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友達はいないけどゾンビなら大勢いる  作者: たしぎ はく
Story_of_the_small_tragic_love_
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第十二話:分離

あとがきに大事なお話がありましたorz

 右に飛ぶ。手を地面について側転を加えつつ、着地した。距離を取っただけである。

 俺たちは散開し、全方位から迦楼羅を囲む。


「フェアリーテイル! 神狼(フェンリル)! ミニ輪廻龍(ウロボロス)!」


 ユージュが一番に動いた。建物と同じくらいの大きさの、白銀の毛並みを持つ狼と、その狼の五倍程度はありそうな、自分の尻尾を飲み込み続けている蛇。その二体が召喚された。


「馬鹿、お前、町を更地にするつもりか!?」


 思わず叫んだ。あんな怪物に暴れられたら、迦楼羅による被害よりも大きな被害が町に出てしまう。


「大丈夫だし! 私の命令をちゃんと聞くから、町を壊さないように迦楼羅を倒すことくらい――あ」

「あ、ってなんだあ――っ!」


 ミニ――あれでもミニ――ウロボロスが、建物を巻き込み軒並み破壊しながら、迦楼羅に迫っている。

 他方では、フェンリルが路面を引きはがしながら、迦楼羅に襲い掛からんとしていた。


「だ、大丈夫だし! フェアリーテイルで何でも直せるのだし!」

「直せることとそれとは別だあ――!」


 迦楼羅からもツッコミが入った。そりゃそうだ、向こうには特にこの町を破壊する理由が無いのだから。なにせあちらは人間が入ってくることを良しとしないほどにこの町を維持しようとするテロリスト連中なのだ。

 だから彼は苛立ちを抑えきれないと言った風に頭をかきむしり、


「――ああ! もう! 炎の界ッ!」


 叫んだ。

 同時に彼を中心に炎が立ち上がり、フェンリルやウロボロスごと俺たちを囲む。その隙を利用して俺はドラキュラを自分に憑依させ、虎姫を抱き上げその場を飛びのいた。


「町はこれ以上破壊させねえよ!」

「その言い方だと……ユージュ、が、悪役みたい……」

側室(にばんめ)は黙ってろかしら!」


 立ち上がった炎の背がどんどん高くなり、最終的には鳥の籠の様に上空で閉じた。完全に閉じ込められるたのである。


「俺が結界張ったから! この中だったらどんだけ暴れても、外にある本物の町は壊れなうおおおおおお!? いくら壊れないって言っても更地にすることはないだろぉぉぉおお!?」

「建物が壊れないって言うから、ちょっと試しただけでごちゃごちゃ言うなだし」

「そりゃあここは異世界みたいなもんだから、実在する世界の建物自体は壊れちゃいねえよ!? でも、この結界世界の中の建物は普通に壊れる――だからって暴れるなよなんで更地にするの!? この世の終わりかここは!?」


 いくら迦楼羅が騒いだところで、炎に囲まれた家五十個分ほどに仕切られた町が更地化するのには数秒とかからなかった。


          ☆☆☆


「フェアリーテイル! ミニウロボロス! ミニウロボロス! ミニウロボロス! ミニウロボロス!」

「待て、そんなに広い結界じゃないからそんなに出したらパンクするだろ!? そうしたら俺の結界から何匹かくらい町にごべらぁ!」


 完全にユージュの方を向いてわめいていたガルーダを、背後から近づいてグングニルで突く。直撃したが、何か硬いものに遮られてしまった。背中に鉄板でも仕込んであるらしい。効力を発揮していないグングニルなんてこんなものだ。所詮俺より弱い鉄板にはまるで効果を発揮しない。ただ、衝撃は伝わったようで、迦楼羅がくの字に折れる。


「虎姫!」

「がってん……!」


 その隙を見逃さずに、地を這うように駆けてきた虎姫が両手の掌底をガルーダに放った――くの字の頂点に向けて。

 凄まじい音を立てて先とは逆のくの字になった迦楼羅は吹き飛ばされ、建物三棟を貫いて止まる。


「パス……!」


 その先にいたのはフェンリルであった。咆哮。結界の壁が震える。

 

 フェンリルは、飛んできた鳥の王を、その巨大な口で受け止めた。

 噛み砕く。翼の先端とくるぶしから先がボトリと地面に転がった。そのときになってやっと、屹立する炎の壁が、大気と溶ける様に消えていく。

 ユージュはフェンリルとウロボロスを(めでたし)(めでたしし)て、そして空に視線をやった。俺もその視線の先に目をやる。すると、


「どうやら今の俺ではまるで歯が立たないみたいなんだぜ! というわけで敵前逃亡だっ! 畜生ボスに怒られる! お兄ちゃんのばーかばーか!」


 そこには当然の様に無傷の迦楼羅が飛んでいて、捨てゼリフのようなものを残すと飛び去ってしまった。後を追おうに一瞬で姿を消してしまったので、それはもうかなわない。

 虎姫の方を見て、臭いで追えるかと聞こうと口を開いた瞬間――


「ダメ……アイツは火の臭いしかしない。火はそこら中にあるから……追えない……」


 先回りして虎姫に告げられる。


「あらかた結界を作った時点で自分はダミーとすれ違っていたのではないかしら。戦っている時に気付けこのタコ、だし」

「お前も気付いてなかったんだろ」

「わ、私は気づいていたのだし!」


 ん、と、虎姫が鼻を鳴らす。


「ユージュ……お前、旧・空の王じゃない……違う。本物の……本物のユージュ」

「はあ――? 何を言ってるのかしらー! 私は最強の空の王だったユージュなのだし!」


 旧・空の王じゃなくて、本物のユージュ? 優樹だ、ということか? そりゃあ体は同じなのだから、優樹も同じだろうに。


「違う。嘘ついてる。御主人、ちょっとこっち来て」

「なんだ?」

「ん」


 驚く暇も無かった。

 一瞬。身を屈めてこちらの眼前に現れる、恐ろしく精緻な虎姫の顔。息が止まる。閉じられた虎姫の目の上で、長い睫毛が震えた。

 ふいに、唇を奪われたのだ。


「な、な、何をしている……の、かしら!? そ、そそそそんなことをされたって私は動じないのだし!」


 唇が離れる。

 虎姫は俺の顔を両手で挟んだまま、位置取りを背後に置くユージュの方を振り向き言った。


「早いうちに白状する方が……良い……わたしは初めてはベッドか無理矢理されるのかどっちかって決めてるから……」


 ちょ、一体何をするつもり――紡ごうとした言葉が止められる。物理的に。

 マウス・トゥ・マウス。口をふさがれたのだ。今度は舌も這入ってくる。なにか恐ろしい生き物のようにそれは蠢いて、俺の口内を蹂躙した。虎姫の腰を押し返し、身体を離そうとするが、凄い力でまるで離れようとしない。

 それからたっぷり一分間はそうされて、抵抗もとうの昔にやめた俺がいた。


「……ぷは」


 唾液の糸を引いて、虎姫が口を離す。


「ん、強情。……お前、偽物の旧・空の王。どうしてその名を語る、ユージュ」

「一体何の話かな、なのだし」


 俺からも詳しく聞かせてくれ――言おうと口を開くが、ぱくぱくと金魚のように動くだけで音にならない。先ほどの虎姫のキスで、脳髄までが痺れたようだった。四肢の末端は実際に痺れているし、視界は狭くなっている。動悸が激しく、息切れがした。


「真意のわからない奴と……御主人を一緒にしておけない……だから。ユージュ。わたしたちはここでお別れ……ばい……ばい……」

「……ぁ、おい……」


 かろうじて絞り出した声がそれだけで、倦怠感で倒れそうになる体を虎姫に攫われる。がちゃ、と鎖が鳴るのを最後に、俺は意識を失っていく。

 真っ暗に視界が狭まっていく中、ユージュ――優樹?――の表情ははっきり見えなかったが、その口が悔しそうに歪められているのだけが――俺の心に楔を打ち込んだ。


          ☆☆☆


 風が髪をかき混ぜて、頬を撫でながら通り過ぎていく。

 まず白が目に入った。視界の両端で俺の髪が暴れ、正面に虎姫の白い横顔がある。桜色の唇に目が吸い寄せられて、なぜか気まずくなって目を逸らした。

 と――


「――え――あ、あ、あああああああ――うわああああああああああ――――!?」


 唐突に体を包む浮遊感。俺は虎姫に(情けないことに)お姫様抱っこされているので、つまり地面とは背中を向けているわけで――


「ああああ――!?」


 後ろ向きのジェットコースターとか頭おかしいんじゃねえのとか普段から思ってて、実際は乗ったこと無かったんだけど……やっぱり頭おかしい!


「死ぬッ! なんか魂的なものが抜けて死ぬッ!」

「御主人! 喋ると舌噛む!」


 風で良く聞こえないことを考慮してか、虎姫がらしくもない大声を出す。レアなああああああああああああ――――! 思考してしられない! 恐怖がまともな思考をさせてくれない!


「口閉じる!」


 減速。衝撃。跳躍。その三工程を経て、虎姫が再び再加速を得て町の上空を跳ぶ――駆ける。

 虎姫はどうやら、町の建物の天井を足場にして超高速移動を行っているらしかった。そこまで思考が回り、遅れていた記憶が蘇った。

 そうだ――


「なんでユージュから逃げるんだ!?」


 風を考慮しての大声に、至近からの大声が返る。


「嘘をついている――気がする! ……嫌な感じがしたから逃げた! わかった!?」


 ……つまり、勘、ってことか。虎姫の勘には全幅の信頼を置いている俺でも、今回はさすがにわあああ――――!?

 跳躍の頂点で減速し、再び落下し始める。まるで無限とも感じられるような一瞬が続き、虎姫が何かに着地した。


「もう……大丈夫。降りる……?」


 無言で何度も頷く。

 虎姫は建物の上ではなく、道路に下りたようだった。


「わかった……」


 着地。久しぶりに踏みしめる地面に感動した。ほとんど意識を失っていたし、恐怖で一秒が何百倍にも伸ばされて感じられたしで、本当に久しぶりに感じられる。視界端に表示される時計を見るに、実際は三分くらいしか経過していないのだが。


「さっきのところの……反対側」

「反対って……町の?」


 この町、尋常じゃなく大きいんだぞ? それを三分で横断するって、一体どんな膂力だ。しかも人型で俺を抱えたままって……


「……腕が……痛い……」

「重かったか? 悪――」


 い、と、続けようとして思い直す。良く考えれば俺を攫ったのは虎姫の勝手であり、別に俺の我が儘でお姫様抱っこで運ばせたわけじゃない。だから俺は悪くない。なのに、


「なんでそんな非難めいた目で俺を見てくるの」

「非難……じゃない……疑問」

「疑問? 何がだ?」


 控えめに虎姫の首が倒される。痛い、と両手で反対側の腕を揉むような姿勢であるから、胸が押しつぶされて形を変えた。視線を下げない、割と精神力を消費して。


「わたしは……人型の時は、どれだけ鍛えても限界が人間と同じ……」

「人間は鍛えたら鉄格子ぶち破ったりできるようになるの!?」


 あと他にもガルーダを漫画みたいに吹き飛ばしたりとか、凄く分厚い鉄のドアを片手で軽々と持ち上げたりとか。


「あれは……部分的に虎に変身してるから……ほら」


 そう言って虎姫が差しだしてきた手の甲を受け取る。


「肉球……」


 あ、気持ち良い。

 そういえば、前に部分的に獣化することもできると言っていたっけ。


「あ、じゃあ虎耳出してみて。尻尾と」

「了……解……」


 おお、可愛い。

 ……そうじゃなくて。

 現在虎姫は、腕が虎の毛に覆われ、虎尻尾と虎耳が生えている状態にある。


「部分的に虎になれば……虎の力を出せる……」


 いつも虎で戦わないのは、人間の体の方が融通が利くからか。確かに全身虎にした方が力はあるだろう。ただ、技は使えない。人型なら鍛え上げた技がある。しかし、力が強くない。だからこその半獣形態――


「そういうことか?」

「違う……」

「違うの!?」


 変な解釈して勝手に納得した自分が恥ずかしい……


「それもあるけど……一番の理由は、御主人のため……可愛いかな、って」

「絶対違うだろ!」


 叫ぶ。

 俺に可愛いと思われるために半獣形態になれるようになったとか、虎人どれだけ……


 と、そこで思う。

 そういえば、虎の集落で出会った時は、虎人たちは皆完全に虎の姿になってから戦っていたのではなかったか?

 だとしたら。


 だとしたら、虎姫は、本当に――


「俺のために、進化したって言うのか……?」

「……そう。わたしは、御主人の下僕になるために生まれた、から」


 運命的な話、ということだろうか。

 虎姫は、俺と出会うために生まれたのだ――そういう解釈で飲み込む。


「御主人。ユージュが、探してる。だから隠れる……こっち」


 肉球状態の手に引かれて、石造りの道を駆ける。こちらは全力に近い速度で走っているのに、凄い膂力でぐんぐん引っ張られた。


「御主人と手を繋いだりちゅーしたりしたら……体から力が溢れてくる……なんでも、できそう」


 俺はそれに、言葉を返せなかった。息が切れていたせいだ。


 ただ。

 いくら全力で走ったところで、状態異常「疲労」が発生するくらいに疲れるものではないはずだ。この体は現実の俺の体ではないのだから。

 咳が出た。急に寒気が襲ってきて、足がもつれ、身体が前のめりに傾ぐ。


「御主人! 御主人!?」


 俺は再び。

 意識を闇に閉ざした。





本日更新した11日分を持ちまして、ともゾンはしばらく休載です。

ええ、テスト勉強的な奴をですね……

来週の金曜には終わるので、その次の4の倍数の一日前から投稿再開いたします(≧∇≦)

さあテスト勉強やるぞー(白目



…………11日か5月のだといつから錯覚していた……?


…………。

…………その、なんだ、アレだ。間違って6月11日にですね?

予約投稿をですね?


すいませんでしたm(_ _)m




さて、内容のお話。

虎姫とのサービスは……ただのサービスじゃないんですよ、と。

いわば伏線ですね。気づいたらこうなってて、虎姫の設定も微調整ですよ(ーー;)

ただ、元プロットよりは良くなってきた。書いていたらだんだん見えてきたもの、って感じですかね(^∇^)



――次回――

「ユージュと合流するのはダメ。御主人の調教(しつけ)をもってしても……ちょっと迷うけど……」

―――(予告は変わる可能性アリ)―


では。

誤字脱字、変な言い回しの指摘、感想、評価、レビューお待ちしております。


※なお、次話の投稿はテストが終わってからなんで、一週間半くらい空きます(ーー;)


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