第一話:友達百万人できるかな
くそぉ……、くそぉ、この話書くの二回目だよちくせう……。一回完成して、投稿しようとしたらデータ全部吹っ飛びました。帰りたくなった (←どこに
「死体が無いなら作ればいいじゃない♪」キャラが一人登場します。
微妙にキャラが変わってないこともないけどあまり気にしたら負けだと思ってる。
では本編どうぞ!
デスゲームと化したことでてっきり内部はパニックになっているものかと思ったが、そうでもなかった。それもそうか、このゲームがデスゲームになってから、もう数日が経過している。
俺は今、『レイオリア宿場町』にいた。
町を十字に貫くメインストリートにはまったく人影がなく、温泉街特有の真っ白い湯気がもうもうと立ち込めている。時折風が吹いてその湯気をかき乱すのだが、すぐにまた湯気が視界を奪った。
――俺は、自殺することにした。
現実世界は見限った。
ただ、それ以上にVRMMORPGには失望した。
「だから」、「トレジャー・オンライン」にログインすることにした。ひねくれていることは分かっている。
それでもログインしたのは、現実世界では目に入るたびに染色してやろうかと思っていた白髪も、ゲームでは黒髪だからだ。目の色は仕方がないが、目は常に見え続けるわけでない。そう思ってログインしたのだが、俺の髪はゲーム内でも依然白いままだった。ついでに、アバターの容姿だって現実と同じだ。さっきメニュー画面で確認したのだが、瞳の色は以前に比べて爛々と光る、鮮血のような色を放っていた。こんなところまで現実世界と同じか、と迷わず自殺決死行しそうになったのだが、まさかの自制心をここで試すことになるとは思わなかった。
それに、こちらの方がメインの理由なのだが、どうやら「トレジャーオンライン」内での死、すなわちゲームオーバーは、現実世界での死となるらしい。しかも、五感すべてを奪われた状態で、脳死するのだとか。脳死なんてしたことがないからわからないが、きっと飛び降り自殺よりはしんどくも痛くもないだろう。つまるところ、俺は楽に死にたかった。
――でも、ただ死ぬだけでは面白くない。
どうせ死ぬという「結果」は変わらないのである。だから、卑怯者の身なれど「ヒーロー」の真似事などしようかと思ったわけだ。
俺の力で何人かを守られたのならそれでいいし、志半ばで野垂れ死んでも構わない。むしろ万々歳だ。
死者は生者の記憶の中で生き続けるらしい。それなら、俺のことを憶えて、脳内で生かし続けてくれる人間は、より多い方が良い。たとえそれが汚名でも、英雄としてであっても。どうせ死ぬのだから、大罪人でも英雄でも同じ――とにかく、名を遺してやる。
今、俺の手元には伝説級宝No.30「ナイロック湖の主の魂」がある。
その説明は、
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ナイロック湖の主を倒した証として、ナイロック湖の主の魂が結晶化したもの。
使用すれば、モンスター「ナイロック湖の主」のスキル、パラメータが、使用者のパラメータに加算される。
使用回数無制限。
群青色をしており、夜空のように水色の斑点が浮かぶ様は、まるで一個の美術品のように見える。大きさは手のひら大だが、それに反してとても重く、片手で持ち上げるとずっしりとくる。
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らしい。アイテムの説明欄に書いてあったことだ。
使用回数無制限とのことなので、早速使ってみることにした。誰かに見られたらいきなり襲われる、なんていう可能性もあるにはあったが、さすがに大丈夫だろうと思い直した。こんなに人気がないのだ、ちょっとぐらい何してもバレないだろう。
アイテムボックス、と念じる。すると、右手に安っぽい赤い箱が現れた。その蓋を開けると中は底を覗き込めない空洞になっている。ここに手を突っ込みながら、すぐ真横に表示されるアイテム欄から取り出したいアイテム名をタッチするか、アイテム名を呼ぶことで好きにアイテムを取り出すことができた。
反対に、入れるときは簡単で、この空洞に突っ込んでやればいい。明らかにこの箱口よりも大きいものが収納できるのは、はたしてゲームだからなのだろう。
空洞に手を突っ込む。
「ナイロック湖の主の魂」
独り言は誰かに話しかけていることに入らないため、全然問題ない――。面倒くさい男である、我ながら。
暗闇で見えなくなっている右手が、何か固形物を掴んだのを確認し、手を引きずり出す。それと同時にアイテムボックスに、――消えろ、と念じる。
「ナイロック湖の主の魂」は、崩れたハート型をしていた。色は群青色で、水色の斑点が浮かぶさまはあまりにも美しく、つい見入ってしまいそうになるが気を取り直す。
鱗を左手にあてがい、右手のひらで抑える。
「喚起、ナイロック湖の主」
瞬間、鱗が水色に発光して左腕の中に沈んでいった。いくら仮想体のアバターの、情報の塊でしかない腕だとしても、自分の体に異物が入り込む感覚はなんだか不思議だった。――ハサミで目をえぐった時と同じだ。
さらに、肘の下あたりに水色の鱗を模したマークが浮かび、ぐるりと一周した。そこでまた光る。今度はマークが薄くなって次第に消えた。それと同時、左手指のあいだには水かきが生えた。左足には鱗とブーツの中間のようなものが装着される。両頬の後ろ、顎関節からは深緑色のビラビラ――エラが伸びた。エラは、左側だけが大きく、耳と眉のあたりまでつながっている。
えらくアシンメトリーな顕現だった。左体側には水のベールがまとわりついている。まるで天女の羽衣みたいだ。ひらひらと鬱陶しかったので、――消えろ、と念じたら、いとも簡単に霧散してしまった。
それがあんまりにも簡単なものだったので、少し不安になり、――出ろ、と念じてみると、今度は水蒸気が集まるようにして、羽衣を形作った。
「帰換」
主の装甲が一瞬だけ発光し、そして剥がれ落ちた。それらは空中で小さな鱗に形を変え、左腕の、先ほどマークがあった部分に突き刺さり、何事もなかったかのようにまたもとの円環状のマークを形作った。
さきほどの状態のことを「憑依」といい、自分にモンスターの性質を付与することを言うのだとか。
とりあえず水色の鱗マークを黒のローブの袖に隠し、今後の予定を練る。
☆☆☆
このデス・ゲームをクリアし、現実世界に生還できるプレイヤーには、明確な単位が存在する。「個人」「パーティ」「ギルド」の三種類だ。
個人だと一人しか現実世界に生還できず、残りの全員を殺すことになる。パーティの上限は六人で、しかし抜けることが容易であるための裏切りなどを考慮すると、結局ギルドを作るしかなくなってくる。
ギルドなら、その点の心配はない。ギルドに入るときは簡単なのに、脱退する際には面倒くさい手続きを踏む必要があるのだ。
だから、こう考える。――ギルドを作ろう。俺がギルドマスターになって。
ログインして最初に出たところが、レイオリア宿場町の「ビギナーズ・フォレスト」側の入口だ。そこから一番近い建物のドアをノックした。要するにヘッドハンティングである。
まさか、全員が全員ゲーム攻略に出ているわけがない。中には、俺とは真逆で、「死にたくない」から比較的安全な街の中にとどまるプレイヤーも少なからずいるはずなのだ。
案の定薄っぺらいドアが空き、一五〇センチメートルくらいの身長の少女プレイヤーが顔を出した。
「…………」
あ、しまった。
肝心なことを失念していた。まさか俺が初対面の人に気さくに話しかけられるはずがないのである。そんなんで一体どうするつもりだったんだよ、と自分でも思うが、勢いに酔っていたのかもしれない。
怪訝そうな顔でこちらを見る彼女に、俺はとりあえず会釈を送った。すると向こうも会釈を送り返してきたので、一つ頷きを作ると、そのプレイヤーには背を向けた。
いやいや、無理だって。無理だけどまだ自殺は早いぞ早まるな俺の左腕。
思わず、首に伸びてしまった左腕を右手で全力で押さえつけた。
☆☆☆
あのあと二分間考えたところ、画期的なアイディアが思い浮かんだ。今はそれを実践するために、先と同じ家屋の戸を叩いたところだ。
はたして薄っぺらいドアは開き、さっきと同じ少女が顔を覗かせた。大きめの目と身長の低さも相まって、小動物にも見える。
相変わらず怪訝そうな顔に眉毛をキュッとしかめており、こちらに対する警戒は解いていないようだ。まあ、当たり前であるのだが。
糸と見間違うような細いサラサラの髪は両即頭部の高いところに結えられている。いわゆるツインテールというやつだ。明らかに部屋着であろうキャミソールに、下は初期装備の麻の短パン。黒目がちの大きな瞳は一見黒に見えるが、よく見ると濃紺であることがわかる。
なんの用だ、とその瞳に大きく書いてあったので、俺はあるものを見せた。
『お話があります』
メニュー画面にある項目のうちの一つ、フリーノートだ。文字や絵を手書きで書き込むことができ、スクリーンショットを貼ることもできる。ページ数は四〇〇だ。
このことやアイテムボックスのことは、以前聖夜が送りつけてきた「覚えとかないと絶対に困る用語集」の受け売りだ。「トレジャー・オンライン」にログインするに当たり、書いてあることは一言一句丸々暗記した。
ただ、一万文字に迫るようなメールを五件も六件も送ってくるのはどうなのだろうか。おかげで、全部覚えるのに三〇分もかかってしまった。
少女のプレイヤーは、可視状態にして他のプレイヤーにも見れる状態にしたフリーノートを読んで、虚空に何かを描き始めた。最後にチョン、と大きくハネてなにかを書くことをやめ、こちらに板のようなものを見せてくる。フリーノートだ。
『なぜに筆だんですか?』
えらい丸まった、可愛らしい文字だった。ちょうど妹と同じような文字だ。そういえば妹は無事だろうか、と思ったが、姉がどうにかするだろう。今は自分がなすべきことだ。
それにしても、筆だん……、筆談のことだろうか。
特に意味はないのだが。
彼女はどうやらこちらを見ており、俺が話しかけても無視されることはないだろう――、トラウマに固く縛られた制約に、いい加減嫌になった。
『別に何か意味があるわけじゃないんです』
フリーノートに、――消えろ、と念じて消す。
「ぁ、あの、筆談だったのは気にしないでください」
「あいあい、りょうかいでございますー」
少女特有の、ハイトーンボイス。すごくふわふわした声だ。意味を理解してしゃべっているのだろうか、その言葉はどことなく投げやりだ。
「えっと、俺、クロウって言います」
自己紹介は、初対面の相手にとって非常に有効だ。俺も新クラスになる度に三時間くらいイメージトレーニングをしていたのだ。その甲斐あって、自己紹介に文句のつけどころはないだろう。――今回が初の実践なのだが。
「ああうん、アサクラはアサクラって言います。よろしく?」
なんで半疑問形だ、と、そう思ったが、よく考えたら、いきなり押しかけてきた見知らぬ男とよろしくできるはずもない。
「それで、お話っていうのはなんだね?」
彼女――アサクラの口調は適当だった。思いついた言葉をそのまんま並べて言っているような印象を受ける。
「ああ、あの、俺のギルドに入りませんか?」
「うんうん、ギルドね、うん。おっけーおっけー」
本当にわかっているのか、なんども「おっけー」と呟き、一瞬なにか思案しているような視線を虚空に向けたので、ここぞとばかりにセールスポイントをアピールした。
「俺のギルドに入るのは、名前だけでいいんです。普段何をしていてくれても構いません。協力する必要もありません。本当にギルドメンバーになってくれればそれだけでいいんです」
確かに、アドバイザーや討伐系「伝説級宝」を集める上での戦力は欲しいところだ。だが、今はそれは置いておけばいい。とりあえずはメンバーだ。
「ねえ君、何か面白いことを隠してるでしょぉ? ねえ、まさに腹に一物あるってやつかい? お姉さんに話してご覧よ」
「いやどうみても俺のが年上だし!」
しまった丁寧語が行方不明になった……、と冷たい汗を背中に感じるこちらに対し、アサクラは目に歓喜の色を強めた。
「君、まさか――面白い人でございますね!」
「まさかで――」
始まってるのに最後断定かよ、言いそうになった言葉を飲み下す。というかもう、アサクラに敬語はいらないのではなかろうか。
「それで、一体アサクラには何を話してくれるのだねー? 話次第では、ちょお協力するよっ! デス・ゲームになってから二日間意味もなく宿屋に籠ったけど、もう飽きちゃった」
いい加減口調統一しろよ、と思うが口にも顔にも出さない。アサクラにいちいち突っ込んでいては話が進まないことはこのごく短時間でよく分かった。
「ささ、はやくはやく!」
これから話すことは馬鹿な話であり、人に話しかけることに微妙なコンプレックスを持つ俺には夢のまた夢の、さらにそのまた夢といったような話なのだが、それでも言う。
「このデス・ゲーム「トレジャー・オンライン」に囚われた百万人全員を俺のギルドメンバーにすることだ」
「ぷっ、うふ、あはははっ、あははははは、面白いね、まさか想像の遥か上をジェット機で突っ切っていくとは思いませんでしたっ!」
腹を抱えて笑い転げるアサクラに、どんな比喩だよ、というツッコミはこの際置いておいて。
「いいよ、協力する!」
全力のガッツポーズを天に突き上げる――。もちろん胸中で。
しかし、――けど、というアサクラの声にガッツポーズのまま固まる俺(の脳内イメージ)。
「そんなに面白そうな話、アサクラにも一枚噛ませてもらうからね。アサクラは全面的に君に協力しよう。除け者なんてゴメンだから。お姉さんは面白いことが大好きなのですよ」
これからよろしく、と突き出されてきた手を握り返し、唇を湿してから宣言した。
「よろしく、アサクラ」
「んぃんぃ、よろしくお願いするのです。――百万人友達にするのでございますよねー。頑張ってくれたまえ」
いや違ぇよ、と内心で思ったが、すぐにその通りだと思い直した。
要するに、俺はこれから約百万人の友達を作らないとならないわけだ。
「アサクラが一号でございますよー、友達の」
「ああ、そうだな」
そう言って彼女は、本当に無邪気な笑顔を見せた。チラッと八重歯が覗く、それはそれは可愛らしい笑顔だった。
というか一時半まで起きたこんなことやってんなら、もう寝て明日の朝やればよかったんじゃね? とか思った私にジャーマンスープレックス。