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おやじ彼女  作者: ponta
復活
1/570

死亡

 会社帰りに、コンビニに寄って弁当を選ぶ。

 レジにミックスフライ弁当を置くと、それまでおしゃべりをしていたバイトの女の子が、

 露骨に嫌な顔をする。


「あっためますか~」


「は、はい。お願いします」


 くそ。バカ女が! 茶髪なんかにしやがって! しゃべってねえで、仕事しろ! ボケが!

 弁当が温まるまでの間、微妙な空気が流れる。

 バイトの19~20ぐらいの女の子たちが、俺の容姿をジロジロと遠慮ない目で見る。


 こいつらの頭の中はわかってる。どうせ、ハゲ、デブで女と縁がなさそうとか思ってるんだろう。

 ちくしょう、そのとおりだよ! 今日も女と会話したのは、さっきの会話が最初で最後さ!

 悪いかよ! 誰かに迷惑かけたかよ! ふざけんな、バカ女!


 温められた弁当を入れた袋が無造作にカウンターに置かれる。

 俺は、それを手に持って店を出る。


「見たー、今の? キャハハハ」


 店を出る前に、バカ女共の嘲笑が耳に届いた。

 俺は、手をギュッと握り締め、足を進める。


 くそ。何なんだよ。ちくしょう! ちゃんと仕事して、税金納めてんだ。

 何で笑われないといけないんだ? 俺がハゲでデブだからか? 不細工だからか?

 36にもなって、一度も女と付き合ったことがないからか?

 お前らなんて、ロクな人生送れないぞ! 俺がそうなるように呪いかけてやる!


 アパートまでの道をとぼとぼと歩く。

 いつから、こんな人生になったんだろう。

 俺の人生、このまま終わってしまうのか。

 なんだか、虚しく感じてくる。


 高校の時はよかった。バカを言い合える友人達がいたし、

 空手に熱中していた。


 なにかおかしいって思い出したのは、20も後半になってからだったろうか。

 友人たちは、次々に結婚していき、相手もいないのに、自分ももうすぐかな? なんて思ってた。


 しっかりした会社に就職した自分なら、相手も簡単に見つかり、

 幸せな家庭を築けると何の根拠もなく思ってた。


 しかし、現実は甘くなかった。会社で可愛い子達は、次々と結婚していき、

 会社で無理ならばと思って、見合いをしてみたが連続で断られた。

 派遣の子を飲みに誘ったら、セクハラだと上司に注意された。


 女に縁が無いのは、20代半ばから髪が薄くなったせいかと思って、

 かつらを作ってみたりもしたが、何ともならなかった。


 俺は、自分で思うよりずっと不細工だったらしい。

 30歳になってからは、小学生から続けていた空手の道場にも通わなくなった。

 運動しなくなったせいで、あっとういまにこの三段腹だ。


 ブサイク、ハゲに加えて、デブになってしまった俺を相手にしてくれる女なんて、

 この世に存在するわけがない。


 今では、会社の派遣の女共も、仕事の用件だっていうのに嫌な顔しやがる。

 顔がもっとよかったら、違った人生だったのになあ。


 がっくりと肩を落としながら、アパートにもう少しというところまでくると、

 人だかりができて、何だかざわついている。


 あれは火? 火事か?

 2階建ての民家から、激しく煙が上がっている。

 窓の奥には、激しい炎も見える。

 野次馬達が、消防車はまだかと言っている中にまぎれて、泣き叫ぶ女の人がいた。


「誰か助けてー! まだ娘が中にいるのー!」


 野次馬たちは、皆、顔を見合わせる。

 真っ黒い煙が、夜空に立ち上っている。

 あの中に入るのは、自殺行為と誰もが考えている。


 俺の中でかっと火がついた。

 次の瞬間、弁当を投げ捨て、煙が吹き出している玄関目指して、

 駆け出していた。


 室内は、煙が充満していた。1M先も見えない。

 俺は、なるべく姿勢を低くし、ハンカチで口を押さえながら、1階を手探りで進む。

 どうやら、火元はキッチンだ。そこは火が強すぎて進むことができない。


「助けてー! 熱いよー!」


 声がした! 2階だ!

 俺は、階段を駆け上がる。子供部屋に、4歳ぐらいの女の子がいた。


「もう、大丈夫だ! さあ、おじさんの方へ!」


 その子を抱きかかえ、階段に戻るがすでに火の手が回っていた。

 子供部屋に戻り、窓を開ける。


 窓めがけて、煙がわっと殺到する。

 どうする? 飛び降りるか? この高さなら、足を骨折するぐらいで済むかもしれない。

 えーい、躊躇してたら、二人共煙に巻かれて死んでしまう!


 俺は、女の子を抱きかかえ、2階から飛び降りた。

 ガツンと鈍い痛みを足に感じた次の瞬間、俺は後方に倒れ、後頭部を強打した。

 薄れゆく意識の中で、母親が女の子を抱きかかえるのが見えた。

 よかった。でも、こりゃ、入院コースかな……。

 視界が真っ暗になり、俺は気を失った。


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