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友達はいないけどゾンビなら大勢いる  作者: たしぎ はく
Story_of_the_small_tragic_love_
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第五話:メイド喫茶

 普段は18時に予約投稿しています。で、今、当日17:23です。あっぶねーぎりぎり間に合った……

 優樹を探すといっても、この広大なヤマト・タタールの町の中から一人の人間を探すのは困難であると言えた。一体どこにいるのか。集合場所とか決めておけばよかった。


「虎姫、ユージュの場所が分かるか?」

「うん……なんと、なく」


 虎姫のナビに従って、町を東の方に飛ぶ。

 ヤマト・タタールはざっと四分されていて、北には海の王関連の施設、西と南には居住区や裁判所や議会など、思いつくほとんどの「町」の要素が詰め込まれている。で、優樹がいるらしい東はというと、飲食店や食物を販売する店や酒場、それから少ないながらも娯楽施設もあるらしい。

 それら四エリアは、ひときわ大きな水路によって区切られており、その水路が交差する中心に、壁と同じくらいの高さの巨塔を持つ城が建っているのだった。


「多分、あのお店……人が多すぎてわかりづらい」


 虎姫が指差す店の近くに降り、ドラキュラの憑依を解除。ついでに顕現させておく。二人より三人。目は多い方が良いだろう。憑依させておくより顕現させておく方がMPの消費も少ないし。


「喫茶しるふぇりあだってさ。シルフェリアって、海の王の名前だよ」

「海の王の名前を……こんな――」

「御主人。メイド喫茶って……なに?」


 こんな――メイド喫茶なんかに、この町のシンボルである海の王の名前を使っても構わないのだろうか……


          ☆☆☆


「お帰りなさいませ。ご主人様」


 メイド喫茶。第三次世界大戦がはじまる直前まで流行っていたとされる喫茶店であり、ようするに可愛いメイドさんが客のことを「ご主人様」として接客するお店のことである。なぜか大戦で焼け落ちず、まるまる残っていたメイド喫茶についての文献が二百年ほど前に出土して、空前のメイドブームを引き起こしたというが――さすがに二百年も経った今となってはその勢いも下火、最近はあまりお目にかかることのできないお店である。

 亜種としては執事喫茶とか、そういうものもあったそうだが――如何せんメイド喫茶自体が無くなろうとしているのである。そんなものはとうの昔に絶滅していた。


「メイドさんって、やっぱり王様としては憧れるなあ」


 空の王(ドラキュラ)が呟く。

 話に聞いていたよりも店内は普通のお店という感じだった。なんというかこう、「萌え」とかいうものが蔓延る場所かと思っていたのに、肩透かしを食らった感じだ。

 基本建材は岩であり、外から見てもそれは変わらないのだが、内装には良く磨かれた暗い色調の木が使われていて、大変落ち着いた雰囲気を醸し出している。床と壁の下半分、机と椅子、それから席同士の仕切りが木だ。

 天井には柔らかな暖色の光を放つ電球が取り付けられていて、壁の上半分である白い壁紙を照らしていた。部屋のところどころに置いてある観葉植物の植木鉢も良い味を出している。


「何名様ですか?」


 店の雰囲気に合わせて、過度の露出や装飾のないメイド服に身を包んだ金髪の店員が聞いてくる。


「あ、いや、ここに仲間が来てると思うんですけど……」

「合い席でございますね、少々お待ちください」

「あ、いや、違います、そいつを呼びに来ただけですので」

「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」

「ユージュです。えっと、髪の短い女です」


 少々お待ちくださいませ、と、そういって店内を探しに行くメイドさんを見送る。

 それにしても、金髪のメイドって良いよな。碧眼だし。やっぱりメイドはかくあるべし。日本人がメイド服着てもただのコスプレにしか見えない……

 せっかく日本に現存する老舗のメイド喫茶の近くまで行ったのに、結局中に入らなかった時の誰かの言葉である。いや俺だけど。あの空気は辛い。どうも日本のメイド喫茶は再現を誤った様にしか思えないのだ。一生懸命接客してくれるメイドを見ているといたたまれなくなってくる。なんというかこう、「萌え萌えきゅん」みたいな、そういうの。絶対二一世紀の文献読み解き間違えてるだろ。第三次世界大戦のころとかの日本人の嗜好・思考を思い出すが、やっぱりその当時、萌え萌えきゅんが流行っていたとは思えない。実際はこういった落ち着いた店の方が多かったんじゃないか? と、過去に思いを馳せていると。


「お待たせしました」

「シープラちゃんは見つからなかっただろう?」


 金髪のメイドに連れられてやってきたのは、つまらなさそうな顔をした優樹であった。いやまあ、ある種確信を持ってこの店に探しに来たのだから、当たり前だけど。


          ☆☆☆


 同じく店内。結局合い席して休憩をすることになった。

 特筆することも無い普通の名前のミディーを頼む。いやそもそも、そんな飲み物日本には存在しないのだけれども、なんというかそう、メイド喫茶にありがちな、オーダーするのが恥ずかしいような名前のアレ、ああいうの。ああいうのがついてない、という意味で普通の名前、だ。味はただのコーヒーらしいし。


「どうしてそんなことが言い切れるんだ?」


 対面に座った優樹に問うた。ちなみに彼女もミディーを口に運んでいる。喉が渇いたから、水分補給のためにメイド喫茶に入ったらしい。


「だってさ、あれだけ大量に街中を走りまわっていたシープラの妹たち、急に見なくなったでしょ?」

「言われてみれば確かに、そうかもしれないけど」

「ざっと百人じゃあ足りないはずだよ。それだけの人数を投入してまでも捜索していたわけだから、その捜索隊が引いたということは、シープラちゃんが見つかったことに他ならない」


 ああ、なるほど。


「あ……」

「ん、え、なんだ、どうした?」

「ああ、いやいや! ちょっとね!」


 そう言うと優樹は、取り繕うように笑顔を見せた。本当にどうしたのだろう。


「ユージュ、お前もしかして、体調悪い?」

「そ、そんなことないよ!?」

「いやほら、メイド喫茶だぞ? さっきまでのテンションの低さはちょっと大丈夫なのかな、って。かと思えば急にテンション上げるしさ」

「だ、大丈夫だって! 別に熱とかもないし、全然普通だってば!」


 本当にそうか?

 優樹の額に手を当てる。微妙に俺より高いような気もするけど、これくらいなら熱じゃない……よな。そもそもゲーム内に熱とかあるのかって話だが、出血表現まで再現されているのだから、体調不良が再現されていてもおかしくない。


「ん? やっぱり熱くないか? 大丈夫か?」

「あうあわああ」

「多分我が王が手を当ててるからだよー」

「わたしも熱があるかもしれない。御主人、測って」


 絶対仮病だけどやれば気が済むだろうし、虎姫の額にも手を当てる。


「虎姫の方が体温が高いな」

「やっぱり、熱、ある」

「人間と虎人だったら虎人の方が体温が高いんだと物知りなボクは進言しておくよ!」

「そうなのか。ありがとうドラキュラ。……まあ優樹も大丈夫そうではあるか。無理はするなよ」


 額から手を離すと、少し残念そうな吐息を漏らす優樹。ちなみに虎姫はぐいぐい手のひらに押し付けてくる。離そうと手を引くと、離した距離だけ張り付かんとついて来る。なんだこれ楽しい。


「それでだけど、シープラちゃんに会いたいんだよね? 家出少女が家の者に保護されたんだから、別に憂慮する必要はないよ。ちゃんと家に行けば会えるさ」

「家って――」

「そう、海神(わだつみ)のおわすところ。つまりは次代の海の王を育成する施設。そこを訪ねれば、シープラちゃんには簡単に会えると思うよ」


 ん?

 海神のいるところと海の王育成施設って同じ場所なのか?

 シープラがその施設所属であることは知っていたが、その話は初耳である。


「ああ、ミリアたんに聞いたんだ」

「お呼びでしょうかお嬢様」


 音も無く優樹の傍に現れ、お辞儀する金髪メイド。そうか、彼女はミリアというのか。


「ねえミリアたん。僕と一緒に行かないかい……?」

「はい、お嬢様……!」

「プロってすごい!」


 俺だったらこんな客が来るような店で絶対に働けないのに。


「ミディーでございます」


 優樹がミリアたんと呼ぶ金髪メイドが、先程まで手にしていなかったお盆からカップを三つ、テーブルの上に移動させる。中には濃紫の液体が注がれていた。一体どこから取り出したのだろう……?


「それじゃあこれ飲んだら、その施設とやらに行ってみようか」

「御主人、飲めない。冷まして。ふーふーして」

「こら虎姫! ちょっとクロウに甘え過ぎじゃないかい!? 何度でも言うけど、クロウは僕のものなんだよ!? それに正室も本妻も僕だ。所詮愛人の分際で図に乗るな!」

「側室でも愛人でも、御主人の寵愛を頂けるのならそれで幸せ……頂けなくて冷たくされても、それはそれで幸せ……」

「こういうのを依存って言うんだよねー。ボクは知っているよ我が王! あ、この飲み物苦いから苦手」


 一口飲んでドラキュラがそう言うので、ミルクとシロップを入れる様に指示しておいた。どうやらそちらはお気に召したようで、上機嫌にカップを傾けはじめる。


「施設の場所はわかってるのか?」

「抜かりないよ。何も遊んでいたわけじゃない。その辺も見越して聞き取り調査とかをしていたんだよ、僕は」

「さすが優樹だな。ありがとう」

「ん? 今なんて言った? もう一回言ってみてくれないかい?」

「さすが優樹。ありがとな」

「え? よく聞き取れなかったから、好きだよ、の下りからもう一度――」

「そんな下りは存在しませんでしたー!」


 でもまあ、好きだよ。そういう一生懸命になってるところとか。シープラを探すのは――言ってしまえば俺が「探したい」からなのに、それに口を合わせて同道してくれる優樹の一途さに胸を打たれたのだ。さすがは俺の惚れた女だ。可愛いだけじゃないんだぜ。そのプラス分を補って余りあるマイナス分については目を瞑る。恋は盲目っていう言葉を最大限解釈させてもらおう。もちろん口には出しません。恥ずかしいですはい。

 

「それでだけど、その施設ってのはどこにあるんだ? やっぱり北区か?」

「北区の――やや西区寄りだね。ここからだと町の反対側になる。歩くと結構かかるかも」

「まあその時はほら、飛べば――」


 多分数十分でたどり着けるはず。

 そう思ったのだが、優樹が発したのは否定の声だった。


「ああ、それはやめておいた方が良いよ。先程小耳に挟んだのだけれど、この町を狙っているテロリストの中に、有翼の者がいるらしいんだ。彼――ないしは彼女と間違われるのも面白くは無いだろう?」

「ユージュが反重力力場でも出せば……ああ、翼が無くとも『飛んでいる』だけで怪しまれるのか」

「お互い何事も無かったのがラッキーだったよね」


 確かにその通りである。

 次からは気を付けなければ。


 最後に、偶々近くを通るところだった金髪のメイドをもう一度拝んでおいてから――俺たちは、店を後にした。


          ☆☆☆


「シープラ? そのような名前の者は当施設にはおりませんが……」

「いない? いや、そんなはずは」

穢れ(シープラ)などという名前の者が、当施設の関係者にいる筈がありません」

「シープラなどと……ってのは、どういう意味だ? なんか悪い言葉なのか?」

「共通言語で穢れという意味です。神聖な海の王を祀る施設、及び、その後継を育てる場所である当修道院に、そのような名前の者の存在を許すはずがないのです。ゆえにシープラというものは当施設にはいません」


 優樹に案内してもらった海の王の後継を育てる施設――通称修道院。

 その入り口で、俺たちは問答を繰り広げていた。未だに建物内部にすら入れていない。


「もしかして海の王を育成する施設って他にもあるのかい? ここ以外に」


 優樹がそう聞くと。


「ありませんッ! あるわけがないでしょう!? 当修道院を馬鹿にするために来たのですか!?」


          ☆☆☆


「塩まで撒かなくても良いのにね」

「海の王の育成を担うという誇りを踏みにじられた……的な? 文化の違いだわー」

「文化の違いだねぇ……」


 結局俺たちは、修道院の建物の中には入ること無く追い出されてしまった。


「以上の情報を踏まえて……そうだな、シープラちゃんが偽名を名乗っていた可能性、かかっていた追手が実は修道院のものじゃなかった可能性が考えられる……のかな?」

「それだとシープラが偽名を名乗っていた意味が分からない」

「我が王我が王。さっきの人たち、なんだかきな臭いよ」


 ドラキュラが口を挟む。


「それはわかって――」

「違うんだ、我が王。さっきの人だけじゃなくて。さっき施設にいた人たち、皆」

「皆って……僕の目には、修道院の前には一人しかいなかったように映ったのだけれど」


 俺にも一人しかいなかったように思うのだが……


「八人いた。匂いと……衣擦れの、音で……把握」

「うん。ボクも気付いてるもんだとばっかり思っていたんだけど」


 ドラキュラはそこで一度言葉を切ると、施設の方に視線を送る。


「施設の前にいた人が一人、中で隠れていた人が七人――全部亜人かな?」


 こちらに視線を戻して、続けた言葉に――俺は、戦慄した。


「八人全員、武装してたよ。奥にいる七人は我が王たちに照準を合わせてた。前にいた一人も、待機状態の魔法を準備させていたし――いくらテロを警戒しているとはいえ、あの警戒はちょっと尋常じゃないと思うんだ。しすぎるに越したことはない? いいや、あれは、警戒しすぎとか、そんなレベルの話ではなかった。ボクはそう思う」




 第二部のクロウハーレム二人目のシープラちゃんは、いったい何者なのか。たぶん次話か次々話で明かされる……と、いいなあ……(遠い目


 ああ、そうだ、僕はメイド喫茶に行ってみたいなとは思います。一人で入るのは怖いけどね。別に作中でdisりたかったわけではないのです。

――次回――

「とりあえず……今日の宿を取ろうか」

―――(予告は変わる可能性アリ)―


では。

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