第四話:ならずもの
はいはーい、四話だよー☆
一昨日一個前の話書きあげたところなのに、勉強しながら書いてたら一話できちゃったー☆
ってことで、また更新。うん現在10/13なわけだから、めっちゃ余裕あるね。もうすぐ、もっと更新頻度つめられるかもしれない。
というわけで四話です。前書きウザいのは、テスト勉強で疲れてるからだと思っといて――おや、こんな時間に誰かが来たようだ。
ラットというモンスターは、至るところで、隙あらば出現しようとする。ダンジョンによっては、ラット五〇体を一体分とし「ラット群」なる中ボスが出現するほどである。ちなみにそこそこ強い。
そのようなわけだから、当然、ラットのゾンビの数も増えていくもので、現在俺のゾンビの中では、圧倒的に他を差し置いて数が多いのがラットである。ちなみに二番目はヒクイドリ。ヒクイドリの出現率が異常に高い、特殊な洞窟に行った時に乱獲したためである。
ラットとヒクイドリを二〇体ずつ召喚し、俺の周囲を警戒させる。三六〇度、全方位死角無しだ。そして、モンスターに出会ったら半分は攻撃、半分は背後を警戒、俺は止めを刺すだけ。残り数ドットまで減らしたHPを、メイスで殴るだけで奪う、簡単なお仕事です。御蔭でゾンビが見る見る増えていく。
このダンジョンは、魔属性・邪教神殿「穿つ骨牙の祭壇」という名前がついている。名前の通り、幽霊やなんかの、ホラー系モンスターが多い。
白骨が剣と楯を持ち、鎧を着けたのが白骨ソルジャー、中身の無い黒いローブが杖を持っているのがダスク・メイジ、鎌を持っているのがダスク・サイズ。半透明のもやもやが亡霊だ。
それぞれ物理攻撃が非常に効きづらく、魔法攻撃に弱い。例外的に白骨は物理攻撃に弱く魔法攻撃が無効。
さらに亡霊に至っては、物理攻撃無効だ。亡霊が出たときだけ、闇魔法スキル「黒の斜線」で倒す。人差し指の斜線上に、針のように細い魔力を通す魔法。貫通ダメージがつく。
倒せないようなモンスターはおらず、一人でもどうにかなりそうだと思うと、余裕が出てきた。
「亡霊は大丈夫か?」
そういえば、と思い、聞く。魔法職は、俺しかいないのだった。アサクラは爆弾で似たようなことが出来るだろうけど。リラは職業「戦士」中級職「聖戦士」で、魔法は使えるがすべて物理判定だったはずだ。姉も心配ではある。
いや、リラは「聖」戦士だから、魔属性モンスターには天敵なのか。
『どのモンスターも一撃掠りさえすれば屠れますけど、MPポーションの消費速度が尋常じゃないです』
『こっちは聖水爆弾があるから平気だよー』
『すごいよアーサーの爆弾!』
「アーサー?」
『アサクラちゃんだと呼びづらいの!』
皆元気である。妹のウインドウに映る姉の映像にも、無理は見られない。亡霊を、気持ち良いほどに、手にした包丁で切り刻んでいく。物理無効は、なんらかの手段を講じたらしかった。
非現実的なほど綺麗に白く欠けの無い白骨を殴る。人体模型にしか見えないデザイン、グロテスクなどと、どうして形容できよう。白骨が白骨死体ではないのは、それが理由だ。グロテスクな表現は、例えそれが軽微な物であれ法律で禁止されている。
「こっちは、中心に向かって進んでいるみたいだ」
『あ、私もです。どんどん中心に向かって――』
『到ー着ー!』
『移動した距離・方角から考えて、ここがダンジョンの中心であるとアサクラは推測します』
「何かあるのか?」
『教室くらいの大きさの部屋にね、階段があるの』
妹とアサクラには、全員揃うまでのその場待機を言い渡す。
ダスク・サイズにメイスで止めを刺す。それから俺は、歩く速度を少し上げたのだった。
☆☆☆
ダンジョン中心の部屋に辿り着いたのは、俺が最後だった。サーラとアサクラのすぐ後にモミジが到着、リラ、俺、と続いたのである。モンスターのゾンビを作るには俺が直接止めを刺さねばならんのだから――多少時間がかかるのは、多目に見てほしい。
ちなみにだが、モンスターのHPを残り数ドットまで減らしてから止めを刺す方法に変えてからは、見た目が気持ち悪いゾンビはあまりいなくなった。せいぜいどこかが凹んでいたり、折れていたり。不定形ならばまるで無傷なモンスターだっている。
だから別に、今ならゾンビを顕現させたままでも、現代人の嫌悪を喚起することも無いのであり、遠慮無く召喚することができた。ただ、狭い部屋で必要以上にゾンビを出すと邪魔なことこの上ないので、ヒクイドリ十体だけを残して後は全部消してある。
「罠とかの可能性もありますよね……」
「モンスターハウスとかだと思うの、これ、普通に考えて」
妹の言葉に頷く。その通りだ、ダンジョンで区切られた場所があったら、大抵はトラップを警戒して然るべきなのだ。その結果宝箱がたくさん置いてある宝物部屋であっても、擬態獣であることを警戒しなければならず――結局、ダンジョンで気が休まる場所など無いのだ。
休憩部屋なる、モンスターが入って来られないセーフティエリアもありはするが、その場合は他のプレイヤーを警戒せねばならない。デスゲームと化して尚も、プレイヤー同士の小競り合い、イザコザは無くならないのだ。うちの領地はそうでもないのだが。
「斥候にゾンビを使う」
先程手に入れた、白骨ソルジャーのゾンビ。白骨の時点でゾンビみたいなものであるのに、と、そこはゲームのシステムか、突っ込んでも仕方あるまい。
白骨ソルジャーに階段を上らせる。人型のモンスターは、対人用――つまりプレイヤー用の罠にかかるのだ。わなにかかるとそれがどんなに軽いものでも一撃でノックダウンするのが痛いところではあるが――こういう時は、先頭に立てておくに限る。
そうこうしているうちに、白骨が数十段の階段を上りきった。なるほど、階段自体には仕掛けはなさそうだ。
下からだと大体、白骨ソルジャーの上半身くらいしか見えない位置あたりまで進み、何も無ければ合図をするように指示してある。
振り向いた。
ガシャガシャと骨と鎧がぶつかる音を立てながら、こちらに手を振る。
「大丈夫みたいだな」
「上ろっか」
「サーラ、その前に一応。お姉ちゃん達を『守りなさい』……できる?」
出来るよ! 元気良く頷くサーラ。なにやら高速で呪文詠唱を始めた。暗唱ではなく、勝手に口が動いている、みたいな印象の、無機質な――
と。
その小さな体を中心に、虹色の淡い光が辺りに広がった。薄い膜……かな、これは。
変わりに、サーラが持っていたランタンが空気に溶けるように消え、俺は慌ててヒクイドリのメイスを掲げた。
俺と姉だけだ、暗くても平気なのは。自室のベッドにはわざわざ、睡眠用の遮光ドームを設置してあるくらいである。明るいと眠れない俺達には、ドームが無ければ、外の光のせいで部屋が明る過ぎるのだ。
三世紀ほど前には、部屋にまで電球がついていたというのだが、今や一般家屋には必要の無い代物である、それ。家庭用電球は、ド田舎の祖父の家でしか見たことが無い。
余談だが、遮光ドームと、サーラの張った光膜は似ている。あくまで見た目の形に限っての話であるが。
「あんまり広くないのー」
「んぃ、確かに、下に比べるとあんまり広くないかもしれないね」
俺が電球について益体も無いことを考えていたうちに、最年少コンビに抜かれていたらしい。
慌てて、階段を駆け上った。
――最後の段で蹴つまずいた。
上手く受け身も取れず、そのまま前方に倒れ込み、顎をしたたかに打ち付けた。
ゲーム内につき、痛みはないはずだったが――
「…………」
「…………」「…………」
人数分の沈黙と、あと、先に上っていた年少達の――刺さっているであろう――視線が痛かった。顔を上げて、「刺さっているだろう」が「刺さっている」に変わるのが怖くて、中々顔を上げられなかった。
「お姉ちゃん達ストップ!」
緊迫したサーラの声。アサクラは地面に伏せている。
「え、何」
俺は、突然のことに理解が追いつかず、意味もなく地面に伏せったままで――そうだ、立ち上がらないと。
「お兄ちゃん立ち上がっちゃダメだよ」
「な、何が――」
アサクラの言に大人しく従い、サーラの方に注意を向けた。
しゃがんで身を低くした妹が、再度叫ぶ。
「致死矢だっ!」
☆☆☆
――致死矢。文字通り、当たれば即死するトラップ。正確には一撃で死ぬわけではないのだが、矢が刺さった時点でまずHPを九割持っていかれる。次に、鏃に塗られた毒で、五秒に全体HPの一割のダメージを受ける。五秒以内に対処しなければならないから、「即死」ではなく「致死」、死に到る矢なのだ、とアサクラが早口に説明。
ただ、対処法として、致死矢が撃ち抜いた衝撃で九割削る――致死であるために、矢は顔面のみを狙って飛んで来る。そのため、リラのように、大剣で隠しながら上って来れば――
「あ、あれ?」
リラと、彼女にピッタリ張り付くようにして上って来た姉が、拍子抜けしたような声を出した。
「飛んで来ませんでした――よね?」
「うん、黒くんだけを狙って――あれ?」
一瞬心配を湛えた目をこちらに向け、何かを言いたそうに顔を背けた。
☆☆☆
致死矢は、サーラが今展開している光膜では防げないらしい。HPが尽きるような攻撃を受けた時のみ、ダメージを無効にする効果しかない。そのため、バッドステータス「致死毒」までは防げないらしかった。どうやらその辺りが、姉曰く「便利じゃないこと」らしいが、それはさておき。
「なんでお兄ちゃんにだけ致死矢が――」
「アサクラ達と兄ちゃんの違いってなに? 男性プレイヤーだけを狙い撃ちとか?」
「案外人数とかも関係してるかもしれませんね。三人目、とか」
「普通は、人が通ると問答無用で飛んで来るはずなんだけど……」
階段の真上の天井に刺さった矢を見ながら話す。先のアサクラと妹の沈黙は、これを見てのものだったらしい。
気をつけながらも、先に進もう、ということになった。
階段を上った先は狭い通路になっていて、しばらく進むと、さっきの階段よりも長い下り階段が現れた。
階層が二つ下がるらしい。
「サーラ、『毒を防ぎなさい』……出来る?」
出来るよっ! 再度耳慣れない詠唱。今度は、光膜が緑になった。
これで、最悪致死矢に当たっても大丈夫だね、アサクラが言う。
「それじゃあ、三番目は私が行きます。クロウさんは、私の後ろに」
「一番目はアサクラに任せて欲しいな」
アサクラを先頭に、サーラ、リラ、俺、モミジ。もしものために、鍋蓋を構えるアサクラと、大剣を両手で構えるリラ以外の――明野姉弟妹でHPポーションをスタンバイしておく。三姉妹では、断じてない。
アサクラが下りきる。妹、リラ。
そもそも設置されていないのかもしれないが、まだ矢は飛んで来ない。
リラにも飛ばないのだから、三人目でもなく、もしかしたら、ランダムで飛んで――
――三人目?
「そうだ、白骨ソルジャーだ! 三人目じゃない! 四人目だ!」
先程の上り階段、俺は三人目じゃない――
一、二がサーラ、アサクラってわけでもない。
一人目のカウントは、白骨ソルジャー。
トラップは、人型であればモンスターにも反応する。そのことを知っていたからこそ斥候にゾンビを使ったのに――失念していた。ゲームに慣れてきたからと、気を抜いていたらしい。今回の下り階段で、斥候を立てるようなことはしなかった。つまり俺はばっちり四番目にいるわけであり――
ともあれ、次があれば気をつけよう――
「黒くんっ!」
姉の声と、アサクラとサーラの、お兄ちゃん! という声をBGMに、額を矢が貫いた。ヒクイドリも、反応できなかったらしい。直撃だ。みるみるHPが削れ、残り一割。毒は瞬間的に治癒されたものの、視界が赤く明滅している。
姉がHPポーションをこちらに投げつけようと振りかぶる。
後ろに引いた手を前に――
投げようとして。
「大・正・解」
突如、階段上の暗闇から伸びた手が、モミジの手からHPポーションを奪ってしまう。
姉がこちらに突き飛ばされてきた。受け止めた衝撃で転がる。なんて勢いで突き飛ばしてやがる! ――憤慨して立ち上がるも。
「やあ、お前ら。ようこそ、僕のアジトに」
☆☆☆
暗闇を割って出て来たのは、黄色の髪をした、長身の男だった。金髪ではない、原色の黄色だ。髪を染めるアイテムでも使ったであろうその頭に、冷たく整った顔。白眉の美貌には、楽しげな口調とは裏腹に、なんの感情も浮かんでいなかった。口を開いたことも忘れて――HPを回復させることさえも――身動きを取ることができない。呑まれていた。奴の、空気に。
「僕はキリバ。訳合ってこんな辺境に暮らしている、一般人さ」
カラカラと、乾いた笑い声が谺する。
「そう、だから君達は、僕の――僕達の生活を脅かす闖入者だ」
そこで俺は、モミジを助け起こした。気付かぬ間に蔑ろにしていたらしい。目は、突如現れたプレイヤーから離さない。
「歓迎してくれ、なんて厚かましいことは言わないでくれよ?」薄笑みすら浮かべず、あくまで機械的に。「ここは、誰かをもてなすことを想定していないんだ」
そこでようやく我に返り、ポーションを手にしていたことを思い出す。口を開けるのが面倒臭い、地面に叩き付けて割る。HPバーが半分ほど回復。もう一本、キリバと名乗った男性プレイヤーから投げつけられた。HPバーが端まで回復する。先程姉から取り上げたものだろう。
「おいで、シャルロッテ」
「はい、兄上」
か細い声で返事をし、俺達の背後から出て来たのは、俺と同じ年くらいの少女。やはりアイテムかなにかで、髪を水色に染めている。背後から出て来たということは元からこの部屋に居たと、そういうことであり――つまり、それだけ陰が薄いということで。
「シャルロッテ。僕は今から、この人達とお話があるから、少し外で待っていてくれ」
「わかりました、兄上。――私を、一人にはしないでください」
「オーケイ分かった、早めに迎えに行くよ」
シャルロッテはなにか言いたそうにこちらを向いたのだが、すぐに反対を向き、壁に手をつくと、その中に這入って消えた。
「あの、俺達は――」
「さて! ここでクイズの時間です! どうして僕は、この狭い通路を、塞いでいるでしょうか! ヒントは、今お前らがいる部屋が、密室であることです! 四択問題だよ――」
唐突に声のトーンが荒々しいものに変わった。酷薄に冷たい顔が、不気味さに更なる演出をしている。
「一番! 僕が、お前らの身ぐるみ剥がそうと思っているから!
二番! お前ら全員をここから逃がさないようにするため!
三番! お前らをここで殺すから!
四番! こうして塞いでおいた方が僕にとって戦いやすいから!」
そこで呵呵大笑、一息つき、大きく吸い込む。
「さぁ、答えは――どれだ!」
てぇい! シャルロッテはなあ……! リメイク前、死体が無いなら作ればいいじゃない♪ の、キリバ編っていうので出て来た、結構な重要人物だったのです。が、作者がすっかり忘れていて、「キーマン途中でフェードアウト事件」の、唯一の被害者となったかわいそうな子なのである! だから、影が薄い、と。さあ、今回こそちゃんとヒロイン枠に収まるのか。ちなみに前作では、ヒロイン候補として出て来た瞬間にフェードアウトしてしまったと言っておきます。可哀想な子です。可哀想な子です。
次もダンジョンだ! 脱出するかもしれないけれど!
――次回予告兼チラ見せ――
「お前ら、軍靴の音と戦争する気は――あるんかね? 無いなら、止めておいた方が良いぞ、絶対に」
―――(ただし予告は変わる恐れがあります)―
では次回。
誤字脱字、変な言い回しの指摘、感想、評価、レビューお待ちしております――――
評価、感想、レビューなどして下さったら、いつもの八倍泣いて喜びます←ここ大事




