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友達はいないけどゾンビなら大勢いる  作者: たしぎ はく
Story_of_the_small_tragic_love_
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第十一話:伝説級

 埃っぽい空気が蔓延していたが、埃は積もっていなかった。

 空気が乾燥しているだけで、使われず放置されていたわけではないらしい。


「肺がおかしくなりそうだな……」


 気管支とか。実は手持ち花火の煙も苦手だったりする。まあ仮想の体だし、大丈夫だろ。


「これは……資料? かな? たくさん紙があるけど」


 部屋の中央に机が置いてあり、壁の四方は本棚に覆い尽くされている。そのせいで、ただでさえ狭い部屋がもっと手狭に感じられた。正直俺とドラキュラが入ればもう満員状態である。ユージュはそもそも部屋に入る気が無いらしいし、虎姫は入口の辺りで口元を抑えて待機している。


「実験結果……?」


 机の上に乱雑に放置された資料のうちの一束を手に取り、目を通してみる。

 まず目についたのが、表題である『人工能力の付与についての実験結果』だった。そもそも魔法というものは、個人が生まれついて持っている属性に応じたものが習得しやすいらしい。この場合の魔法というのは、俺たち人間の職業が専用で持つスキルや能力(アビリティ)とは別である。

 さて、この実験というのは、生まれつきの適応を無視した能力を生命に付与することは可能か否かということである。その結果は、強力過ぎる能力を付与したものは体内外で拒否反応を起こし絶命した、と書かれてあった。ゆえに研究の内容はシフトされ――どの範囲までの能力なら被験者が拒否反応を起こさないか、に変わっていく。

 その結果、二八三回目の試行で、被検体S-19が能力の許容に成功した。

 その能力こそが――


「探し物を絶対に見つけられる能力、か」


 それと同時に分かったことは――資料から類推するに、この施設、海の王候補育成施設に所属するほとんどの者は、何らかの改造が施されているらしいということだ。シープラが妹と呼んだそのほとんどあるいは全員が――非人道的な実験の成功例ということになる。もしかしたらシープラもかもしれない。


「一応被験者への配慮はあるようだけど、それでも初期段階で二八二人もの死人を出しているし、そもそも生まれつき全く対応できない属性の魔法や能力を植え付けられた者もいるはずで、そうすればその苦痛は考えられたものじゃないよ。ボクに聖属性の魔法を使えって言われても無理な話だしね。たぶん使った瞬間に自壊するんじゃないかな」

「……その点、人間には職業というシステムがあるから羨ましいのだし。そりゃあ確かに多少の適正はあるだろうけど、人間は自分の好きな職業を選んで、その職業にあった属性に『染まる』のだし。染まった後はさすがに違う属性の魔法は使えないのだけれど」


 死霊術師である俺が、祈祷師(シャーマン)のスキル「祈祷」やなんかを使うことができないということだろうか?


「職業自体は、転職することで変えることも可能だけれど、もし転職した後も、前の職業のスキルが一部残ったりするし、この実験で言うと、他人の職業を無理矢理書き換える行為に等しいって感じかな?」

「書き換えじゃないのだし。上書き。オーバーライトが正しいのかしら」


 ドラキュラに張り合うように、ユージュが声を荒げる。この二人はどうも仲良くなりそうにないなあ。そういえば優樹もドラキュラが苦手だったっけ、とそんなことを思った。というか早く優樹の体返しやがれ。


「つまりまとめると」


 ドラキュラが、手を叩いて言った。


「海の王候補育成施設は、海の王候補やその傍付きなんかを改造していた、と、そういうことだね」


 俺の読んだ資料と、ドラキュラの読んだ資料の内容を突き合わせるとそうなるのか? そもそもこの資料の信憑性がどれほどのものかが分からない以上、この推測自体がミスリードである可能性もあるし、そういう風な仮定を設定した、ということでも良いかもしれない。

 だって、この地下室には、明らかに誰かが来た痕跡があったではないか。入口のタラップが開けっ放しになっていたのは、誰かが出ていった後なのではないか?


「御主人。確かに……この地下室、わたし達が来る前――大体三時間ほど前に……誰かが来てる」


 虎姫曰く、海の王候補育成施設が「燃え尽き、自然消火された」のが今から大体四時間ほど前であるらしい。

 そしてその一時間以内に誰かが一人でやってきて、この地下室で何かをした後、タラップを開け放ったまま出ていった、と。


「この資料、そいつの……匂いがついている。拾い上げて読んだか、あるいは……」

「資料をすり替えたか、か?」

「そう……御主人さすが……私を罵倒する権利をあげる……」

「この巨乳! モデルみたいなプロポーションしやがって! なんだその眼は! 宝石か!」


 罵倒なんてする気無いです。はい。意地でもするものか。

 虎姫はどこか憮然とした表情を浮かべている。褒めたのにね。


「むぅ……なんか腹立つのだし」


 頬を膨らませつつ、ユージュがそっぽを向く。その姿を見て、ドラキュラが薄笑みを浮かべているのが気になったが、どうせロクなこと考えてないんですよね分かります。


「それじゃあもうここから出るぞ。これ以上調べられることはないだろうしな」


          ☆☆☆


 さて、調べられるところは全部調べたし、俺たちはこれからどうするべきだろう。

 施設跡地周辺の人払いの結界の境界線を眺めながら言う。どうやらこの施設を認識できないようで、稀に道行く人は、こちらの方を気付きもせずに通り過ぎていく。ちょうど優樹が出した隠蔽の傘と似たような感じだ。こちらの方が遥かに規模が大きいわけだが。


「この規模の結界だと、断続的に魔力を供給する必要があるから、今度はそっちの方面からアプローチしようと思ったんだけど……」


 ドラキュラが跡地にわずかに転がる瓦礫を蹴り転がしながら言う。

 すると、ひときわ大きな瓦礫を動かした時に、四角いサイコロのようなものが転がり落ちた。赤と黒が三面ずつの六面体だ。


「この結界、魔法具によって張られているようだね。魔法は、効果と魔力供給源との間でパスが繋がっている。だけれど、術者がいればそのパスを辿って逆探知が可能なのに対して、魔法具だと現場に配置しておくだけで空気中の魔力を吸い上げつつ魔法を発動するから――設置者の居場所が探知できない」


 ドラキュラの言を受け、深く何も考えず、サイコロを拾い上げ――ようとして。


「っ! なんだこれ、重……!」 


 規格内の、精々一辺が二センチに満たないような大きさのサイコロである。それを摘まんで持ち上げようとしたのだが、まるで地面に縫いつけられでもしたかのように、持ち上げることが――正確には、浮かすことさえできなかった。


「御主人。力仕事はわたしが」


 まあ、そうだよな。俺より虎姫の方が何十倍も力持ちだものな。……でも、どうしても、女の子に腕力で負けているということにちょっとプライドというか男の沽券というかが崩れていくんだよな……

 そんな俺はさておき、虎姫はサイコロに近づきしゃがみこむと、いとも簡単にそれを持ち上げてしまった。両手で大事そうに持ち、俺の方に持ってきてくれる。


「これ……ちょっとだけ、重たい……かも」

「ありがとう虎姫」

「罵と――」

「ありがとう虎姫」


 有無を言わさずに虎姫の言をシャットアウトして、彼女の手元を覗き込んだ。先程観察した通り、赤と黒の正六面体をしている。指でタップすると、その説明が書かれたウィンドウが現れた。

 そのウィンドウによると――


伝説級宝レジェンダリィ・レジャーNo.25「運命の神の力」、か。……伝説級宝? 伝説級……って」

====

 かつて運命を司る神が死んだときに生成されたとされる、神の力が詰め込まれた結晶。小さな見た目に反して大変重く、並みの力では持ち上げることすら不可能である。なぜならこの結晶には、前代の運命の神が見守ってきたすべての運命が詰まっているのだから。

 この結晶を使用すると、どの数字を上にしたかにより、六種類の結界を張る事が出来る。一は運命、二は結果、三は後悔、四は幸福、五は終焉を司っているが、なぜか六は決して上にできないため、六が何を司るか知る者はいない。

====


「伝説級宝!? どうしてそんなものがここに!? ……あるのかしら!?」

「これって、もしかして、このゲームのクリア条件の鍵なんじゃないのか?」


 自問。

 この問いに応えられる優樹は、今はユージュと化してしまっている。

 なのでとりあえず、このサイコロについては保留、だ。ユージュが優樹に戻るまで、俺がアイテムボックスに入れて保管しておくことにする。アイテムボックスは魔法具なので、内容物の重量を無視する事が出来るのだ。


「ちなみに今上になっているのは三――後悔、だね」

「なるほど、後悔からは、無意識に足を背けたがる――ってことか」


 だから結果として、人払いの結界になる、と。


「じゃあ俺たちは、一体どうしてこの結界の中に……」


 入れたんだ? と、言おうとしたその時である。少し食い気味で、ユージュが言葉を紡いだ。


「それは、私が後悔から目を背けていないからなのだし。確かに空の王の座は奪われて、私のほとんどは失われてしまったけれど、それでも私は今、こうしてクロウの事が……ううん、何でもないのだし」


 いくら鈍くとも、わかることはある。

 ……俺はしばらく、言葉を生み出す事が出来ずに黙りこくっていた。


          ☆☆☆


 どうやらこの、後悔から足を背けたくなる結界は、後悔に立ち向かう者がいると無効化されるらしい。


「これは明らかに……敵の、誤算」

「そうだね。この伝説級宝は性質上、その場に設置しておく必要があるから……もし誰かが結界を突破して来たら、本体が奪われる可能性があるもんね」


 マジックボックスの口を開け、虎姫にサイコロを入れてもらおうとした、その瞬間――


「そうだね! 非常に困るね! だって誤算だし! 伝説級宝が奪われるなんて、未曽有の誤算だし! というわけで俺参上、ガルーダだぜ!」


 背後、俺たちの後ろで声が生まれた。

 それを聞き、危機と感じて後ろを見ずに飛び込んだのが正解であった。一瞬前まで俺のいたところに、天を突くような豪炎が立ち上がっていたのだから。


「ん、さっきぶりだな! 改めて自己紹介だ! ――ある時は結界術使い、またある時は炎を司る神鳥、そして今は迦楼羅天にして鳥の王(ガルトマーン)にしてテロリスト、ガルーダだぜ!」


 無駄に決めポーズをつけて、シャキーンと声で効果音をつけて。こいつ、非常に殴り倒して放置して家に帰りたくなるくらいふざけた性格だが、実力は折紙付きだ。非常に厄介かつ難敵。先ほどはなんとか辛勝を得た、という感じである……いや、あれは辛「勝」、勝ったと言えるのかどうかも怪しい。


「ちなみにさっきの異次元結界は俺の自前のものだぜ! こっちはまあ対象がお兄ちゃんたちだけだから小規模で済むけど、人払いなんかに使う、対象が多すぎる結界だと、そっちの魔法具使った方が楽なんだよね! だからほら早く! それ返して!」


 虎姫が握りしめたままのサイコロを、急いで俺のカバンの中にしまわせて口を閉じ、呪文を唱えマジックボックス自体を消す。マジックボックスは、出し入れ自在である。


「嫌だと言ったら?」

「言う前に態度で示してるよね!? 返す気無いってことじゃね!? お兄ちゃん鬼畜だな! 引くわ!」

「テンション高いなお前」

「そりゃしょうがないだろ! 性分だよ性分。……で! お兄ちゃん! その道具を返す気無いってことは、お兄ちゃんは俺と遊んでくれるってことで良いのかな!? かな!? 力付くででも取り戻せっていう!」


 そんなわけないじゃないですか。爽やかな笑みと共に告げてみる。


「じゃ、俺たちは用事があるのでこれで」

「なんだよー、遊んでくれねえのかよー。じゃあまた今度な! また今度会おうな!」


 迦楼羅の背側がちょうど俺たちの取っている宿屋がある方向だ。だからその方向に向かって――つまりはガルーダの方に歩を進め。


「そん時は遊んでくれよな!」


 俺の左背後を、少し空けて虎姫が着いて来る。俺はガルーダの右半身側を通り抜けようとしているので、ちょうど迦楼羅と一番遠くなる位置になるな。

 その後ろをドラキュラとユージュが続く。


 あと数メートル。


「ああ、また会えたら――もし、また会えたら」


 あと数メートルで――


「その時は遊んでやるよ」


 グングニルを右手で抜き打ち、斬り付けにかかる。


「もし、って仮定、この場でお兄ちゃんが死ぬかもしれないことの暗示かな!?」


 グングニルを軽々躱したガルーダは、その両手に炎の剣を二振り造り出すと、こちらに構えた。


「確かに弱者から強者への不意打ちは有効だぜ? でも、それは相手が中途半端な強者である時だけだよ。つまり圧倒的強者である俺、ガルトマーンに、お兄ちゃん如きの不意打ちが――しかも、一度喰らっていて効果もわかるような武器を相手に、通用するわけがないだろ?」


 迦楼羅天が一歩を踏んだのを見て、俺は―― 

このゲームに「伝説級宝」というものがあることを忘れていた人、挙手。

はいノ←


すいません嘘です。全然忘れてないです。


ここまで出てこなかった理由、また、ここで出て来た理由――すべてを第三部に託します。平たく言えば伏線ですな。忘れてたわけじゃないよ。ええ忘れていたわけじゃないとも。いやマジでマジだからマジで。



――次回――

「炎の界ッ!」

―――(予告は変わる可能性アリ)―


では。

誤字脱字、変な言い回しの指摘、感想、評価、レビューお待ちしております。


P.S. まことに勝手ながら、ここまで四日に一話で更新し続けて来て、この予定だと次話は七日に投稿することになっていたのですが、GW四日間、父方、母方の法事が重なり、一日も自由時間が無いので、九割くらいの確率で更新できないと思います。その場合、次話更新は11日18時予定となります。すいません。インターハイ予選すら出られないんだよこっちは運動部なのに法事ェ……

まあ法事は仕方ないんですけどね。


というわけで、しばらく空きます。

なお、iPhoneで感想、レビュー等は見る事が出来るのでしてもらえると嬉し(略



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