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友達はいないけどゾンビなら大勢いる  作者: たしぎ はく
Story_of_the_small_tragic_love_
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第六話:夜這い

記念すべき九十話。

そういやこの前あとがきで、シープラを二人目のハーレム要員と言いましたが、なんかもうドラキュラもハーレムで良いような気がしてきた。


あ、あと、一周分飛んですいませんでした。

前週(9日投稿予定だったもの)はテスト期間であったために投稿できず、でした。まあ書けていなかったんですけどね。勉強大事。

「とりあえず……今日の宿を取ろうか」


 優樹の鶴の一声で、俺たちは今日の宿を探すことになった。俺たちはひとまず南西区に向かったが、ヤマト・タタールには「詠う人魚亭」という店しかないとのこと。


「それじゃあここにしよう。何泊しようか?」


 何泊……何泊くらいだろう。虎の集落で貰ってきた分も俺が最初から所持していた分も、合わせればかなりの金額を持っているので、金に困ることは無い。だからこそ、逆に何泊すべきか見当がつかないのである。


「とりあえずシープラを見つけることが先決だろ。一週間くらい取っておくか?」

「余れば観光すれば良いし、足りなければ追加で借りるというわけだね。任せてよ」


 受付の青年に言って、優樹が鍵を借りる。素泊まりで一泊千二百ルードらしい。ルードはこのゲームの通貨単位だ。ちなみに朝夜二食付きだと三千ルードで、味は保証する、だとか。食事については町に繰り出せば良いし、俺たちは普通に素泊まりである。


「ちなみに僕とクロウと虎姫、三人で一部屋だよ」


 ドラキュラがいると四人分の値段を払わなければならなくなるため、彼は現在姿を消していた。寝ると言っていたので、多分明日の朝くらいまでは出てこないだろう。吸血鬼(ナイトウォーカー)――「夜歩く」のくせになんという健康優良児か。まだ日が暮れてすらいない。もっと夜更かししろよ夜の王なんだから。もっと不摂生しろよクマとかはっきりくっきりでいろよなんだそのつやつやの肌は。

 我が家のドラキュラ様は、大変健康な生活を送られております。

 ヴァンパイアのイメージが音を立てて崩れ落ちていく。


「ユージュがいるのは余計……でも、御主人と同じ部屋……嬉、しい」

「な!? 誰が余計だって!? そんなことを言えば僕だってねえ、虎姫は犬小屋にでも入っていれば良いと思っているんだよ!? クロウのペットみたいなものなんだから!」

「御主人の……ペット……? …………はぁ、はぁ……」

「こらこらユージュー? 虎姫さん発情させてどうするつもりだー? とりあえず俺と虎姫がそういう空気になったら自分も堂々と混ざればとか考えてないかなー?」

「か、考えてないよ!?」


 そんなやり取りをしつつ、部屋に移動する。

 四人部屋らしい。

 窓を開けると、ヤマト・タタールの町の全貌を見渡す事が出来る、六階。周りの建物よりも一階か二階分ほど頭の高いこの宿屋の、宿泊できる部屋の中での最上階に、運良く部屋を借りることができた。七階には、例によって水路と、もう一つのカウンターがある。

 部屋の中は狭いが、それを感じさせない――大きな窓から採光する造りによって、手狭には感じられない。鍵がかけられる入口、ベッドが四台、それからローテーブルが一つ設置されているだけの、この上なくシンプルなつくりだ。


「じゃあ僕はこのベッド!」


 言うなり優樹が、三つ並んだベッドの一番窓側に倒れ込んだ。ちなみに四台あるうちのもう一台は、反対側の壁に隣接している。


「それならわたしは……この真ん中のベッドを取る。御主人は、こっち」


 壁際かよ。まあ別に構わないけれど。

 優樹の隣はなんというかあまり眠れなさそうだし。というか同室の時点でかなり寝られるかどうかが心配なのだが、この際それは言っても仕方がない。意識しすぎる。まあ今更の一言に尽きるが、俺はどちらかというと一台だけ離れて設置されている、反対側のベッドが良い。


「虎姫、夜這いをかけるのは禁止だ。わかったかい?」

「つまり……御主人が寝る前なら大丈、夫?」

「ち、違う! そもそもクロウに手を出すことが全面的に禁止! まずは僕だ!」


 ちょっと俺この部屋でやっていける気がしないのです。


          ☆☆☆

 

 翌日。

 まだ日も低いうちから、俺たちは町に繰り出した。ついて来てほしい、とのことなので優樹の後ろを歩いている。


「眠い……日に焼かれる……溶ける……」

「そういうのはドラキュラで間に合ってるよ虎姫」

「二人とも、しっかりしたまえ。もう朝だよ?」

「早いよ! 朝早すぎるよ!」


 日も低い――というか、東の地平線がほんの少し、言われてみればそうかも? とちっとも思わないくらいに明るんでいるくらいである。つまり、まったく日が昇っていない。明るんでもいない。

 午前三時だ。午後ではない。午前の三時だ。決して早朝と言える時間帯ではない。というか日が昇っていないにもかかわらず、どうして虎姫は日光に焼かれようとしているのか。寝惚けてるのか?


「静かにしたまえ。町の皆さんに迷惑だろう」


 そんな時間帯であることが分かってるなら俺たちを連れ出すなよ!

 丑三つ時――草木も眠る、ということでふと思ったのだが、この町には樹木や草の類が一切見当たらない。やはり海底にあるからだろうか。

 闇に濡れる町を見渡すと、昼間とは違った顔つきである。夜の静寂の中に水路が流れる音だけが響き、夜の暗闇の中を正体不明の光源が薄ぼんやりと照らしている。


「で?」


 まさかこの光景を見せるためだけに俺と虎姫を叩き起こしたわけではあるまい。いやまあそれだったらそれで良いのだけれど。そう思えるほど。夜のヤマト・タタールは幻想的だ。BGMに夜想曲でも流れていたら完璧である。イブニングドレスで茶会だな。なるほど寝惚けてる。


「うん」


 優樹が頷く。


「不法侵入しよう」

「はあ?」


 優樹が訳の分からないことを言い始めるのはまあいつも通りで、そのわけのわからないことは大体正しいのだが――今回ばかりはちょっと理解し難いものがある。今回ばかりは? うん? うん。こ、今回ばかりは。

 ちなみに虎姫は、優樹の言葉を聞いた瞬間に、俺にもたれかかって寝息を立てはじめた。全力で理解を放棄する、というサインのつもりか。無防備な口元から洩れる可愛らしい吐息に色香を感じるが意識の外に追いやる。ただ、そのおかげで目は醒めた。体格的に厳しいものがあるが、虎姫を背負う。


「どこに?」

「理由は聞かないんだね」

「いや、場所によっては聞くけど」


 俺の前を歩いていく優樹を追いかけ、隣に並ぶ。こんな時間だから、往来に人影はない。当たり前である。午前三時なのだから。

 隣に並んだ俺のことを一瞥し、優樹は視線を前に戻した。俺もその視線を追って――


「――ああ、なるほど」


 宿屋から徒歩三〇分ほど。

 ヤマト・タタール北部に位置するその建物は。


「海の王候補の養成施設か」

「そう」


 優樹が頷く。


「シープラちゃんに夜這いをかけるよ、クロウ」


 その目には、喜色が浮かんでいた。

 どうして嬉しそうなのだろう……?


          ☆☆☆


「フェアリーテイル、隠蔽の傘」

「使い回しか?」

「違うよ、ホラ、昨日のはパラソルだっただろ。これは日傘。ちゃんと人数分作ったから」


 優樹が生成した真っ黒い傘を受け取る。輪郭はぼやけて溶け、大体の形しか把握する事が出来ないが確かに傘である。俺のは無骨な蝙蝠傘で、優樹自身のものはフリルで装飾されたタイプ。その程度の違いは辛うじて識別可能。


「虎姫は手が塞がるのはあまりよろしくないだろう? だからほら、雨合羽タイプだよ」


 やはり黒い靄のようなもので構成され、輪郭が曖昧な合羽を受け取る――まさしく今起きたところの虎姫。広げて身に着けると、どうやらポンチョタイプの合羽らしい。てるてる坊主みたいなシルエットが可愛らしい。――あくまでシルエットの話だが。実体は漆黒の闇を纏った闇坊主である。本来なら白であるはずの、白目の部分が黒であるがゆえに、瞳孔の金色が夜闇の中に浮かんでいて、より恐怖を煽った。


「合羽の中は何も着ない決まりだよ、虎姫」

「わかった」

「わかるな違うからちょっと違うって言ってるのにどうしてもうすでに脱いでるの!」


 虎姫が脱ぎ捨てた服を拾い集め自分のアイテムボックスにしまう優樹。あ、ちょっと待ってぱんつは俺も欲しいから。当然後で返すとかそういう思考は無いです僕達カップルには。

 夜はテンションが上がる。どうしてだろうと、ふと考えたことがあった。いつも太陽で照らされる風景から光が失われることで違う顔を見ることになり、その結果、新しい場所に来たという高揚感がテンションを高くさせるのではないか――なんてそんな結論に落ち着いたんだっけか。いつだか優樹と議論したことがある。

 とにかく虎姫のぱんつは俺もほしいです。


「正直者のクロウにはあとで僕のぱんつをあげよう」

「女神ッ!」


 こんなやり取りをしている俺たちの隣を、見張りであろう女性が歩いて行った。


「良いかい? 今さっきの女の人が帰ってきたら門のドアが開く。そのタイミングで忍び込むよ」


 優樹の魔法具のおかげで俺たちは外から認識できなくなっているので、特に声を潜めることも無く、いつも通りの大きさで話す俺たち。昨日唯一シープラを見つける事が出来たあの妹だけは、この隠蔽を看破する能力を持っているのだが、シープラの言によると彼女の能力は「探し物を絶対に見つける」類の能力であるらしいので、探し物でない俺たちを見つけることは不可能だろう――


「帰ってきたよ」


 自然な動きで俺たちを迂回して通った修道服風の女性の後にぴったりと張り付いていく。たぶん二〇歳くらいの若い女性だ。亜麻色の髪を二つ括りにして肩にかけている。

 施設をぐるりと囲む白亜の門、そこに取り付けられた小さな扉をくぐる。

 門より外は、街灯代わりかやはり正体不明の光源があったので問題なく見えていたが、施設の門の内部まではその光は届いていないようで、敷地内は数メートル先が見渡せない。だからシャドウスネイクを左目に憑依させた。優樹はなにやらゴーグルのようなものを取り出して掛けている。虎姫は普通に裸眼で見えているようだった。


「建物の中に入るときにも、たぶんこの女の人について行った方が良いと思う」


 優樹がそう言うのに頷きを返す。

 果たして女の人は、施設の裏口のような、奥まった陰の所に設置されているドアの鍵を開けると、中に入っていった。そのドアが閉まり切る前に、何とか身を滑りこませる。

 そのあと施錠して再び歩き始めた女の人が去ったのを見計らい、耳を研ぎ澄ませて足音がしないのを確認した後、鍵を開いた。優樹と虎姫を誘い入れる。


「それじゃあ、夜這いを始めようか」


          ☆☆☆


 おかしいと優樹が言いだしたのは、それからしばらくしてのことだった。


「ベッドはあるけど、寝ている者がいない。客室にしては数が多すぎるし、まだ寝ていないとするなら施設内が静かすぎる」

「それに……今日この数時間でベッドが使われた形跡は……ない。でも、昨日は使った形跡……匂いが残っている。たくさんの……女の、人」


 先ほど俺らが入った入口からは、まっすぐに廊下が伸びていて、その左右にドアが幾つも並んでいた。そのドアは鍵がかかっていないようだったので、片っ端から開けて中を確認しては次の部屋へ……というのを繰り返している。

 どの部屋もほとんど同じ家具の配置で、二段ベッドが二つ、計四つのベッドが設置されているほかは簡単な鏡台が置いてあるだけであった。


「この部屋で最後だね、この廊下にある部屋は」


 中を確認するも、今までの部屋と同じだ。ベッドの下に隠し階段も無ければ絨毯を敷いていないフローリングにはずれそうな床板も無い。壁紙も新しく張り替えられた形跡はないし、もちろん天井も然りだ。


「見つからないな」

「なに、この施設の建物はかなり大きかっただろう? 今まで探したのはその十分の一程度だ。その中のどこかにシープラちゃんはいる」


 廊下を突きあたりまで進むと、またドアがあった。これをできる限り音を殺して開ける。シャドウスネイクのスキルである暗視は温度による強化感知であるため、ある程度なら壁を無視してまでも感知できるのだ。この壁の向こうには誰もいない。

 階段の下にドアはあった。二、三歩踏み出してみてここが玄関ホールらしき場所であることが分かる。先ほどまでいた場所はちょうど、玄関からだと階段の陰になって見えない位置になっているようだ。


「ここは二手に分かれた……方、が」

「二手にって、どうせクロウと虎姫が二人になるんだろう? 認められないよ、そんなの」

「でも、わたしは首輪で繋がれているし」

「僕にも首輪つけてくれないかなあ!」


 ――君の言い分には一理あるけれど、君とクロウが二人きりになる分け方は認められない! 

 そう言う優樹は、二手に分かれる事には断固反対であるらしい。虎姫はペットみたいなもので良いんじゃないでしょうか。棒読み。


「玄関がここで、正面に肖像画――ってことは海の王かな?」


 玄関から入ると、右と左に分かれた階段、それから正面にある大きな海神の肖像画が目に入る。先程俺たちが来た扉と玄関ドアを除くと四つ、扉がある。右と左の各階段を上った先に二つと、左階段の手前、それから左階段の陰に一つ。


「それじゃあ下の階から――」


 そう言って優樹が歩を進めた瞬間であった。


「総員ッ! かかれッ!」


 一斉に屋敷の電気がつき――今までいなかった修道服風の女性たちが俺たちに襲い掛かってきたのは。


「抵抗すると殺すッ! わかったな侵入者ッ!」

――次回――

「シルフェリア・プラント様! お控えください!」

―――(予告は変わる可能性アリ)―


では。

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