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第二話:容疑者、前へ

「お兄ちゃんを――お兄ちゃんと呼ぶなぁぁぁぁぁ!」

「お兄ちゃんはアサクラの兄なのでごぜーますよ! そっちこそ急に現れて妹を名乗るんじゃないのでございます!」


「へえ、リラさんって言うんだね? 私は、黒くんの「姉」のモミジです。よろしくね、にっこり」

「よ、よろしくお願いします……」


 姉の後ろに付いて妹、沙羅――サーラも現れて、そして。

 サーラがアサクラと喧嘩を始めて、姉は真顔でリラと会話している。にっこり、って口で言ってますよね。笑ってないんですけど。リラは委縮して目を合わさないし……


 あえて言おう。


 どうしてこうなった、と。


          ☆☆☆


 整理してみよう。

 俺が一度Treasure Onlineをやめたとき、沙羅――サーラだけがログイン不可能になった。サーラをゲーム内に一人にできるのか――そのことを巡り、俺と姉が口論になった末、結局、姉は妹を助けるためにゲームにログイン。

 その後姉は、サーラを全力で探す傍ら、妹を守るためだけに徹底的にスキルのレベルを上げたらしい。習得した職業は職人系中級職「料理人」。主に料理スキル主体で、食材採取のためのスキルも併せ持つ。


「黒くん。そういえばさ、なんでゲームの中にいるの?」

「いや、お姉さま? あのですね、やむにやまれぬ事情がありましてですね?」


 ――自殺するの、デスゲームだったら楽そう、とか、言ったら多分殺されるんだろうなぁ、と頭の片隅で思いつつ。BGMはサーラとアサクラの口論。リラは、姉の背後で、手を持ち上げかけたり口元を隠したり、不安げに目を閉じたり、ひたすらに挙動不審。

 ちなみに、姉とは、ログインする前に喧嘩別れみたいな感じになってしまったので、今現在、非常に気まずい。だが、そう感じているのはこちらだけでもないようだ。姉は、都合が悪くなると怒ったふりを見せ、さらにそれが格好悪いとでもいうかのように、気持ち悪いほどに優しい話し方をするのだ。


「やむにやまれぬ事情って、な・あ・に?」

「語尾にハートでもついてそうですね我が愛すべきお姉さま!」

「やむにやまれぬ事情って、な・あ・に?」

「…………」


 泣きそう。目を見て話せない。全面的に――ログインする前のいざこざも含めて――すべて自分が悪いのだと認めてしまいたくなる。もちろん、双方に言い分はあるのだけれど。


「……ぇ……と」

「お姉ちゃんに言えないの? それはどうして? 私はただ、あんなにログインに難色を示していた黒くんがログインしてることを、単純に疑問に思っているだけなのに……」


 考えろ。

 脳内の演算領域を最大に活用して考えるは「自殺するため」以外のそれらしいログイン理由。

 それなら――


「そんなの、俺もサーラが心配だったからに決まってるじゃないか何しにこんなところにいたの姉ちゃん!」


 勢いで押し切ってしまうに限る。


          ☆☆☆


「……ねえ、お兄ちゃんの知り合いみたいだけど、この二人がならず者だっていう可能性もあるんじゃない?」


 と、いつの間にか俺の背後に移動して来ていたアサクラが声を潜めて言う。一体いつの間に。暗殺者(アサシン)か。

 俺には、姉と妹がそんなことをするとは思えないのだが。


「……でも、この二人の出現場所、それと人数、完全に一致しています。あと、個人的にモミジさん、怖いです……」


 同じく小声でリラ。二人とも俺の背に隠れている。避雷針にするのはやめていただきたいものだ。あとリラ、俺も今は姉のことが怖いので。

 聞く。俺の姉と妹の疑いを晴らすために。


「なあ、姉ちゃん。この辺りに住み着いてる、怪しい二人組を見なかったか?」

「ん? この辺りにいるのは私たちだけだと思うけど」

「あ、あのさ、この壁の向こうに入ろうとか思ったりはしないのか?」

「いやあ、お姉ちゃん、ちょっと追い出されちゃってさ」


 せーの。アサクラが背後で息を吸う。


「アウトーっ!」


 リラ、アサクラと三人、声が揃った。

 容疑者二名、確保。身内から犯罪者が出そうです、お父様お母様。


          ☆☆☆


 なにが? と、姉が首を傾がせた。妹とアサクラの口論は最終フェイズに移行し、むしろ和解して仲直りの握手を硬く結んでいることは今は関係ない。


「姉ちゃん、もしかして、カツアゲ的行為とかは」

「あ、これ?」


 懐から取り出されしは七万ルード。クエストに書かれてあった金額と完全に一致。警報警報、姉が悪事を働いているかもしれません。


「それ、どこで……?」

「なんかね、昨日見知らぬプレイヤーが私たちを見るのと同時にすごい勢いで謝りだして、訳を聞こうとしたら置いて行って」

「……怪しいね」

「……いや、怪しくないない」

「……被害者は、たぶんモミジさん達をそのならず者と勘違いしたのではないでしょうか」


 アサクラ、リラとの、小声のやり取り。一応身内なので、さすがに嘘を吐いてはないだろう、と信じる。姉は、嘘を吐くとき左手で右手を握り、妹は髪を触る。そのどちらの動作も今回は見られなかったので、嘘は吐いていないだろう。

 ついでに言うと、嘘を吐くとき、リラは右手を軽く握り、アサクラは声がより感情的になる。ゆーきは動作なんか見なくてもバレバレで、キリは全く見破れない。


「このあたりを二人組のならず者が住処にしてるっていう報告があるんだけど、何か知らないか」

「お姉ちゃんが町を追い出されたのが一昨日だけど、ソレらしいのには出会ってないよ?」

「サーラとお姉ちゃんが経営してた喫茶店の厨房でね、新メニュー開発してたら爆発しちゃったの。店内の飲食スペース全部吹き飛ばしちゃってそれで……」

「爆発!?」

「食いつかない食いつかない」


 アサクラは、なぜか爆弾にこだわる。なんか格好良いのだとか男のロマンだとか言われたが、そもそもあなた、女の子でしょうが。


「なに? お姉ちゃん、もしかしてそのならず者と間違われてるの?」

「お兄ちゃんひっどーい」

「いや、そうじゃないけど……一応」

「ねえ! 爆発した料理のレシピ! アサクラに教えて! 是非! ねえ沙羅、じゃない、サーラちゃん!」

「落ち着けアサクラ――」


 ん?

 沙羅、と、今、そう言ったのか?


「え? あ、あのね、お兄ちゃん。アサクラとサーラちゃんは、同じ小学校の同じクラスの友達なのでございますー」

「ミウちゃん……じゃない、えっと、アサクラちゃんがお兄ちゃんと一緒にいたから、びっくりしたよ」

「え、え、マジで?」

「マジで。アサクラも、まさかサーラちゃんのお兄ちゃんがアサクラのマスター兄だったとは思わなかったのでございます」

「つまり黒くんは、妹の友達にお兄ちゃんだとかなんとか呼ばせて喜んでるの……? お姉ちゃん、悲しい……」

「く、クロウさん! 私は、クロウさんがどんな趣味でも大丈夫ですよ!?」


 泣きたい。というわけで、こういう時は話を逸らしてしまうに限る。


「そういえば、姉ちゃん。どうして、被害者の金を持っていたんだ?」

「それさっき聞いたよね。そんなことよりお姉ちゃんは黒くんの今後についてお話を――」


 南無三、話題の選択を誤ってしまったようだ。

 誰か、助けてください。


          ☆☆☆


「それで、私たちが第一容疑者である、と」

「そうなりますね」

「ひどいなー、サーラはそんなことしないもん」

「いや、一応だよ一応。疑わしきは罰せず、って言葉もあるから、まだサーラちゃんはシロでございます」


 アサクラは、本当に妹と同じ年なのだろうか。

 ともあれ、リラの語りによる姉と妹への説明が済んだ。俺も復習するつもりで聞いていたけれど、新たにわかったことは、姉と妹が、まだ現在は限りなくクロに近いシロであるということだけであった。一応血のつながった家族として、そのような悪事には手を染めてほしくないのだが……


「じゃあ、私が真犯人をひっ捕らえて来たら姉妹共に疑いも晴れて、一石二鳥なわけだね?」

「つまり、手伝ってくださると?」

「サーラとお姉ちゃんね――」


 妹のあどけない声に、鋭利な芯を感じたかのように思われ、身震いする。少なくともこのゲームにログインするまでは、このような話し方をするような女の子ではなかったはずだ。姉と二人で修羅場(くぐ)りすぎだろ、と思うのも致し方あるまい。


「――――結構、強いよ?」


 自信家でございますなー、というアサクラの声が、妙に耳に残った。


          ☆☆☆


 一息つく。


「怪しいところとか、心当たりはないか?」

「知らない」


 一息ついたことで、再会の感動は収まったらしい。そして今度は逆に。ログインする前に喧嘩したことを思い出したらしく――

 姉は唐突に、俺に冷たい態度を取り始めた。子供か。そうは思うものの、ここでおれがそんなことを言ったら、余計にややこしくなることは、「経験上」わかっている。 


「あの、モミジさん、どんな些細なことでも良いので――何かわかりませんか?」

「うーん……一昨日の夜に町から追い出されたでしょ、夜だからモンスターが活発になってるからーって壁のすぐ傍で野宿して、日が昇ったから森の中を日がな一日歩き続けて……」

「そしたら道に迷ったんだよねー。お姉ちゃんがこっちだー、って歩いて行った方向がモンスター大量湧出エリア(ハウス)で」

「もう謝ったからその話はナシですぅー」


 子供みたいに口を尖らせる姉。一九歳。アサクラとは反対の意味で心配になってくる。明野家(ウチ)の女共は、皆精神的な成長の抑制剤でも打ってんのか? 法律で禁止されているから、是非とも現実であってほしくないものだ。科学者である父さんなら確実に持っているであろうことも、嫌な想像に拍車をかける。


「で、うろうろしているうちに夜になって、仕方ないから野宿して、それでまた森を歩いていたら黒くんに出会って、今に至るのだけれど」

「あのねー、モンスターハウスの近くに、洞窟(ダンジョン)みたいなのがあったの」

「ここからなら道は覚えてるよ。行くでしょ?」

「さっきはまず現在地だー、って、通り過ぎて来たの」


 着いて来て。そう言って、森の中へ入って行ってしまう。

 今更ではあるが、森と壁の前の境目を踏んだことで、視界左端で森の名前が点滅する。『ユーニロ大森林』、領地東区をまるまる埋める大森林地帯。草原では見られない珍しいモンスターの狩場にもなっている。


「行ってみるか」

「そうですね」


 木一本一本の間隔が広いところを縫うようにして進んでいく。間隔が狭いところは壁扱いで、基本的に通れない。

 曲がりくねり複雑に別れる道を迷うことなく歩いて行けるのは、ひとえに――


「マッピングだよ。メイドの職業スキル、「メイドの心得」。主のために、あらゆる万難を排するスキル。今はお姉ちゃんが主」


 メイド? サーラの職業は猫人だったはずだが……


「猫人の派生中級職で、「猫耳メイド」を選んだのー。お姉ちゃんのお店でウェイトレスさんをしたかったから」


 俺には時々、(ゲーム)(クリエイト)(なかつ)の考えていることがわからない。


「というか、そんなスキルがあるならどうして道に迷ったんだ?」

「逆だよー、道に迷ったから、今のこのスキルがあるわけで」


          ☆☆☆


「はい、到着、と」

「うわー、ステレオタイプっちゃあステレオタイプのダンジョンでごぜーますなぁ……」

「私、実はダンジョン入るの初めてだったりするんですよね」

「黒くん、怖い? なんだったらお姉ちゃんが――」

「お姉さまは弟を何歳だとお思いですか」


 あてつけ、その二。やたらと俺を子供扱いすることで、精神的優位を保とうとする。

 閑話休題。いくつもの曲がり角を突き進み、三百メートル程行脚した先の、少し奥まったところ。

 ここら近辺だけ木が鬱蒼と生い茂り、太陽の光を地面に届かせない。ここから外を見れば、三六〇度どの方角を見ても、白けた世界に囲まれている。

 そんな空間の、さらに奥の奥。モンスターハウスの一つしかない入口からは完全に死角となる場所に、それはあった。

 盛り上がった土はアサクラの背丈と同じくらいで、表面を蔦が這っている。ぽっかり空いた穴は下に続く階段となっていて、ここからでは奥は見えない。明らかに何かがあるぞと思わせる、ステレオタイプ、これを見てダンジョンである以外の形容ができない完璧完全完成形。

 そこは、忘れ去られた場所特有の哀愁(サンチマンタリスム)を醸し出していて、日が差し込まないという条件がプラスされることで、なんだか神聖なものに見えてくる。例えるなら、山奥で見つけた苔生した地蔵が、それの雰囲気と酷似している。


「ここを……くだる、のか……」


 暗いところがキライなアサクラが呻く。同じくリラも、瞑目して眉を潜めている。


「そっか、ミウち……アサクラちゃんは、暗いとこが嫌いだったっけ」


 ミウ……アサクラの本名(リアルネーム)なのだろうな。言及してはならない発言だ。


「黒くんは、本当に大丈夫……? お姉ちゃんがついてなくても……」

「お姉さま、実は自分が怖いだけではありませんか」

「んー? 違うけど。違うけど。違うけど。違うけど」


 何回否定する気だ。

 それと、あてつけその二はまだ継続中らしい。今回は、自分で墓穴を掘ったらしいが。いや、姉は暗い所は平気だったはずだから――やっぱり、ただ単に俺を子供扱いしているだけだろう。正直腹が立つのだが、ここは俺が寛容になるべきだ。姉相手に口喧嘩しても勝てないし、したところで利益は無い。


「サーラ」

「なぁに、お姉ちゃん」

「暗いわ。『照らしなさい』……できる?」

「たぶんできる……よ」


 言うと同時、リュックの形をしたアイテムポーチから、妹はカンテラを取り出した。火はすでに灯っていて、薄暗いだけでまだ比較的明るいこの場すらも、煌々と照らしている。


「あったあった。……すごいでしょー。これがね、メイドの心得。メイドたる者、主の命には、絶対に応えなければならない、って」

「欠点もたくさんあるから、万能とは言い難いんだけど、かなり便利な妹に育ってお姉ちゃんは感動です」

「便利な妹って言い方に悪意を感じるのは俺だけなのか」


 また余計なことを言われるんじゃないかと、控えめにツッコミを入れた後、言う。


「じゃあ、入ろうかダンジョン」



 はい、というわけで次回、ダンジョンにもぐります。迷宮じゃないので、あんまり冒険はしませんけど。本日(10/1)、化学の授業中にこの章のプロットを完成させたので、たぶんこの章、あと二話か三話……かなあ。とか言ってたら現在(10/11)、この章、六話くらいになりました。おかしいなぁ。

 ○○さん早く出したい。


 あと、オーバーラップ文庫さんの方に応募させていただきましたので、評価、感想、レビューなどして下さったら、いつもの八倍泣いて喜びます。

 ハーレム×異世界がテーマとのことですが、この作品、「異世界」で「ハーレム」だから大丈夫ですよね。ね。未来もVRも異世界ですよええ。



 次はダンジョンだ!


――次回予告兼チラ見せ――

「び、びびビビらせやがっててて」

「姉ちゃん、なんか今更声が震えてるんだけど」

―――(ただし予告は変わる恐れがあります)―



では次回。


誤字脱字、変な言い回しの指摘、感想、評価、レビューお待ちしております――――


 評価、感想、レビューなどして下さったら、いつもの八倍泣いて喜びます←ここ大事


 では、たしぎでした。……ここからさらに回転数上げていくぜ!


 

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