第五話:スクール水着
ついにサブタイトルにまでスクール水着が進出しました。なんでこの章こんなにスクール水着出てくるの。しかも予定では二、三話で終わらせるつもりがもう五話だし、まだまだ続くよだし。
そろそろシリアス展開が行方不明。わざとだけど。この章は丸々全部コメディにしてやるつもりですので、読むときは「異常」に注意して、適度な気持ち悪さを我慢しながらお読みください。伏線回収は徐々にやるってマジで。
では。
翌日。短縮授業。
学校が終わってすぐに、一時帰宅、その後山寺の家に集合。
そのさい、俺はまたしても優樹の家に寄ったわけだが。
「黒羽の水着を着る、って……こここ、股間が」
本当に不本意ではあるが、律儀という俺の性格がそうさせただけであって、これは決して自分の意志では無いというかなんというかつまりその。忘れたことにすれば良いのにわざわざスクール水着を持ってきてしまったわけで。
こうなったら、優樹に貸したこのスクール水着は洗わずに回収する。そうしたことで世界が滅んだとしても、だ。俺は世界より優樹の着用済みスクール水着を選ぶ。
「こ、これ……スクール水着を交換するってことは、つまり婚約指輪を交換するみたいな意味だと受け取っても良いのかな!」
「なんでだよ!」
なんでだよ!
結婚式では普通に指輪を交換したいよ!
優樹は和装が似合うから、白無垢の神前式で……とか、普段から考えていることはまだ誰も知らない。
「黒羽! 僕のスクール水着は洗濯せずに返してくれ!」
「なんでですの!?」
なんか変な言葉が混じってしまった。――ですの? 誰か、知り合いに。こんな語尾の奴がいたような。
そんな変な話し方の奴なんて、知り合いに――というか、一般人が普通に生活していれば、一生お目にかかることのない類の喋り方だろう。
だが。
だが、俺はこの語尾で話す知り合いが、確かに、どこかに――
☆☆☆
――――――システム、一件のバグ。対処しました。問題ありません。
☆☆☆
――とりあえず、今はそんなことはどうでも良いか。
「で、この、優樹の物だった俺のスクール水着だけど」
「あ、あげないぞ! ちゃんと返してくれたまえよ!?」
「で、俺のスクール水着だけど」
「すでに所有権が黒羽に!」
「ちょっと臭い嗅いでみても良い?」
「今まで見た中で一番の笑顔! 黒羽! 黒羽! ここはあえて――許す!」
マジで!?
と思わず叫ぶ。
この夏は平均気温が四〇度を超えていたから……きっと、脳が熱でやられたに違いない。俺も、優樹も。
「ダメ元でも言ってみるもんだ!」
「その変わり、僕も黒羽の水着をもらうよ!」
「それはやめて! 嗅ぐのも!」
「な! 不公平だ!」
何がだ!
勢いに任せて騒ぎながら。
俺も優樹も、元から体力が無いものだから、前座の段階で飛ばし過ぎた。ここまで、まだお互いに水着を交換し合っただけなのである。それなのに、お互い息が上がっている。
まだまだそんな段階、けれど、メインは――この水着を着ることにあり。
一度咳払いして、流れをリセットしてから、優樹が口を開く。
「さて」
「うん」
両者腕組みの姿勢。
見下ろすのは、畳に広げられた、男物と女物のスクール水着。女物の方は、胸にひらがなで「ゆうき」と書いてある。
「やっぱり――本当に着るのかい? これ」
「まあ、神社の首脳会談で決まったことは絶対だからなあ……」
喧嘩して、どうにも仲直りできなくなったときなんかも、会議で「仲直りする」と決議されたときには、仲直りしたことにしなければならない。ああ、そうだ、思い出した。初めて、山寺曰く首脳会談で強制権が発動したのは、小学校三年生の時、龍聖と喧嘩した時だ。その結果出た判決が「すなおになる」で、神社の境内で殴りあった後に、龍聖が「なかなかやるな」と言い、俺もそれに合わせて、ベタに「お前もな」と返したのであった。
「よ、よし! 着よう! 今なら、さっき上がった変なハイテンションのままだからイケる気がする!」
「そ、その通りだな! 一回着てみよう! 話はそれからだ!」
優樹の水着を手に取り、聞く。
「俺はどこで着替えれば良い?」
まさか、ここで着替えるわけにもいくまい。
それとも、
「優樹が着替えるまで、外に出ておこうか?」
そうしてくれ、と答えるだろうと俺は予想したのであるが、しかし優樹は、俺なんかでは到底たどり着けない遥か高みの次元で生きていた。すなわち――こう返したのである。
「い、一緒に着替えよう。さっきかなりのタイムロスをしてしまったからね。遅刻したら、山寺に何をさせられるかが分からない」
「マジですか! 俺手元がおろそかになる気がする!」
「もちろん目隠しはあるよ! 目隠しはあるからまだ脱ぎはじめないでお願いだから――!」
☆☆☆
優樹が出してきたのは、屏風だった。
屏風なんて……とっくの昔に滅んだと思っていたのに、優樹が部屋の隅から出してきたのは、確かに屏風である。金箔が貼られた木組みに、獅子が描かれた屏風。骨董品の複製か。唐獅子図屏風の複製だよ、と優樹が説明してくれたが、俺は唐獅子図屏風がなんなのかはわからなかったので、曖昧に頷いておいた。
それを部屋の真ん中に置いて。
「知っているかい、黒羽。屏風はね、一隻って数えるんだよ」
本当は、双とか曲とかもついたりするけど、と、付け加えて。
「これは二曲の屏風だ」
真ん中で二つ折りできるようになっている。
確かに、目隠しとしては使えそうだ――だが。
「これ、ちょっと低くないか?」
優樹の胸元くらいまでしかない。
足りない……よな。
「べ、別に僕が着替えるのは下だけだから、大丈夫じゃないかな」
それもそうか。
いや、違うだろ。
「お前、今着物だろ? 全部脱ぐんじゃないのか?」
「上には制服のブラウスを着るから大丈夫だよ」
ほら、と、ハンガーに掛けられたそれをこちらに見せた。それなら大丈夫そう、か?
いやいや。
「脱いだ時に見えるだろ」
「黒羽……覗くつもりかい?」
「え……?」
「何だい、そのいかにも以外、と言った風な顔は」
「ののの覗かないし」
「説得力皆無だ!」
さて。
一瞬の間。優樹が、こちらに背を向けた。手にはスクール水着を持っている。
その状態で、言った。
「の、覗いたらいけないよ! 絶対に覗いたら駄目だからね、そのあたり、き、気を付けてくれたまえよ!?」
「……うん。がんばる」
「そうかい、そうしてくれると助かるけど、でもやっぱりちょっと覗いてほし……え? 頑張る?」
「透けろ屏風ぅぅぅ!」
「ああ! 黒羽が屏風越しに僕のことを視ている!?」
さて、いい加減こうしているのも時間の無駄……ではないが、もし集合時間に遅れるようなことがあれば山寺に何をさせられるかわかったことではないので、さっさと着替えてしまうことにする。
これだけテンションを上げたのである。
別に女物のスクール水着を着るなんて――余裕だ。
「はぁ、これが優樹のおっぱいが当たってたところかあ……」
「ぎゃああ裏返すな! 凝視するな!」
「ここが臍で、それでその下が――」
「ほら! ほら見て黒羽! 黒羽のスクール水着!」
「やめろ! そんなところの匂いを嗅ぐんじゃない!」
いざ着ようと服を脱いだは良いが、スクール水着を前にして躊躇してしまう。もしもこの場面を優樹以外の誰かに見られようものなら、自殺モノである。
女の子の家で、全裸で、その女の子のスクール水着を手に握りしめている。どこの変態だよ、と思うのだが、俺である。
「ほ、ほら、穿いたよ――ぐふっ」
「うわ、ちょ、待って! 俺まだ全裸だから見ないで!」
ええいままよ――!
勢いのままにまず右足を一気に通して――
「え? うわ、ちょ、ちょ」
ローレグ。
生涯、普通の人生を送れば、男とは何の縁もゆかりもないであろう形状であり、俺もまたその例にもれず、結果として、それを無理矢理に穿こうと凄まじい速度で足を入れたものだから、当然の帰結として足をひっかけ。
もちろん、そのような姿勢であるから屏風に向かって倒れ込む――いや、これは危険だ!
屏風の向こうには優樹がいる。
それを押し倒そうものなら、優樹に倒れ込み、十中八九怪我をしてしまう。最悪骨折もありうる。それくらいこの屏風は硬いのだ。木枠の端っこで顔に傷を作っても大変である。
「それだけは――させ、ね、えっ!」
屏風が優樹の方向に向かって倒れていく。
その角度が大体三〇度を超えたあたりで、畳についていた方が、浮いた。
すかさずそこに指を掛ける。――火事場の馬鹿力。人類が本来セーブしている力の一端を、危機的状況が差し迫ったときに開放することで、通常ではありえないような身体能力を発揮すること。
つまりは、屏風を持ち上げて優樹の上を通し、部屋の奥の方に放り投げたのだ。少し乱暴だが、この際目を瞑ってもらう。
と、そこで。
とてつもなく大変なことに気付いた。
すなわち右足に女物のスクール水着をひっかけただけのほぼ全裸の男が、倒れ込む屏風に備えて受け身の体勢を取っていた|女の子――しかも下半身は男物のスクール水着、上半身は制服のブラウスを着ただけ、という優樹に飛び込まんとしている状況を――!
一瞬の空白。
うるさいと迷惑だから、とわざわざ玄関を使わないような佐藤家の屋敷を、甲高い悲鳴が劈いた。
それでも衝撃を優樹に与えんとして、彼女の肩の上、畳に両手をつき。右足は彼女の左体側においた。ここまでなら、ギリギリでアウト。もはやセーフではない、のだが。それでもまだ許してくれと懇願できるレベルのアウト。そう、ここまでは。
左足――彼女の内腿、限りなく際どい所に置かれているそれが、俺の弁明を不可能なものにしていた。
「だ、大丈夫かいハニー」
「…………」
至近で見詰め合う俺と優樹。
しかし、優樹の視線は段々と下に下がって行って。
「く、黒羽……その、ふ、太腿に当たってる……」
すいません、佐藤の叔母さん。
今日は大事なお茶会だそうですが、再三に渡り五月蠅く騒いだことを、お詫び申し上げます。
☆☆☆
「というわけで、優樹と婚約しました」
「展開が急っ!」
珍しく、山寺が仰け反るまでの激しいツッコミをいれた。
「いや、えっと、ここに来るまでにアクシデントがありましてですね? 優樹さんが、もうお嫁にいけない、責任を取って結婚しろ、と言うものですからね?」
「おー、うん、よかったんじゃねぇの。大団円じゃん」
「黒羽が一体何をしたのかという疑問を、龍聖は感じなかったそうです!」
本当に珍しいことである。これだけ山寺がツッコミに徹するのは。
「とりあえずまあ、冗談はここまでにしようじゃないか」
すっかり落ち着いたらしい優樹がこう言っただけで、場の空気ががらっと切り替わった。
あの後、俺は可及的速やかに、主観で音速すら超えてスクール水着を着終えた。それからその上に服を着て、屏風を元の位置に直してから山寺の家に至ったのである。
ちなみに優樹は私服を着物しか持っていないので、今は学校の制服だ。着物以外の服を学校の制服しか持っていない辺り、筋金入りである。
今度下着はどうしているのか聞こうと思う。
「それで、黒羽はちゃんとスクール水着を着てきたから、今からチラシ配りに行って来てもらおうか」
「え? 一人? 優樹は? 優樹は!?」
☆☆☆
「もうお婿にいけない……」
本当に、スクール水着のみでチラシ配りをさせられました。優樹監修の元化粧を施され、ニーハイソックスを着用したうえで。胸元には「ゆうき」の文字があるわけだが、良いのかお前はそれで。
あと、優樹は小柄なので、その彼女のサイズのスクール水着なんか俺が着ようものなら破れるのではと思ったのだが、良く考えればそんな、布の素材まで過去の物で再現してはいないだろう。衣服なんてどれもフリーサイズだ。
ただ、俺が一番納得がいかないのは――
「優樹がビラ配りをしなかったことです!」
「いやね? 黒羽。ほら、僕は女じゃないか。それが、男物の水着を着ているわけだから、つまり公衆の面前で胸を晒すことになるんだよ。それはいくら露出狂を自認するところの僕としてもちょっと……」
「露出狂だったの!? 是非見せてください! 後でで良いので!」
「ねー。黒羽。お疲れ。ノルマの三百枚、本当に配っちゃうんだもんね。途中で逃げ帰ってきても良いようにわざわざ着替えを持ってついて行ったのに」
「途中でやめて良かったのか!」
そういえば、どうして律儀にも三百枚全部配ったんだろう!
「まあ、チラシ配りはこれでいっか。今日はこのまんま、当日の出し物についての会議を続けようよ」
☆☆☆
そういえば、龍聖以外は当日何をやるかが決まっていない。といっても、龍聖の出し物も「一人ボケツッコミ」と言う良くわからないものなのではあるが。
「なんか山寺、得意なことある?」
「女の子を落とすのが得意かな」
なんでこんなのがモテるのかはよくわからないが――山寺の自己申告の通り、こいつは女にモテる。聞くたびに彼女が変わるのって一体どうなの? 秘訣を聞いたら、曰くギャルゲで勉強してるとのことで、俺は世の理不尽さを学んだ。
というかぶっちゃけた話、山寺の遅刻の理由のほぼすべてが女性がらみである。本当死ねば良いのに。
「そ、その他で」
「えっと、見ただけで女性のスリーサイズが分かるね。着衣でも」
「優樹のスリーサイズに千円払おう」
「黒羽。別に山寺に聞かなくても、教えてあげるというのに」
「マジですか!」
あとで絶対に聞く!
「山寺、お前女性関係以外でできる事ってあるの? 呼吸?」
「呼吸以外にも、食事をしたり眠ったりすることが特技かな」
「使えねえ!」
はい、なんだ、言い訳はしない。
前書きでも書いたとおり、このコメディパートは――異質です。
どうでもよく見える会話の押収の中に、ポンッと大事な伏線を放り込んだり、ミスリードを投げ込んだり。好き勝手書いてるように見えるかもしれませんけど、全部ともゾンのこれからに必要なお話ですので、もう少し――夏祭りが終わるまで、おつきあい頂ければ幸いです。
ではまた明日。(11/3)
――次回予告兼チラ見せ――
「ああ、そうだ、スカートの中で思い出したんだけど」
―――(ただし予告は変わる恐れがあります)―
では次回。
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