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第七話:上級職の実力

 今日から!

 テスト期間だ!

 いや、11/29からテスト一週間前ですな、ってことなんで、この話が投稿されている時は……宿題テスト? とか、なんかそんなことをしているような。


 二週間も書けないとか……死ぬわ!←


 というわけで最新話です。

「さて、そんな冗談はひとまず端においておこう」

「そうだな」


 優樹と二人、湯船に湯が張られていくのを眺めるでもなく見つめるでもなく、ただ何となく視界に入れている――そんな状態。


「クロウが先に湯を使うといいよ」

「あー、うん。了解」


 お言葉に甘えさせてもらう。


「まあ、張り切るのにはまだ時間がかかるだろうし、他の部屋も見ようぜ」


 そう言って風呂場から出る。

 鳥瞰して下を玄関とすると、畳の部屋があって、右側が温泉。上に窓と、板張りの簡易キッチン。左には押入れがあり、布団が二組入っている。


「他の部屋ってか、一部屋しかなかったな」

「その……聞きたいことがあるんだ」


 優樹が、改まった様子で言う。

 いつもよりも真剣な面持ちで、つられて俺も頬を引き締めて、神妙に頷いた。


「大事な話がある。この――ゲームについて、だ」

「ああ」


 つい数秒前までとは打って変わって、急にシリアスな空気を醸し出し始めた優樹。真面目な話、だろう。ということは、俺は彼女の言うことを真剣に聞かなければならない。

 俺には優樹が考えていることは手に取るようにわかるし、目隠しをしたようにわからない。

 特に真面目な話の時は、本当に何を考えているかわからないのである。俺より遥かに高次なところでものを考えているわけだから、あまり思慮深いとは言えない俺が彼女の思考についていけるはずがないのだ。


「一つ、この宿に入ってから気付いたことで――これから僕たちの今後を左右する、非常に重大な案件だ」

「……なんだ?」


 眉を少し寄せて、目に宿る光は真剣そのもの。

 この宿について気付いたこと――罠とか、盗聴されやすいとか、モンスターが出現するとか、宿認定されていないから実は室内でもプレイヤーキルが可能とか、そんなことだろうか?

 可能性としてはどれもあり得るのだろう。

 このゲームはデスゲーム、ゲームオーバーすなわち死なのだ。むしろ今まで不用心すぎたくらいで、下手をすればこの時点で――俺や優樹の事ではないとしても――死人が出ていたかもしれないくらいである。……死人? いや、まあいい。

 優樹が何か考え付いたというのなら、俺はただ、黙して彼女の言葉を待つしかない。


「その――だね、クロウ」

「ああ」


 相槌。

 何かを警戒するかのように部屋に視線を這わせてから、優樹は俺の目を真っ直ぐに見据えた。一瞬たじろいで、同様に目を見つめ返した。

 そして優樹は、シリアスそのもの、といった顔、声音で、こう言ったのである。


「このゲーム――性交渉は、出来るのだろうか」

「……え、性交渉?」

「分かりやすく言うと交合、とか」

「より分かりにくくなったな……じゃなくて! なくて!」


 今まで――優樹と出会った三歳から(、、、、)の記憶を全部引っ繰り返しても、過去これほどまでに真剣な表情であった優樹を見たことが無いのに。

 それが。

 あろうことか。


「その表情で聞くことがそれって」


 お互い、かなりの真顔であった。


「でも――それでも。性行為が出来るかどうかは大事なことだろう!」

「だから逆だっての迫る方が! 迫る方の性別が!」

「いいや、これは大事なことだよクロウ。なにせこれはゲームだから――生で」

「落ち着こう! 一回落ち着こう!」


 一本指を立てて、先生が生徒に指導するかのように大層危険なワードを口走ろうとした――というか口走った優樹の言葉を遮る。

 生で――えーっと、生で……「生電話しても結局はゲームの中なのだから、そもそもがヴァーチャルであって、それなのに『生』電話というのはおかしな話だね――」そう、これだ。きっとこう言おうとしたのに違いない。異論は認めない。


「そうこうしているうちにお風呂が沸いたようだね」


 優樹が、何事も無かったかのようにそう言った。


          ☆☆☆


「そうですね、試運転というかなんというか、そこのデオキシリボ核酸が使えるかどうかを確認するために、肩慣らしにフィールドにでも出るのです」

「その前に互いの職業についての説明をだな」

「うるさいDNA」

「お前もDNAで構成されてるだろうが……」


 優樹と交代で風呂に入り(俺の番の時に優樹が侵入しようとしたが、俺はそのことを見越していたので、脱衣所には当然鍵をかけておいた)、それから服を着なおしてから、少し。

 日は沈みかけ――夕焼け、夕方、つまりはもうすぐ夜、そんなタイミングで俺たちの部屋に訪れたアスファノンは、そう言った。

 曰く――適当なモンスターを探して、実力を見せろ、とか、つまりそう言うことらしい。


「まあ別に良いけどな……」


 湯冷めするわけでもないし、と、ウインドウを操作するだけで簡単に自動着脱できる服を見て思う。

 俺は初期装備のまま、長袖長ズボン。靴は無し――よく考えれば裸足で雪が積もった道を歩いていたことになる。始まりの間からここまで。その状態で、錆びた槍を紐で固定し背負う。

 優樹は初期装備の上に、始まりの間のお爺さんがくれたローブを羽織っていた。普段常に和装であるところの彼女の洋装――というには少しファンタジーチックではあるものの――は、ショートカットの髪も相まって非常に可愛らしかった。それこそ人形みたいな、である。日本人形と海外の人形ブランドが提携して生産している東洋人形とよく似ている。

 ミルク色の頬にわずかに差した赤色が、その可愛らしさを助長していた。可憐な唇も、大きな目も――まな板……おっと胸も、それから彼女の普段の姿勢の良さもあって――それこそ本当に、黙って座していればビスクドールのようにしか見えないだろう。ビスクドールの実物なんて見たことないけど。


「それで?」

「黙ってついてくれば良いのです……ってまあ、もう着いたのですけれどね」


 アスファノンの後ろをついて歩いていくと、温泉街の外にやって来た。

 始まりの間があった方とは、町を挟んでちょうど反対側だ。


「ここに何体かモンスターが出てくるですから、適当に狩ってくださいです。実力はこっちが勝手にはかるのです――えっと、ミジンコ、お前だけで良いのです」

「ユージュはやらなくて良いのか?」


 不思議に思い、聞き返すと。


「当たり前です、実力チェックにかこつけたお前への嫌がらせなのですから、お前以外が参加してどうするのです」

「聞かなきゃよかったモチベーション下がるなあ……」


 どうもウマが合わない。

 なんだかなあ……


 と。


「ちょうどモンスターが現れたのです。おらっ、行け、です」


 口調のかわいらしさは差っ引いて、残る乱暴さのままに、俺は蹴り飛ばされた。思いのほか飛ばされ、着地――というか軟着陸を決めたのは敵モンスターの……敵モンスターの群れのど真ん中であり。


「か、かもられた!」


 噛んだ! 囲まれた!


          ☆☆☆


 薄赤い肌の色をしたモンスターの群れ、数えて一六体。


====

ハッコ・ゴブリン

HP210 MP22222222 At280 De322 Sp321

====


 モンスターの名前とステータスが表示される。

 「ハッコ」というのは、共通言語――つまりはこのゲーム内でのみつかわれる言葉で、意味は「目」。目が八個あるモンスターなのだから、なるほど確かに、名前に目を関するのも頷ける。ただ、恐ろしいことに、共通言語で「目」が使われているということは、世界の言語には、目という概念を表す言葉が無いものがあるということなのだ。


「いや、クロウ。人体の手、とか、足、とか、それこそ目とか鼻とか、人体じゃなくても数字とかは、ところどころで共通言語が使われているんだよ。ファンタジー性がどうたらとか、そんな話だけれど」


 ハッコ・ゴブリンが厄介なのは、HPが残り半分を切ると敵に張り付いて自爆魔法を放ってくる点にあるが――それにさえ気を付けておけば、あとは目を瞑っていても勝てる、らしい。


「ふふ、そこのミドリムシ。アイズはモンスターのステータスを見る事が出来るのです! 教えてやらんことも無いですよ!」


 勝ち誇ったように、満面の笑みで言うアスファノン。

 って、あれ?


「俺もモンスターのステータス見えるぞ? これってみんな見えてるわけじゃないのか?」


          ☆☆☆


 ――――――システム、オールグリーン。問題ありません。 


          ☆☆☆


「や、まあ別にいいか。おい、アスファノン。そんなもんなくてもこの程度のモンスターなら余裕だっての」


 何せ俺にはこの槍があるし――と、背中の槍を構え、て……。おかしい。この槍は錆びているだけでまるで使い物にならないはずだ。一番雑魚のモンスター、ゴブリンでさえロクに倒す事が出来なかったのだ。ゴブリンの上位互換モンスターであるところのハッコ・ゴブリン、こいつらに有効であるとは考えられない。

 どうして俺がこの槍を、まるで長年愛用してきた愛槍を習慣的に抜くかのように構えたのかはわからない――


 せっかく構えた手前格好がつかないが、槍を一回転させて、じりじりと俺との距離を詰めて来ていた赤ゴブリン(ハッコ・ゴブリン)を弾き、牽制とする。当然ノーダメージ。

 槍が駄目でも、俺の職業はそもそも上級職。初級職のプレイヤーがレベルを上げるためだけに来るようなエリアで出てくるモンスターに苦戦するはずがないし、するわけにもいかない。

 槍を背負い直し、自分が使えるスキルの表を脳裏に浮かべる――浮かべようとしたところで、目の前に仕えるスキルの一覧がかかれた窓がポップアップした。

 とりあえず説明を呼んでいる暇はないので、一見して効果のわかりやすそうなものを選び、詠唱を開始する。憑依スキル系能力(アビリティ)――自分憑き。

 ゾンビの霊魂を己の肉体に憑依させて攻撃力や防御力を上げたり、モンスターのスキルや特性を引き継いだりする事が出来るスキルだ。


 ゴブリンの霊魂をあるだけ全部――約二〇体分、全部集中させて右腕に憑依させる。消費MPは少し無視できない量減ったが、それでもあと三割は残っている。

 詠唱が完了し、右腕を光が包む。

 あまりの眩しさに目が眩み、一度まばたきをするうちにはその光も集束して消えた。光が消えた右腕、そこには、ゴブリンの腕があった。自分憑き・怪物の手(モンスターハンド)だ。肘から下、その全てが緑に変色し、左手と比べ五倍は太くなり、爪は鋭く尖る。

 その見た目通りの体積があれば、普通は左右でバランスが取れなくなってしまい非常に動きづらくなるのだが、元はと言えば霊魂――質量が無いのだから、そこは憑依して物質化したとしても、重さは変わらないのだった。本来の右腕の重さ、そのまま。


 再度俺を囲み円陣を作ったハッコ・ゴブリン――八つ目がじわじわとその包囲網を狭めてくる。どうやら、それが彼らの攻撃ルーチンらしかった。相手を囲み、全方位からの攻撃を浴びせる。初心者にとってこれほどまでに非良心的なモンスターもいないだろう。

 俺もその初心者である――が。

 その前に、何とも運の良いことに上級職であり、そしてそれよりもまず大前提として。


「頑張れ、クロウ!」


 優樹に応援されているのである。

 これで負けられるわけが無かった。


 彼女のその言葉が合図となったわけではないだろうが、タイミング的にはちょうどその瞬間、八つ目達は一斉に飛びかかってきた。

 それを俺は目で捕らえつつ、地を蹴って上空に体を逃がした。


 ゲーム補正――上級職のためかなり高めに設定されているパラメータに任せた、でたらめなジャンプ。せいぜい三メートル程度とはいえ、膝を曲げるという前動作なしでそこまで飛んだのだから――というかまず、膝を曲げて力を溜めても、垂直跳び三メートルは無理なのか。

 八つ目は俺を目掛けて飛んで来たわけだから、その場で俺がいなくなれば、丁度ハッコ・ゴブリン達が、縦――そう、真上から見た時に、重なる地点、瞬間が生まれるのだ。

 そこを叩く。自由落下の速度にプラスして、大きく後ろに引き絞った右腕を、叩き付けるようにして、押し込んで殴る。

 一撃。

 一撃ですべてのハッコ・ゴブリンをとらえ、倒した。

 一六体分の経験値が入り、スキルレベルが上昇する。このゲームにおいては、プレイヤー自体にはレベルという概念が存在しないので、得た経験値はスキルレベルの上昇に使われるのだった。


「余裕だっただろ、アスファノン」

「これは……想定外です」

「何が。え、ちょ、まさか俺を亡き者にしようとしてた?」


 怖いんだけど。

 絶対にそうではない――そんな言葉は、彼女の前では、トイレットペーパーの芯程度の意味も持たない、なさない。彼女に暗殺されても、なんとなく納得できる自身すらあった。ああ、やっぱり、みたいな。


「本来始まりの間から温泉街に来たプレイヤーは、東ではなく西――「静かなる雪原」の方に行ってレベルを上げてから、ここ「雪の獣道」に来るのです。そうですね、大体、初級職でスキルレベルの平均が五〇を超えたあたりのプレイヤーが適正です」


 平均。

 先ほどレベルが上がった分を差し引いて、ここの到着した地点でのレベルで計算すると、約四レベル。


「低っ! 適正レベルから遥かに低っ!」


 通りでレベルが上がるわけだ。

 さっきの一戦だけで憑依スキルがレベル一からレベル十まで上がっている。使えるスキルも二つ増えた。「自分憑き・怪物の足(モンスターフット)」と「武器憑き」だ。

 足にモンスターを憑依させたり、武器にモンスターを憑依させたりする事が出来る。


「ま、まあ、結果として私基準で合格にしてやるのです」

「結果として、とか、なんとか行き当たりばったりに言っているようにしか聞こえねえよ」


 この人本当怖い。


「これを飲むと良いのです」

「あ? え? 何これ」

「ダメージは受けてないです? ポーションなのです」

「お、さ、サンキュ?」


 アスファノンが……優しい、だと?

 その疑惑から、語尾にクエスチョンマークがついてしまった。

 しかしせっかくの施しなので、ありがたくいただくことにする。


「はい、なのです」


 紫色をした(・・・・・)液体が並々入った瓶を受け取り、そのふたを開ける。

 どこか毒々しい色合い――毒々しい?


「おいアスファ――」

「早く飲みやがれ、なのです」


 瓶に口をつけ、飲むふりをした。

 実際には液体を舐めてすらいない。

 案の定アスファノンは――言った。


「どうですか、ダメージポーションの味は!」


 やっぱりな。飲んでねえよ。

 そう言ってネタばらしをしてやると、アスファノンは地団太を踏んで悔しがった。ちょっと胸がすいた。

 

          ☆☆☆


「さ、それじゃあ、今から洞窟に行こう、なのです」


 アスファノンは、コンビニ行こう――ゲームだから、えっと、道具屋行こう、みたいな気軽さでそう言った。


「え、今日はもう帰らないのかい? 夜だよ。暗いよ?」

「む、何か文句があるのか、なのです。暗いのがどうしたのですか」


 優樹が言った言葉に、アスファノンが喰いついた。


「いやあ、その、クロウと一緒に寝ようと思っていたものだから、すっかりそのつもりでコンディションを整えていたのに、この体の疼きはどうしたものかなあ、ってさ」


 優樹がおどけた様に言った――が、この言葉が本心から来ているだろうことを見抜く事が出来たのはきっと俺だけだろう。この場において。


「ね、寝る!? ふ、不潔なのです!」

「何を言うのか、アスファノン。君だって母親から産まれてきたのだろう。ということはつまり、母と父の間でそのような行為が為されたということなのさ」

「アイズは聞いちゃだめなのです! 教育に悪いのです!」


 そういってアスファノンはアイズの耳を塞いだが――それはもう遅い、と言わざるを得なかった。

 基本的には表情に乏しく、いつ見ても――というほど長い付き合いがあるわけではないが、少なくとも俺と出会ってからは――さして表情を変えないの彼女が、珍しく赤面していたのだから。無表情であることには変わりはなかったのだが。



 

 はい、そういうわけで、徐々にこの章の着地点が見えてきた。

 洞窟行きますね、この章はそれで終わりです。次はもうちょっと冒険して、日本領目指す――とか?


 まだまだ未定ですけど。


 では、たしぎでした。


――次回予告兼チラ見せ――

「アイズの職業は」

―――(ただし予告は変わる恐れがあります)―



では次回。


誤字脱字、変な言い回しの指摘、感想、評価、レビューお待ちしております――――


評価、感想、レビューなどして下さったら、いつもの八倍泣いて喜びます←ここ大事

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