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おやじ彼女  作者: ponta
復活
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起きたら美少女

 目を開けると、俺はベッドに寝かされていた。

 病院のベッドだろうか。

 白く無機質な天井とベッドを取り囲むように、カーテンレールがある。


 上半身を起こすと、髪をカールした女性に抱きつかれた。


「なっちゃん! よかった! よかったわ!」


 年の頃は、俺と同じぐらいだろうか? 胸が当たって気持ちいい。

 うん? なんか、変な感触だ。俺の体ってこんなに細かったっけ?


 ベッドサイドには、メガネをかけた男性がいて、

 俺のことを笑顔で見ている。

 俺より少し上、40ぐらいだろうか? 知的で、仕事ができる感じだ。


「奈津美! 気がついたか! お父さん、心配したぞ!」


 なっちゃん? 奈津美? 

 なぜ、この人たちは、俺のことをそんな名で呼ぶんだろう?


「あの、ちょっとわけが……」


 声を出して驚いた。なんだ、この高い声は? 

 俺は、ハットして、自分をみた。

 白い手に、細い指。それに、これは胸??

 驚いた俺は、股間を触ってみた。

 あるはずのものがない。


 驚いて、パンツの中に手を入れる。ない?! 

 俺の36年間の相棒がない! 

 小便とオナニー以外に、使ってやれなかった俺のジュニアがない!

 なんて、こった。

 こんなことなら、行ったら負けとか思わないで、

 ソープにいっとくんだった……。


 驚く俺に、女性が話しかける。


「なっちゃん、あなた学校帰りに交通事故にあったのよ。

 1週間も目を覚まさなかったんだから。

 このまま、目を覚まさなかったら、お母さんどうしようかと思った。

 本当によかった……」


 女性は、そう言って、俺をまた抱きしめる。

 うーん。いい匂いだ。

 

 いや、まて。

 まずは、状況の確認だ。


「あの、今日は何日?」


「ん? 1月16日だぞ。なんにせよ、よかった。

 何も心配せず、ゆっくり休みなさい。お父さん、今から会社だから」


「え? い、行ってらっしゃい」


 俺が燃え盛る家から、子供を助けた日が、確か1月9日。

 あれから、一週間経ったってことか。

 なら、俺の元の体はどうなったんだ?


 それに、次の日は、プラント計画のプレゼンをする予定だった。

 あのプレゼンの成否に昇進がかかってたんだ。


「お、お母さん、ちょっとトイレに行きたい」


「そう? 一人で行ける? お母さん、ついていこうか?」


「ううん。大丈夫」


 ベッド横の棚に、携帯電話があった。

 俺は、それを手に取って、女性に見せた。


「これ、私の?」


「そうよ。あなたの携帯よ」


「そっか。じゃあ、行ってくるね」


 病室を出て、トイレに向かう。

 手洗い場にある鏡を見て、驚いた。


 そこには、肩までのストレートヘアに、つぶらな瞳を持つ、

 美少女が映っていた。

 年の頃、16,7というところだろうか。

 色が白く、若い時の宮沢りえみたいだ。


「うはー。かわいいー」


 俺は、鏡の前で、くるりと回ってみた。

 鏡の中の少女もくるりと回る。

 いかんいかん。こんなことをしにきたんじゃない。

 俺がこの少女の体に入ってるってことは、

 俺の体に少女が入ってるってことじゃないのか?

 まずは、会社に電話しないと。

 今の俺の体の状況を知るのが先決だ。


 部署直通の番号をプッシュし、通話ボタンを押す。


「はい。中園工業、第一営業部です」


 電話の声は、派遣社員の河野恵子だ。

 コピーを頼んでも、嫌そうな顔をするケバ目な女だ。


「あ、あの、磯野正さん、お願いできますでしょうか?」


 数秒間の沈黙が流れる。なんだ、この変な間は?

 河野恵子は、電話対応だけはよいはずなのに。


「磯野は、数日前に亡くなりまして……」


「え? どういうことですか?」


「詳しいことは私では……。今、わかるものと替わりますので」


 俺が死んだ? 確か、子供を抱えて2階から飛び降りて、

 頭を強打した。あれで、俺は死んだのか?


「もしもし、お電話替わりました。倉木と申します。

 失礼ですが、お名前を教えていただてもいいでしょうか?」


 おお。倉木じゃないか。部下のお前なら、ちゃんとしたことを言うよな?

 河野恵子みたいな馬鹿なこと言わねえよな?


「あの、私、鈴木っていいます。

 以前、磯野さんに親切にしていただいたことがありまして、

 会社の番号を教えてもらってたんです」


「そうですか。磯野さん、正義感があったから……。

 この前、東区の方で火事があったのはご存知ですか? 磯野は、

 その火事で逃げ遅れていた5歳の女の子を助けようとして、

 2階から飛び降り、頭を打ったんです。打ちどころが悪くて、

 命を落としてしまいました。私たちとしても、残念でなりません」


「そ、そうですか。教えていただいてありがとうございました……」


 電話を切って、俺は呆然と立ち尽くした。

 俺は、死んだのか……。

 あの体に戻ることはできないのか。

 やりたいこともいっぱいあったのに。


 いや、まてよ。やりたいことってあったか?

 ハゲで、デブで、不細工で、女に縁がなくて、

 会社と家を往復するしかやることがなかった俺に。

 生きてて、いい目を見たことがなかった俺に。

 顔が不細工ってだけで、損な目にしかあわなかった俺に。


 鏡を改めて見る。美少女が俺を見ている。

 そうだよ。これは、神様が俺に与えてくれたチャンスだ!

 顔がいいなら、もっといい人生を送れたはずなんだよ!

 そうだよ。そうに違いない!


 しかも、こんな美少女なら、相手は選び放題!

 周りが羨ましがるような、いい女を彼女にして、

 取引先が女の担当者でも、ガンガン仕事とってやる!

 電車に乗ったって、痴漢に間違われるようなことはないし、

 泥棒捕まえてんのに、俺が犯人って間違われることもない!

 紹介された女が、10分で用事があるって席を立つこともないんだ!

 うはははは! やってやる! やってやるぞ!

 もう一度、人生やり直して、エンジョイしまくるんだ!

 この可愛い顔をフルに利用してやる!


 そう思うと、何やら尿意が襲ってきた。

 俺は、便器の前にたち、ズボンを下げるが、

 パンツの前に開けるところがない。

 そうか。俺は女になったんだった。なら、座ってしないとな。


 個室の方に入ろうとしていると、トイレに入ってきたおっさんが、

 うわっと声を上げた。


「君、君! ここ、男子便所だよ?! 女子は、あっち、あっち!」


「あ、すみません」


 俺は男子トイレから出て、女子トイレの方へと入った。

 なんか、変な感じだな。

 まあ、慣れるしかないか。


 便器に腰掛け、用を足す。

 なんか、変な感じだ。体の中の方から出てるみたいな。

 立ち上がって、パンツを履くと、パンツが濡れてきた。

 うわっ。気持ち悪い。なんだこりゃ?

 俺は、トイレットペーパーを取り、股間を拭いた。

 うーん。女って奴は、不便な体してんだなあ。


 それに、上からじゃよく見えないけど、ここも柔らかいんだな。

 後で、鏡を使って、よく観察してみよう。


 俺は、取り敢えず元の病室に戻ることにした。

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