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第二話:二七世紀の温暖化事情

 というわけで、どうみても学園ラブコメ、ただし歪でしかない章、Outside~の二話です。しばらくは、学園ラブコメが続きますが、今までにない頻度で伏線が貼られていきますので――おつきあいください。ヒントもばらまいてあります。そろそろ、物語の謎が見えてきたという方がいらっしゃるかもしれませんね。


 ミスリードは、かなりの数出来るようにしたつもりですが。


 ではではー。

 地球温暖化には歯止めがきかなかったので、人類は大地を放棄した。それが二三世紀の末の話。

 南極の氷が完全に溶け消えてしまい、水位は上昇。ツバル等の国は完全に水没した。他にも、いくつかの島国やなんかは水没したところが多く、そういうところは、水没しなかった内陸国やなんかに、国ごと移住したのである。

 D.F.S.という国――ドイツ語で遊撃艦隊を意味するDas Fliegen von Schwadronの略称。しかし実態は飛行艦に約五億人を収容して世界中を飛行する国。武力装備もあり敵に回した国にはほぼ勝ち目がない――なんかは、空に新天地を求めた、その先駆けの国である。

 ただ、日本はそうはいかなかった。技術的に他の国々を牽引する最先端国であるところの日本を海に沈めると、大変にまずいことが起きるのだ。つまり、研究成果やら大型の機械やらが放棄されるわけにはいかないということである。国家機密なんてそれほど星の数ほどある日本にとって、海外への研究施設の移転は情報漏れのリスクが大きく、そうまでして海外に逃げようとは思わなかったのだ。


 ゆえに。


 ゆえに、日本は、地面を浮かせた。そうすることで、海面が上がった分陸地も高くし、結果として水没しなかったことにした。

 ただ、「浮かせた」はもちろん比喩表現であり、実際のところは、E.U.のイタリア領、水の要塞ヴェネチアと同じことをしただけであるが。ちなみにE.U.は、北欧、イギリス、スイスを除く、ドイツ中心のヨーロッパ諸国の軍事同盟の作った国である。

 要するに――ヴェネチアが木の杭を海に打ち込んで、その上に町を作った様に。日本は、京帝都大学の発明したアダマンタイトの支柱を旧日本国土に打ち込み足場とし、その上に日本アルプスや富士山から削った土をかぶせて、そっくりそのままの形で、日本としたのだ。

 アダマンタイトは、金剛石に生物的な特徴を組み合わせた結果、生きた鉱物として生産された、もとは架空の鉱石である。伝説で語られていた時のキャッチは、「地上で最高の強度を誇る」。反面、火や熱に弱いという特性もあるのだが――それは、海中に沈んでいるため関係のない話だ。

 

 沿岸部では、今まで通り海に面している地域もあり、例えば俺が住む町――白木丘市、という――がそうだ。夏は海水浴だってできるし、数少ない国内の海水浴場ということもあり、夏場は水泳客で、それ以外のシーズンは釣り人達で、それぞれ賑わう場所である。


 そして、ここからが本題であるともいえるのだが、町が海に面している以上、地震が起きたら津波が来るのは当然のことである。

 ただ幸運なことは、よほど大きな津波でない限りは、白木丘では海水浴すらできるくらいに津波を逸らす技術が発達していることである。白木丘の東と西、隣の市のどちらもの陸地が、海面より数メートルも高くなってしまっているがゆえに、海水の流れをそこに誘導させることができるからだ。

 だが――もちろんだからと言って、学校側が楽観視するわけがなく。

 俺たちは靴も履き替えないまま、白木丘の北にある、高台まで避難中なのであった。今日はついでに臨時休校らしい。あと一時間もすれば帰宅許可も出る事だろう。


          ☆☆☆ 


「そういえば父さん、新聞は?」


 帰宅。

 研究職に就いているがゆえに不規則な父は、何日も家に帰らないことがあったかと思えば、数週間毎日、出勤して五時間ほどで帰宅するなんてこともしばしばで、だからまだ日も昇りきらない午前一一時に家にいても、別におかしくはなかった。


「新聞? 白木丘新聞ならあるぞ」

「ん、ありがと」


 白木丘新聞。地元白木丘新聞社が発行している新聞だ。料理のレシピやなんかの記事にやたらとページを割いていて、料理マニアの中にはわざわざ市外から取り寄せる人もいるくらいらしい。

 うちは、この地方マイナー紙しかとっていないのであった。我が家に新聞を読む人間がいないからだ。それでも白木丘新聞をとっているのは――そういえばなぜだろう。

 気にはなったが、今はそんなことより、地震情報である。つい一時間半前の地震の事が、もう記載されている。見ると、右端に号外と書いてあった。

 見出しには、「震度七の地震、死者行方不明者なし」とある。震度七。昔はこの程度の震度で大被害を受けたというのだから驚きである。いまや建物の損壊一つ、土砂崩れ一つさえしない。マグニチュードは九・一だとか。この規模の地震はめったに来るものではないが、それでも、そのめったに来ない地震の中では大したことのない規模だ。学校の校舎などは古いため別だが、基本的に建物の中にいれば、そもそも揺れを感じることもないだろう。

 わざわざ避難することもなかっただろうに――とは思うが、面倒な課題テストが中止になったので良しとする。なんだって始業式の日にテストなぞせねばならないのか。


「これいつ来た新聞?」

「地震が起きた直後、大体一五分ぐらい」


 なるほど。

 それなら、最新の情報ではないわけか。

 テレビをつけたら、ニュースでもやっていないだろうか。なんとなく、地震情報が気になった。なぜだろう。「地震」というワードに良く聞き覚えがあるのだ。


 ここはリビングである。

 テレビに向かって、電源オン、と言う。つかない。故障か?


「ああ、黒羽。今年になってすぐぐらいから、テレビは故障したって言っただろう?」

「え? ああ、そうか。そうだったな(、、、、、、)


 普段、まったくテレビを見ないから、すっかり忘れていたようだ。

 家族の誰もテレビというものを見ないし――そもそも父と母に至っては、見る時間自体がほとんどない――故障したなら故障したで誰も困らない、修理するのも面倒だから、と放置が決定したのである。


 テレビがつかないのなら、パソコンだ。


「父さん、パソコン使って良い?」


 我が家にはパソコンが無い。

 だから、父が仕事用に使っている物を借りるしかないのだ。一応、断りを入れる。


 それに対して、父は、


「あー、すまん。パソコンな、研究室に置きっぱなし」

「あ、そう」


          ☆☆☆


 ――――――システム、オールグリーン。問題ありません。


          ☆☆☆


 まあ別に、「地震」というワードがやけに引っ掛かったから、ただなんとなく今回の地震情報を調べようと思っただけで――調べられないなら、それでも良いか。

 と、早々に地震についての興味を無くした俺は、自室に引き上げた。二階だ。


 二階に上がる階段は、玄関から入ってすぐのところにある。

 十数段のそれを上ると、階段は左に曲がっており、右手にはトイレと、そして母の資料部屋のドア、正面には父の資料部屋のドアがあり、一、二メートルほど進んで左に曲がると俺の部屋がある。

 母の資料室は英国の国家機密がそれこそ尋常でない量収められていて、うっかり見ようものなら抹殺されかねない。だから、常に鍵がかかっていて、出入りできないようにしてある。そういえば母は今、出かけているらしい。

 父の資料部屋は、研究のための簡易設備もあるので、少し広い。といっても十二畳くらいで、それらを埋めるように配線やらビーカーやらなんやらで足場が不安定、更に触れると危険な薬物、特殊な許可が無いと手に入れるどころか知ることすら叶わないような薬品が並べてあるため――こちらも同様に立ち入り禁止。

 

 自室のドアを開ける。二階ではこの部屋だけ鍵がついていない。ただ、両親とも、資料室には厳重すぎるともいえる鍵が取り付けられているので――それこそ非正規に開けようと思えば核爆弾を持ち出しても無理なのではないかといった具合の気の入りようで――もしも空き巣がうちに入ろうものなら、真っ先に俺の部屋に来るだろうと、最近は鍵をつけることを両親に打診している。

 七畳半。広くもなく狭くもなくといった空間。

 我が家で一番風通しが良く、日当たりも良好。夏はカーテンさえ閉め切って、日光を遮断してしまえば涼風が部屋を渡り、冬は窓を閉じれば日光だけで十分の、冷暖房いらず。さすがに、四五度を超えるような猛暑になろうものならクーラーもつけるのだが。

 希望子(デザイアンニウム)が発明された今、電気は使い放題、無限の資源である。地球温暖化も、希望子発電が全世界百パーセントになった時がピークで、以降、下降の一途をたどっている。


 部屋には本棚が林立している。俺より背の高い本棚が一、腰くらいの高さの本棚が七。勉強机に、二段ベッドの下半分。

 そういえば、どうして二段ベッドの、それも下半分なんかが俺の部屋に置いてあるのだろうか。なにぶんこのベッドは小さい時から使っている物だから、記憶が曖昧である。父がどこかから譲り受けて来たのだったか。


 制服を脱ぎ、適当な部屋着に着替える。今日はどうせ、外出禁止だ。予報では余震のマグニチュード・震度ともにあまり大きなものは来ないはずなのだが、それでも万が一があるからである。

 ベッドに座って、携帯電話の下半分、電源ボタンを長押しする。二一世紀から二五世紀まではタッチスクリーンのものが流行ったらしいが、最近はこちらの方が主流だ。

 十字キーより下しか存在しない本体。電源を押すと空間投射型スクリーンが展開されて、画面となる。また電源ボタンを押せばスクリーンは収納される。見た目は、エアコンのリモコンみたいだ。

 最近はリモコンなんて見られないらしいが、祖父の家ではテレビもエアコンもリモコン式なのだ。発声式が主流になって一体何世紀経とうというのか、という今になって尚、祖父母は機械音痴である。珍しい大昔の家具が見られて楽しいといえば楽しいが。


 メールチェック。

 五組の友達から安否の確認、優樹からの雑談メール、龍聖からの心配してくれているのか、秘蔵の画像を送る、とかなんとか要はエロ画像を大量に添付したメール。山寺からもメールが来ている。

 それらに返信していく。五組の友達には、普通に「無事だ」と打ち、少し考えて「そっちも大丈夫そうか」と返す。


 優樹は我が家の斜向かいの古式ゆかしい日本家屋の大豪邸に住んでいる。私服が着物とか、どれだけキャラ付すれば気が済むのか、って話だ。なんでも、母が茶道の大家なんだとか。

 大和撫子として順調に育てばよいものを、どこで間違えたか口調は書生風だし、一人称は僕だし、時折女子とは思えないような変態ワードが飛び出すし。俺はこんな奴のどこが好きなのだろうとたまに思う。

 彼女からのメールは、「恋人は右手」というわけのわからない文面に、右手の写真が添付されたものだったので――断じて意味のわからないものだったので、断じて、断じて! ……とにかく「どういう意味だ? 良くわからないからもっと詳しく説明してくれ」と返信。


 龍聖には秘蔵の子猫の全裸画像を送っておいた。というか子猫はそもそもが裸である。

 ちなみに龍聖は猫が嫌い、というかトラウマがあるらしく、あのひげを見るだけで鳥肌が立つとか言っていたが――それはきっと俺の勘違いだろう。猫の可愛さは万物に勝る。布教活動に余念は――猫? そのワードがやけに引っ掛かるが、大したことではないのだろう。人間、生きていれば良くあることだ。


 山寺からは、「右手と恋人」というわけのわからない文面と、恐らくギャルゲーが表示されたノートパソコンと、マウスを持つ右手が写された写真が添付されてあった。こちらは本気で意味が分からなかったので、無視を決め込んだ。


 しばらく漫画を読みながら時間を潰す。学校という予定が潰れてしまったら、帰宅部・無趣味の高校生なんてこんなもんだ。正直――することが無い。優樹の家にでも行こうかな、などと考えていたら、メールを受信。優樹と山寺と――山寺と山寺と、って、一体何通送りつけてきやがる。

 優樹から、「知りたいなら服を着てこちらに来てくれ、僕も服を着るから」という返信。別に俺は家で全裸の人じゃないのだが、優樹には「今裸なのですか!? 着ないで! 三秒で行くから!」と返信しておいた。丁度良いので、遊びに行こう。まさか本気で全裸ではないだろう。

 山寺からは、同じ文面と、微妙にアングルを変えた写真が添付されたメールが何通も届いたが、無視。芸術の探求中らしい。素人が邪魔するのは野暮ですよね。頑張ってください。


 龍聖からは、返信が無かった。


          ☆☆☆


 優樹の家は広い。うちの両親はかなりの高収入ではあるが、そのレベルでも数年は何も買わないで貯めないと買えないような、そして買ったとしても維持できないような、広大な屋敷。

 屋敷をぐるっと取り囲む白塗りの壁を横目に見ながら、家から出て、斜向かいであるのにも関わらず――なんと十分も歩くと門に到着。見上げることが必要なくらい大きい。木でできた立派な門だ。

 横の通用門から中に入る。ここの娘である優樹さんと仲の良い俺は、わざわざ使用人に取り継がなくても、勝手に入ってくれば良いじゃないみたいなことを優樹のお母さんから言われているので、勝手知ったる、といった感じで中に。枯山水の庭を眺めながら、敷地内に入って尚数分歩くと、屋敷の入り口――玄関。

 本来の客であれば玄関から入るのが普通なのだろうが、優樹は部屋に友人を呼ぶとき、庭から直接上がって来いと言う。茶の湯を立てるための茶室が玄関脇すぐそばにあることが原因らしい。五月蠅いのは後で怒られるのだ。

 よって、玄関の前で右向け右、壁に沿って歩く。数分、そこを壁に沿って左に曲がると、優樹の部屋だ。窓をノックする。


 すぐに窓が開けられた。窓と言っても、大きな窓だ。上り框代わりの大きな石の上に靴を置いて、そこから玄関のように出入りする事が出来る。


「入ってくれ」


 カーテンで体を隠しながら優樹が言う。


「まさか本当に裸なのですか!」

「いいいいいや違うけど?」

「じゃあそのカーテン除けてもらっても良いっすかね!」

「断る!」

「いや、普通に普通に。優樹がそこを占拠してたら部屋に入れないんだけど」


 左右のカーテンを引っ張って体を隠しているものだから、入口が完全に封鎖されてしまっている。

 しぶしぶ、といった体で俺から見て左側のカーテンを身に巻きつかせながら道を開けてくれた。その時一瞬見えた優樹の体は――驚きの肌色率だった。ただ――


「裸……ではない」

「残念だったね! 僕がそんなに簡単に君に肌をさらすと思うか! いや思わない!」


 だったら。

 だったら、どうしてカーテンを身から外さないのかな? と、自分が思う――最高の爽やかスマイルを浮かべて言った。


「さあ、カーテンを外したまえ!」


 優樹の口調を真似て、言ってみる。なんだか悪代官になった気分だった。



 まだまだ続きますよー、歪な学園ラブコメ。

 とはいえ、優樹さん、リメイク前「しない♪」で龍聖とコンビ組んで登場していた時は、男でした。ってあれ、この話、まだ投稿してない部分なのかな。最終章だけは書いてるんだけど。

 さておき、前作では男だった優樹も、ともゾンでは女になったうえ、なんかエロエロな女子になりました。彼女が登場するとエロコメになりそうな予感しかしないので、気合でラブコメにおさめます。全裸になりたがるし不規則発言多いしで大変だとは思いますけどね。こういうキャラの方が動かしやすいのも事実。


 では、たしぎでした。



――次回予告兼チラ見せ――

「黒羽、久しぶりの学校はどうだった? 疲れてないか? 身体におかしなところとか、違和感とか――」

―――(ただし予告は変わる恐れがあります)―



では次回。


誤字脱字、変な言い回しの指摘、感想、評価、レビューお待ちしております――――


評価、感想、レビューなどして下さったら、いつもの八倍泣いて喜びます←ここ大事


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