第五話:防具屋
五話です。最近一一時ですごく眠いです。
あとテスト期間がやってくる。期末怖い。今日が11/25だから、あと四日でテスト一週間前だ。やだよー!
あれ。これ投稿されてるときってもう期末終わってるじゃん。ひゃっはー(棒
というわけで最新話です。
「防具屋なのです」
アスファノンが言った。
「食料消費機械、お前は初期装備のままですから、ここで装備をそろえると良いのです」
「食料消費機械って……」
酷い呼称もあったものだ。
「いやそもそも、俺、金なんて持ってねえぞ?」
「何を言っているのですかこの家畜は」
「いや……その……なんかすいません」
俺多分、アスファノン苦手だと思う。
「最初に支給されるお金があるはずなのです。それで少しはマシなものを買いそろえると良いのです」
メニューウインドウを開き、中身を確認してみると、表示されたのは七四万ルード……えっと、ルードってのは金の単位だろうか。
七四万八二三七ルード。半端な数も良いところである。
「なんでこんなに微妙な数字なんだ? 端数とかあるし」
「大雑把な範囲しか決められてねーから、プレイヤーによって数値が微動するのです」
「はあん……。ところでユージュは何ルードだった?」
七四万ルードというのがどれくらいの額なのかが分からない。盾にも使える鍋蓋とかが一つで六〇万ルードくらいするのだろうか。
「僕は一万ルードだ」
「一万?」
やけに少なくないか?
俺がそう言うと、
「初期に選んだ職業によって支給されるお金は変動するらしいね。君は上級職に就いているのだから、それなりの額が支給されたのだろう」
「それにしても七四万ルードって、さすがに差がつき過ぎじゃないか?」
「まあ、少ないよりはいいじゃないか」
それもその通りだ。
俺もあっさりとこれ以上食い下がるのをやめて、大人しく防具屋に入る。
「さっさと買って出てきやがれ、です。一分だけ待ってやるのです」
「はいはい」
優樹を連れて店内へ。
三畳半程度の間取りに、壁の両側には棚。その棚にはわずか数点ばかりの鎧と盾が置いてあるだけであり、入口から見て一番奥に冴えない中年が座っている。店主だろう。
「いらっしゃいませー」
「ふん。……クロウ、あんまり大したものはなさそうだね」
「おいユージュ、ちょ、店の人に聞こえるってば」
俺は「死霊術師」という、主に魔法を使うタイプの職業なので、鎧や盾などといったガッチリした防具は装備できない。
いや、正確には装備すること自体は可能なのだが、魔法使いの脆弱な筋力値だと敏捷力に下方修正値がつくのだ。要するに俺だと力が足りないから、重たい防具やら盾なんぞを持ったところで、動きがノロマになるだけでメリットはないということである。
だからこの防具屋には、俺が装備できるものではあまり良いものは置いていないというのは事実なのだが――それにしたって、店の人に聞こえるような声でそんなことを言うのは憚られる。
そう思って優樹をたしなめたのであったが、彼女はまるで悪びれもせず、こう言ったのだ。
「あそこの店主は所詮NPCだ。僕たちが何を言ったところで何にも考えない、設定された行動をとることしかできないプログラムの塊だよ」
「そうは言っても……」
さすがに気になるというかなんというか。
そんなことを優樹と話していると、
「お探しの防具はありませんでしたか? すいませんねぇ、大したもんが置いていないような防具屋で」
「ああ、いえ、すいませんさっきのは言葉の綾というか悪気はなくて……な、ユージュ。な?」
店主にそう声を掛けられたので、ほらやっぱり気を悪くしてるじゃねえか、と優樹を見ると。
こちらはこちらで、何やら愕然とした表情を浮かべて口端を戦慄かせていた。
「優樹? どうした?」
しまった普通に本名で呼んでしまった。
すると優樹は俺の怪訝な視線に気づいたか、すぐにもとのすまし顔に戻ってしまう。
「時に店主、一つ聞きたいことがある」
「は、なんでございましょう」
「ふむ。……今日は良い天気だな」
「そうですねえ。子供たちが私に遊べとせがんでくるんですが……仕事だといっても聞きやしねえものですから」
「…………ところで店主、この町の現状についてどう思う?」
「ええまあ、前の領主は酷かったですからね、領主が変わってからというもの、とても穏やかに過ごさせていただいております」
突然何の脈絡も無くそんな質問を始めた優樹を、特に止めるでもなく眺める。
俺には彼女の行動原理は理解できないが、下ネタ方向に走っていない時は俺なんかより遥かに高いところでものを考えているのだから、信じて聞いていれば、彼女にしか感知できない何かが勝手に解決してくれる。説明を聞くのはそれからで良い――我ながら、俺から優樹への信頼の厚さはもはや誇っても良いと思う。
優樹は腕組みをして、顎に手を当てると小さく唸った。そしておもむろに口を開いたかと思うと、
「………………なあ店主。僕とそこの白いの、お似合いに見えるかい?」
そんなことを言った。何も水やなんかを口に含んでいたわけではなかったのに吹きだしてしまった。
こ、この人急に何を言い出してるの!? 何を第三者に聞いてるの!?
「ええ、ええ、とってもお似合いの美男美女カップルで、羨ましい限りです」
「ほぅ、そうか、ありがとう。……ところで君、つかぬことをお聞きするが」
今更お伺いを立てずとも、今まで散々色々聞いていたのに、優樹が言った。
「君……もしかしてNPCでない?」
「エヌピーシーというものが何なのかが分かりかねますねえ……。お客様たちは見たところトレジャーハンターですよね。しがない防具店の、冴えない中年店主には神聖語はわかりませんや」
神聖語。
このTreasure Onlineの舞台「レストモワーレ」という世界において、トレジャーハンターが使うとされる言語である。基本的にカタカナで表記されることが多く、地名なんかはすべてそうだ。
現実世界全言語の中で、全言語の言葉で翻訳が難しい言葉に当てられた、このゲーム内だけの言葉。
ちなみに日常会話で使われる言葉はそのまんま日本語である。アイズやアスファノンにはドイツ語に聞こえるらしいが、それは俺らと彼女たちの使用する言語が違うためである。
今まで会話が可能だったのは全自動同時翻訳機械が搭載されているからだろう、と優樹に聞いた時は驚いたものである。それほどまでに違和感のない日本語だった――というかアスファノンに散々悪口を言われたのだが、あれは本来ドイツ語で言われた言葉なのか。
嫌だなあ……
あと、彼女たちはドイツ人であるらしいことも判明したのだが、なるほど確かに、アイズのあの巨乳は日本人のものではなかった。対称的にアスファノンは慎ましやかなのだが……
ちなみに優樹はそのアスファノンよりも小さい。むしろ絶壁である。アスファノンは日本人の中に放り込んだら平均的だが、優樹は日本人の中に放り込んだらオンリーワンだ。皆無乳。頬擦りしたい。
「そう……そうか、ありがとう。それじゃあこれが最後の質問だ」
「はあ。なんでしょうか」
「店主、もしかして、自我がある――のか?」
いやアイズの胸に顔を埋めたいとも思うけど、でもやっぱり優樹の平らな胸の方に頬擦りする方も捨てがたい、と、あくまで片方は実現不可能そうな妄想の翼を広げていると、優樹が気になることを言った。
僕たちが何を言ったところで何にも考えない、設定された行動をとることしかできないプログラムの塊だよ――そう言ったのは、確かに優樹である。これでは、先ほどの発言と矛盾するではないか。
「はあ……このようにお客様と会話していますから、これが自我なのではないかと思うのですが」
「ああ、そうか。いや、その、なんだ。自我――そうだ、ジガだ、ジガという防具は無いかと聞きたかったのだ」
ジガ?
どうして誤魔化した?
俺には理解できないが、優樹が分かっているのならそれで良い。
「はあ。ジガってのはちょっと……置いてないですねえ」
「そうか。それなら良いよ、邪魔をしたね」
クロウ、出るよ、と、優樹は言い、
「え、防具は買わなくていいのか?」
「いいから。……はやくしたまえ」
そう言って優樹は俺の右手を握り、ぐいぐいと引っ張って防具屋を出てしまう。
そして。
「遅いのです! 一体何分掛けやがるのですか、お前たちは!」
憤怒の表情でこちらを睨み付けてくるアスファノンに対して、優樹はそれを我関せずとばかりに受け流し、反対に問いを返した。
「アスファノン、どうしてNPCが自我を持っている」
「それは……」
それは、とアスファノンが口を開きかけたところで、悪いが遮らせてもらう。
「ちょっと待て、そもそも、NPCが自我を持っていてはいけないのか?」
「クロウ。……自我を持つというのはどういうことかわかるかい?」
俺が問うと優樹はそう切り返してきた。えっと。
「生きているってことじゃねえの」
それじゃあ。
優樹が言う。
「先ほどのNPCは生きているのかい? 彼はただのプログラムで、データでそういう風に設定された行動しかできないはずなんだ――はずだったんだよ」
「それは――」
おかしい、な。
何かがおかしい。
「いや、そもそも自我があるのかもしれねえじゃねえか」
「自我をつくるというのなら……」
「人工知能、なのです」
アスファノンがそう言って、どうしてかはわからないが優樹は彼女を睨んだ。
「人工知能は――」
☆☆☆
――――――システム、オールグリーン。問題ありません。
☆☆☆
「――製造が許されない禁忌の技術だろう?」
優樹の言う通り、完成された人工知能というものは、どこまでも人間らしい。
ゆえに――人間の体を持たないからこそ、自我が完全に自立してしまった人工知能は人間と対等なのか、という課題に終止符が打たれないのだ。だから、人工知能の開発は全世界統一で禁止されている。
アメリカや英国が秘密裏に制作しているなどという話も聞いたことがあるが、それらはあくまで都市伝説に過ぎず、人工知能の開発が始まるのは今から早くとも三世紀後だろうと言われている。
「だからこそ、このようなゲームが登場するような時代になっても尚、NPCというものには人工知能を積まない、自分で経験しない、思考しない、考えないというのが原則であったはずだろう?」
「その通りなのです。このゲームも、サービス開始直後からごく最近に至るまでは自立しないNPCしかいなかったのに……近頃急に、NPCがプログラムから逸脱した行動をとるようになっていったのです」
「それは……つまり」
ありえなくない可能性に思い付き、しばし絶句する。しかし、でも、まさか。
「どこかで人工知能が開発されていて……何者かがこのゲームに実装した……?」
「その可能性を……否めない、それが現状のようだ、クロウ」
「それどころか、なのです」
アスファノンが言った。
「このゲームは、百万人の一般人のプレイヤーをログアウトできないようにして、ゲームオーバーすなわち死という絶対が敷かれているのはさっき道すがら話した通りですが……」
もしかしたら、という前置きをして、アスファノンは続ける。
「今私たちは、脳波をデータに変換してこのゲームに存在しているのです。だから――だからです、このゲームは、人工知能を作るために百万人もの人間をサンプルとして、感情や思考のパターンを人工知能に学習させるための箱庭なのではないか――と、私にはそう思えるのです」
なるほど!
と、優樹が大袈裟ともとれるような態度でそれに同意した。
「確かにその方法なら、より効率的に人工知能の開発を行う事が出来そうだね」
「その前にちょっといいか」
水を差すようで悪いのだが、と前置きする。
「このゲームには今、百万人もの人間が捕らわれていると言ったか?」
「そう言ったのです。ちゃんと聞いていなかったのですかスポンジ頭。牛海綿状脳症みたいな頭をしやがって、なのです」
後半部分は無視して――いや、そう言ったのです、の部分以外は全部聞かなかったことにして。
「そんなことが起きたら……世界的にニュースになるはずだろ、普通に考えて」
「当たり前なのです。記憶能力だけじゃなくて、思考能力まで欠如しているとは哀れな微生物ですね、なのです」
「俺やユージュは、というか俺が現実世界で住んでいる町では、一切そんな報道は無かったぞ」
「そ、それは……お前たちがどこか未開の地かなんかに住んでいやがったのではないですか!?」
もう地球に未開の地なんてねえよ。あらゆるジャングルもあらゆる山も、あらゆる海も、その細部まで踏破されて、人間が踏み入れていない場所なんて地球に存在しない。
よって、世界のどこにいても携帯電話の電波が立たないということはないし(電波が二本以下になったことを見たことが無い)、最新のニュースを知ることができない場所なんて――それこそ、うちくらいなものである。テレビが壊れているなんて、今の時代言語道断。むしろ何は無くともテレビだけは――みたいな風潮があるほどである。
「まあ、私は初期からこのゲームに閉じ込められていたのですから、現実世界で政府がどのような決断をしたかはわからないのですがね」
アスファノンが取り繕うように言った。
「どうやらクロウ、僕たちが知らなかったわけではなくて、日本政府が情報を完全に統制して、外部に漏れないようにしていたようだね」
「つまり知りたくとも知りようがない、ってわけだ」
何とも入念に情報統制を行ったものだね、と、優樹はそう吐き捨る。
「まあ、物見遊山でデスゲームに参加するようなことが無いように――とか、そんな判断だろうとは思うのです」
確かにその通りだ――俺はそう思った。
つまりそういう話。
伏線が雁字搦めだぜ。一本一本手繰るのって楽しいですね。一見雁字搦めにしか見えませんけれど、実際はただの一本の糸です。
というわけでまた明日、たしぎでした。
――次回予告兼チラ見せ――
「アイズは……人見知り、なのです」
「や、初めて会った時からわかってたが」
―――(ただし予告は変わる恐れがあります)―
では次回。
誤字脱字、変な言い回しの指摘、感想、評価、レビューお待ちしております――――
評価、感想、レビューなどして下さったら、いつもの八倍泣いて喜びます←ここ大事




