第三話:足踏み
みなさん、こんばんはぁああああああああああ!
遅くなりましたああああああ!
ゆーきとクロウがなんかごちゃごちゃし始めたから悪い!
話が行って帰っての足踏みしかしてないよ! いったい五千文字も何が書いてあるんだ!?
すいませんでした。次はペースアップで頑張りまそ。
この濃紫の柱の正体はなんなのか。ようするに、基本的に物体干渉しないゾンビたちの霊魂を活性化させて、物理的な質量を持たせる魔法だ。死霊使いのスキル闇魔法、「闇の叫び」。効果は、攻撃無効の塔を、自分を中心に三秒間発生させること。耐久力は、ゾンビの数に比例する。
欠点は、発動した場所から動かないこと。つまり、一歩でも動けば攻撃がヒットしてしまう。
「無駄ですのよ! どうせあなたが百人いたところで、あなたは私たちのだれか一人でも倒すことができないのですから!」
三秒だ、三秒ある。考えろ、打開策を何か、思いついてみろ。
まずは情報の整理だ。俺には今、何ができる。
ナイロック湖の主系スキル。
ゾンビ召喚系スキル。
闇魔法系スキル。
闇魔法には「隠蔽」のスキルがあったはずだ。だが、ハイドは、姿を消すだけのスキルであり、恐らく今、服が濡れているこの状態では、足跡と足音でおそらく居場所が割れる。いや、ゆーきなら「水に濡れている」だけで感知できるのかもしれない。
VRMMOゲームの発売時には純粋にすごいと思った水の再現は、いまや俺の足を縛る枷でしかなかった。
ならば「影繕い」などはどうか。視認できる範囲の影に、影を通って移動できる魔法。だが、と思考に水を差す。闇魔法スキルの要求レベルが足りない。まったく足りない。あとスキルレベルを八上げないと、この魔法は使えない。
それならもういっそ、闇魔法Lv1で習得する最下級魔法にして最大威力の魔法、「自爆」でも使ってやろうか。自分のHPを0にするかわりに、削ったHP百倍分のダメージを周囲に無差別に撒き散らす最低の魔法。自爆なのに「静かな殺し」とは、皮肉が効いている。自分が死んだら音は存在しなくなるということか。
三秒が経った。
無情にも濃紫の柱は薄れ消え、結局何の考えも浮かばなかった俺がまろび出る。
こうなればすることなどないのではないか。そうだ、自爆しよう。大量殺人鬼として後世に名を残すのだ。俺は無意味じゃなかった。俺という人間がこの世に産まれたことに対する付加価値は、零ではなかった。
それはマイナスの意味でも良い。俺という人間が無為に消費されたわけじゃないのだから。
だから、
「もう、打つ手がない。俺の負けだ。降さ――」
ん、と言い切るだけ、一度敵の動きを止めるための布石にするための一瞬だった。投了は、メニューウインドウのリザインボタンを押さなければ認められないため、発声だけならし放題だ。
そのとき。
俺から見て右側のプレイヤー数人が、吹き飛んだ。爆風をともなって。
左側のプレイヤー数人が、黒鉄の奇跡に薙ぎ払われた。戦士が現れる。
「まだ負けてない――よね?」
「すいません、撒かれてしまいました……。大丈夫ですよね?」
アサクラとリラ。ともにこちらに確認を取るという語尾で登場。
リラはその後俺のHPバーを確認して、わ、大丈夫じゃな、回復、えっと、ポーション……あれ、ない、じ、人工呼吸!? と、謎のテンパりを見せている。
いつのまに移動したのか、アサクラはリラのとなりにいて、アイテムボックスからのポーションの取り出し方を再レクチャーしていた。対照的にアサクラは落ち着き過ぎ、かな。
「クロウさん、これを!」
リラがポーションを放る。ビンは足元で割れ、HPバーが六割程度まで回復した。
ありがとう、と返し、その場を飛びすさり逃げる。リラとアサクラを十二時として、十一時の方向、二人を挟んでゆーきから遠い位置。
ゆーきの取り巻きのうち、左右に展開していた三十人は、不意打ちによるクリティカルで、八人が残りHP二割を切り、PvPルールにより退場。が、残り二二人は、最大でも三割程度しか削れていない。
残りHP九割以上残す二人が増え、少しは楽になったものの、依然窮地であることは変わらず。
HPポーションは、一ギルド五個まで使用可能。MPポーションは特に取り決められていないのでフリー。向こう側も、さすがにMP回復なしでは余裕がないようだ。魔法職は大変である。自分もまさしくそうなのだけれど。
「八人減ったところで何にも問題はありませんの。だって、こちらはまだまだメンバーがいるのですから。弱小ギルドのマスターの席、さっさと譲ったらどうですの?」
☆☆☆
「――な、ん、ん」
咳払い。声が裏返ったのを無かったことに。
「なあ」
「はいですの」
「一つ、ルールを追加しないか」
「ええもちろん良いですわよ。弱者に譲歩するのは強者の義務ですの」
それなら都合が良い。
唇を舐めた。
「じゃあキョウジャに、弱者としての立場から言わせてもらう。当然の義務だそうだからな」
「何を言うつもりですの?」
アサクラとリラは、黙って突っ立っている。たぶんアサクラはなんも考えていないだろう。リラは激しくおろおろしている。
「一つ賭けをしよう」
なに、難しいことじゃない。
「俺たちが負けたら、お前らのギルドに全面的な服従を誓う」
「当然ですし、今更確認するまでもないことですわ」
「じゃあ、俺たちが勝ったら?」
「私があなたのギルドに入りますのよ?」
「いいや違う。お前ら全員だ」
全員、俺のギルドに入れ。一人残らず、この場にいない生産職のギルドメンバーもすべて。
「なるほど、そういうことですの。あなたは、ギルドマスターとして、私たちを食べようというのですね? 飲み込むんですのね?」
「そういうことだ。今、うちのギルドは人員不足に喘いでいる。だから」
「――私たちが負けることはありえませんけど、ええ、確認としては有意義ですわ。口に出して約定を読み上げることは大事ですの」
だがしかし、と言葉をつなぐ。
饒舌に動くじゃないか、今までの会話経験値の積み重ねが、今に来て大放出されてるのか?
「このままだと不公平だ。違うか?」
「は?」
「お嬢様。これ以上この男の言葉に耳を傾けてはなりません」
そこで、キリの静止の声が入ってしまう。
舌打ち。あと少しだったのに。
「構いませんの。強者は弱者に譲歩せねばならないといったのは私ですのよ?」
あ、ゆーきさんが女神に見える。
せっかく譲歩してくれるそうなので、畳みかける。急いては事をし損じる? 急がば回れ? あいにく、俺の座右の銘は果断迅速だから。決めたら早急に動け。
「不公平だと思わないか。さっきそう言ったな?」
「ええ、言いましたわね」
「認めるのか?」
「認めますの。あなた達は私たちに対して不公平だと思えるような状態にあるのだろう、と」
続ける。
「それじゃあ状況を整理するから、少し付き合ってくれ」
「…………」
「お前たちのギルドメンバーでここにいる奴らは、全員中級職以上だな?」
「…………」
沈黙は是なり、も俺の座右の銘である。
続ける。
「それに、見たところ四〇人くらいはいるよな?」
八人倒したから、実際は三〇人強であると言った方が正しい。
「翻って俺たちはどうだ」
リラとアサクラを指差す。
「三人。それも、初級職が三人だ。さらに、敵将である俺の残りHPは、せいぜい五割程度しか残っていない」
実際には六割ほどあるが、五割程度であることには嘘はない。日本語の曖昧さはこういう風に有効活用するべきだ。
「だから俺は、両ギルド間の戦力の著しい偏りの緩和を要求する!」
「わざわざ私たちが、数的有利が圧倒的なこの状態を手放すとお思いですの?」
思うわけがあるか。
だから言質をとったのだ。
「現在のそちらの言い分を繰り返そうか。強者は弱者に譲歩すべきであるそうだが、今我々は、クイーンズ・ローゼスに対し、非常に数的弱者であるといえるだろう。ここまで、そちらが言った言葉だ」
違うか? と確認をとる。
「…………覚えておりませんわ」
「アサクラ」
「はいなー。ちゃーんと撮っているのでございますよー」
「もしかしたら」。撮影あるいは録音してくれて「たら」良いのになあレベルだったのに、まさか本当に録画していたとは。
「おしゃべりはここまでですの! 行きますの――」
「信用。お前たちが治めている町の、お前たちへの」
クイーンズ・ローゼスなんていうギルド、聞いたことが無い。
だが、構成メンバーも多くて、生産職のプレイヤーも多数。戦闘員は全員中級職で、総合戦闘力も中堅レベル。それならば、どこかに拠点を持っているはずである。そして、それが小さいわけがない。
あの規模のギルドだし、なによりマスターがあの性格だ。小さいギルドハウスなど、納得するまい。
それならば、ギルドハウスがある街を収める権利「統治権」くらい持っている可能性だってあるだろう。
ちなみに、統治権というのは、このゲーム内に存在する町なんかを、文字通り統治して運営できる権利のことだ。
権利を有するにはそれなりに難しいクエストをクリアしなければならない。一番オーソドックスなのは、町長選で選ばれることらしい。どんなクエストだ。アサクラからこの話を聞いた時の俺の反応だ。リラは、はぁー、大変なんですねぇ、とあんまり興味がない様子。
統治権を持つ者は、その町で絶対的な権力を持つ。
好きに税をかけたり、自由に条例を制定したり。
町の住民の支持率が八〇パーセントを切らないかぎりは、どのようなことをしても自由だ。だから、独裁者になるのは難しかったりもするのだが、今は別の話。
そう、つまり、指導者が公に発言したことが嘘であった場合、下がるのだ。支持率が大幅に。
はったりだった。
ゆーきくらいなら町ぐらい持ってるんじゃないかという。持っていてほしかった。町を所持すると、かなりの利益を得られるのだ。それを簡単に手放すとは思えないから、人質にとる。
「……要求を聞きましょう」
どうやら、町は所持しているらしい。
分の悪い賭けには俺が勝ち、勝者は敗者から奪うことができる。だから、要求する。
「こちらは、クイーンズ・ローゼスに対し、こちらのギルドと同じ人数と同じに合わせ、三対三の混戦にすることを要求する!」
☆☆☆
このゲームは、どうやら青筋が浮くという表現も細かく作りこんでいるらしいことを、その瞬間知ることになった。
「…………ふ…………ぅ」
「さ、さあ、呑むのか! 呑まないのか!」
「呑めませんわ!」
「良いのか!? し、支持率……」
音がするくらい鋭く、こちらを指差す。反対の手を腰に当て、あくまで見下ろしの姿勢のままで。
「貴方たちが、伝説級宝を持っているからですわ!」
だから、と突き刺していた手を胸に当てる。
「そちらは、マスター一人で一騎当千の戦力。私たちは、千人もいませんのよ?」
まずい、口先だけで丸めるには相手が悪かった! このままだと、逆にこっちがさらに不利な状況を作る無茶を要求される!
実際に、伝説級宝は一騎当千は大げさだが一騎当百くらいはやってのけるくらいの出力はある。
でも、お前には水が効かないじゃないか。だからどうしたんですの? と、鼻で笑われる、これは悪手だ。
だから言う。
「お前ら一人あたりの実力は、どれぐらいだ!」
「そんなの、あなたたちと大差ないに決まっていますわ! 違いは職のグレードとプレイヤースキルのみですの!」
「じゃあ、今から俺が言う言葉を思い出してみろ!」
闇の叫びを発動した時、ゆーきが言った言葉だ。
「……『無駄ですのよ! どうせあなたが百人いたところで、あなたは私たちのだれか一人でも倒すことができないのですから!』」
「――――ッ!」
「忘れたとはいわっ、言わせないぞ!」
ふふ、と、ゆーきが声を漏らした。
今までの感情を一度すべてリセットしたように、唇をゆがめて笑んだのだ。
そして。
「――つまり?」
「…………」
「つまりあなたは、私達に何を要求するんですの?」
うふふふ、あははは、と、吹っ切れたように大きく笑ってから、こう言い放つ。今まで自分は何を憂慮していたのだろう。一体、何を心配していたというのだろう。
弱小ギルド相手にどんなハンデを付けられようとも、いったいどんなリスクがあるのだろうか。
そう、だからどうした、と、こう言いたいのだろう。
そこに、弱者はつけ込むのだ。
「戦闘の方法に異議を唱える」
「どういった方法を求めますの?」
それは、
「――じゃんけんを、知っているな?」
はい、本当にじゃんけんですね。あれ。おかしいな。おいクロウ、たしぎに何を書かせるつもりだ。プロットすっとんじゃったじゃないか。対ゆーき編だけどうしてこんなにプロット通りに進まないのか。あれ? あっれ?
ともあれ次回、やっとこさ最終話。はい、最終話詐欺ですか? かもしれませぬ。
ま、次章はついに「しない♪」のあの人と、我らが「最高速」が再登場した結果、クロウさんが○○○○○○○しちゃう話になりそうです。○○○○も出そっかな。
――次回予告兼チラ見せ――
「し、知ってますわよ! さすがに馬鹿にしすぎですわ! 私は、完璧にじゃんけんを理解していますの!」
―――(ただし予告は変わる恐れがあります)―
では次回。
誤字脱字、変な言い回しの指摘、感想、評価、レビューお待ちしております――――。




