第三話:パーティ加入
藁葺き屋根の建物が建ちならび、一番始めにつく街だからか、のどかながらも活気を見せるここは、『レイオリア宿場町』。まるで温泉街みたいだ。靄のような湯気が立ち込めている。
あの後最終的にゴブリン×5、ラット×4、聖夜×1の、十体に霊魂は増えた。というかそもそも、霊魂の単位って、体、でいいのか? 疑問に思ったが、特に困ることでもないので放置。
で、ここ『レイオリア宿場町』には、道具屋や宿屋も多く、さらに、初心者向けのホームタウンとして値段設定が良心的らしい。
他には、俺のスキル「繰魂」のレベルがあがって、三になった。
☆☆☆
まずは武器屋へ直行。
サーラと聖夜は、
『お兄ちゃん、今から見たいテレビがあるから、またね!』
『すまない、今から高崎製薬の令嬢と会食の予定があるのでな、今日は落ちる』
そう言い残してログアウトしてしまった。
持ち金はほとんどない。何か買えるものがあるのか?
とりあえずまずは、肌は浅黒く、頭を丸めてスキンヘッドの強面NPCに話しかける。
「……あ、あの……」
無理でした。
顔が怖いのもあるかもしれないが、本屋さんに行って「これください」っていうのを躊躇して、結局うつむいたまま無言でレジに本を置くことが多い俺にはハードルが高すぎる。
武器屋さんにはまた今度でいいか。
具体的にはコミュニケーションレベルがもう少し上がってから。
☆☆☆
とりあえず、今後の方針を決めるべく町の中央広場に来た。
広場の中央には街周辺の地図があるからである。
東:渦巻きの海
西:小さな森
南:ビギナーズフォレスト
北:スマボ洞窟
「ねえ君、一人かい?」
俺が看板とにらめっこしていると、俺より年上くらいに見える男性プレイヤーが声をかけてきた。
声をかけてくれているということは、俺が話しても向こうは困らないということだ。つまり、無視されたりしない。ハズ。
「そ、そうですけど」
それでもちょっと舌をかんだ。
うーん。受け答えは普通にできると思ってたんだけどなぁ。次、次頑張ろう!
「君、職業は何? ローブ着てるってことは……魔法職、だよね」
「ネ、死霊使い……です」
「へえ、死霊使いかぁ……。珍しいね」
「はぁ」
「君、よかったら、僕のパーティに入らないか?」
「その……」
嬉しい申し出のはずだ。しかし、即決できないのは現実での癖か否か。
俺が黙っているのが迷っているように見えたのか、男性プレイヤーが言う。
「いや、無理にとは言わないよ。暫定的にでいいからさ」
それなら、お願いします。そう、つっかえながらも返事する。ずっと一緒のパーティに入れてくれなんて言えるはずがなかった。それにこのゲームでは、パーティは一度ログアウトしたらまた組み直さないとならない。俺がまたこのプレイヤーに話しかけられるのか、というと限りなく微妙なため、ちょっと躊躇した結果、一時的にこの男性プレイヤーのパーティへの所属が決まった。
☆☆☆
リードと名乗った男性プレイヤーについていくと、ビギナーズフォレストからの入口すぐ近くの、宿屋に来た。
言われるままにその宿屋の一号室に入る。
真っ先に目に入ったのは畳だ。ふすまや障子まである。何処かの和風旅館みたいなその部屋に、四人のプレイヤーがそれぞれ思い思いの格好でくつろいでいた。
「みんな、待たせてすまない」
「もうひとりは見つかったんですか?」
「あの後ろにいるのがそうじゃないの?」
俺のことだろうか。ジロジロ観察されるのはもう慣れたなぁ。あまり悪い気はしない、もといなんとも思わない。
「よし、六人揃ったから、自己紹介をしようか。まずはこれをしないと始まらない」
ここにいるプレイヤーは、みんなリードが今日ここで知り合って、声をかけて連れて来た人達らしい。コミュニケーション能力の鬼か。
すごいな、と感服。ほかの人にとっては何気ないことでも、俺にとっては本当にすごいことだ。リードのところにいれば俺のコミュニケーション能力はマシになる気がする。
「よし、まずはみんなを連れてきた僕からだ。僕の名前はリード。職業は騎士で、武器は片手剣。盾も持つから、前衛は任せてくれ」
橙色の短髪と、革鎧を揺らしながらリード。
「次は俺だ。俺はセカンド。現実の野球部でセカンドを守ってるからセカンドだ。職業はまた騎士。俺はタンクをやるつもりだから、よろしく」
黒の短髪、引き締まった筋肉質の体はまさに、高校球児を思わせる。ところでタンクってなに? そう思ったけど、まさか口を開けるはずもなく、諦める。見ていたらわかるだろうし。
「ヒットやで! 生まれも育ちもタイガースファンで、野球部所属。守備位置はセンターで、職業は盗賊や。ちょい関西の言葉で聞き取るのんむずかったらごめんな!」
また短髪。しかし今度は坊主である。やや小柄な体躯は、足が速そうな印象を抱かせる。人懐っこそうな笑みには好感が持てた。
「私は、『ジャイアンツファン』の、ハラです。タイガースファンがいるみたいですけど、私には近寄らないでください。仲良くする気はありません。ほかの皆さんも、程々に仲良くなれたらなー、と」
ジャイアンツファン、にやたらとアクセントを置いてハラが言う。
なんやって!? と、ヒットがハラに食ってかかる。
ハラは、赤とオレンジの中間みたいなカラーで、肩甲骨くらいまで伸びる髪が特徴的だ。
そういえば職業はなんなのだろう。職業文様を見ればわかるかもと思ったが、全員しっかり隠してしまっている。
「あ、職業は僧侶です。タイガースファン以外は、ピンチになったら言ってくださいね、回復しますので」
言い忘れに気づいたのか、俺の疑問が顔に出てたのか、ハラが答えてくれる。
「ラッキー。職業、魔法使い。よろしく」
サバサバとした、えらい簡潔な自己紹介をしたラッキー。
黄色の髪をツインテールにしており、童顔、小柄な体躯は、どっかの変態さん――例えば聖夜とか――に誘拐されるんじゃないかとの危惧を抱かせる。
「じー」
そのまま俺を見る。口からは見つめていますよ、と全力の主張付きで。ラッキーやって! 味方増えたで! と意味がわからない喜び方をしていたヒットに、ヒットにジャイアンツの良さを語っていたハラ、そしてリードとセカンドも俺に視線を向けてくる。
そういえば自己紹介がまだだった。
みんなの視線が俺に向いているのを確認してから、口を開く。
「……俺はク、クロウと言います。職業は死霊使い、です」
自分から声を発するのには、緊張を覚える。うまく言えただろうか。変なことは言っていないだろうか。やばい、自分で何を言ったのかちょっと記憶にない。
「よし!」
リードがパン! と手を叩く。
「全員の自己紹介も終わったことだし、ここにパーティを結成する!」
目前に『パーティに参加しますか? :リーダー「リード」』と表示される。はいの選択肢をタッチ、これで一応パーティメンバーだ。
「戦闘時の役割分担はフィールドに出てから決めるとして、まずはどこに向かうのか、このパーテイの方向性を決めようじゃないか!」
あれ、おかしいな。
関西というか、もろに大阪にすんでるのに、大阪弁を書こうと思ったらエセ関西弁みたいになってしまったぞぅ?
普段喋ってる言葉がちょっと訛った標準語だからでしょうか。
次回に続く!
ただし、次回投稿は未定です。
来週がテスト期間なもので。