第四話:出し物
はい、第4話ですね。
キーワード:スクール水着
まだ引っ張るのかって? まだ引っ張るのですね。演繹法だとだめだ、カオスになる←
ちなみに、私と同じ部活(運動部)の先輩もこの小説を読んでいるみたいなことをおっしゃっていらしたのですが……あんまりスクール水着について語っても大丈夫かな。社会的に死にそうじゃねえ?
さて冗談はさておき。これが無事投稿されたということは、ニューイヤーズイブイブイブ? あと3日で新年、ですかね。なう11/2
では。
放課後すぐに、山寺の家へ行くことになった。
「夏祭りまで、あと、今日と明日――水曜日、木、金、土しかないね。本番は日曜日の夕方からだろう?」
「そだよ」
「山寺、せめてもっと早くに言えよ」
という会話があって。
最早一刻の猶予も無いということで、さっそく会議することになったのだ。
昔から、何かを話し合うときは山寺の家だと決められている。いや、正確には決められているわけではないのだが、気付けば四人で大事な話をするときは山寺の家に居て、そこにはパブロフの犬的条件反射が存在するのかもしれなかった。
偶然にも朝と同様、靴を履くのももどかしく、といった体でスニーカーを下駄箱から取り出すと、蓋を閉めたかどうかを確認する間も惜しんで自転車を取りに。学校から徒歩二分のところに家がある龍聖以外は自転車だ。
自転車に乗って、校門へ。龍聖が待っている。
「鞄だけなら持ってやるぞ」
「おー、さんきゅ」
自前のリュックサックを背負い、自転車の前カゴに龍聖のを入れる。
「で? 俺はどうすんの?」
準備万端、先に行き始めている優樹と山寺を追おうとペダルを力いっぱい踏む瞬間、龍聖が聞いた。
その問いにはもちろん、こう返すしかないのである。
「走れ!」
☆☆☆
白木丘神社のある白木山の麓にある駐輪場に自転車を置く。
「わざわざ走らせなくても、黒羽が乗せてくれば良かったんじゃないかい?」
「いや、ほら。校則違反じゃないすか」
学校からここまで、俺たちとほぼ変わらない速度で走ってついて来た龍聖が呼吸を整えている。それを、優樹は横目で見ながら、俺は極力視界から外しながら。
「校則違反? 今時、法律でも二人乗りは禁止されていないよ」
二六世紀まで、自転車の三人乗りはおろか二人乗りさえ禁じられていたというのだから驚きである。どれだけ自転車の性能が悪かったのか、不思議だ。
優樹は、恐らくそのことを言っているのだろう。
「いやあ、あっはっはー。ほ、ほら、なんかほら、あれだよほら」
なんとなくノリで、とか。
そもそも希望子製モーターがついた電動自転車なのだから、二人乗りをしようが、転倒の危険性というものはまったくないのだが。
何故俺が龍聖の乗車拒否をしたのかというと、だ。
――そっちの方が面白そうだったから。
友達なんて、案外そんなもんである。
と、そこで。
山寺の能天気な声が入る。
「そんなのどうでも良いでしょ? 早く会議しないと」
「ふむ。確かにその通りだ。龍聖が走ったからって、別に誰かが損をするわけでもあるまい」
「じゃあ、上りますか――階段」
おどけた調子で言う。
というかおどけでもしないと、白木山の石階段は上れる気がしない。階段というか、もはや石が突き出した坂だ。それが見上げて百何メートルも続くのだから、大変な重労働。
三十段ほどですぐに足が重くなった。
「おーい、黒羽、早く来いよ! 体力ねぇなあ!」
遥か上の方まで一息に駆け上がっていった龍聖が、こちらを見下ろして叫んでいる。お前は体力ありすぎなんだよ。
龍聖に「こちとら中学校から帰宅部皆勤賞だコノヤロー! 体力なんてあるか!」と怒鳴ってから、優樹の背中を押してまた上り始める。彼女もまた、俺と同じで万年帰宅部であるから体力の無さは折り紙つきだ。
それから十段ほど上がったところで、龍聖と山寺は、もう頂上まで辿り着いてしまったようだった。
「くそ、こんなことなら中学校の時になんか部活に入っておくべきだった……」
「部活に入るのなら、今からでも遅くはないんじゃないかな」
中腹、少し広くなっているところで休憩。呼吸を整える。
そういえば――どうして俺は、中学校の時に、何の部活にも入らず、帰宅部を選んだのだろう。
☆☆☆
――――――システム、オールグリーン。問題ありません。
☆☆☆
ああ、そうだ。
その時の俺は病気で、まともに走ることすらできないような状態だったのだ。思い出した。
中学校入学と同時に、両親は言ったのだ。曰く――お前はまだ、運動はできないから、部活には入るな。
確かに、走ることすら覚束ないような運動音痴だった覚えがある。
その延長線上で、高校でも帰宅部を選んだのだ。
中学校で何か部活をやっていれば、高校でも同じ部活を続ければ良いのだから、少なくとも帰宅部を選ぶことはなかっただろうに。
「優樹はなんか部活に入らないのか?」
「黒羽が入った部活のマネージャーにならなっても構わない」
「はあん」
つまり、何もやる気はないってか。
「……黒羽専属のマネージャーなら、今すぐにでも」
「え? 今なんて?」
吹き下ろしの風が、階段の周りに密集している竹藪を掻き乱した音のせいで、うまく聞き取れなかった。
「な、なんでもない!」
☆☆☆
「それでは第一回! 夏祭りで何をやればよいのかを決める全国首脳会談を始めます! いえー!」
いえー。
惰性で手を上げて、やる気のない掛け声。これも習慣みたいなもんだ。何回やっても第一回だし、毎回首脳会談だし。
司会は山寺。神社の奥、山寺家の――山寺の部屋。そこには、どこから拾ってきたのか、ホワイトボードが置いてあるのだ。
いつ来ても驚くほどに掃除されていて、床には何も落ちていないし、机の上には消し屑一つすら見当たらない。彼はこれで、潔癖症らしかった。確認したこともする気もないが、窓枠も綺麗に掃除されていることだろう。俺の部屋とは大違いだ。
「それでは優樹さんから順番に、意見をどうぞ」
「ふむ」
腕を組んで、右手を顎に当ててしばし考え込む。それは髭が生えた探偵かなんかの仕草だとは思うのだが、優樹には妙に似合っている。利発そうな瞳が少し伏せられたその姿は、まるで絵画のようだ。美術部にでも入って、優樹にずっとモデルを――どうやら、先ほど優樹とした話が尾を引いているらしい。
美術部、に違和感を覚えたのだが、なぜかはわからない。何かが思い出せそうなのに、あと少しが出てこない、気持ちの悪い感覚。
「そうだね。まずは、僕たちに、ちゃんと夏祭りについての説明をしてもらおうか」
話はそれからだ、と、続ける。
「それもそうだね。ちょっと待ってて、チラシあったはずだから、持ってくる」
そう言って退室し、数秒で帰ってきた。早いな。
「ああ、うん、隣の部屋にあったんだよね」
それを一枚ずつ手渡してくれた。
「白木丘神社夏祭りのお知らせ」と頭に書かれたそれに目を通す。
「読みながら聞いてね。……えっと、開催日は九月一日、日曜日。場所はここ、白木丘神社境内」
はい、と、律儀にも挙手をしたうえで、優樹が言う。発言時は挙手――これもなんというか、習慣である。四人が四人とも、これで律儀なものだから、一度こうだと決まったものは大体そのまま守られていくのだ。
「それに続けて、開催は七時。そんなことは、これを読めばわかるよ。僕が聞きたいのは、そういうことじゃない」
あのね?
と、前置きして、一度空気を切り替えて。
「僕たちは祭りを盛り上げる係に、勝手に、就任したのだけれど」
心なしか「勝手に」が強調されているように聞こえる。優樹も、なんだかんだで腹に据えかねているらしい。そりゃそうだ。山寺も、どうしてこんな、祭りの目前まで黙ったままでいたのか。
「それで、盛り上げるとは――ざっと、一口に言っても、どういった風に盛り上げたら良いのだい? 集客かい? 出し物かい? それとも、出店でもやれば良いのかな」
その問いに対して、山寺は少し考え込んだ後、
「えっとね……集客と、出し物かな。一人でも多く呼んで、来年もまた来たいと思えるような楽しいものにする。それが仕事かな」
「あれ? 俺良くわからないけど、なんか多くね?」
「なんでお前はもうすでに話についてこれていないんだ」
☆☆☆
集客については、白木丘にある二つの小学校と一つの中学校、それと俺たちの通う白木丘高校にチラシを配り、市内でもゲリラ的にチラシを配る、ということでひとまずは決定とした。
さて、その上で問題は、といえば。
「出し物、が決まらないんだよな」
「俺漫才! 漫才が良い! 古典芸能の漫才! 大昔にやってたとかいうアレ!」
龍聖の意見。
面白ければ何でも良いから、意見を出すだけ出してみろ、という優樹の助言に従って出した答えだ。
「漫才……漫才か。なんだっけ、ボケとツッコミ? がいるんだっけ」
山寺が、とりあえずホワイトボードに「龍聖は漫才をする」と書きながら言った。
それなんか怖いのだが。その書き方だと龍聖が一人で漫才をするみたいになっているではないか。……いや、ピンネタとかいうのもあったはずだから、一人でも漫才はできるの?
「二一世紀あたりが最盛期で、それからだんだん廃れていき、二三世紀に再ブレイク。この世にはボケかツッコミの二種類の人間しかいないとまで言われていたらしいね。だが、それも盛者必衰。二四世紀にはすっかり廃れてしまって、昨今では西日本州の上方ってところでひっそりと受け継がれる、ただの伝統芸になっている」
歌舞伎や宝塚なんかと同じだね、と、最後に締めくくった。拍手。
「へー、なるほど」
山寺が、「龍聖は漫才をする」の横に、大きく一人ボケツッコミと書き加えた。良いのかそれで。ふと龍聖を見ると満更でもなさそう――いや、寝ているだけか。優樹の話が始まった途端に船をこぎ始めたのは、横目で確認している。
「良くそんな、歴史の資料集の隅っこにしか書いてないようなことまで覚えてるよな……」
俺は、資料集の隅っこにそんなことが書いてあったような……程度にしか記憶していない。
突然、優樹が俺に問題を出した。
問題、から始まり、
「歴史資料集二八ページ資料三の写真は何?」
と、続く。
本来であれば、そんな細かいところまで覚えているのは優樹だけだよとツッコミを入れていたところではあったのだが――
だが。
幸い、というにはあまりにも。
偶々、というのには少し抵抗があり。
つまるところは、心当たりがあるわけでして。
歴史資料集二八ページ資料三の写真、その答えは――
「スクール水着」
これで間違いない。
なにせ今日の歴史の授業中、ずっとこのページを――おっと。
それを聞いた優樹は、ふ、と、鼻で笑い、嘲笑を顔に浮かべた。
「正解。君も良く見ているじゃないか」
「え、なんで正解したのにそんな馬鹿にするような態度で」
恐らくは――照れ隠し。
優樹は本質的には露出狂なのではないか、と俺は信じてやまないが、同時に彼女は、なまじ記憶力が良いがために、こうやってやらかしたことを思い出しては恥じ入るのだ。今回は昨日の件だろう。
そして、そういう時は大体、どこか他人を見下したような態度を取る。それで他人と距離を取り、一度仕切り直しとする――そんなつもりだろう。そのことが分かっている俺としては、可愛い限りなのだが。抱きしめたい。
「おっけー、スクール水着だね」
「ちょっと待て! 話せばわかる! 早まるな落ち着け!」
山寺が、ホワイトボードに「黒羽はスクール水着」と書いたのを、結局止められなかった。あのホワイトボードに書かれたことは、会議が終わるまでは消されることはない。もちろん誤字や、多数決などで通らなかった意見は別だが。
「おい山寺! それ、黒羽はスクール水着がなんだ! 着るのか! 黒羽はスクール水着を着るなのか!? せめて! せめて「黒羽はスクール水着が好き」とかにしといてください!」
見るのは――とりわけ優樹が着ているところを見るのは好きだが、自分が着ても楽しいとは思えない!
「それじゃあ、黒羽は僕のスクール水着を着ると良い」
「社会的に死ぬっ!」
「じゃあ誰のスクール水着を着るんだい!?」
「着ないよ! そもそも着ない――いや、自分のを着るよ! 男物のスクール水着!」
「あ、うん、了解」
待て早まるな山寺――!
抵抗空しく。結局、「黒羽はスクール水着」の斜め上には「女物」と付け足された。赤で。
「無理無理無理無理無理! 無理だろ! 無理だろ!?」
「大丈夫だよ、黒羽。僕がちゃんと貸してあげよう」
「いらねえ! ……あ、やっぱり個人的にください」
前半部分は叫んで、後半部分で打診。出来れば一度着用してから、そのままいただけると非常に喜ばしいです。家宝として一生奉ります。いっそ崇めます。
「まあまあ、良いじゃないか、黒羽。スクール水着、あれはなかなか良いものだよ。黒羽もそう思うだろう?」
「見る分にはな! 着たいとは思わねえよ!」
「良いじゃん、黒羽ー。着ちゃいなよ」
「着てどうしろってんだ! 集客か!? 引くわ!」
「ああ、うん、そうだね、集客してくれると助かるかな」
墓穴掘った!
「それじゃあ優樹! 優樹は男物のスクール水着が良いと思います!」
自分でも何を言っているのかわからない!
「黒羽がスクール水着を僕にくれるならね!」
優樹が何を言っているのかもわからない!
その日は、結果として。
ホワイトボードには、龍聖が漫才をする、黒羽はスクール水着(女物)で集客、優樹もスクール水着(男物)で集客と書かれるだけで議論は終了した。
黒羽君、スクール水着に目覚める。優樹さんのせいですね。
ちなみに、作中で言う二一世紀のスクール水着は、旧式の方です悪しからず。
では、また明日。
――次回予告兼チラ見せ――
「やっぱり、本当に――着るの? これ」
―――(ただし予告は変わる恐れがあります)―
では次回。
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