第四話:パーティ参加
はい、最新話。
どうしてシリアスとシリアルが交互になるのでしょうな。
「どうしたんだい、クロウ。ぼーっとして」
「え」
あれ?
一瞬だけ意識が飛んでいた――というか、優樹の言う通りぼーっとしていた。
「あ、あれ? 悪い、なんかぼーっとしてた」
「君はまた……」
やれやれ、と言った風に優樹は呟く。
「それで、どこから聞いていなかったんだい?」
「えーっと。確か……」
どうにも寝起きのように頭がうまく働かず、記憶が不明瞭だ。始まりの間からようやく出られたと思ったら……
ああ、そうだ、白髪と赤髪の少女二人と遭遇したのだった。
「なんだっけ……パーティ? を組もうとかなんとか、その辺りから……」
「これだから男は、なのです」
赤髪が吐き捨てるように言った。
その赤髪の袖を、くい、と一度引っ張って、白髪の方が何事か、赤髪の耳元で囁いた。
「アイ、二人では限界を感じると言っていたのですよ? さきほど説明したでしょう?」
「えーっと、俺達にパーティ組もうぜって言いに来た……ってことであってる、よな?」
「あってるよ、クロウ」
それなら。
「それなら、そっちの赤いのと白いのの間で話がまとまっていないのはおかしくないか」
「む。赤いのとは結構な言い草ですねお前! かちんときたのです!」
内心で思っていたことが口に出てしまっていたようだ。
気をつけなければ。
「良いですか、赤いの白いのというならば、お前だって髪は白いし目も赤いではないで――アイの事じゃないのです!?」
「そういえば、自己紹介をしてもらっていないよ」
優樹が、ごく自然な口調で相手の情報を引き出そうとする……って別に、パーティに誘ってくれているのなら、普通に尋ねれば教えてくれるだろうに。なんで巧妙な会話戦を繰り広げようとしているんだよ。
「この美少女の名前はアイズなのです! 男! お前は近づけないのですー!」
まず赤髪は、白髪の方を紹介した。こういうのは普通、自分から名乗るものではないのか……?
俺にはご丁寧に舌まで出して見せてくれる辺り、良い性格をしていると思う。ただ、すこーしだけ腹が立ったので、
「そんな顔をしても可愛いだけだぞ、赤いの」
「な、ななな何をいい言うのですかこの類人猿は!」
遠くなった!
男とかお前とかから、類人猿にまで格下げされた!
「クロウ、僕は浮気は許さないけれど、もし彼氏が浮気をしたらどうなるのか、参考までに聞いておく気はないかい?」
「いやいいですユージュ様。愛してます世界中の誰よりも」
ゲームの中だから本名で呼ぶのはまずい――優樹がそう言ったので、彼女のことはユージュ、とアバターネームで呼ばなければならない。そんな急に呼び方を変えろと言われても、正直対応出来る自信はないが。
気を抜いたときにぽろっと本名で呼びかけてしまいそうだ。
「そうか、残念だね……。じゃあ一つだけ聞いてほしいのだけれど」
「いやいいって。いいってばなんで乗り気なのこの娘!」
「えっとね、身体中に「明野黒羽」専用って書いて、全裸で街を徘徊する。首輪付きで」
「俺は君だけを愛してる! 愛してるぞユージューっ!」
もしも俺が浮気をしたときの優樹のおしおきが恐ろしすぎるので、抱きしめて誤魔化しておいた。というか俺の実名大公開じゃねえか。
それにしても、万が一億が一にでもそのようなことが起きてしまったらと考えると空恐ろしいものがある。
「クロウが望むのならいつでも僕のリードを渡すからね……!」
「めっちゃ怖い!」
ヤンデレじゃなくて!
何!?
ワンデレ!? 基本姿勢が犬! 犬デレだからワンデレ!
「へ、変態がうつるのです……!」
ふと赤髪の方を見ると、思いっきり怯えていた。
背後にちゃんと白髪――アイズを庇っているあたりが彼女とアイズとの関係を表している。
仲が良くて、まるで姉と妹のように接する友達、みたいな。アイズのことは私が守る――みたいな。
「アイズのことは私が守るのです! 見るな脊椎動物! です!」
目じりに涙を浮かべ体まで震えている赤髪が後ずさりながらそう叫んだ。というか、実際に言うんですね。私が守る、とか。
「なんで私はこんな変態に声をかけたのです! つい十分前のこいつらをぶん殴ってやりたいのです!」
「自分を殴るんじゃねえのかよ」
「は? どうして私が自分の事を殴らないとならないのです、このタンパク質!」
「ついに生物じゃなくなっただと!」
☆☆☆
「さて」
優樹がそう言って、二回手を叩いた。
「こうやって狂言を並べ続けたところで何の意味も無いだろう。さっさと本題に入ろうじゃないか」
「狂言……え? 今までのは一体どういう……まさか本当に嘘なのです?」
「当たり前だろう。僕たちがそんな変態に見えるとでも?」
自信満々、我が彼女はそう言った。あとで聞いてみよう。家の中で、俺のためだけに裸で首輪だけになってくれるかどうか。……喜び勇んでなりそうだなあ。その光景が目に浮かぶ。
「お前は……そうは見えないのです。けれど、そこの水がケダモノにしか見えないのです」
「水!? 人体の六〇パーセントは水!?」
日本語が行方不明になってしまった。なんだよ人体の六〇パーセントって。
「しかも突っ込む場所を間違えた!」
「つつつつ突っ込むだなんて! なのです! 卑猥なのです!」
「誰も卑猥なワードとしての突っ込むなんて使ってねえよ! お前の方こそ卑猥だわ!」
思考回路がな!
「まあまあ、赤いの。その話については、また機会を設けようじゃないか。二人でねっとり……おっと、じっくり話し合おう。……で、そろそろ君も自己紹介をしたらどうだ」
優樹が何気に恐ろしい提案をしているのが聞こえたのだが……それは気のせいだと信じたい。つまり赤髪と優樹の二人で、俺の変態性について話し合うと、そういうことだろ? お前らの方がよっぽど俺より変態だからな。
「ん、ん。そうです、あんまり話を脱線させても――って、また赤いのって言ったな、なのです! むきー!」
「今むきーって言った! 肉声で!」
口に出して!
「クロウも、一々茶化さないでくれ。話が進まないだろう」
お前が一番乱してたんだよ! と思ったが、口に出すのはやめておいた。
「それなら自己紹介をするのです……不承不承してやるのです」
「いいから早く言え、ファ――」
「ファ?」
優樹が何かを言おうとして、慌てて口を噤んだ。ファッキン、だったら嫌だなぁ……
「……今のは貸しだからな」
「……ちっ、さっきのと合わせてチャラだ」
それじゃあ、と赤髪が咳払いをして言った。
「自己紹介をするのです。私の名前はアスファノンなのです」
「僕はユージュだ。こっちサイドの白いのはクロウ。僕の男だ」
「む。こっちサイドの白いのはアイズ、私のアイズなのです」
☆☆☆
「それでは、お前たちには、私たちとパーティを組んでほしいのです」
「断る」
なんか提案されたので、つい反射的に断ってしまった。
上機嫌に頷いていた赤髪――アスファノンの動きが止まり、俺に引き攣った笑みを向けた。
「どうしてなのか、一応聞いてやりはするのです」
「特に理由はない」
「むきー! なんなのですこの竹輪は!」
またむきーって言った! か、人間を表現する言葉として「竹輪」ってどうなの! か、どちらの突っ込みをするか一瞬迷ったその隙に、優樹に先を越されてしまった。
「僕たちがアスファノン、君たちとパーティを組むことで、何かメリットはあるのかい?」
「あ、あるに決まっているのです!」
「ほう……例えば?」
心なし優樹が楽しそうだ。被虐趣味だけでなく嗜虐趣味も持ち合わせているらしい。突き詰めれば突き詰めるだけ変態性が増すなあ……、などと、俺は完全に傍観を決め込む。交渉や駆け引きなんかは、優樹に任せておけば九割九分うまくいく。
だからというわけではないが、俺は視線をアイズの方に移した。
雪のように真っ白な肌にすっと通る鼻梁――おそらく東洋人ではなく、西洋の顔立ち。身長は俺と同じくらいあって、腕や足は健康的に細い。服も全体的に白で統一されているので、全体図として真っ白なその外見に、瞳の赤だけがアクセントとなっていた。俺と同じような、血のように赤い目。俺と同じように、アルビノ……だろうか。
モデル体型、というには少し細さが足りないが、それは太っているとか、そういうわけではなく、その高身長に比例するかのように、なんというか、お胸というかお胸様が。巨大な! おっぱいが!
その胸を考慮したうえで、不自然に腕や足、腰なんかが細くない――という上で、モデル体型というには少し細さが足りない、につながるわけである。むしろ胸を中心に考えるとスレンダーだ。健康的、そう、健康的。これだ。太ってはいないが骨と皮ばりに痩せているわけでもなく、何者かが作為的に作り出したとしか思えない究極のプロポーションと呼んで差し支えない。いやむしろ俺が呼ぶ。
別に胸ばかりを凝視していたわけではないが。
別に胸ばかりを凝視していたわけではないが、アイズと俺の目が合った。別に胸ばかりを凝視していたわけではないが。
さ、とその長い手で胸を抱くように隠してしまう――だが! なお! その巨大すぎる胸はむしろ強調されるように変形し、そのエロさを増した。
幸いにも優樹とアスファノンは、会話――というか会議? に夢中になっているようで、俺達には気づいていないようだ。
なのでアイズの胸を凝視――してはいない。アイズと目が合うと、彼女は弱々しく微笑んで見せた。俺はその笑みから、お互い苦労しますね、というかなんというか、そんな感じのニュアンスを読み取ったのだが、あながち間違いでもないだろう。……どう考えても自分の胸を凝視する男に向けた困惑の笑みではなかったはずだ。
「わかった。……クロウ」
優樹に呼ばれる。
危ういところでアイズの巨乳から目を離して、優樹のまな板……えっと、目を見る。
「はぁ……」
「やっぱり黒羽も巨乳が好きなんだねあんなに貧乳を愛していると世界の中心で叫んでいたのに」
「世界の中心で貧乳への愛を叫んだ覚えはねえよ!」
というかばっちり気付かれていたようで。
「まあそれは今は置いておこうじゃないか。今夜は覚えておくことだね。首輪はなんとしてでも用意してみせる」
「すいませんでした」
土下座した。
「そのまま聞いてくれ」
「土下座姿勢で!?」
優樹が恐ろしい――あれ。よく考えると、別に部屋の中で首輪つけるのなら全然大丈夫な気がしてきた。
「よし優樹。オッケー、オッケーだ」
とりあえず立ち上がる。
「……えっと、彼女たちは二人組でパーティを組んでこのゲームを攻略……というか冒険していたらしいけれど、この町から行ってすぐのところの洞窟にいるモンスターがどうしても倒せないらしい」
「つまりそいつを一緒に倒す……ってことか?」
俺達が仲間に増えたところで、どう考えても足手まといでしかないのだが。
「いいや、違う。そうだけれどそうじゃない」
「どういうことだ?」
「敵がどんどん強くなっていって、二人だけでは限界を感じるようになってきたときに、ゴブリンの群れに襲われていたところをクロウが助けたものだから、その時仲間を増やそう、と、そう思ったらしいよ」
「いやゴブリンって……いくら群れても、ゴブリンなんてさすがに――」
「そんなことより」
優樹が俺の言葉を遮るように言った。
「僕たちとしても魅力的な提案じゃないか。なにせ仲間が――このゲームのことをよく知っていそうな仲間が増えるわけだから。その錆びた槍の事も、もしかしたら知っているかもしれないよ」
「まあ、ゆう、ユージュがそういうのなら」
まだ慣れていないため、危うく優樹と言いかけて訂正。
「おい、アスファノン」
「おい、とはなんなのです、この人外め」
「人外って……」
さすがに傷ついた……いや、あれ? タンパク質とか竹輪とかに比べたらなんかマシな気がする。
まあ、それはさておき。
「パーティだろ、組もうぜ、是非」
「わかったのです。感謝すると良いのです、この私が、私のパーティに入れてやると言ったのですから――」
「アスファノン、御託はいいからさっさとパーティに誘ってくれ」
優樹だけがドライだ。なんでこの娘、まじめな話ができるのに真面目じゃない話の時はとことんウエット……いやむしろウエット&メッシーなんだろう。
「む。誘ったのです。さっさと入りやがれ、です」
目前にウィンドウが表示された。『パーティに参加しますか? :リーダー「アスファノン」』と書かれたそれの、「YES」をタッチ。これで俺は正式に彼女たちと同じパーティだ。
「ついでにこれも渡しておいてやるのです」
「なにこれ」
渡されたのは……プレイヤーカード。アイズも同じくプレイヤーカードを取り出して……アスファノン経由で俺たちに渡される。
その後彼女が、さっさと渡せ、という風なジェスチャーを送って来たので、俺の分のプレイヤーカードも実体化させて渡しておく。優樹も同様にした。
「これで私たちはフレンドなのです。はぐれてもメールや電話などが出来るですから、猿のように喜ぶと良いのです」
「わーい」
棒読みである。
「それじゃあまずは、ここの壁――内側に町があるだろう? 僕たちを案内したまえ」
「なんで偉そうなのですかこの女は……! です!」
優樹が傲慢そうにそう言って、アスファノンは憤慨してそう返したのだった。
パーティの当面の目標は、ここからすぐ近くにある洞窟のボスモンスターの討伐……に、なるらしい。
ちなみに、アスファノンという名前は、適当に打ち込んだファーラ→ファラン→ファノン→アスファノンという連想ゲーム(?)からうまれました。それで偶然なんですけど、SAOのヒロイン勢、アスナ、リーファ、シノンを合体させたみたいになったんですけど――これはあくまで偶然であり、僕も驚いていますとここの明記しておきます。パクリじゃねえよ!
ではまた明日。
――次回予告兼チラ見せ――
「防具屋なのです」
―――(ただし予告は変わる恐れがあります)―
では次回。
誤字脱字、変な言い回しの指摘、感想、評価、レビューお待ちしております――――
評価、感想、レビューなどして下さったら、いつもの八倍泣いて喜びます←ここ大事




