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友達はいないけどゾンビなら大勢いる  作者: たしぎ はく
Story_of_the_small_tragic_love_
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第四話:捜索

 どうして妹から逃げ回るのか――

 優樹のその問いに対し、シープラが口を開きかけた瞬間だった。


「こんなところにいたんですね」


 心臓が止まったかと思った。冷たく抑揚に欠ける声が、隠蔽の傘の外部から差し込まれたからだ。


「な、見えて――!?」

「さあ、観念してください、姉さん」


 傘の外にいたのは――シープラをそのまま一回りほど小さくしたような、修道服のような長衣に身を包んだ女の子だった。


          ☆☆☆


「この傘、認識阻害ですか? 今までで一番の出来ですね。私でも一瞬騙されましたよ。さすがに近づけば分かりましたがね」

「視認遮断・温度遮断・音波遮断・気配遮断・嗅覚遮断・光遮蔽・魔力遮断。どうして僕の傘に気付けたんだ!?」

「妹は――そういう異能者なのじゃ。絶対に探し物を見つける異能。儂もこの傘の構造はわかっておったが――いや、それゆえにこうして茶会に興じておったのじゃが――まさか、こうまでしても妹のスキルを遮断できんとはのう……」


 ホールドアップの状態で、シープラが言った。シープラの言う妹が、彼女の手を握る。


「これで逃がしませんよ、姉さん。一体何度目の家出ですか!」

「三回目だったかのう……?」

「十! 四! 回! 目です! その度にこうして探す羽目になる私のことを考えたことはありますか!?」


 そのまま激昂した彼女がシープラに怒鳴り付けるが、シープラはどこ吹く風で、彼女の頭を撫でるとしれっと言い放った。


「御苦労」

「えへへ……」

「クロウこの子どうしたら良い!? あざと可愛い、って、すごくストライク来たよ!」

「うん……まあ」


 こんなあっけなく懐柔されるのかよ、というかそれで納得するのか。

 言いたいことはあるけれど、姉妹がこれで良いのならわざわざ口を挟むのも憚られるし……


「よしっ」


 ん?

 何をするのかと思ってシープラを見ていると、彼女は妹の手を離し、一度微笑みかけて、そして――


「クロウ! 今のうちじゃ!」


 ――脱兎のごとく、駆けだした。

 いやいやいや。


「逃げるのかよ!?」


 結局!

 椅子を蹴立てて立ち上がり、慌ててシープラの後を追う。

 優樹も傘やティーセット全部を(めでたしめでたし)して走り出した。


「追ってきていない」

「了解、引き続き追手の動向を頼む、虎姫」


 虎姫なら匂いで相手の居場所を把握する事が出来る。

 彼女に任せておけば、二度と不用意に接近されることは無いだろう。


「シープラの……妹。みんな、同じ匂い。近づけば、すぐにわかる」

「それは頼もしいね」


 走りづらいドレスに加え、わざわざ靴までヒールのあるものを履いていたせいでうまく走れなかったか、シープラは靴を脱ぎ捨てドレスの裾を切り裂いた。優樹も同様のことをしていたが、虎姫は全部脱ぎ去っていた。着物であったがゆえに着脱が容易だったのだろう。

 隣で疾走する虎姫の胸が揺れます。


「ユージュ服! 虎姫に! 至急動きやすい服!」


 いくら壁の上で、他の目が無いとはいえ、よく全裸でいられるな……


「必要ない! 今はわたしより逃げる方が先!」

「そんな格好の虎姫を鎖で繋いで街中引きずり回してる俺の身にもなってくれませんかね!?」

「クロウ! グッジョブ! ナイス構図だね! 究極にエロいよ! 野外露出に首輪! クロウ、愛してる!」

「俺も愛してるけど!」


 こんなことで愛を確認し合えるカップルって他にいるの!?


「さあ……はぁはぁ……逃げる……早く……はぁはぁ」

「虎姫もこう言っていることだし、ほら、走るよクロウ! 服はあとでいくらでも出してあげるから!」

「アホか! 明らかに興奮して息荒げてるだろうが! これは別に走ってるから息が上がってるわけじゃないぞ!?」

「御主人……やっぱり、我慢できない……」


 ちょっと待て――!

 走りながら寄りかかってくる虎姫に押し倒されそうになる。

 先ほど服を破り捨てたわけだから、今彼女が身に着けているのは白い靴下と草履のようなものだけであり、つまり他の衣服は身に着けていないということであり――


「おぅわ!?」


 虎姫の胸がダイレクトに俺の体を押し、足がもつれ、後頭部から、走る勢いそのままに転んだ。

 硬い石にぶつけたことにより目の前に火花が散り、その一瞬のち、倒れ込んできた虎姫の胸に顔面を圧迫され窒息。天国と地獄を同時に見る羽目になった。

 おっぱいに押しつぶされるという稀有な状況はなかなか体験できるものではないが、それは酸素と引き換えにやるものではない。何とかもがいて、呼吸だけは確保する。深呼吸。甘酸っぱい匂い。虎姫の汗の匂いがツンと香る。


「御主人が……わたしの恥ずかしい匂いを嗅いでる……」

「ち、違ぇよ!? ただ単にこここここ呼吸しただけですよ!?」

「クーローウー?」

「違いますよ!? そういうアレじゃありませんよ!? 見てましたよね一連の流れ! 僕に非は無いと主張するのでありますユージュ様!」

「怒ってるんじゃない……僕も混ざりたい……それだけだ」


 変態しかいない!


「とにかく服を出してくれ!」


          ☆☆☆


 結果から話そうと思う。

 シープラとはぐれました。


「虎姫、場所が分かるか?」

「……ダメ。水路を通られると匂いが消える。時折出現する匂いもあるけど、シープ、ラ? の、妹である可能性が高い。足跡が多すぎる」

「えーっと、その、ごめん」


 優樹が謝ってくるも、別に怒っているわけではない。というか今は怒ってもどうにもならない。とにかくシープラを見つけることこそが先決だ。そのあとで怒る。結構叱る。虎姫も。いや、虎姫は叱れば叱るほど興奮するから滅茶苦茶甘やかす。まあ甘やかしても調子乗るけど……どうしたら虎姫は反省するんだろう……


「ユージュはフェアリーテイルで何か出せないのか? 隠蔽の傘みたいに、探し人を見つけられる魔法具」

「多分……やってできないことは無い、とは思うけれど。ちょっと今は無理かなぁ」

「あ? どうしてだ」

「え、っとね」


 普段の饒舌な優樹らしくない、ひどく詰まった言葉に疑問を覚えたが――


「そうだ、あのね、一日何回も使えないんだよ、フェアリーテイル」

「その割には結構無駄遣いしてたよな?」

「し、してないよ! 常に謙虚倹約を欠かさないよ!」


 つい先ほどの話、テーブルやチェアを出し直していたように思ったのだが。


「と、とにかく、女の子の秘密を詮索するのはいけないことだよ、クロウ? 僕の秘密の花園なら全部調べてくれても構わないけれど」

「そ、それはまたの機会に是非」


 まあ話す気はないということだろう。それならこれ以上、この場で詮索を続けることは無意味である。


「代わりと言ってはなんだけど提案だ、クロウ」


 そう言って優樹は、壁の下を指差した。


「飛んで上から探すというのはどうだろう」

「ドラキュラのこと忘れてた」


          ☆☆☆


「最近出てこなかったからってそれは酷いんじゃないかな我が王! ボクはシープラが苦手なんだよ!」


 さっそくドラキュラを憑依させよう――としたところで、勝手に実体化して出て来たドラキュラが(わめ)いた。彼の言い分ももっともだが、忘れていたのは事実なのだ。


「それとも我が王は、ボクが喚んでも出てこなかったから拗ねてるのかな?」

「そうですね」

「あれっ!? 我が王我が王! ボクに冷たくない!? やっぱりボクが男の子だからかな!?」

「そうですね」


 そんなことはどうでも良い――こちらは早くシープラを見つけなければならないのだ。


「まあ、いっか。それじゃあ憑くよー」


 二対四枚の羽が生える。同時に空への渇きが身体中を蹂躙し、目を瞑って耐えた。


「それじゃあ俺は空から探してみる」

「ユージュは……一人、別行動……」


 え、あ、そうか、鎖があるのか。得意げな顔で、優樹に対し鎖を持ち上げてみせた虎姫の言で思い出した。確かに、俺と虎姫は一緒に行動しなければならない。

 ちなみに虎姫は、いつかの黒タンクトップに迷彩カーゴパンツを着用している。Vネックから覗く肌色が目に眩しい。足元はゴツいコンバットブーツに包まれていた。似合うなあやっぱり。身長があるから。


「く……ぼ、僕もついて行くよ!? 僕だって飛べるんだから! 自力で!」

「わたしは飛べない……から。御主人、抱っこ」

「な、ひ、卑怯だぞ!」


 さすがに二人も抱きかかえながら飛ぶのは無理なんだが……

 だからといってこんな機会に優樹を抱っこできないのも勿体無い。いつだってお姫様抱っこをしてみたい願望は俺のうちで渦巻いている――

 という思考が一瞬で俺の中を通り抜けていったが、まずはそんなことより、


「シープラを見つける方が先だ!」


          ☆☆☆


 それから小一時間ほど、虎姫をお姫様抱っこした状態で空を飛び、ヤマト・タタールを捜索した。優樹には無理を言って違う場所を探してもらっている。もっと駄々をこねるかと思ったが、今が一大事であることを了解してくれたようだ。


「虎姫、匂いで追えるか?」

「多分……こっち?」


 上空から見下ろすと、ヤマト・タタールはほぼ正円の形をしている。直径は大体十キロくらいか。ほとんどの建物は一つの石を繰りぬいて作られており、背が高いものが多い。平均して四階建てか五階建てくらいか? 

 また、すべての建物に水路が引かれているため、ほとんどの建物には玄関代わりのプールのようなものが設置されているようだった。


「御主人。鼻が乾く……舐めて」

「湿度が低いのか? これだけ水浸しな町なのに、確かに乾いてるな」


 虎姫が言うように、この町は湿度が異常に低い。俺が肌で感じられるほどである。あと、鼻が乾くのは犬じゃあないのか? 虎も乾くのだろうか。


「鼻の中……乾いてる。御主人……に、舐めてもらう。恥ずかしい……けど、興奮、する」

「い、いや、そういう特殊なプレイは当店ではお断りさせていただいておりますというかなんというか」


 ドラキュラを憑依させている影響か、ごくわずかだが血を吸いたいという欲望というか衝動も湧きますのでね? 俺は人間をやめたくはないのだ。


 大気の情報は空の王と感覚をリンクさせている今の俺なら、手に取るようにわかる。だから、その気になればなぜここまで湿度が低いのかを調べることもできた。

 町の上空を縦横無尽に走る水路に吸い取られているからだ。魔力の流れのようなものがあり、空気中の水蒸気はすべて水路に吸い寄せられるように移動している。


「御主人、次の角、右に曲がって……水路に飛び込んだ痕跡。臭いが消えている」


 虎姫が指差す水路は途中ほとんど枝分かれせずに伸びているが、周りに他の水路が多すぎる。これでは、どの水路に道を変えたか判別することが不可能だ。道を変えていない可能性だって考慮しなければならない。

 ゆえに、虎姫の嗅覚はあくまでも補助であり――もっかのところは、目視による捜索のみを続けることになっているのだった。

 レーダー代わりの捜索係は虎姫、高速移動の足が俺である。飛んでいるから正確には足というか羽だが。


「シープラの影は無し……目視にて確認できず」

「くそ、どこ行きやがったんだ、まったく。広いから探すのが大変だぞ……」

「御主人、シープラが行きそうなところを考えて。十日ほど一緒に過ごして得た、彼女の思考パターンをトレース……わたしたちとはぐれた場合、どういう行動を取るかを……シュミレーション、して……」


 なんでもないことのように無茶振りしてきやがるな。不可能だから。そんなもん人工知能でもない限り。

 それでも一応考えてみる事には価値があるかもしれない。

 もし俺がシープラなら、この状況で、一体どうするか、だ。


「しばらくは俺たちとはぐれたことに気付かずに逃走を続けて、その後にそのことに気付く。その時点からは身を隠しながら移動速度を遅くし、俺たちが近くに来ることを待つ……とか? それでしばらくしたら諦めて、大人しく妹に捕まる。なんとなくそんな気がする……かな?」


 本当に適当に、思ったことを並べてみただけなんだけれど。何となくそんなイメージ、っていうのを。いや、でも、シープラを姉さんと呼ぶあの妹は探し物を必ず見つけられるわけだから……一か所に留まるのは余計に危険、か。まあなんにせよ、隠れていることは間違いないだろう。


「わたしは……御主人を全面的に支持する」

「それじゃあ、隠れられそうな場所に滞在し続けていることを前提として飛ぶから、虎姫は匂いで判断してくれ」

「了……解」


 取りあえずはその方向で探すことにする。アテも無く探しまわるよりは、勘とはいえ指標となるものがある方が良いだろう。

 路地はどれだけ細い所でも幅三メートルくらいあるし、ほとんど隠れられる場所は無い。屋根の上は確かに地上からだと死角だが、屋根の上を通る水路から見れば一発で場所が分かってしまう。

 だから空から飛んでいる時に見える場所には隠れていない、と、ほぼ断言できる。……ハズだ。


「御主人、止まって!」

「この建物か?」


 虎姫の制止の声に急制動、羽を一度、強く打ってその場にとどまる。悪魔の羽を小刻みに動かすことで可能とするホバリング運動だ。

 高度を落とし、建物に近づいていき――


「いない、な」

「数分前までいた。匂いが残って……いる」


 虎姫の視線は一際大きい水路に突き刺さっていた。つまり、また見失っていたのである。振出しに戻ったともいえる。


「追えそうか……?」

「多分、無理。完全に途切れて……近くで再出現した感じが、無い」


 こうなれば、一度優樹と合流した方が良いのかもしれない。

 ああ、そうだ、四月に入れば毎日投稿するみたいなことをいつかのあとがきで言った気がするんですけど、ちっともストック貯まらなかったので、四日一投稿のリズムを崩さないでいこうと思います。ゲームのシナリオやらなんやら、いろいろやりすぎたともいいますね、はい。自業自得です。

――次回――

「どうしてそんなことが言い切れるんだ?」

―――(予告は変わる可能性アリ)―


では。

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