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第二話:ネズミ

 前回のあとがき――あれは嘘だ(くわっ


 すいません、曾祖母の葬式、テスト期間のコンボ技喰らって封殺されてました。


 ので、これからは迂闊に次回投稿予定は言わないことにしますOTZ


 というわけで最新話です。


 たぶん次話でこの章が終わります。次章次々章の予告漫画は(テスト期間中に)描いたので、あとは文字を書くだけですね。頑張ります。頑張ります。



 リラとアサクラがキリと戦闘する広場からやや遠く――

 町に数ある宿屋のうちの、一番背の高い宿屋――流水亭の屋根に着地する。ここは俺がリードからギルドへの勧誘を受けた―― 


「……ッ!」


 余計な思いを絶ち振り払い消却するつもりで、簡略版の地震を放つ。

 衝撃波は着地寸前で体制を整えつつあるゆーきをさらい、体勢を崩させた。


「……っ、こ、のっ!」


 しかしゆーきも初心者(ニュービー)ではない。中級職というのは伊達ではなかった。折れた体を携えた二本の竜巻で無理やりに回転させ、俺に正対するようにとんぼを切って着地した。


「あなた、見たところ初級職のままですわね? ……ええまあ、この速度で中級職になるのも異常なペースですから、仕方ありませんけど」


 ふふ、と見とれそうになる笑みをこぼし、言う。

 俺はメイスを握る手の内右手を離して、力を込めて握りなおすだけに(とど)めた。


「あなた、私にギルドマスターを譲る気はありませんの?」

「ない」即答する。「俺のギルドだ。マスターは譲らない」

「……それなら、どうしてそこまでマスターにこだわるんですの? 別に、目的が変わらないならだれがマスターでも同じですのよ?」

「それは――」


 伝説級宝を持っていたから――

 死ぬ時に一人でも多く俺を覚えてくれている人を増やしたいから――

 救世主にでもなれば俺の人生は無駄だったと思わずにすむかもしれないから――

 マスターならギルドメンバーとの会話が多くなり、友達ができる可能性もあるかもしれないから――


 理由なんていくらでも思いつく。だが、でも、しかし。


 ――違う(・・)、そうじゃない。


 なら俺はいったいどうしてマスターにこだわる――?


「それは――わからない」

「は? え? 理由、無いんですの? なんかこう、ほら、そのぉ……」

「わからないけど、死ぬ前には結論を出そうと思う。だから、」

「ダメですのよ。そこから先はこの戦いが終わった先に、ですの」


          ☆☆☆


 俺がゾンビを自主的に封印している理由は一つ、あまりにグロテスクな描写が禁止された現代において、ゾンビが一体どうしたわけかそういう(・・・・)外見をしているからだ。友達百万人作ることを目標に掲げているのに、これだと求心力を失ってしまう。ゾンビは、痛すぎるハンデでしかない。

 だからこそ、俺が召喚したゾンビは彼――


「いやぁぁ――!? なんです、のっ! これ! こっち! こっち来ないでください、ですの! いやっ! いやぁぁぁ――……」


 聖夜である。

 俺のほぼ唯一といえる友人、中津成也がアバター、「聖夜」であった。

 ゾンビは、HPが0になる( 死   ぬ )前に受けた最後のダメージを反映する形で顕現される。彼の損傷は首が折れただけだ。たいして血が出ているわけでもなし、傷口がのぞいているわけでもなし。せいぜい折れた首部分がうっ血して青黒く変色しているくらいだ。さすがに、眼球が飛び出したり舌が突き出したりといった表現はなされていない。当たり前だ、このゲームは一応全年齢対応である。一応、とつけざるを得ない時点でどうかとも思うのだが。


「行け! 聖夜先輩!」

「きゃああ――!?」


 繰り返すことになるが、ゾンビは、HPが0になる( 死   ぬ )前に受けた最後のダメージを反映する形で顕現される。聖夜の損傷は首が折れただけであり、反対に言えばそれ以外の部位は損傷していないことになる。

 つまり、首がぐらぐらと座らないことをのぞいて、普通のプレイヤーと同じ動きをするのだ。単純計算で俺と聖夜、二人分の戦力になる。

 更に付け加えると、プレイヤーゾンビは死ぬ時に装備していた装備品、その時の職業が完全コピー、Lvは使役者(ネクロマンサー)の使役スキルLvと同等に再設定されて、召喚される。聖夜の職は非常に頭の悪いことに「ロリコン」だ。ロリコンの固有スキル「幼女」は、十四歳より下の女性プレイヤーが自分のパーティにいるとき、全パラメータ二倍の効果を持つ。俺とアサクラ(十一歳)は同じパーティである。プレイヤーゾンビがパーティメンバーと同じ扱いで召喚されるのだから、当然聖夜のパラメータは初期値の二倍だ。


「喰らいなさい……ですっ、の!」


 気を取り直したのか、ゆーきが一対二本の巨大な水柱を俺を聖夜ごと巻き込むように薙ぎ払う。


「……ッ!」


 しかしそれに地震の衝撃波を当て、相殺する。簡略版ならまだ何発かは連発できそうだ。


 水柱はゆーきの周囲を飛び交い、格子のように俺たちを近づけない。聖夜を捨て駒にしても通るのは難しそうだ。だから、俺は前に出た。俺が、前に出た。

 メイスを逆袈裟に振り上げられるように構え、多少のダメージは気にせず突貫する。当然、衝撃波を追う形で。


「大人しく喰らいなさいですのっ!」

「残念だな! 俺には水は通用しないぞ!」

「それはこっちも同条件です、っの!」


 言葉と重ねるように、束ねた一対の水柱が付きこまれてきたのを身体を捻ってギリギリのところでかわす。いくら連発できても、だからといってMPを無駄遣いするわけにもいかない。

 MPポーションは有限なのだ。あと一二個しかない。いくら余裕があるとはいえ、このままのペースだと一瞬で消費されるだろう。


「でも、同条件なのは水が効かない(・・・・・・)ことだけ(・・・・)ですのよ?」


 斜に咥えていたMPポーションの瓶が天井の茅葺に跳ねて光の粒子になるのと同時――

 俺の横っ面に、真横から放たれたナニカが直撃し、世界が反転する。衝撃に脳味噌が揺れ、何が起きたのかに理解が追いつかない。そうしている間にもぐんぐん地面が近づいてきて、受け身をとらなければ、とうっすらと思う。

 しかし思考は白熱していけど、体が動いてくれなかった。


 それでも――


 俺だって一人じゃない。

 落ちる先には彼が回り込んでいる。

 背後からの奇襲にまわりこませていた聖夜が役に立つ。落下する俺の真下に聖夜がスライディングで走りこんでくる。もちろん指示を出しているのは俺だが、それでも疑似友達感覚を味わうことができた。

 バレーのレシーブのように腕を組ませて、そこめがけて着地するつもりで、空中で身体を捻り回転する。が、しかし。

 思い切るのが遅すぎた。


「あ、ちょ、すいません聖夜先輩――!」


 ガチ、とか、ゴキ、だか、そんな音を立てて聖夜に踵落としを喰らわせる形になった。


          ☆☆☆


 あまりにも綺麗に入ったその攻撃に、ただでさえぐらついていた首が背中側に落ちる――、否、皮だけはつながっている。まさか目の前で、首の皮一枚でつながった、という表現を見られる日が来ようとは。

 不思議なことに、俺は友人の死体( そ れ )を見ても特に何も思わなかったが、それは比較的異常な反応であると思える。

 そう――


「い、ひ、ぃ……っ! つぁ!? ――ッ!?」


 ――これこそが、通常の反応であるといえる。さすがに驚き過ぎだが。


「な……ぅのっ! なんでぅ……のよっ! それッ!? ――うぇ、う……ううぇ……えぇ」


 茅葺の上にへたり込むようにアヒル座り。そして、そのまま泣き出してしまった。それをどこか遠く――絵画でも眺めているような気持ちで冷淡に見ている自分がいた。そのことに気付き、空恐ろしいものを感じながら聖夜を消す。出現時は派手なのに、消失時はあっけない。収束し火の玉になるだけだ。

 さてどうしたものか、謝るのも間違えている気がするし、このまま襲い掛かるのはただの鬼畜だ。ゆえに、居心地の悪さをかみしめながら周囲に視線を送る。

 先ほど俺が被弾したナニカは、恐らく魔法攻撃だ。そして、着弾時にわずかに電気がほとばしるようなエフェクトがかかったことから、雷属性持ちの術者がいるはずだ。ゆーきは水属性の術者だから、雷属性攻撃は使えない。


 ――右!


 チッ、となにか鋭利なものが頬を掠めていく。あわてて身をかわさなければ、今頃は首に直接突き刺さっていたところだ。ソレはそのまま飛んでいき、家屋の壁にぶつかり割れる。氷だ。ガラスでも投げ槍でもない、今のは氷属性の魔法に相違なかった。


 術者が複数いるのか?

 魔法職には、いくつかの道がある。

 一つは、器用貧乏になること。オールマイティと言えば聞こえはいいが、どの魔法においても極めることができない。

 二つ、一極型。例えば水属性だと、属性相性において弱点が生まれる代わりに、一極ゆえに強力な魔法を習得することが可能だ。

 三つ、特殊。俺みたいに、あまり属性が関係ない魔法を使うものを指す。回復魔法やら補助魔法を使う術者もここに含まれる。

 他にもあるかもしれないが、今俺が思いつけるのはこれくらいなので、ここで思考を打ち切る。

 そこで最初の疑問、術者が複数いるのか、という疑問に戻ってくるわけだが。例えば俺なら、一人(ソロ)プレイをするならともかくとして、器用貧乏足り得る一番目の選択肢はとらない。リードも、このゲーム、トレジャーオンラインではそういうプレイヤーは少ない傾向にあるようだ、と言っていた。

 つまり、術者は、かなり高い確率で複数いる。


 ゆらぁ、と霧を割り、人影が姿を現した。正面にゆーきをおいた俺の右方、噴水広場がある方角だ。

 影は増えていく。

 一人、二人、三人。四人五人六人七八九十――

 左にも、後方の屋根の上にも。そして最後に、前方、依然泣きじゃくるゆーきの背後に現れた影が、しゃがみこんで何事か呟いた。こちらからはちょうど月をバックにしているように見え、“お姫様”が薄靄の空で唯一色彩を持っている。

 ゆーきは、影に手を取られると立ち上がった。ぐしっ、と手の甲で目じりを拭う。

 影はこちらを見た。そのままこちらを向き、距離を詰めてくる。


「――よくもお嬢様を――ッ!」


 叫び、


「泣かせたなァァァァァ!」


 影――キリのみならず、俺を囲む影たちもみな、言葉に悪意と純粋な怒りをのせて、こちらに向けて叩き付けてくる。肌がびりびりと揺れた。思考が焦げる。


「……う、ぇえ、PvPは、ギルド対ギルド設定ですの。――今更卑怯だなんて、ぇ、言わせませんのよ」


 嗤い、靄の中に真っ赤な半月が浮かんだ。


 遠距離魔法による集中砲火が迫る――


          ☆☆☆


 単純に数の話をすれば。

 リラやアサクラの姿が見えず、キリがここにいる今、戦力比は実に一人対四〇人強だ。リラやアサクラは倒されてしまったか。はたまたキリが撒いたのか。

 現状、俺はゾンビを召喚して戦うつもりはない。召喚する事に対して抱くトラウマはもう、深く根付いてしまっている。

 せいぜい召喚できたとしても、対してダメージの無い聖夜ぐらいである。しかし、彼は先ほどの踵落としでHPが〇、しばらくは召喚できない。


 ――勝てない。


 数の暴力という言葉は、現代二七世紀においても、まだまだ健在なのだ。数に勝る正義(ちから)は存在しない。

 と、蛇足含めここまでが、ヒートアップした思考を駆け流れた。


 地震は、放つ範囲が広くなればなるほど威力が減少していく。それでも、一応は伝説級宝の一撃だ。低レべル帯のプレイヤーなら一撃、二撃で倒せるだろう。がしかし、と、再度現在の状況を確認。相手は皆現時点最高レベル層、その数四〇。俺は伝説級宝でトップ級の戦力は有しているが、所詮一人だ。


 ――勝てない。


 色とりどりにスパークする魔法攻撃が迫り、その後ろを刀や槍、剣を構えたプレイヤーがついてくる。たった一人相手にひどく周到な攻撃手段だ……


「……くっ、《女王の薔薇(クイーンズ・ローゼス)》の――総戦力ですのよッ!」


 魔法弾着弾まであとわずか。白熱した視界の中でゆっくりと進むそれは、しかし現実世界ではコンマ何秒で俺に向かってきている。せめて、と両腕を体の前で交差、一番攻撃が薄いところを一瞬で把握し、そこに飛び込む。水弾はブースター代わりだ。

 衝撃。視界がちかちかと瞬く。上下感覚が消える――、一瞬。

 頭を振り、前方に飛び込む。視界左上のHPゲージはあと三割ほどだ。全弾被弾していたらと思うとゾッとする。


 と。


「袋のネズミという言葉を存じ上げておりまして? かかりましたのよ、ネズミさん」


 三本の竜巻を怒らせ、とぐろでも巻いているかのように荒れ狂う暴風雨の中に、彼女がいた。

 チェ・ック・メ・イ・ト、と口の動き。それが耳に響いて――


 竜巻が直撃する。


          ☆☆☆


 どこか非現実な轟音をまき散らしながら、竜巻は俺に巻きついた。世界が揺れて、視界が水に閉ざされる。

 地震を放ち、いくらか威力を殺そうと試みたが、殺しきれない。

 俺は――もちろん無抵抗でなんているわけがなくて。


「なっ!? なんですの、それはっ!」


 濃紫のような、黒のような、紫紺のような。地獄の底に通ずる井戸を覗き込んだ時、目が合った(・・・・・)かのような不気味を感じさせる色があった。

 それは俺の足元から屹立する一本の柱で、完全に俺を覆っていて。


「窮鼠猫を噛む、って言葉を知らないのか? ……べ、勉強不足だな」


 竜巻は確かに俺のいる座標まで届いた。

 しかし――水は、ダメージ判定エリアは、揺らぐ濃淡の濃紫の柱が阻んでいた。 

 反撃の狼煙を上げるには、いささか格好悪いような気がするのだが、人見知りがそんな簡単に治るわけがないのだ、仕方がない。



 次章(次話にあらず)、カミーユ出そうかなぁ……、と。それとも新キャラにするか。迷います……。


――次回予告兼チラ見せ――

「もう、打つ手がない。俺の負けだ。降参――」

―――(ただし予告は変わる恐れがあります)―



では次回。


誤字脱字、変な言い回しの指摘、感想、評価、レビューお待ちしております――――。

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