第七話:秘密基地
一っ日っ一っ話っ!
一っ日っ一っ話っ!
こんばんは、今これ書いている時点で10/19の0:04です。
では、どうぞ。
姉がギルドに加入した。俺のギルドに直接、だ。妹も当然うちのギルドに入る。
昼を食べ終わり、城下を案内しながら小一時間でギルドに帰った。帰宅した、ともいえる。
姉と妹は女王の薔薇領を追い出されたと言っていたので、ギルドの部屋を分けることにした。ギルドに部屋を持つ人間は、所属するギルドのマスターか、親ギルドである俺のギルドメンバーのみである。俺は、アサクラにそれとなく掛け合って、ギルドメンバーにマスター直属のメンバーが二人増えたという説明をさせることに。ギルドマスターでない直属のメンバーはこれで四人だ。
姉と妹の強い要望により、部屋は俺の隣で、二人で同じ部屋。部屋を割り当てることを提案したら、即座に姉は断ったが、二人で一部屋を使うということで納得してくれた。肩身が狭いらしい。今は、二人でその部屋にいる。
俺もモンスターのドロップ品を整理しようと思い、自室に帰った。隅に簡素なベッドが置かれていて、革張りのソファが向かい合うように一対。ソファは、応接室があるため使ったことが無い。せいぜいアサクラが遊びに来てごろごろしたり、リラがティーセットと分厚い本を抱えてやって来た時に腰掛ける程度にしか使われない品だ。
俺はそのソファに腰掛けて、ガラスのテーブルにドロップ品を並べていた。とりあえず全部ポーチにしまっていただけだったので、ぐちゃぐちゃだ。
その時だった。ノック音が三回。はーいどうぞ、開いてますよ、と返事をする。
「失礼します。あの、クロウさんのお姉さんと妹さんなんですけど――直属のギルドメンバーなら、一応、役職を与えておかなければまずいのではないでしょうか……?」
先にギルドに帰っていたリラが、部屋にやってくるなり、そう提案した。
「どうしてですか?」
「いや、その、いきなりマスターが連れてきたプレイヤーがこんなに好待遇だったら、他のギルドメンバーは良い思いをしないのではないかと……」
「あ、ごめんリラ、そうですよね。身内贔屓はしない方が……」
「い、いえいえ、私の意見ではないですよ! あくまで他のプレイヤー達がどう思うかで……」
少し考える。
別に役職をわざわざ与えなくても良いような気もするのだが……
「それなら、マスターの昔の知り合いが加入したとかでも良いんじゃないでしょうか?」
それこそ、俺が最初にパーティを組んでいたメンバーと再会を果たす事が出来たので、再び加入してもらった――とか、いかにもそれらしい理由ではないだろうか。
「クロウさんが正体を隠していなければそれでも良いんですけど、メンバーの中には、マスターが誰なのか知りたがっている人も少なくないですし、そんな時にマスターの知り合いがふらっと現れたら……」
「質問攻め、ですね?」
「そうなる可能性も考慮しなければなりません」
難しいな。
「それで、役職を与えれば、と。なるほど、それならマスターが有能な人材を引き抜いてきた、と言い張れますね」
「それだけじゃありません。彼女たちが感じる肩身の狭さだって……役職を与えられることで恐らく緩和されるはずです」
「ああ、確かにそうかもしれませんね。それなら……試しに、何か役職を任せてみようと思います」
リラに礼を言うと、彼女は部屋を出て行った。暇になったらなったで、今度は新しい用事が入ったらしい。俺の部屋に寄ったのは前を通ったそのついでだとか。
姉と妹に任せられそうな仕事。そもそも、他に何か役職が余っているわけでもないし……
姉と妹のできることを考えてみる。
姉は料理が得意だ。職業は料理人で、最近まで喫茶店を――
そうだ、ギルドの料理長にでもすればよいのではないだろうか。妹はウエイトレスで。姉の店でもそれをやっていたと言うし。
「姉ちゃん、サーラ!」
部屋を出て、隣の部屋に入る。開口一番に、喫茶店やらないか――と言おうとして。
妹をベッドに押し倒している姉と目が合った。
「し、失礼しましたー」
「ち、違うよ黒くん!」
☆☆☆
慌てた様子で追いかけてきた姉に捕獲されて、部屋に連れ込まれた。
「せ、説明と弁明と言い訳をさせて! お願い!」
「…………どうぞ」
「黒くん! こっち! お姉ちゃんこっち! 目を見て話そうよお願い!」
何故だろう。今、俺は姉のことを直視できない……
「お姉ちゃんは何もしてないよ! してないから! ねえ黒くん! 黒くん?」
「……サーラ。姉はこう申しておりますが、事実は」
こういうのは、本人に聞いてしまうのが一番早いだろう。
すると、サーラはベッドから体を起こし、乱れた服と体を掻き抱くようにする。髪が何本か、口の端に咥えられている。
「わたし……このひとにおそわれたんです……!」
「…………姉ちゃん」
「抵抗したんですけど……でも力で負けて……」
「…………姉ちゃん」
「そして無理矢理わたしのじゅんけつを……」
「姉ちゃん!?」
目の前の姉の両肩を掴み揺すぶる。
「あんた実妹に何やってんだ!」
「ちょ、事実無根! 事実無根ですから! お姉ちゃんそんなことやってない!」
「でも、サーラが!」
「あれドラマの真似だって! 確か!」
「小学生がなんてドラマ見てやがる!」
「ああ、ご主人様~メイドの花弁~」
「なんてって別にタイトル聞いたわけじゃねえよ! しかもなんてタイトルだ! こんなもんが地上波で放送されていて良いのか!?」
「地上波じゃないよ、お兄ちゃん。あのね、お父さんの部屋で見つけたの」
「サーラそれは見たら駄目な奴だから!」
最後、姉と声が被る。好き勝手に叫んでいたからか、息が切れた。姉と二人、荒い呼吸を繰り返す。そのうちにさっさと服を直してしまった妹が、ベッドに腰掛けながら言う。
「あはは、お兄ちゃん。ちょっと遊んでただけだよ。ね、お姉ちゃん」
「そ、そうだよ! そうだよ!」
妹はこんなにも落ち着いているのに、姉はどうしてこうも落ち着きがないのだろうか。
まあ、今はそんなことより、だ。不慮のアクシデントでうっかり忘れるところだったが、俺がこの部屋を訪れたのは、姉妹に料理長を任せるためである。
「あのさ、姉ちゃん。このギルドの一階に、余ったスペースがあるんだけど……そこで喫茶店でもやらないか? 一応ギルド内での役職は料理長ってことにしてさ。サーラはその補佐で」
「……良いの!?」
「良いよ、スペースは余ってるんだ。……サーラも、ウエイトレスとかやってくれないか?」
「任せて、お兄ちゃん。この前までお姉ちゃんの店でウエイトレスやってたの」
それじゃあ、任せたぞ、と、ギルドメニューを開いて、役職の欄に新しく「料理長」を書き加える。権限は、他の幹部と基本的には同じ。特権として、ギルド内の食品関係全権を一任する。そして、一人の補佐を置くものとする、と。補佐の欄にはサーラの名前を入れておいた。
「完了」のボタンを押して、これで良し。
「じゃあ、今から姉ちゃんは料理長で――サーラは、その補佐だ」
「うん、任せて! 頑張るからね!」
「お店の内装はお姉ちゃんの好きにしても良いんでしょ? 黒くん」
「ああ、任せる」
それから話がどんどん脱線していって、雑談に耽ること数分。
メッセージが届いたことを知らせるベルの音。プレイヤーカードを交換した人とだけ送受信できるメッセージだ。差出人はアサクラ。
====
アサクラ
件名:なし
本文:今、暇ですか
もし暇なら、一人でアサクラの部屋まで来てくれませんか
====
それを見て俺はもちろん、
「ごめん、姉ちゃん、サーラ。ちょっと用事が出来たから行ってくる」
「んー、行ってらっしゃーい」
☆☆☆
ギルドの二階は居住区になっている。客間や、プレイヤーが住む部屋だけしか無い。例外としてバルコニー。食堂もあるにはあるが、それは一階の酒場からNPCを経由して買っているだけに過ぎず、二階のは食堂というよりむしろ、ただの食べ物売場と言った方が正確だったりする。
また、三階には会議室、応接室、資料室、作業室があって、これらは一般開放されていないエリア。
一階の酒場からは――もちろん二階からも別の階段があるが――三階に直接繋がっている階段があって、そこだけ一般プレイヤーも立ち入り可能となっている。何があるのかと言えば、温泉である。さすがに露天風呂こそ用意できなかったが、図鑑でしか見られないような檜風呂に、タイル張りの水風呂、電気風呂にジャグジーに、縦横百メートルの大湯船。
他にも、遊戯室と温水プールが設置されており、どちらも盛況。プールも温泉も、どうせ水道代なんて取られないので、ギルドメンバーは無料で入り放題使い放題だ。光熱費とかいうものも希望子が発見されるまではあったらしい。
ちなみにだが、ギルドメンバーじゃなくとも利用は可能で、その場合は入湯料を取ることになっているが、そっちはそんなに人が来ない。あと、来たら百パーセントうちのどこかの派閥からスカウトを受けることになる。
さて、四階には何があるのかと言えば、演習場だ。フロアほぼすべてをまるまる埋める大きな演習場。ギルド内での諍いで決闘に発展した時や、新しいスキルや武器なんかを試したいときに使う。ここには、二階からの直通階段を使うか、温泉に行く為の階段とは別の、一階からの直通階段を使って上る。
一、三、四階は、二階の居住スペースと比べて三倍くらい天井が高い。ギルドが城と呼ばれるほどに大きくなってしまった所以である。そんな城の天辺には、部屋の主以外には俺とリラ、ゆーきくらいしか知らない秘密の屋根裏部屋がある。そこは主に遠方を見渡すための偵察、高見台であると同時に――アサクラの私室でもあるのだ。アサクラは秘密基地だと言い張っているが、本当にその通りだと思う。まず、辿り着き方からして尋常じゃない。
二階のモミジとサーラの部屋から出ると、左右に伸びる廊下がある。目の前には転落防止用の手すりがあって、そこからは一階の様子が見渡せた。そこを左に曲がり、何気ない風を装いながら歩き出す。ちなみに右には、すぐ目の前に一階に下りる階段がある。
そのまま突き当りまでまっすぐ進むと、本来ゲームの中であるために必要のない、木でできた掃除用具入れが、廊下の右手、丁度酒場が見える方にあった。
俺は廊下に誰もいないことを確認すると、ロッカーを開ける。中には、モップと箒、新品の雑巾が入っていて、その奥の壁にはアサクラの文字で、「ギルドはきれいにしましょう」と書いた紙が貼ってある。その、「きれいに」の「い」の辺りに、丁度ボタンがあった。紙で隠れて見えないし、誰かが気まぐれで掃除をしても、モップの柄なんかは絶対に当たらないように計算された、それ。
それを、ごく軽い力で押す。あんまり強い力で押すと紙に皺が寄るからだ。アサクラに怒られる。
ボタンをわずかに押し込むと、掃除用具入れの奥の壁が微かな音を立てて左にスライドし、通り抜けられるようになった。
奥は暗いので、意図して押さなかったならば開いたことにすら気付かないに違いない。少し背を屈めて、それをくぐる。
そのスライド隠し扉は、ボタンを押してから五秒で、自動で閉まるようになっている。そして、ドアが閉まって一秒で、いつかケイネスを護衛しながら行った「地底湖ダマスナット」、そこにあった薄紫の水晶を用いて作られたランプが自動で灯る。仄暗いが大体見える、といった光量。
そこは小部屋だ。手を伸ばせばもう、向かいの壁に手が届くような狭さ。
若干の息苦しさを覚えながら、ノックの要領で壁を叩く。三回。アサクラ曰くプライベートマナーだそうで、恋人や夫婦などの親しい関係の部屋に入るときにするものだ。親しい人以外にこの部屋の場所は教えない、という意思表示らしい。
三回のノックをして一分待つと、今度は左手の壁が横にスライドする。今度は光源はそのままだが、俺がこの小部屋を出たらきっとひとりでに消えるのだろう。
背後でスライドした壁が元に戻る。それを確認してから前を見ると、目の前には廊下が伸びていた。俺や姉、妹の部屋、各ギルドマスターたちの休憩部屋なんかがある場所と同じ、赤い絨毯が敷かれた長い廊下。ただ、左手は突き当りまでずっと木の壁で、右手の手すりの部分は、下から見上げてもこちらが見えないように工夫された木のブラインドが取り付けられている。こちらからは一階の様子がばっちり見える優れ物で、これは、「道具職人」から中級職「メイカー」に転職したアサクラが造った。
階下の喧騒を聞きながら、廊下を歩いて行く。御丁寧なことに、床に敷かれた絨毯が一切の足音を消した。
突き当りで、廊下は左に折れている。そこには鍵がかかった扉があるだけであり、ここの鍵は、アサクラとリラ、ゆーきとキリのみが持つマスターキーで唯一開けられない場所でもある。これもアサクラが作成した物で、この鍵は、アサクラだけが持っている。
だから、俺はこれ以上自力で進めない。
メッセージで、着いたぞ、と送る。
返信、今から下りる。ここは二階であり、アサクラの部屋は四階よりも更に高い屋根裏だ。
しばらく待つと、ドアを開錠して、ひょこっ、と、アサクラが顔を出した。顔には満面の笑みが浮かぶ。
「ちゃんと一人で来てくれたんだね」
「当たり前だろ」
俺は、一人で来てくれ、と言われて誰かを連れて行くほど野暮ではないつもりだ。
少し心外である。
「それじゃあ、とりあえず上がろうか」
☆☆☆
屋根裏の展望部屋にやって来たのは三回目だ。一回目は、まだここがアサクラの部屋じゃなくて、複雑な仕掛けも無かった時。二回目は、アサクラがこの部屋を占拠し、通路にセキュリティをつけまくった時に招かれて。その時に、ロッカーと小部屋の通り方を教えてもらった。一回二回なら楽しいだろうが、これを何回も続けるのは少し面倒そうではある。
「あのね、おに――クロウお兄ちゃん。大事な話が――あります」
しばらくラブにはコメってもらいますかね。
さて、今回で、ともゾン初の、章の最終話じゃない七話目。八話目でも終わらず。九話目くらいから本編に戻る……? 六、七、八話は結構日常編。ラブがコメってます。違うんだ! ラブコメが書きたいわけじゃないんだ! でも気付いたらラブコメみたいな話になってたんだ! シリアスに負けたわけじゃないんだ!
次にアサクラとの話を書いて……それで、やっとコンバット・クエイクだ!
では、たしぎでした。
――次回予告兼チラ見せ――
「とってもとっても大事な話――笑わずに聞いて……ください」
―――(ただし予告は変わる恐れがあります)―
では次回。
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