第五話:嫌な予感
二日で一話書いてる。
ノルマは一日千文字だけれど、最近は二五〇〇文字くらい書いてるね。毎日予約投稿の日が来るのは近い……?
ちなみに現在、10/17
「正解は――全部だ!」
「うっわ言うと思ったことをそのまま言うのでございますなご苦労様です」
「お前らをここから逃がしはしな――ガッ、ごふっ」
その時だった。先ほど姉を突き飛ばしたのと同様にして、キリバがこちらに突き飛ばされた。
なんだなんだ、コントか?
「うるさいよお前ら」
現れたのは、長髪の女性と、その女性が引き連れた巨漢。キリバを突き飛ばしたのは、巨漢の方だろう。女性は、腕を束ねて、こちらを見下ろしている。ここの階段で立ち止まったら、突き落とされるルールでもあるのか?
「ボクはメイビィ。こっちのデカいのがウリエ。お前らが何者かは知らんけれど、キリバが連れてきたんかい?」
軍服に身を包み、髪は首の後ろで束ねている。希望子が発明されて現在、どこの国も軍服などというものは採用していない。いつでも有事に備えて対処できるように、職務中の軍人は希望子でできた特殊強化スーツの着用が義務付けられているからだ。ラバースーツに、補助駆動装置がスマートな外観を保つように装着されたものが、どこの国でもスタンダードだったはず。日本は視覚・聴覚の強化を世界に先駆けて研究している。
閑話休題。メイビィと名乗った女の着ている服は、歴史の教科書に載っているのを見たことしかない、第二次世界大戦の時に日本将校が来ていた服と似ている。確か……「メイジ」だか「タイショウ」だか「ショウワ」だとか、そんな感じの年号だったはずだ。歴史はあまり好きじゃない。漢字だとどうやって書いたんだっけな……
「ならず者……って、この二人? あるいは、キリバとシャル――」
アサクラが、納得いかない、という風に呟くが、それを遮るようにキリバが叫んだ。
「僕だ! 僕がならず者だ! ……良いね! ならず者は、僕一人だけだ!」
シャルロッテのことは……隠しているのか? 庇っているのか?
「まあ良いさ。……キリバ、マスターが呼んでる。君の妹も連れて、支部に出頭命令だってよ」
「――ッ! 断る!」
「…………」
一体。
何が。
起こっているのですか。
「ああ、お前ら、ちょっと説明してやろう。ボクはそれなりに暇を持て余しているかんね」
宝塚……ってのもなんか歴史の教科書に載っていたはずだ。ちらっと流し読みした程度だから、まるで知識は無いけど。知っていることと言えば、二四世紀に絶滅した古来の伝統芸能、ってことくらいなものである。
彼女は、ちょうどその男役みたいだ。声も女性にしては低いし、口調もどことなく中性で、身長も高い。
「キリバは、ここの領地の偏狭で諜報員やってたのさ。主要地区、女王の薔薇領でギルドの情報を調べたりなんかしている、言ってみればスパイだね。なのに、最近イザコザ起こして町を追い出されたんだってなァ、キリバ」
「し、知らないぞっ! 僕は何もしていないんだ!」
「ま、それはどうだって良いんだよ、キリバ。ボクはね、お前を連れてくるようにマスターから命令されたんだから。妹はどこかな。さっさと出て来た方が良いよ、隠れているのなら」
「妹とは喧嘩別れした! もう帰って来ないし、今どこにいるかもわからない!」
「あ、そ。じゃあ、お前だけでも連れて帰ればいっか。シャルロッテはついででも良い、みたいな風にも言っていたし。……ウリエ、キリバ連れて先に帰っといてくんないか。ボクはこの「お客さん」たちと話があるからね。……なに、ボクは暇を持て余しているだけさ」
終始何が起こっているのかはわからないが、キリバは所属しているギルド――メイビィが、マスターが呼んでいる、と言ったことから、おそらく所属しているだろう――に帰るらしい。スパイ活動なんかに何の得があるかはわからないが、お疲れ様である。
ウリエに促されて、キリバが歩き出す。まるで連行される囚人のように項垂れた歩み。……ギルドに帰るだけなのに、大袈裟ではないのか?
「それじゃあ、どっから話そっかね。やっぱり最初っからか」
わからないことだらけではあるが、メイビィという女が説明してくれるらしい。よくよく考えたら、ならず者を討伐するよりもお金を取り返すことの方が優先度高めで、お金は姉が持っているし、ついでであるキリバの勧誘も、キリバがどこか別のギルドに所属しているようだから無理。よってキリバを追う必要はない。なるほど、姉と合流した時点で、もうクエストはクリアだったわけだ。
「ボクのギルドには、他にも諜報員がいるんだ。キリバやシャルロッテ以外にも、数人。そんで、ここの領地を持ってるギルドの情報集めをさせてるわけだけれど」
「……一応聞くが、それは何のためだ?」
「あん? ああ、もしかしたら戦争になるかもしんないだろう。うちのマスターは、所属人口が千人を超えるギルドのことは全部調査しているよ」
マスターの動向を探るべく、軍靴の音を調査させているようなものか?
「いやあ、ここのギルド、硬いね。話聞いただけだけれど、是非とも敵にしたくない、だってさ。マスターが言ってた」
アサクラが嬉しそうに相好を崩す。城の設計は、キリが手伝ったとはいえ、ほとんどアサクラが設計図を書いたのだ。
「それでね、つい先日、なんかうちのガキで、仕事はできるんだけど、素行が悪いやつがいるんだけれどね」
ああ、と適当に相槌を打っておく。彼女の話し方は、投げやりだ。言葉を放り投げっぱなしみたいな、そんな話し方。聞いていると眠たくなってくる。
「そいつがさぁ、本当は違う支部の奴なんだけれど、なんか監察とか言って遊びに来やがってさ」
やれやれ、と首を振る仕草に、仕事に疲れた者の悲哀を錯覚した。
「んで、女王の薔薇んとこでいらんことしやがって、治安維持隊に追われやがんの」
ああ、段々話が見えてきた――つまり、トカゲだ。
「そんで、たまたま通りがかった身内――つまりキリバを捕まえてな、全部こいつのせいにしやがったのよ。なーんでボクの管轄の支部でやるかなぁ、とか思うわけだけど、治安維持隊もキリバを現行犯逮捕で、こっちとしてもおとがめなしってわけには行かないんよね。なんせそのオッサン、えっと、ハンネスっつー名前なんだけど、四人いる幹部の一人でさぁ、単なる支部長であるボクなんかよりも偉いわけで。ハンネスのオッサンがクロって言ったら、どんなシロでも大抵クロんなる」
トカゲの尻尾切り。キリバも、運が無かったのだろう。無実の罪で呼び出されたら、それは気が重いはずである。
「キリバにはまあ、しかるべき処置でも下されるんじゃないかね。ボクは知らんけれど」
「そういえばマスターが呼んでいたって……今、支部にマスターがいるのか?」
「あん? あ、うん、いるよ。いるいる。ハンネスのオッサンよりも面倒な人だよ。融通が効かないっていうか、本気で軍隊作ろうとしてるんじゃないかなって思わせる徹底ぶりでさぁ。毎食前と就寝前に忠誠を誓う儀式があんの。宗教かってーの」
「お前は反駁しているようだが」
「あー、いいのいいの、別に誰が聞いているわけでもなし」
「そうか、それなら折り入って話がある」
「あん? まあ、話だけは聞いてやるよ」
メイビィと名乗った女は、かなりの喋り屋であるらしい。あと、お調子者。こんなのでも支部長を任せられているというのだから、実力はあるのだろう。「実力者に限って性格に難があるの法則」に則っているのかもね、とアサクラが小声でつぶやく。聞こえるぞ、と冷や汗をかいたが顔には出さない。
「マスターに、会わせて欲しい」
「やめとけ! それだけは絶対に!」
言った瞬間だった。僅かの間もおかず、その瞬間、口が「欲しい」の「い」を発音した刹那、メイビィは叫んだのだ。
「――どうして?」
「マスターに会うのだけは、死んででも回避した方が良い! ボクだって今こうしてここで時間を潰しているんだから、わかってくれよ! マスターは、あいつは頭がおかしい! イカれてやがるんだ!」
「それでも、どうしても会わなければならないんだ」
うちのギルドに飲み込もうかと思ってまして。
「あいつは……このゲームが、デスゲームであることを……理解していないんだ。本物の軍隊、それも第四次世界大戦の時の日本軍みたいに、「軍隊の兵士」は「機械」でしかないんだ! 不器用、一つの重大なミス、失敗、反駁するような台詞……一つでも気に入らないことがあれば、あいつは、みせしめとか言ってそいつを殺す――」
「アサクラ」
「はいなー」
指示は出していない。だが我が優秀なるアサクラの事である。
はたして俺の期待通り、アサクラは胸の谷間から、紫の水晶を取り出した。今ちょっと真面目な場面なので、突っ込むのはまた後日やろうと決意する。
『あん? あ、うん、いるよ。いるいる。ハンネスのオッサンよりも面倒な人だよ。融通が効かないっていうか、本気で軍隊作ろうとしてるんじゃないかなって思わせる徹底ぶりでさぁ。毎食前と就寝前に忠誠を誓う儀式があんの。宗教かってーの』
「な! 馬鹿、やめろ! 録音してやがったのか!?」
『あいつは……このゲームが、デスゲームであることを……理解していないんだ。本物の軍隊、それも第四次世界大戦の時の日本軍みたいに、「軍隊の兵士」は「機械」でしかないんだ! 不器用、役立たず、一つのミス、失敗、反駁するような台詞……一つでも気に入らないことがあれば、あいつは、みせしめとか言ってそいつを殺す――』
「へーい、グッジョブアサクラいぇーい」
アサクラが両手を上げてそう言ったので、ハイタッチを返す。よくやった、と褒めておくのも忘れない。
「ボクを――脅そうっていうんだね?」
冷や汗が顎を伝うのが見て取れる。目は泳ぎ、唇は真っ青に震えている。一人の人間をここまで恐れさせることができる人間って――果たしてどういう人間なのだろう。
「お前ら、軍靴の音と戦争する気は――あるんかね? 無いなら、止めておいた方が良いぞ、絶対に」
『マスターに会うのだけは、死んででも回避した方が良い! ボクだって今こうしてここで時間を潰しているんだから、わかってくれよ! マスターは、あいつは頭がおかしい! イカれてやがるんだ!』
「わかったよ……後悔しても知らんからな!」
メイビィは、そういって項垂れた。
かと思うと、顔を上げ、こちらを見る。
「で?」
「え?」
「いや、マスターに会って何するの?」
もっともな質問である。
「それは――」
決まっている。
「俺のギルドの傘下に入りませんか――って、言いに行くのですよー。ね? お兄ちゃん」
固まる、メイビィ。銅像みたいだ。顔には表情が浮かんでいないし、眼の焦点も合っていない。アサクラの言葉に、そんなに驚くところがあったのだろうか? まさしく開いた口がふさがらない状態。
あれだけ止めていたのに、そりゃあこんなことを言えば驚くに決まっているか。だが、俺は全プレイヤー全ギルドの併呑を掲げたギルドの、ギルドマスターなのだ。いくら非人道的なマスターが相手でも、日常会話をマスターした俺に死角は無い。
「あ、あ、ああああアホか! そんなことをしてみろ言ってみろ……! いや、ボクがマスターに、お前らが来るって伝えて見ろ……それだけで素敵滅法な私刑で死刑がお待ちかねじゃねえか畜生!」
「そうは言っても御嬢さん、こちとら仕事ですねん、証拠はこっちが持っとりますねんから、大人しい言うこと聞いた方がええんとちゃいますかぁ?」
「ちゃいますかぁ?」
「おい待て最年少コンビ。アサクラは場を掻き回すな。あと、サーラはアサクラから悪い影響受けないの」
一応マスターとしてたしなめる。
「で、メイビィ」
笑顔笑顔。他人と会話するときはこれが大事である――訓練の成果はしっかり出ているようだ。
「……なんだね」
「俺のお願い……聞いてくれるよな」
「嫌だ嫌だけど嫌だけど」
「アサクラ」
「あいよー」
「待ってわかった! わかったから! 協力する! させてください!」
協力というか……マスターにアポ取ってほしいだけなのだが。
「ああ、ありがとう、メイビィ」
「れ、礼なんかいらないよ!」
思うに俺は、この時点で何かを見落としてしまっていたのだろう。今この段階では何を見落としているのかはわからないのだが、大事な大事な何か。俺はメイビィを脅迫もとい説得することしか考えていなくて、それで、何か重大なことを見落としたに違いない。
メイビィの協力を取り付けて一息ついて、その時にそんな予感がしたのだ。
でも、そんな思い込みは往々にして思い過ごしだったり、単なる妄想だったりするわけで、そのような予感が当たることなどまずないと言っても良いのだが――
それでも、今回はなぜか不安と不信感が拭えない。ギルドに帰ったら、アサクラが録音しているであろうメイビィの発言を聞き返すことにしようと、心のうちにメモをしつつ。
「そういえば、お前らの名前とギルドネームを教えてもらわないと……」
――次回予告兼チラ見せ――
「もう知らないかんね! 僕はもう知らない……うく、うぅ……。おい、クロウ! お前……責任とれよ! ボクは処刑されそうになったら全力で逃げるからな! 匿えよ! 良いな!?」
「なるほど、お兄ちゃんはこうやって勧誘をするわけか」
「ちょ、違う違うって! こんな脅迫みたいな勧誘はしてな――あ、メイビィ、なんならうちのギルドに来てくれても構わないぞ」
―――(ただし予告は変わる恐れがあります)―
では次回。
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