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第一話:水着だ!

 すいません四日投稿とか言っていたのに、一日遅れました。一つ言えることは、体調管理に気を付けてください。季節の変わり目は本当にダメだ。

 というわけで新章です(*^^)v


 第二部はあと二章で終わり。のはず。

「この道を進むと、近くに湖がある」


 看板を読んだ虎姫がそう言った。

 統一言語が使われているはずのこのゲームの世界の中で、なぜだか読めない文字が出現したがゆえの虎姫だった。

 先ほど棒倒しで道を決めてから数時間。日はまだまだ高いけれど、野営の場所を探し始めた時間帯である。


「他には?」


 優樹が問うた。

 何も書いていない、と虎姫が頭を振る。その細くしなやかな首に取り付けられた無骨な鎖がじゃら、と音を立てた。その鎖の先は俺の左腕に繋げられている。


「見てきたよ」

「早いなおい」


 空から舞い降りて翼を畳みつつ、魔王ドラキュラがそう告げた。


「湖があるって虎姫が言ってから、まだ一分も経ってねえよ」

「いや、近くなんだよ、我が王。このままのペースで歩き続けても、あと数分で到着するレベル」


          ☆☆☆


 ドラキュラの言う通り、湖は、看板の所から歩いて七、八分といったところで見えてきた。道を形作るようにして並ぶ木々の切れ間から、空を反射して輝く湖沼が覗く。


「せっかくだから寄ろうか。いや、むしろ湖畔で今日は泊まらないかい?」

「そうだな。そうしよう」


 ドラキュラと虎姫は基本的に主導権を俺に放り投げているので、それぞれ頷いただけだ。

 同じ木々ばかりが並ぶ林に分け入って、湖の(ほとり)に出る。


「湖だ! 水着だ! えっと、水着だ!」

「煩悩にまみれる前にまずテントの設営が先だからな」


 火を起こす必要はない。専用の道具があるし、薪の代わりになる魔法アイテムも虎の集落でもらった。だからあとはテントを立てるだけ――と、言っても、


「フェアリーテイル! テント!」


 優樹に魔法で出してもらうだけなのだが。

 中型のピンク色をしたテントが一つ、湖畔に現れる。


「ドラキュラは眠るときは霊魂状態だろう?」

「うん、まあそうだね。虎姫がいるから見張りもいらないだろうし」

「というわけでテントは一つでいいと思いました。僕とクロウの愛の巣というわけだね今日こそは僕の初めてを」

「御主人。わたしも」


 さすがに初めてが野外というのも――みたいなありきたりな誤魔化しをしてみよう。彼女たちはおそらく、口を揃えてむしろ興奮すると返してくるだろう。だとすると俺はどうやって返答するのが正しいのだろうか? むしろやっちゃえばいいという意見は今のところ保留で。


「それじゃあボクはもう寝ようっかなー」


 ドラキュラがさっさと逃亡する。あいつ逃げやがった。おのれ許さぬ。


「というわけでクロウ! 協議の末、僕と虎姫でサンドイ――」

「湖だ! 海でも夏でもないけど! とりあえず水着だ! 泳ぐぞー!」


 つまりあれだ。――三六計、逃げるに如かず。


          ☆☆☆


 というわけで水着である。

 優樹のフェアリーテイルで作ってもらったものだ。ブーメランやらふんどしやらTバックやらを手渡してきたのはいったいどういう意図なんですかね。

 ともあれ優樹にちゃんとした普通の水着を出させるのにざっと半時間を要し、太陽ももう二時間程度で沈むような場所にまで来てしまっている。泳ぐならさっさと泳ぎたいものだ。が。


「入れない……ね」


 胸元に「ゆうき」と書かれた名札を付けるスクール水着――それも旧型――の優樹が言った。


「御主人。わたしはもともと、泳ぐのは苦手。お風呂に入るとき以外は極力水に触らない」


 最初はそう言っていた虎姫だが、今は恐らく優樹が無理やり着せたのであろうと思われる紫のスリングショットに身を包んでいる。いや、包んでいるという表現は適切ではないな。局部のみをスリングショットの布、いや、紐? が、わずかに隠しているとか、そんなレベルだ。こんなもん裸と変わらんだろ。

 とにかく彼女に泳ぐ気は無いようで、これまた優樹が湖畔に設置したビーチセットのパラソルの陰にいる。俺とは一五メートルしか離れられないので、パラソルは水面ギリギリに影を落としていた。


「泳ぐには専用のスキルが必要、なのか」


 湖に足を踏み入れようとすると湖面で不可視の何か硬いものに当たり、それ以上進めなくなるのと同時に目の前にウインドウがポップアップするのだ。そこに「泳ぐためには、泳ぐことを可能にするためのスキルが必要です」と書かれている。

 水着に着替えて準備万端、完璧に泳ぐ気満々だった俺たちは、途方に暮れて顔を合わせた。


「さすがの僕でも、スキルどうこうは難しいかな。フェアリーテイルはもともとは可能だったみたいだけれど、今僕が使えるのは限定的な能力だけだから。好きなものを好きなだけ生み出す能力以外は僕――現状の僕では扱えない。あ、あとヒール」

「お風呂なら入れるのに。残念」

「確かに、風呂なら入れるよな。この湖、沸かすか」

「クロウが珍しく物騒なことを言い始めた!?」


 だってせっかく泳ぐつもりだったのに。

 泳ぐといってもまあ、優樹の水着姿を堪能できれば泳ぐことそれ自体は二の次だが、まったく泳がないというのもそれはそれで寂しいのだ。ちなみに虎姫の水着は直視できない。どこみてもギリギリアウトではみ出してるんだもの。紫という濃い色のおかげであまり目立たないが、胸の先端あたり、結構はみ出てる。布――いや、最早紐の細さは一センチくらいだ。桃色、あ、やっぱり発言を差し控えます。


「僕の水着はどうだい、クロウ。さっきから虎姫の方ばかり見ているけれど」

「み、見てないですけど!」


 ガン見していたのがバレているようだ。ちなみにそう言う優樹も虎姫の胸をガン見している。この娘本当に性に対して奔放だよなあ。なんで俺は彼女と一つにならないんだろうという気がしてくるが、でもやっぱり、そういうのはまだ早いというかなんというか。貞操観念は大事。おそらくいつも一緒にいた優樹がこんなのだから、俺の貞操観念がここまで頑なに育ってしまったのだと思われる。なかなか捨てられそうにない。この貞操観念がここまで厄介じゃなければ、今頃俺は優樹と虎姫という二人の嫁を好きにできたというのに……

 ん? 嫁なら問題ないんじゃない?


「嫁なら問題ないんじゃない!?」

「え? あ、え、な、何がだい? 急に突拍子の無いことを言うのはやめてくれたまえ」

「嫁なら問題ない! はず!」

「まあ、良いか。クロウ? クロウってーばー」


 優樹に体を揺すられて正気に戻った。思考のスパイラルに呑み込まれてしまっていたようだ。具体的には子供の名前考えるところまで行き着いた。ちなみに優樹との間の子が男の子で、虎姫との間の子は女の子、それも虎耳付きだった。おっと名前考えるより先に進んでいたようだぜ。


「なんだ?」


 返事を返すと優樹は、フェアリーテイル! と唱え、何語かを続けた後、手に一本の瓶を取り出して見せた。ポーションの瓶とよく似ていて、液体の中身は乳白色。


「せっかくだから日焼け止めだけでも塗ってくれないかな? 気分だけでも泳いだ気になりたい」

「別にゲームの中だから日焼けも何も、え!? 脱ぐの!? ここで!?」


 スクール水着なんか着てるから。

 誰もいないとはいえ湖の畔、つまり野外で裸な羽目になるわけで。


「でもほら、腕や足なら自分で塗る事が出来るだろう? でも、背中は脱がないと塗れないし」

「水着着てるんなら脱がなくてもいいんじゃないですかね!」


 そう言っているうちにも優樹は肩紐に手をかけてしまう。


「こ、こっちを見ないでくれ」


 いつもならむしろ見せつけてくるくせに、だからそれ以上に、優樹のその物言いは珍しく――つまり何が言いたいのかというと、非常にドキドキしました。

 こちらに背中を向けて水着を脱ぎ始めた優樹から視線を逸らす。向こうに恥じらいがあると、こうも気になるものだったのか、視線が優樹の肌に絡みつき、剥がすのに一苦労だ。「剥がす」といえば、ちょうど殻を「剥いた」卵と同じような、きめ細やかでつるつるの柔肌である。一苦労とか思った割には結構がっつり見てるな俺。

 しばらく優樹に背中を向けたままで過ごす。背後からは、水に濡れていないスクール水着だからこそする衣擦れの音が聞こえて、見えないがゆえにその音が余計な妄想を掻きたてた。

 布が地面に置かれるぱさ、という音。


「さあ、塗ってくれ」


 振り向くと、フェアリーテイルで出したレジャーシートの上にうつ伏せになっている優樹が目に入った。目に入った、は、良いのだが。何故か全裸である。普通はビキニとかだと上だけ外すもの――ああ、そうか、スクール水着だからか。思考が空回りしている。

 手に持っていた瓶の蓋を回して開け、手にその中身を広げる。


「ひゃんっ! ……つ、冷たいよ、クロウ。手でちょっと温めてからだね」

「あ、ああ、悪い」


 生唾を飲み込む。

 全裸の女の子が目の前に横たわっている。しかし大事なのはそこではない。全裸の女の子が目の前に横たわり、「恥ずかしそうにしている」ことこそが重要なのである。普段羞恥心の欠片も無い優樹が見せるそれに完全に射抜かれた。これがギャップ萌えという奴か……!


 戦慄を覚えながらも瓶をシートの上に置き、手のひらに出しておいたオイルを塗り広げると、体温で温める。こんなもんかな、と適当なところで判断して、優樹の体に手を這わせた。最初は肩の辺りから。


「ん……」

「まだ冷たかったか?」

「うん、あ、いや、大丈夫」


 肩甲骨、腰、と段々手は下がっていき、尾骶骨の少し上くらいまで塗った後、聞く。


「これだけで十分……だよな?」

「お尻は塗ってくれないのかい? 塗る以上必要だから……手が当たっても別に、気にしない、よ?」

「どどどどこにですか!」


 狼狽える。

 普段なら「はいはい」とか言って適当かつスマートにスルーするのだが、今日に限りそれが出来ない。普段もできているかどうかは怪しいが、まあとにかく、今日今この瞬間に限り、俺は、優樹の申し出を非常に魅力的に感じているのであった。


「御主人。それ以上は自分で塗れる。次はわたしに塗って」

「ひ、卑怯だぞ虎姫! 今は僕のターンだ! 邪魔するのはナシだとさっき……」

「御主人。早く」

「あ、ああ」


 優樹の隣に寝転がった虎姫にも、新しく瓶から出した日焼け止めを塗る。尻――のちょっと上あたりに置いてあった手を離したとき、切なげな――いや、残念そうな、か――声を漏らした優樹は、そそくさと水着を着始めていた。本当に今日はどうしたのだろう。普段の優樹ならなんだかんだ言ってずっと全裸でいそうなのに。惚れ直すじゃないか。


「御主人。わたしも、好きに……して」


 頬は朱に染まり、こんどこそ脱ぐ必要が無いであろうスリングショットの肩紐を外した虎姫のおっぱいがレジャーシートとの間に挟まれ押し潰されている。潰れて形を変え、体の脇からはみ出るそれは、非常に淫靡で背徳的だ。先ほどの優樹にはなかったエロさがある。つい肩甲骨の辺りで手が滑って触ってしまうかもしれない。というか、その気がなくても脇の辺りを塗れば手に当たるのだが。


「御主人、そこ、や……ぁ」

「なるほどクロウは脇フェチ、と」

「脇……は、塗らなくても良い。でも、辱められてるみたいで好き。続けて」

「必要無いなら塗らなくて良いだろう!? さっさと塗ってやってくれ、クロウ」


 虎姫はデカい。今度は身長の話だ。また、自警団の団長という地位にいたために、その肌の下には強靭な筋肉が隠れているのが触ればわかる。腰回りなんて下手すれば優樹と同じくらい細いのに、肉は薄く、しなやかな筋肉が線を浮かばせない程度についているようだ。また対照的にその尻は見事で、小振りながらもハリと照りが……って俺は尻ソムリエか。おっぱい県民だと思っていたのにおかしいな。


「これで良し、と」

「よし、それじゃあ僕もクロウに塗ってあげるよ」

「え、いや」


 別にいいんだけど……


「日焼けとか気にしないし」


 そもそもゲームの中だから、日焼けとかないだろうし。


「ダメだよダメダメ。せっかくだから、気分だけでも味合わないと」

「まあ確かに、それもそう、なのか?」

「御主人。わたしも塗る。横になって」


 わかった、と返事をし、シートに横になる。

 すると肩甲骨の辺りに直接オイルを垂らされ、小さく悲鳴を上げてしまった。


「ふふ、女の子みたいな悲鳴だったね」

「御主人。濡れ」

「濡れってなんだ、萌えみたいに使――うん!?」


 言葉尻が変になってしまったのは、優樹が俺の背中に腰掛けたからである。


「待てせめて胸で塗るとかだったら許容できる――いや、まあ百歩譲ったら許容できないことも無いことは無いけど、お前それは」

「さ、虎姫も」


 優樹は俺の頭がある方に背中を向けて座っている。そして虎姫は俺の腰あたりに、ちょうど優樹と向かい合うように座った。ちょっと待て虎姫、お前はオイルとか塗る気ないだろ、せめて優樹みたいにオイルを垂らしてからだな……


「大丈夫。蜜を塗る。すぐに出てくる」

「くそ! その手があったか! この僕がエロさにおいて他の娘に負けるなんて……!」


 だーれかー! たーすけてー!

 俺の叫びは空しく空に溶けて消えた。

 今回は章的に言うとライ~トでところどころエロくてラブコメチックなお話をお送りするつもりです。


――次回――

「こ、この湖、さ、酸……だ。それもとびっきり強い奴」

―――(予告は変わる可能性アリ)―


 あれ? ラブコメチックな話は?


では。

誤字脱字、変な言い回しの指摘、感想、評価、レビューお待ちしております。

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