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最終話:俺たちのギルド

 はい、これで最終話。やっとLoad編終了です。


 次はNew_game編……かな? たぶんそんな感じになるかと。

 中に入り、今にも踏み抜きそうで崩れないぼろぼろの床板に足音を響かせて歩いていると、モンスターに遭遇した。

 ボディビルダーのような筋骨隆々のたくましい体を誇示するように、上半身には革のベルトだけを巻きつけている。下半身には何のかまではわからないが、とにかく毛皮を巻いている。

 彫りの深い顔立ちに、俺が主の憑依状態にあるときのようなエラが両頬から突き出しており、手には長い槍――否、あれは銛だろうか。


====

魚人(フィッシャーマン) HP68 MP29 At39 De2 Sp90

スキル 銛LV1

====


「ッ!」


 主のスキル地震を発動。フィッシャーマンが一撃で沈む。


「敵じゃないね。一昨日出直して来な……!」


 もちろんアサクラのセリフであり、まかり間違っても俺の言ったことではない。


 そのまま通路を進むと、フィッシャーマンが形成する集団に遭遇した(エンカウント)

 再度地震を放って沈める。


「私が出る幕がありませんね」

「アサクラも何もできないよ! 爆弾ならあるけど」

「木でできた沈没船の中で爆弾なんか使わないでくださいね? ぜ、絶対ですよ!?」


 アサクラのなにげない一言に、リラが顔に縦線を入れて注意をする。

 俺はというと、フィッシャーマンが取り落とした銛を拾っていた。


「銛なんて何に使うんだい? そんなにいっぱい拾って」

「換金だ。アサクラ、材料に使えないのか? 使うなら譲るが」


 そんな会話をしつつしばらく魚人を蹴散らして進むと、宝物庫のようなもを発見した。


「……金銀小判がザックザク! だといいね!」

 

 そう勢い込んでアサクラがドアを開ける。


「……なんだ、MPポーションしかないのか……」


 明らかにテンションが急転直下だった。MPポーションは一つ百五十ルードもするのだから、なかなかに宝の山だろう、と思う。

 はぁぁぁぁ、と長い溜息をもらすアサクラを尻目に、俺はMPポーションをアイテムボックスにしまっていく。ちょうど二〇個だ。俺、リラ、アサクラのパーティでMPポーションが必要なのは俺だけだから、独占可能である。

 船長室、と聞いて萎れていたアサクラが一気に復活した。船長室は宝物庫の隣にある。ケイネスがこっちだよ、と先に入っていくのに続く。


 宝箱が船長椅子の横に二つあるのを発見した。

 アサクラが走って行って即行で開けた。中身は確認せず、まず二つ開ける心づもりらしい。


「この宝箱は開けちゃだめだよ」


 ケイネスが宝箱を見て呟く。


「えっと、もう開いちゃってます……よね?」


 リラがつぶやいた。

 それとほぼ同時、入って来たドアが独りでに閉まる。


「宝箱を開けたのか!? モンスター大量湧出エリア(ハウス)が発動するぞ! モンスターを全部倒さないと出られない、気をつけろ!」


 ケイネスが叫ぶ。言動の内容、タイミングがおかしいのは所詮プログラミングされた簡易人工知能(、、、、、、)でしかない(、、、、、)のだから仕方がない。


====

ファントム HP190 MP1 At100 De0 Sp1

スキル 霊体《物理ダメージ無効》

    呪い《対象をランダムで一人選択し、呪いをかける。何が起こるかは何が対象になるかは完全に無作為》

====

 

 誰の記憶に()もトラウマ()を植え付ける()湿地に出てきた幽霊というモンスターの強化版だろうか。人型のナニカに闇色の襤褸(ボロ)切れを巻きつけたモンスターが二十体ほど、所狭しとあらわれる。空気から溶け漏れ出したような不思議な出現だった。


「あの、私の攻撃手段は物理攻撃しかないのでパスでお願いします。ええ、お化けが怖いとか、そんなのじゃありません。ええ。決して」


 リラには余裕が無さそうだ。お化けが怖いとかいうのも本当だろう。リラやアサクラは、余裕があるときはそれにかこつけて抱き着こうとしたりしてくるが、本当に余裕がないときは強がって見せるということを、俺は早々に見抜いている。


「アサクラは爆弾があるよっ!」

「危ないからやめろっ!?」

「あ、危ないですからやめてください!」


 再びのアサクラの危険過ぎる発想に、リラとツッコミの声が重なる。

 このゲームでは、一部の空と陸、水、あと一部例外はあるが町の建物以外はすべて破壊可能物体(オブジェクト)だ。この沈没船だって例に漏れないだろう。爆弾なんか爆発させたら危険極まりない。


 リラもアサクラも戦力にならないとなると、俺が戦うしかない。ケイネスは元から数に含まれていない。幸い俺には範囲攻撃地震があり、威力を押さえれば、沈没船への影響もあまり考えなくてよいだろう。


「ッ!」


 地震を発動。無詠唱の簡略版だ。フェントムが一網打尽に立ち消える。それらすべてをゾンビ化するための詠唱をしていると、ケイネスが口を開く。


「いやー、強いんだね! 侵入者防止用トラップのモンスターを倒してしまうなんて」


 ケイネスはそのまま口をつぐみ、奥へと進んでいった。

 沈没船の船長室からさらに奥へと進むと、下り階段があった。そこだけ白板でできて小奇麗なのは、もとから存在した沈没船を利用して改修・改造したからなのだろう。

 やや柔らかい足音が鳴り、階段が軋んだ。

 

          ☆☆☆


「さあ、こっから先はすぐだよ」

「ってあのさ、集落って遥か高くにあるだろう? そんな高いところまですぐなわけがないじゃないか」

「確かにそうだな。なにかあるんじゃないか?」

「ワープパッドの類はこのゲームにはないそうですよ?」

「ワープパッド? ってなんですか? リラ先輩」

「知らないのお兄ちゃん?」

「あんまりゲームはしないんだ。アサクラはそういうの詳しいのか?」

「ふふふアサクラはゲームは得意でございます。なにせ九歳の頃か――おっと口が滑った」

「えっと、確か法律で十歳以下はVRゲームは禁止だったような……」

「あー、えっと、脳の発達状態がどうのこうので影響を及ぼす可能性があるかも、ってやつでしたっけ」

「ん? いやいや、アサクラは今年で十一歳だよ? うん、大丈夫大丈夫」

「何が大丈夫なのかわからんぞ」

「でもまあほら、過ぎたことを気にするのは良くねーのでごぜーます! ねっ?」

「まあ、そうですね。今更過ぎたことなんて気にしても遅いですし、今はゲームから出られないんですから、法律なんて関係ありません」

「――――!」

「…………」

「まあ、そうですよね」

「うん。今はこのゲームからの脱出が先だとアサクラも思う」

「あの、すいません。不謹慎なことを言って――」

「いいですよ。俺は別に現実世界への帰還願望がありま」

「――そんなこと言わないでよお兄ちゃん! 一緒に帰ろう! ねえ! ねっ?」

「そうですよクロウくん。私たちがいる限り――あなたを一人にはさせません」


          ☆☆☆


「着いたよ。集落の真下だ」


 木の根に囲まれた空間に、能天気青年のこれまた能天気な声が響いた。

 地面からは、ちょうど正六角形の頂点の位置にくるように薄紫の鉱石が生えだしており、怪しげな光を放ち時折明滅する。


「それじゃあちょっとそこで待っててね」


 俺たちにその空間の入り口にとどまるように言い、ケイネスは部屋の中央まで歩み出た。そしておもむろに片膝をついてしゃがんだ。

 右手は地面に――ちょうど、薄紫の鉱石をつないでできる六角形の中心辺りに置く。

 薄紫の光が地面を走り、複雑な紋様の魔方陣を形作った。


「光を踏まないように気を付けて、こっちに来てくれ!」


 言われたとおりに従い、前へ。

 瞬間。

 視界が暗転する。


          ☆☆☆


「さ、着いたよ」


 一瞬だった。

 刹那の暗転の、瞬きの間くらいの後、俺たちが立っていたのはダマスナット集落の入り口階段のところだった。


「転移魔法だね。魔法職がうらやましいのでございます」

「本当ですね。クロウくんはテレポートとか使えませんよね?」

「多分、使えないと思います」

「これはね、厳密に言うと転移魔法じゃないんだ。回廊魔法っていう魔導具の形態で、A地点とB地点の間の空間を折り畳んでつなげる魔法さ。発動の一瞬だけはこことさっきの魔方陣は同じ場所なんだよ、つまりは」


 ケイネスがタイムリーな解説を披露してくれる。

 その説明を聞く限り、「死霊使い」という職では転移魔法を使える道理などない。


「それじゃあいい感じにお金も貯まったことだし、リシアたんのところへ行こうか。報酬はそこで渡すよ」


 疑問に思う。


「え? 私の記憶では、まだ三千ルード程しか貯まっていなかったはずでは……」

「俺の記憶でもそうです、まだ足りていません」

「ふっふっふー。(にぃ)(ねぇ)。アサクラがさっき開けた宝箱に千五百ルードずつ入っていたのでごぜーますよ!」


 ということは。


「これで合計六千ルードだよっ! やったねっ!」


 アサクラが拳を振り上げて飛び跳ねる。リラもそれに同調して、ごく控えめに腕を突き出した。


 ケイネスが歩いていく。

 俺達は一度首長リシアの屋敷まで行っているため道に迷うことはないのだが、一応遅れないようにとリラとアサクラに声をかけ、木の柔らかな地面を踏み歩く。

 生木は衝撃を吸収し、足音が立たない。


 一度通った道を再び進み、リシアの部屋まで戻った。

 大体午前一四時くらいに集落を出て、帰ってきたのは午後二時くらいだ。

 午前一四時、というのは、間違いではない。デス・ゲームになったことで、一日が午前二四時間、午後二四時間の、計四八時間になったのだ。ゲーム内時間では、俺がログインしてからまだ丸一日経っていない。

 だが、実質のところは四十八時間を二つに割り、夜一二時間昼一二時間・昼一二時間夜一二時間を一日とした生活サイクルが基本らしい。一番最初からこのデス・ゲームに居たアサクラに聞いた。


「お? ケイネス、お前、ちゃんと金は持ってきたのか、あん?」


 リシアがケイネスに詰め寄った。唇が触れ合うような距離まで近づいて睨みつけている。口からは、アサクラが半ば本気で怯えるような低いドスの利いた声。エルフに抱いていた幻想はとっくに消え去った。


「……私、エルフってもっとこう、凛とした感じのイメージだったんですけど」

「……奇遇ですね、リラ先輩。俺も今そのことを思ってました」


 当のケイネスはというと、満面の笑みだった。


「ああ、僕のリシアたん……! 会いたかったよ……!」

「おーい、誰か通訳を読んでくれー!」

「どうしたのかい? どうしたい? こんなに顔を近づけて。唇を奪うよ? いいの? 人前だけど。ううん、僕は気にしない!」

「通訳やっぱいらねー! アタシの得物持って来てくれー! 凛天丸の方でいいから!」

「凛天丸? リシアたんは相変わらず剣が好きだね可愛いよ」

「訂正! やっぱ天穿ツ妖精ノ煌メキフェアリーズ・ジョーカー出して来い! 第七封印まで全部破っていいから!」


 驚くことに、ケイネスとリシアはこの掛け合いを、超至近距離の睨み合いの状況で行っている。それこそ相手の吐息が伝わる――というか、もはや相手の吐息を吸って呼吸するような距離だ。

 片や修羅の乙女の表情(カオ)で、片や恋慕に溺れる青年の表情(カオ)


「ひゅーひゅー、絵になるねー。……話の内容が無ければ」

「そうですね。両方とも美形ですし。……話の内容が無ければですが」


 これは俺が収集を付けないと進まないのだろうか。


「…………」


 あ、あのー。


「…………」


 無理だった。

 完全に二人の世界に没入している二人に声を掛け、ましてやこちらに注意を惹くなど、俺の対処能力の範疇外だ。

 心の声だけで声をかけたつもりになって終わった。


「おい、いいかてめぇ、アタシを怒らせたらどうなるか知ってんだろアア?」

「ふ、怒った顔も可愛いよリシアたん」

「ならまずはその『たん』付けをやめろ! むず痒いだろ!」

「そうかい? ……今日も可愛いね、リシア」

「ひぅ……」


 しばらく放置していると、何やら大変なことになっていた。


「んー? お、これがツンデレってやつですな! お兄ちゃんはツンデレ好きっ?」

「クロウくんはツンデレが好きなんですか?」


 周りには味方がいない。

 俺は空を仰いだが、生木の天井しか見えず、鬱屈した気持ちで溜息をついた。


          ☆☆☆


「それじゃあ、ギルド名を考えましょうか。リラ先輩何かいい案はありますか? アサクラは?」


 その後。

 リシアからマスター指南の書、ケイネスから妖精の花冠を受け取って、早々と退散。今は集落にある宿屋の一つ、「嗤う蛍亭」食堂にいた。

 そこで少し早めの夕食を摂るついでに、さっそくマスター指南の書を開いてみたのだが、ギルド創設には三項目の決定が必要らしい。ギルドマスター・ギルドネーム・ギルドの旗印だ。

 ギルドマスターは俺で決定。

 なら残りは名前と旗印だが、先ず名前を決めてからの方が旗印も作りやすいだろう。幸い俺は美術部だ、絵は得意である。


「んー。何でも良いのかね?」


 アサクラが挙手して言う。


「まあ、俺たちのギルドが何をするギルドなのかが一目で分かるものにしてくれ」

「ん、了解」


 そのままアサクラは、んー? と考え込んでしまう。


「リラ先輩は、何か案はありませんか?」


 話をリラにも振ってみる。


「特には……思いつきませんねぇ……? すいません、私、こういうの苦手なんです」


 結局誰も思いつかない。


「そうだ! 白い救世主とか!」

「恥ずかしいのでやめてくださいお願いします」

「んー? そっかなー。結構そのまんまだと思うんだけどなー」

「私もそれでいいと思います」


 いや、それでいいのか、と思うが、この二人は俺よりVRゲームに詳しいだろうし、大丈夫なのだろうか。


「でもやっぱりなー。微妙かも」

「私もそう思います」


 リラは、この会議に加わるつもりがないのか適当な感じだ。本当にこういうのが苦手なのだろう。俺も苦手だ。


「まずアサクラは、ギルドマスターの特徴、ギルドの目的、アピールポイント、特色、この四つすべてをギルド名に表わす必要があると思うのでございます。おっけー?」

「お、オッケーです」

「ギルドマスターたるお兄ちゃんの特徴といえば? この白髪、もしくは赤目だよね?」

「そうだな」

「そういえばそれって、何かこだわりでもあって染めてるんですか? ……厨二病とか言うやつですか? えっと、六世紀ほど前に猛威をふるって、日本を滅亡に陥れかけた……、でしたっけ」


 この髪や眼はデフォルトだ。長年(、、)共に生活した色。

 これを染めないのは現実世界と同じ、「面倒くさい」からだ。髪を染めたりカラーコンタクトをすることも考えたことがあるが、いざ実行に移そうとすると、体が鉛のように(、、、、、)重たくなる(、、、、、)

 そんなことが続き、しまいには染めようなどと思うことすらなくなった。今このゲームの世界でも同じだ。現実世界より色を変えるのが簡単だからと言って、わざわざ染めようとも思わない。


「いえ、これは地毛ですよ。聞いたことないですか? リラ先輩俺と同じ高校ですけど」

「……え? クロウくんがまさかあの子だったんですか……?」

「はい? すいません、もう一度言ってください。良く聞こえませ」

「――むー。(あに)(あね)がアサクラのわからない話をしているー」

「あ、悪い」


 結局、その日にギルド名が決まることはなかった。



 はい、ここでお知らせです。せっかくキリの良いところまで来たということで、そろそろ高校の宿題を終わらせてみようかっと思います。あんだけやるやる言っててまだ国語と英語しか終わってません。数学と、別冊英語・国語・数学が残っておるのです。

 しかも四日にテストがあり、十日もテストです。入学式は八日です。


 というわけで、次話更新は長くてそのくらいだと思ってください。すいませんOTZ


 早ければ、一話くらいは更新できるかも……?



 リシアたん、ヤン(ヤンキーが)デレ(デレる)だよねむしろ。

 ……やっべ、ケイネス主人公リシアたんヒロインで一本書き下ろしたくなってきた。(未定)


――次回予告兼チラ見せ――

「クロウ様と言ったかしら? 私のギルドに入りなさい。もちろん、拒否権はありませんの。あるいは、どうしても私にギルドに入れと言うなら、私にマスターの座を譲るんですの。……ってちょっと待つんですのよ――!」

―――(ただし予告は変わる恐れがあります)―



では次回。


誤字脱字、変な言い回しの指摘、感想、評価、レビューお待ちしております――――。

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