第一話:死霊術師の少年
※今回のサブタイトルになにか思うことがあったら――あるいは全く心当たりがなければ、今すぐともゾンのもくじに飛び、一番最初の、って意味の第一話のサブタイトルを確認してみてください。
というわけで本編どうぞ(なう11/17……これ投稿されてるときってもう七草粥も食べ終わって学校も始まろうかって時じゃん……)
☆☆☆
――――――シス、シス、シシスシステム、ししししん、しん、深刻なエラー。た、たたいしょ対処、できませ、ません。問題あり。シシシスシシスシステムアラート。
――――――システムをシャットダウンします。
――――――再起動。
――――――異常ありません。
☆☆☆
「『トレジャー・オンライン』では、トレジャーハンターと呼ばれる人間たちがいます。しかしそれは職業ではなく、あくまでも各地に眠る「宝」を探す人間のことを指していうものであり、たとえば職業魔法使いのトレジャーハンター、騎士のトレジャーハンターなど、二五五ある職業に応じたトレジャーハンターが存在するのです。また、職業の特性によって適した地形、モンスターなどがあります。
協力するべきプレイヤーたちは――皆、仲間であると同時に、ライバルでもあります。なぜなら、ゲーム中には全部で三二種類ある『伝説級宝』、そららをすべて手元に集めるのがグランドクエスト、ハンターたちの使命だからです。時には奪い合いになることもあるでしょう。
それなのに、です。ただでさえ希少な『伝説級宝』は各種類一つしか存在しません。その上、破壊されることはありません。それでも、個人所有ではなく、所属するパーティ、ギルドで全種類揃えてもそれはグランドクエストを達成したことになるので、徒党を組むもよし、所有者を倒して奪うもよし、そんなものには興味が無いと、釣りに農業に武器防具道具生産、捕獲した(※)モンスターの育成、ハウスのコーディネイトに情熱を注ぐも良しです。
さあ、宝をめぐる異世界冒険譚に参加しませんか?
※ モンスターをテイムできるのは、特殊なアイテムを使った時か、「テイマー」系職業のプレイヤーがスキルを使った時だけとなります、と」
だってさ、と、優樹が手元にある薄い半透明のナニカを見ながら言った。
「それが……えっと、AIから送られてきた奴?」
「そうだね。操作方法は体感で覚えろだってさ」
丸投げだな。
「それにしてもバーチャル技術っていうものは……凄いな」
こんなものがあるなんて、聞いたことも無かった。白木丘が田舎だからか……?
いやでも、さすがにどれだけ白木丘が田舎であれどまったく情報が入らないなんてことはないはずだ。
「本当に凄いね。物体も声も、体を動かす感覚でさえ、僕たちの世界と変わらない」
辺りを見回す。
雪を被った木々が並ぶ、学校の校庭程度の広間。三方は木に囲まれており、蔦や枝葉が邪魔をして先に進む事が出来ないようになっている。視界の右上に表示されるのは「始まりの間」の文字――この場所の名前だろうか。
服装は麻のような素材の長袖シャツに長ズボン。優樹は俺と同じような服装で、下だけスカートだ。
『ようこそレストモワーレへ!』
「わっ」
突如耳元で響いた合成音声に思わず声を出して驚いてしまう。
『君に、レストモワーレでの生活を送ることを許可するよ!』
男性のようにも、女性のようにも聞こえる声。
『宝の奪い合いに参加するつもりなら、これだけは聞いてほしいと思って出てきたんだ』
続く。
これがAIの言っていたシステム説明のチュートリアル……だろうか。
『もし君が宝の奪い合いに参加するつもりならば――味方じゃないプレイヤーは、どんなに良い人そうだと判断しても、敵足りうるから。気を付けてね。それじゃあ、健闘を祈る』
始まり同様唐突に、その声は遠ざかって消えた。運営の挨拶として設定されていたものだろうか。
「え、終わり? これで?」
「その……ようだ、ね」
優樹と二人で困惑に顔を見合わせた。
「これはゲーム……だよ、な」
「そうだね」
優樹に確認。
「それなら、今わからないことをここで考えても仕方がない。知っている人に聞く方が手っ取り早いんじゃないかと僕は思うよ」
「そうは言っても、ここには誰も……」
辺りを見回す。人影……
「あ、いた」
優樹が誰かを見つけたようで、そのような声を上げた。
「うそ、どこに?」
ほらあそこ――
そう言って指差した方向を見ると、確かに、そこには人がいた。
ローブを着たお爺さん。ローブなどという衣服は、今時バスローブくらいしか見られない。そのお爺さんが、この広間から唯一繋がる通路の隣に、ぽつんと一人で立っている。
「あの人に聞いてみよう」
という優樹の提案に従い、そのお爺さんのもとに近づいていく。
「あの、すいません」
と、声をかけた。すると、お爺さんは、
「おぬしらも、トレジャーハンターになるのじゃな? この道は厳しく辛い。もしかしたら、命を落とすかもしれん。でも、やめる気は無いのじゃろう?」
そう返してきた。すいません、と声をかけただけなのに、正直――何言ってるのこのお爺さん。痴呆?
思案投げ首。優樹に丸投げ。
「まあ、ここは話を合わせた方が良いんじゃないかな、この人に」
「了解」
そういう会話を、目の前にいるお爺さんに聞こえないように小声で交わし。
「はい。俺たちは、トレジャーハンターになるためにここに来ました」
優樹が読み上げたこのゲームの説明は半分、というかほぼ全部聞き流したのだが、なんとなくトレジャーハンターになるとかどうのとかいうことを言っていたような気がする。
なので、それを肯定した。
「やはりか。うむ。おぬしらは良い目をしておる。特別に、おぬしらに職業をやろう。この中から選べ」
ほれ、と、お爺さんは手にしていた杖を振る。
ボワン、というふうに形容できる音とともに、白煙と共に出現したのは一冊の本。それを受け取り、優樹と二人で頭を突きつけあってページを開く。
その本は右端にページ数が書いてあって、一ページにお爺さん曰く職業が一つ。ざっと見たところ五十ページほどあるようだ。
「職業は全部で二五五あるんじゃなかったのかい?」
「あー、なんかうっすらとそんなことを言っていたような……」
優樹の問いに、最早遠い記憶となっている、先ほどの優樹の説明の記憶が揺り動かされた。
「そこに載っていないのは中級職、または上級職じゃ。最上級職なるものも存在すると聞いたことがあるが……言い伝えの事じゃからなぁ……」
「はあ、なるほど」
「黒羽、君、もしかして理解していない?」
「い、いやあ。あはは」
この……ジョブ? というものを選んで、どうすれば良いんだ? 何を選ぶのが正解なんだ……というか、選んだらどうなる? 就職するのか?
「そこからか……」
えっとね、という前置きから優樹が説明してくれたことによると。
まず、このゲームは、本当にそこからか、というか、俺が本当に根底から理解していなかったことが露呈してしまうのだが――RPG、らしい。与えられた役割を演じ、プレイするゲーム。
それで、冒険者となるためには、あらかじめ職業を決めなければならないのだとか。
更に、このお爺さんは人間じゃなくて、NPC――ノンプレイヤーキャラクターとかいう、ゲームの中の住人らしいことも会話してみて分かった――と優樹は言う。ゲームらしいゲームをしたことが無い俺にとって、かろうじて理解できたのはここまでで、それは優樹もあまり変わらないようだった。言葉の意味は理解できるが、実際にやってみないとわからない――だそうで。
「僕はこの職業――祈祷師にしようかな。何を選んでもコスプレし放題だよ、黒羽。喜びたまえ」
「お前本当に平常運転なのな」
そのおかげであまり取り乱さずにいられるのだから、あまり強く言えないのだが。
「さあ、黒羽。早く決めたまえ」
ザッと流し読んでいくが、はっきり言ってどの職業を選べばいいのかがわからない。騎士? 魔法使い? 盗賊? 半人? ってそもそも半人ってなんだよ。半分が人なのはわかるけどもう半分はなんなんだよ。
「どれがいいと思う?」
「僕に聞かれてもさっぱり、ってところが本音かな」
「そうじゃのう……職業が決められんというのなら。儂が選んでやっても良いぞ?」
「え……?」
お爺さんが話しかけてきた。優樹がそれに対して過剰に驚きのリアクションを取っているが、急に話しかけられたら驚くよなあ。
「儂が魔法で、おぬしに一番適正の高い職業を選んでやろう」
「そんな事が出来るのか?」
「できる」
断定。
しかし、お爺さんはそのあとに、が、と逆接の接続詞を付け足した。
「もしこの方法で職業を選んでしまうと、もうこの場においてほかの職業を選べなくなるのじゃ――たとえどんな不遇な職業が選ばれても、な」
不遇な職業。さっき本を読んでいて目についたものでは、路上生活者(街にいるとNPCがアイテムや金をくれる)に自由人(ほぼ全てのスキルが使える。ただし一日一種類、しかもどのスキルが使えるかは完全にランダム)、果てはロリコン(一四歳より下の女性プレイヤーが自分のパーティにいるとき、全パラメータ二倍)など。
「決まったかの?」
それに、曖昧に頷きを返し、職業を、天運に任せることにする。
「お願いします」
「それではいくぞ――この者に適する職業を定めたまえよ神の御霊――!」
手にした杖を振り、短く唱えたのは詠唱、だろうか。
すると。
すると、俺の右腕が赤い光を放ち、焼き入れた様な線が浮かび上がってきた。
それを一目見たお爺さんは、目を見開いて叫んだ。
「その紋様は……死霊術師! いきなり上級職を引くとは、おぬし、中々の運じゃな……!」
この紋様のことは職業紋様と言って、これを見れば一発で職業が分かる――だ、そうだ。
へぇ、便利……なのか?
続いて、優樹の職業。
「おぬしはどうする?」
「僕は祈祷師でお願いします」
「ふむ、それも良かろう……。ほれ、腕を出せ」
言われたとおりに袖をまくり、右腕を突き出す優樹の手を取って、お爺さんは筆を取り出した。それを空気に浸して、彼女の手に毛先を置く。
「ひゃっ」
「これ、動くな!」
「なんで僕だけ手書きあひゃんっ」
くすぐったいのか、優樹が挙げる声は艶めかしい。色っぽい――嬌声。
それがしばらく続き、そろそろいたたまれなくなったところで、お爺さんは筆を空中に放り捨てた。筆は、空気に溶けるように消える。
「よし、完成じゃ。もう良いぞ」
俺の右手に施された死霊使いの職業紋様は、一言で言えば禍々しい。これだけで何かの魔方陣みたいにも見える。そして、血の様な紅い燐光を放ち、見ていると線が蠢き流れているような感覚に陥った。
対して優樹のそれは、空色の線で構成された、角のない、丸っぽい線が複雑に絡まったもので――俺と同じ、線が蠢き流れているように見えるといっても、こちらはどこか美しさを感じさせた。
「そうじゃな、死霊術師の少年、おぬしにはこれを。祈祷師の娘にはこれじゃ」
そういって、俺には錆びて朽ちかかり、今にもばらばらの錆となって解けそうな金属の槍をくれた。優樹には、真っ黒なローブ。
「え、なんか俺のボロボロなんだけど……」
「それではおぬしらの健闘を祈っているぞい」
そう言ってお爺さんは、その姿を空気に溶かすように消した。
「結局他の説明を受ける事が出来なかったね」
「そんなことより俺の武器なんかボロボロなんだけど」
「RPGというのなら、ステータスくらい閲覧できないのかなあ。ステータスオープン……駄目か。メニューとかかな?」
優樹が取り合ってくれないので、ボロボロの剣のことは諦めて、改めて職業文様に手で触れる。
「『メニューオープン』かあ……。そもそもステータスってなんだ」
と、そう口に出して言った瞬間。
目の前に、先ほど優樹が見ていたような半透明の板みたいなものが現れた。
「それだよ! それだよ、黒羽。どうやって出したんだい?」
「いや……」
わからないんだけど。
「えっと……たぶんだけどジョブマークに触りながらステータス、かなぁ」
「それだ!」
さっそく優樹がその通りにすると、確かに半透明の板――ステータスウインドウというらしい――が開いた。
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クロウ ♂ 16 死霊術師
HP:329/329 (体力。これがなくなると力尽きます)
MP:168/168 (魔力。これが足りなければ魔法は使えません)
At:45/45 (攻撃力)
De:13/13 (防御力)
Sp:14/14 (敏捷力)
装備スキル メイスLv1 ワンドLv1 魔道書Lv1 魔装Lv1 槍Lv1
職業スキル 操魂Lv1 使役Lv1 闇魔法Lv1 魔装術Lv1 憑依Lv1
特殊スキル 無し
補助スキル 無し
称号 無し
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「クロウ……ってのは俺の名前か?」
「僕はユージュになっているね。安易に優樹を音読みしただけらしい」
「それでこれ、強いのか弱いのか全然わからないんだけど」
わかるのは、せいぜい俺のパラメータと思しき数字だけである。
これが高ければ高いほど良いのだろう。
「黒羽、その窓の右上にあるオブジェクト化って書かれたところをタッチしてくれ」
「ん、こうか」
言われたとおりにすると、手のひらにカードのようなものが現れた。
それを、同じようにした優樹のものと交換する。
「それをダブルタップ。そうすれば、僕のステータスも見れるはずだから――僕と比較すれば、黒羽の強い弱いが分かると……思う、よ」
説明しながら俺があげたカードを展開していた優樹は、声に驚きを含ませた。
「黒羽、今すぐ僕のステータスと君の物を比べてみてほしい」
ダブルタップ、だったか。
言われたとおりにすると、カードは俺のステータスが表示されている隣に窓を表示した。
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ユージュ ♀ 16 祈祷師
HP:9/9 (体力。これがなくなると力尽きます)
MP:36/36 (魔力。これが足りなければ魔法は使えません)
At:4/4 (攻撃力)
De:33/33 (防御力)
Sp:6/6 (敏捷力)
装備スキル メイスLv1 槍Lv1 魔道書Lv1
職業スキル 祈祷Lv1 付加魔法Lv1 補助魔法Lv1
特殊スキル 無し
補助スキル 無し
称号 無し
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「あれ、弱くね」
「初級職なんて……こんなもの、さ」
優樹はそう言って、肩を竦めてみせた。
というわけでともゾン第一話をお届けしましたー(*^^)v
章タイトルは、「はじめからはじめる」って意味です。はい。
ではまた明日。
――次回予告兼チラ見せ――
「あれ。敵がめっちゃ弱い」
「違うよ黒羽が強すぎるんだ!」
―――(ただし予告は変わる恐れがあります)―
では次回。
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