
さきほどの挑発行為も、実は伊藤師範代がその方が盛り上がると
おっしゃるものですから、言葉に従って馬鹿なことをしてしまいました。
冷静になってみると、伊藤師範代の悪戯だったのだと思います」
右端に控え、木村とだべっていた伊藤が、急に記者たちが注目したものだから、
戸惑った様子で、頭を下げる。
山下師範が、俺の言葉に付け加えた。
「お騒がせして申し訳ない。プロのリングに上がっているといえば、
うちには伊藤しかおらんので、会見上での立ち振る舞いは、伊藤に指導させておりました。
いい年になるというのに、悪戯好きで困ったものです」
記者たちからくすくすと笑い声が漏れる。
「なるほどね。ブレイブはショウの要素が強いからなあ。
さて、大野さんはボクシングは素人なわけだけど、
階級が上の選手とやる理由は何かな?
グローブハンデがあるのにしても、非常に不利だと思えるけど」
「はい。神明館の試合で、優勝したので、日本一とかいう人がいますけど、
私はそうは思っていません。まだまだ覚えたいこともたくさんありますし、
色々な格闘技を肌で感じてみたいんです。今回も勉強させていただくつもりです」
殊勝なこと言う方が、受けがいいからな。
ここはひとまず、けなげな女子高生を演じておこう。
「勉強ねえ。高い勉強代にならないといいけどね」
久野は馬鹿にしたような笑いを浮かべる。
内心、むかついたが俺は笑顔を崩さない。
「プロボクサー相手ですから危険は承知しています。
ですが、プロボクシングはもっとも洗練され、歴史のある
プロスポーツだと思っています。万が一の態勢も整えられているかと」
久野は優越感に浸っているのか、少しにやつきながら質問を続ける。
「ボクシングは、もっとも崇高で公平なスポーツだからね。
商業的に見ても、成功しているプロスポーツの一つだし。
君のような客寄せパンダ、おっとこれは失言だったな。
空手界のアイドルが、挑戦してきてくれるのはうれしいね。
ところで、年末にリチャードソンを血の海に沈めたあのパンチ、
打てないって本当かい?」
こいつ、矢野に情報もらってるな。
同じボクシング界で飯を食っている者同士、一致団結ってわけか。
「実は、偶然出せたというか、出した時の記憶がないんです。
殴られ過ぎちゃって。お医者さんの話では、殴られ過ぎてアドレナリンが、
大量に出て、一時的にあんな力が出せたとか」
「ふーん。そう。で、ボクシングは大平君に習ったということかな?」
「彼は忙しいですから、そんなには。少しだけ習うというか、
パンチを見せてもらったりはありましたけど」
「おかしいなあ。私の情報だと、ここ最近、茂野ジムに入り浸りだって、
ことだけど」
この野郎。俺を丸裸にするつもりか。
手の内さらさせようって考えだろうが、その手には載らんぜ。
俺はもじもじと恥ずかしい振りをして、顔を赤らめる。
「だって、好きな人の側には居たいじゃないですかー。
きゃー、何言わせるんですか!」
俺は顔を覆い、足をばたつかせる。
手の隙間から覗くと、久野は苦笑いを浮かべていた。
下手に答えて、最初の跳びこみを予想されちゃ敵わんからな。
能天気な女子高生を演じるのが吉だ。
俺は顔をあげ、手で顔をあおぐ。
「あー、恥ずかしい~。私ばかりにじゃなく、山中さんに質問してくださいよ」
それからしばらく、記者会見は続き、30分程してお開きとなった。




