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友達はいないけどゾンビなら大勢いる  作者: たしぎ はく
Story_of_the_small_tragic_love_
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第十三話:蜜の女皇

 この作品の真のヒロインは虎姫さんなのかもしれない←

 ヤンデレ属性ゲットした(ry

「ユージュと合流するのはダメ。御主人の調教(しつけ)をもってしても……ちょっと迷うけど……でも、やっぱりダメ。御主人はわたしだけを見て……あの女は殺すから……」

「誰も調教するなんて言ってねえよ勝手に条件に出すなというか怖えよ」


 俺の問い――ここはどこか、に対して帰ってきた返答がそれだった。求めた答えが返ってきていない。

 左腕はいつも通り虎姫と繋がっている。だが、今は左腕だけでなく、右腕と両足、それから首が、太い枷で固定されていた。椅子に。

 部屋の中は――ここは部屋なのだ――薄ぼんやりと明るくて、虎姫の真っ白の肌が幽霊の様にぼうっと浮かび上がっている。


「というかなんで服を脱いでるんだ」

「盗聴魔法の……可能性の排、除? 追尾等の魔法がかけられていた可能性もあるし、そもそもユージュは……自分が出したアイテムの場所を、把握できる、のかも……しれない」

「え、ちょっと待ってちょっと待って、それじゃあ今まで着てた服は?」

「燃やし……た」

「今気づいたけど俺の服も……?」

「使った後に……燃やし、た……泣く泣く」

「何に!?」


 俺の服の使用方法がちょっとよくわからない。本当に理解できないし心当たりもないしなにも思いつかないし見当もつかないから鎮まれマイ・サン……!

 何とか体を捩ってみるものの、そんなものは何の抵抗にもならない。うん、服着てても隠すのが難しかったりするのに、全裸で隠せるわけがないよね。うちの息子は反抗期です。


「身体が……熱い、の。火照って火照って……もう、ダメ……」


 虎姫が、俺の膝の上に跨って座る。太ももに直接触れる内腿がぐっしょり濡れていた。


「御主人のこれ……欲しい――ココに」


 甘く蕩け、かすれて消えかかった虎姫のその声にすら、耳朶を犯されているような感覚に陥る。無駄な抵抗と知りつつ、それでも体を捩った。

 耳元すぐで轟くような心臓の音が、俺のものか虎姫のものかすらわからない。声が出てくれなかった。

 その直後からの記憶が、無い。


          ☆☆☆


 再び目を覚ました時も、やはり場所は変わらず薄明るい、窓のない部屋。ドアも見当たらないので、恐らく俺が座る椅子の背後側にあると思われる。


「う……」


 うまく声が出なかった。

 血が鉛にでも詰め代えられたかのように全身が重たく、耳鳴りがして頭が痛む。喉もがらがらで、全身寒気により鳥肌になっていた。

 視界の隅に「状態異常:枯渇」と表示される。

======

 ・枯渇

 バッドステータスの一つ。全ステータスが二〇分の一に低下し、なんらかの行動をするとHPがごくごくわずかに減っていき、かつMPが回復しなくなる。「疲労」の最上位ステータスであり、一部アイテムで回復するものの、HPがゼロになると当然死ぬため、早急な対処が求められる。ただ、普通どれだけ無茶をしてもこのレベルまで精気を吸い取られることはない。

======


「あ。御主人……おはよう」

「……ぉぁ」


 唇が渇いて割れ、血が滲む。たかがそれだけなのに、血が口の端を伝って顎まで流れ、首を伝い鎖骨を伝いして、腹まで流れ落ちたのが不快。そういえば短パンのようなものが履かされている。


「御主人……急に気を失うから心配した……何もできなかったし……」


 もはや口を開くことすら億劫だ。視界の隅で残り半分ほどになったHPバーがじりじりと減っていっているのか。そう思えば、死の恐怖でかろうじて目を開けていられる程度、といったレベルで瞼が重い。枯渇によるHPの減少速度は非常にゆっくりだ。十分で数ミリ動くくらい。満タンだったHPバーが半分になっているので、大体三時間と少し気を失っていたらしい。

 虎姫が近づいてきて、俺の鳩尾辺りに口を付けた。不意の動きに身体が跳ねかけたが、拘束された四肢と首のせいで椅子からは尻も浮かない。


「ん……」


 虎姫の舌が鳩尾から這い上がってくる。鳩尾、鎖骨、首、顎、唇の左端。


「血、出てる。……唾つけておけば治る、って聞いたことがある、から……」


 もはや体は動かない。

 虎姫に為されるがまま、俺は唇を食まれ続けた。


          ☆☆☆


 次に目覚めた時には、HPバーは十分の一くらいにまで減っていた。五時間ほどが経過している。

 視界は狭まり、何もしていないのに呼吸が荒く、喉は詰まり、湿った咳が身体中の骨を痛めつける。ぼやけた視界の中、両腕が枯れ木のように細くなっているのが分かった。


「……め………………H……P……」

「御主人、辛そう……わたしはど、どうすれば良い? このままだと御主人が死んじゃう!」


 さすがに俺の状況がヤバいと感じたらしく、虎姫は今更ながらにおろおろし始めた。語気も荒く、焦りが伝わってくる。


「……カッ! は、ァ……イ、テム……ボックス……」


 力技。風切音のように空気が出たり入ったりする喉を無理矢理に押さえつけ、何とかアイテムボックスを出すことには成功した。さあ、虎姫。この中からポーションを出してくれ……

 目で訴えかけると伝わったようで、彼女は青い液体の詰まった瓶を取り出してくれた。状態異常を何でも回復する薬である。とにかく一刻でも早く、それを俺に――――


「わ、わっ」


 蓋を開けようとしたのだろう。それこそ、一刻も早く。しかし虎姫は、自分の腕力を考慮するべきであった。焦りでそこまで気が回らなかったのかもしれない――つまりは、不幸な偶然が重なってしまったのだ。

 まず第一に、虎姫が焦りに支配されて冷静でなかったこと。もう一つが、彼女が「虎人」――つまりは、力の強い種族であったこと。


 結果。

 結果、ポーションの瓶は、割れてしまったのだ。

 しかも、悪い偶然はさらに重なる。状態異常を何でも直す事が出来るポーションというものは当然貴重なものであるから、俺はその一本だけしか持っていなかったのだ。これだと残りはHPポーションのみ――つまりはHPを回復させて、死ぬことを避けるだけという延命措置になってしまう。自然治癒しない状態異常――恐るべしだ。


「つ、次! ポーション、飲んで!」

「…………か」


 は、と、途切れた咳。ゴボゴボと喉が鳴る。

 虎姫が蓋を開けたポーションを口に流し込まんとした、その時――


「フェアリーテイル、ヒール。それからキュアー」


 薄明るい部屋。

 入口があるであろう方向、俺の背後。

 聞こえたのは――


「ユージュ!? どうしてここが……御主人は、渡さない……誰にもッ!」

「クロウ、無事かい!?」


 俺の体が緑と黄色の光に包まれた。ヒールはHPの回復、キュアーは状態異常の回復だ。本当に規格外のスキルだよな……


「……な、んとか、な」


 傷は消えた。HPも最大。しかし後遺症だろうか、声を出すと喉が引き攣れたように痛んだ。


「お前……やっぱり本物……旧・空の王じゃ、ない……!」

「先程自分の意識を取り戻したんだ」

「嘘だッ!」

「嘘じゃない。現に僕は意識を失っていたし、その間旧・空の王に体を譲り渡していたことはうっすらとだが記憶にある」

「ぐ……どうし、て、御主人を騙すような真似をした!」


 虎姫が犬歯を剥いて吠える。

 俺は依然として椅子に固定されたままであり、身動きが取れない。だから、ユージュ――優樹がどんな表情をしているかは見えなかった。


「騙す? ちょっと理解が及ばないな。そんなことより(・・・・・・・)、虎姫。僕のクロウを殺しかけたことに、何か申し開きは無いのかい?」

「わたしが御主人を殺す……ありえない。わたしが御主人を殺すはずがない!」

「でも、枯渇ほど強い状態異常を起こそうとすれば――一体どれだけ精気を吸えば、そんなことになるんだい? 性器でも吸ったのかい?」


 下ネタかよ。思わず半目になる。


「精気を……吸う? わたしはそんなこと、してない」

「クロウ、質問だ。虎姫と何らかの接触があった時、疲れただろう」


 質問――そういう割には語尾にクエスチョンマークが無い。当然そうなのだけれど、一応確認はしておく――そんな感じの発音だった。


「虎姫との……接触……」


 そういえば、手を繋がれたときもそうだったし……確かに、疲れた。状態異常「疲労」にもなった。それか。


「それじゃあここで、僕からささやかなネタばらしをしようと思う」

「は? なに言ってんだ」


 ネタばらし……どういうことだ?


「まず虎姫。君はそもそも、虎人じゃない」

「理解……不能。一体、何を……言っているの……?」

「うん。君はね、自分の事を虎人だと思い込んでいる――」


 そこで優樹は、言葉を切った。

 虎姫は、眉尻を提げた状態で、俺の背後を見ている。


「――淫魔。サキュバスだ。しかも最上位の、ね。どうだい、思い出しただろう」

「違う。わたしは、虎人」

蜜の女皇(クイーン・サキュバス)。君の種族だ。淫魔を統べる王族の家系」

「違う! わたしは――」


 虎姫が叫ぶが、その言葉を遮る様に、優樹は声を張り上げた。


「君の名前はなんだ!」

「と、虎姫……」

「それじゃあ君が元いた部隊の名前を全員分言ってみろ!」

「ルネ……ミル、ネーマ、アニア、ロオ、リスケ……ボロッコ、トラン。マニ、イム……ヨーグ、レアル、モーロン……」

「もういい。クロウ、気付いたことは」


 気付いたこと……


「全部カタカナ……か?」


 こちらからは見えないが、恐らく優樹は頷いた。


「そう。翻って虎姫は? 虎姫――虎の姫。つまりは虎人たちが使用する立場上の名前だね。だって彼女は集落の長の娘ということになっていたのだから。……いや、そもそも、名前と言う概念が薄く設定されているはずの虎人が、ここまで他人の名前を憶えていることもおかしいんだよ」

「それは……わたしが……わたしの……」


 背後で足音が生まれた。

 優樹が俺の方に動きを作ったのだ。歩いて近付いてきている。


「でも、それだけじゃあ虎姫が虎人でない証明にはならないだろ?」


 もう十全に声が出る。


「ん? いや、違うよ全然。そもそも虎人は、(ユージュ)が生み出したんだ。その時、虎姫なんていう名前の虎人は――作っていない」

「でも……現にこうして、わたしはここに、いる……!」

「そうだね。その通りだ」


 優樹が俺の首枷、足枷、手枷に触れると、それぞれが崩れて体の自由が利くようになった。彼女は最後に、左手首の――虎姫の首と繋がっている枷を持ち上げる。


「わたしは……虎人の集落に迷い込んだ、ってこと……? それならどうして、わたしは自分の事を虎人だと思い込んでいた……?」

「ううん、違う違う」


 興が乗ってきたのか、優樹のジェスチャーが大仰なものに変わる。


(ユージュ)が君を見つけた場所で、虎人の集落を作ったんだ。君に自分が虎人である、という暗示をかけてね」

「でも、わたしは虎に変身できる!」

「違うよ。正確にはそうではない。淫魔として、変身の能力を持っているだけだ。試しに、猫耳でも生やしてごらんよ」

「生えない!」

「ちなみに、全身を虎にできるのは、君が力の強い淫魔である証明に他ならないし、部分的に虎化できるのもそうだ。実際、他の虎人たちに、部分虎化なんていう機能は備わっていない」


 切り捨てる。

 虎姫の反論を、端から切り捨てる。

 俺と虎姫の結婚首輪を弄ぶようにいじりながら、優樹は淡く笑んだ。


「そういえばどうだい、虎姫。体の調子は」

「いつも以上に……快調……御主人に仇なすなら、ユージュを一秒以内に引き裂く自信がある……」

「そうだろう、そうだろう。なにせ、クロウの精気をあれだけ吸ったんだからね! 実際、クロウと手を繋いだりキスしたりした後は、身体性能が急上昇したはずだよ?」

「あ……」


 心当たりが、ある。

 数時間前、虎姫が俺を抱えて優樹から逃げていた時然りだ。

 その時の俺は、確かに状態異常「疲労」になっていたのである。


「まあそんな理由は置いておいても、旧・空の王が君が淫魔であることを確認しているしね」

「わたしが……淫魔……」


 虎姫が、愕然とした様子で呟いた。それはそうだ。俺だって、お前は実は猿だったのだ、と言われて、しかもその理由や証拠を次々に披露されたらそうなるに違いない。「俺は人間だ」ということの否定はつまり、アイデンティティの否定に他ならないのだ。存在の全否定。


「ううん? 違うよ?」


 優樹がとんでもないことを言い出した。今までの演説の意味は……?


「違う……? わたしは、淫魔ではない……?」

「いや、そこは違わない。確かに君は蜜の女皇(クイーン・サキュバス)だ。でも、それだけではない」

「それだけでは……ない……?」


 そうだよ。優樹はそう呟き、俺の左下腕部と虎姫の首を繋ぐ鎖を、一度、打ち鳴らした。


「まあ、それについては、こうすれば全部思い出すし、予定より少し早まってしまうけれど、まあ仕方ないよね。クロウには説明するより見てもらう方が早いし、虎姫にはこうすれば全部思い出してもらえるし」

「なに、を……」


 虎姫が喘ぐように言葉を紡いだ。その顔が恐怖に染まる。最悪の可能性を考えてのことだ。そう、優樹は結婚首輪を――虎姫にとって最上位クラスに、命よりも大切に考えているくらい価値のあるアイテムを、手にしているのだ。


「フェアリーテイル――ハッピーエンディング(めでたしめでたし)

「や、やめ……やめて! やめてお願い――!」


 優樹は再び淡笑みを溢すと、言葉を続けた。


結婚首輪(エンゲージ・リング)ッ!」


 瞬間、鎖はひび割れ朽ち、錆びて綻び崩れて消える。


「あ…………あ……あっ」


 部屋中を、どこからか現れた砂が蹂躙し始めた。


――次回――

「ああ……ああああ……あああああああああああああ――――ッ!」

―――(予告は変わる可能性アリ)―


では。

誤字脱字、変な言い回しの指摘、感想、評価、レビューお待ちしております。


※テスト終わったので今話より通常通り四日に一回投稿

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