記者会見
「頭を冷やせ! 彼女の狙いはお前に殴りかからせて、
手傷を負わせることだ!」
「手傷って、会長! 俺がこんな女にやられるわけ」
矢野は山中の胸倉を掴む。
山中は、その迫力に押されて、拳を下した。
矢野は、ほっと息をついてから、俺を睨んできた。
「まさか、こんな場所でも仕掛けてくるとはね。
大勢の記者の目があるというのに、大したものだ」
ちっ。このじじい確かによく調べてやがる。
俺から仕掛けるわけにはいかん。作戦失敗か。
「ん? 私、何か変なことしました?」
「誤魔化さなくてもいい。別に責めてるわけじゃない。
それどころか、感心しとるよ。その若さで老獪な手を使うとね」
「お褒めにあずかり光栄です。矢野さんには軽く見破られちゃいましたけど」
「伊達に、この世界で30年も飯は食ってないよ。
さあ、余興は終わりだ。記者会見を始めよう」
壇上へ向かう二人の後について、俺は山中に話しかける。
「矢野さんに助けられましたね」
山中は少し顔を後に向けたものの無視して、歩き続ける。
「あーあ。また無口に戻っちゃったか。残念だなあ。
山中さん、私の胸触りたくないですか?
相手してくれるなら……」
突如として、頭に激痛が走り、俺は頭を押さえて、
蹲った。
「いってー。誰だ殴りやがったのは?!」
振り返ると、山下師範が仁王立ちしていた。
「馬鹿モン! 恥じらいをもたんか!」
「お、押忍。すいません……」
「年頃の娘が、恥を知れ。恥を。それに矢野さんが側にいて、
そうそう策が通じるわけでもあるまい」
「押忍。足の指を折るか、捻挫させるかしたかったのですが、
失敗しました」
「まあ、いいじゃないか。お前なりに正面からぶつかればいい」
「押忍」
壇上に山下師範と共にあがり、椅子に腰かけると、
司会者が質問をどうぞと記者たちを促した。
30人以上はきているだろうか。
テレビカメラも数台見える。
綺麗に着飾った女性が、口火をきった。
どこかの女子アナだろうか。
「大野さんは、芸能界デビューの噂がありますが、
本当のところはどうでしょうか?」
馬鹿な質問をしてくれる。
こんなだから、女はダメだと言われるのだ。
俺は努めて笑顔を作り返答する。
「どうでしょうか。ご想像におまかせします」
女性はにこりと笑って、くだらない質問を続ける。
「では、質問を変えます。噂になってる……」
女性の言葉を遮るように、ガチャンと音を立てて、
立ち上がる者がいた。空手マガジンの記者、高木だ。
「それぐらいで、引っ込んでもらおうか」
「なっ、順番を守ってく……」
高木が射抜くような視線を向けると、女性は押し黙って、
席に座った。
高木は、ぼりぼりと頭をかいた後、俺に視線を向けた。




