第五話:メンタル
すいません、キリの悪いところで空きました。
たぶん次が「Load」最終話になるかと。
2013,3,12 浅生春雪さま(http://mypage.syosetu.com/217532/)よりレビューをいただきました!
思わず豚キムチ(※その時食べてました)をパソコンに吹き出すところでした。あぶねぇあぶねぇ。
戦局は圧倒的だった。
ただ、これはキャスティングボードがどうのとか、水蛇が圧倒的に強いとか、そういうことを言っているわけではない。
リラの運動量が、である。
俺が少しでも前に出ると、俺に向かう攻撃を必ず弾きに来る。
女性に守ってもらうほど俺も弱くはないつもりだが、きっと――
俺に放たれた水弾を弾きに飛んできたリラを押しのけて、そのさらに前に出る。そして右手を水弾に向けて――
こちらも水弾を放ち、相殺した。
「俺は死にませんよ――、とりあえず、今は」
――きっと、俺がまた自殺しようとするとでも思っているんじゃないだろうか。
「あ、当たり前ですっ!」
リラの力強い言葉には温かさを感じるが――
「うりゃぁぁぁ」
どこか間の抜けた掛け声でアサクラが何かを投擲した。ソフトボール三号球くらいの大きさの物体だ。彼女の指にはカギのようなものが握られていることから、爆弾であることがうかがえる。
「ちょりゃあぁぁ」
二投。
俺も負けじと水弾を放つが、水蛇の水弾とはほぼ同等の威力なようで、ほとんどが弾き返される。
アサクラの爆弾は爆発による爆炎でダメージを与えるタイプのようで、スキル湿り気を持つ水蛇にはあまり効いていない。
「アサクラ! 爆炎以外の爆弾は持っていないのか!?」
「うぇ? 持ってますけどー? でも、水氷弾しかないのだよ」
「それを投げろ!」
スキル爬虫類を持っているから、火属性があまり効かず、水属性が弱点であることぐらいわかるだろうに。アサクラだから仕方がない、のか? と、納得した。
アサクラが取り出した水氷弾が、水蛇に着弾すると、そこを起点にして蛇がくの字に折れた。そのことによって突き出された頭部にリラの大剣が吸い込まれ、直後俺の放つ水弾が着弾する。
蛇が一瞬硬直。
その隙に、総攻撃。
まずアサクラが投げた爆弾が爆発し、氷の雨を降らす。それを巻き込むように俺が水弾を乱射し、氷水の嵐が吹きすさぶ。
そして最後に――
「せやっ! 大剣系能力『湖面返し』!」
リラの大上段からの振り下ろしが蛇を地面に縫いとめた。
剣の軌道は正円を描き、確かに湖を彷彿とさせる。大剣にまとわりつく少量の水も合わさり、とてもきれいな技だ。
☆☆☆
「わーい、倒したぞー」
アサクラが棒読みだった。
なんだろうか。
「……ふぅ、ちょっと疲れました。強かったですね……」
リラが額の汗を拭いながら言う。
ゲーム内なのに汗まで表現されていて、今更ながらVR技術をすごいと思う。ただし、憎むべき対象であることは変わらない。
「そういやさー、お兄ちゃん」
アサクラが手に抱えた爆弾を虚空に消しながら言う。
それに、なに? と返事をして、続きを促す。
「あの、だよ、兄上」
書生風の口調の時は俺の呼称も変わるのだろうか?
「どうしてさっきの蛇の弱点がわかったんだい? 水生で液体系でないモンスターは火属性をぶつけるべし、ってこのゲームの説明書に書いていたのでございますが」
「あ、それは私も気になりました。まだ火属性の攻撃は使えないので、とりあえず無属性の能力を使っていたのですが……、どうして水属性が弱点だと?」
「ん? モンスターと遭遇した時に表示されますよね、リラ先輩? なあ、アサクラ」
アサクラは無表情に首をひねり、さあ、とだけ答える。きっと何も考えていないに違いない。
「えっと、モンスターの頭上に表示される名前の事ですか?」
モンスターの頭上に表示される名前……モンスターの体力ゲージのことか?
「いや、それじゃありません。もっとこう、詳細な説明がモンスターの真横に表示されると思うんですけど」
「え? そんなの出ないけど。兄だけじゃないの?」
「そうじゃないでしょうか。死霊使い限定のパッシブスキル……とか」
アサクラは、ちょくちょく俺の呼び方を変える。リラは年下にも丁寧語だ。
パッシブスキルとは、MPを消費せずとも常時発動され続けているスキルのことだ。もちろん覚えている。聖夜の説明を、一言一句違わず。記憶力には自信があった。
「それって、かなり便利なスキルですよね。何を見れるんですか?」
「何って、えっと、モンスターの名前とパラメータ、所持スキルです」
☆☆☆
結局、死霊使いのスキルだろうということに結論した。
リラの解釈はこうだ。
「このパラメータ画面は、死霊使いのような、モンスターを仲間にするタイプの職業のプレイヤーだけにデフォルトで見えるようになっているのではないでしょうか。職業固有スキル……ですかね。たしか、アイテムでもそのような効果を持つものがありましたし。死霊使いがはたしてモンスターを仲間にする職業なのか、というところを突かれるとちょっと困りますけどね」
アサクラは、終始何を言っているかわからない、という顔をしていた。無表情なのにアヒル口になっていたので、頭の上にポン、と手を乗せる。
「むぎゅ。……なにするのでございますかー!」
頭を押さえられた状態でうがー、と両手を振り上げてくるが、まったく怖くない。しかし、あまりいじめるのもかわいそうなので手を放してやった。
「あの、話、聞いてますか?」
もちろん現実逃避していたわけではないので、首肯を返す。
「わかりました、つまり死霊使いはジョブ固有スキルとしてモンスターの情報を見ることができる、というわけですね?」
「ええ、あくまで私の仮説……というか、推測ですけどね?」
自信なさげに言うが、おそらく正しいのだろう。
「それじゃあ、雑談はここまでにして、さっさと進みましょうか」
倒れた蛇が沈んだあたりを指差す。
蛇が勢いよく暴れ、倒れたせいで、水があちこちに飛び散り川底の石が道を作っていた。あれを渡ればいいのだろう。
「おー」
アサクラが、笑顔で腕を振り上げた。
☆☆☆
「この先には、何があるのでございますか?」
「見た感じは……沼地、かな?」
「ここは『カバク湿地』といい、足場が悪く高速戦闘がしにくいのに、モンスターは全て何かしらの高速移動手段を持つ、知らずに迷い込むと厄介なフィールド、だそうです。気をつけていきましょう。特にクロウくん、気を付けてくださいね?」
「はい、リラ先輩。でも、俺は死にませんよ。絶対に」
――このゲームに捕らわれた人たちを助けるまでは。
そんなことを話しつつ歩いていると、湿地の地面が盛り上がり、中から触手が生えた。根元は太いが先端になるにつれ細くなり、最終的には人参程度の太さになっている。色はグロテスクな紫。
動くたびにぬらぬらと光る粘液をまき散らし、正直気持ち悪い。
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ワーム HP5 MP5 At30 De30 Sp200
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Sp値がかなり高い。
Sp値が遅い俺じゃ倒すことは困難だろう、などと現実逃避気味に考えて――いくら虫を食う文化があっても、目の前の“コレ”は生理的に受け付けなかった――いたら、リラが一刀のもとに切り捨てた。
ゾンビ化し損ねた、と思い、いくら強くてもこんなゾンビはいらない、と考えを改める。
「すいません、あまりに気持ち悪かったのでつい反射的に体が動きました」
リラの目に光がなかった。言葉が棒読み。
でも、ちゃんと受け答えは出来るからまだ大丈夫だろう。時間の問題ではありそうだが。
ただ、本当にヤバい状態にあるのはアサクラだった。一言もしゃべらない。呻き声すら洩らさない。俺のローブに体ごと埋もれるようにしてしがみついている。
ワームが再湧出しかけたので、地面ごと水弾で吹き飛ばし、女二人――ついでに俺も――の精神衛生を守る。
すると今度は、幽霊みたいなモンスターが湧いた。
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ゴースト HP1 MP∞ At10 De5 Sp30
スキル 霊体《物理攻撃無効》
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さて。
物理攻撃無効モンスターが出た。このゲームでは、攻撃は大きく分けて物理攻撃と魔法攻撃に二分される。例外もあるにはあるが、今は丸投げ。
まず物理攻撃だが、これはそのまま文字通りだ。剣やメイス、槍や斧などでの攻撃がこれにあたる。これには、リラの大剣での攻撃や俺のメイスでの攻撃などが当てはまる
魔法攻撃も名前通りで、万人が想像するイメージそのままだ。火で壁を作ったり、水で剣を生み出したり、土でできた人形を動かしたり。
余談だがより簡単な見分け方があって、物理攻撃は物理攻撃での相殺――弾き――が可能、魔法攻撃は不可能、という違いがある。ただ、魔法攻撃は逆属性の魔法で打ち消せるので、ややこの判別方法も微妙ではあるが。例えば火属性の魔法だと、水属性、風属性の魔法だと、土属性、光属性の魔法だと闇属性、というふうに対応する。まあ、これを知っておけば大体はわかる、という目安だ。
水弾がなぜか物理攻撃なため、ゴーストには無効だ。
だから、主のスキルを発動する。スキル地震は衝撃波で敵にダメージを与える魔法だ。ゴーストにダメージを与えることができる。
「ッ!」
発動は、詠唱か、無詠唱の任意。
ただ、無詠唱だと、短時間で打てるが口から放つイメージになる。声の壁だ。反対に、詠唱有りで行うと時間はかかるがある程度自由な場所から打ち出すことができる。一長一短だ。
などと蛇足でしかないことを考えていたら左肩に衝撃を受けた。
左肩に突き刺さる触手を目で見てから悟る。ダメージを受けたのだ。
視界が赤く染まる。
このままではまずい。残りHPが一桁しか残っていない。
次喰らったら死ぬ。死ねば現実世界でも終末だ。
このゲームはデス・ゲームだ。ゲームオーバーは死を意味する。
☆☆☆
地震でゴーストを狩りながら進む。ワームは、湧出兆候が見られた瞬間に水弾で抉る。
それを繰り返していると、ついに湿地の出口に来た。
「出口だ! やっとだ! うひょー! やっとでございますなっ!」
アサクラがハイテンションだった。今まで一言もしゃべらなかった反動だろうか、その口は滑らかで言葉が止まることがない。リラは……、無表情で俺を見つめていた。目の焦点が合っているのかいないのか、軽くホラーだ。
いい加減、ワームはもう見たくなかった。別に見ていないが。全体を表す前に倒したから。おかげでまったく嬉しくないが、ゾンビが二百を超えた。まあ、二百突破記念でMPが三十上昇したのは嬉しかったが。
☆☆☆
湿地を抜けたその先。
そこは、商業都市『フリネジア』だった。
この都市は、三方が海と隣接し、一方が湿地という、船での交易が盛んな街だ。細長い街を、港を中心に赤レンガ造りの建物が建っている。
ざっと見た感じ、東京ドーム三個分くらいはありそうだ。
街の高低は、湿地側が一番高く、少しずつ海に近づくにつれ低くなっていく。
湿地からの入り口から続くレンガ造りの長い下り坂を、俺達は下る。
上から見ると結構その坂は長く、緩やかに傾斜している。
「さしあたってはまず、ケインさんのもとに行くんですよね?」
「そのあとにちょっとだけ町を散策しよーよっ! ねえっ!」
アサクラがぴょんぴょんと跳ね今にも駆け出しそうな雰囲気だが、対称的にリラは落ち着いている。
俺はというと――
「こっちにいるみたいですよ、ケインさん」
視界に表示される緑色のびっくりマークの方を目印にして、地図で大体の場所のあたりを付けていた。
☆☆☆
坂を下ると、中央に噴水のある広場に出た。湿地から続く坂を後ろにして、前が海、左右に道が続いている。
そこを右に曲がった曲がり角にある安っぽい酒場に、ケインはいた。
彼は俺たちにこう名乗った。
「王国軍騎士団長、ケイネスだ。ケインと呼んでくれ」
線の細い優男、と言った外見なのだが、王国軍騎士団長ということは強いのだろうか? そもそも、王国軍がどこの王国の軍を指しているのかわからないので、なんともいえない。
「ああ、僕のリシアたんからの手紙かい?」
僕の……リシア、たん……?
「自分で話すのが恥ずかしいから手紙をよこすなんて、あっはっは、相変わらず可愛いなあ」
僕のリシアたんはきっと気のせい、聞き間違いだろう、精神衛生のためにも聞いていなかったことにする。おそらくリシアというのはダマスナット集落首長のことだろう。剛毅な性格にかかわらず可愛らしい名前だ。彼女がかたくなに自己紹介しなかった理由もそこにあるのだろうか。
「リシアたんから聞いていないかい? 僕は人間だけど、一応「妖精の燐光」のサブマスターをやっていたんだ」
ケイネス。実力はそこそこあるようだが――
「ちょっと待っててね、手紙読むから」
そう言って手紙に目を通すケイネス。
しばらく目を細めて文章を追っていたが、やがてこちらの方を見た。
「つまりあれだね、リシアたんは僕に戻ってきてほしいんだね、ダマスナット集落に」
「なんて書いてあったのー?」
挙手でアサクラが問うた。
「ああ、借金の催促だったよ。そんなに僕に早く会いたいのか、もう一刻も待てないとまで書いてある。ああ、今行くよリシアたん……!」
実力はそこそこあるようだが――性格に難あり。
というわけで、五話でした。
アサクラはあれで年相応なところがあるようで、天真爛漫という言葉がよくあてはまります。
というわけで、本日のあとがきは三本立て。
~今の主要人物を四文字熟語であらわしてみた~
クロウ → 画竜点睛
いろいろ足りてないところが(ry おっと伏線に触れかけたぜ
リラ → 冷静沈着
あるいは恋愛成就。頑張れリラ。クロウは簡単には落ちないぞ
アサクラ→ 天真爛漫
いいよね、天真爛漫ロリ。
~クロウくんたちのギルド名ボツ集~
白の盟主
くろねく? なにそれ。
白の救世主
青エク? なにそれ。
友達百人できるかな
かっこよくない。イニシャルにしたら格好いいけど。FF。
吸血鬼の古城
第四真祖(ストライク・●・ブラ●ド)じゃんね。白髪赤目でなんか吸血鬼っぽいなー、と。
どうしようか、まるで決まらない。
誰か考え(ry
――次回予告兼チラ見せ――
「……おお、すげー。ボロボロでございますな!」
―――2013,3,22 15:58 次回予告変更―
では次回。
誤字脱字、変な言い回しの指摘、感想、評価、レビューお待ちしております――――。




