第八話:湖
アブナカッタヨー
四千文字一時間でカイタヨー
時計見ずに遊んでたら時間ってすぐに無くなるものですね(/_;)
この話、十一時から書き始め(その時点で千文字はあった)て、十二時にはなんとか書き終わり。
普段もこれくらい早く書ければ一日に二、三話書けるだろうになあ……
※前回の予告文、どっか行きました。すいません
夕食後、俺たちはサンの使っているという部屋に案内してもらった。ちなみにバルグサンドールも付いて来ようとしたが、サンの「付いてくんなやボケェ」という一言に撃沈している。
「入って」
ぶっきらぼうに言い捨てられた言葉に従い、中へ。
足なんかに使われている木材とシーツが真っ白なベッド。真白い壁、天井。毛足の短い白の絨毯。白い化粧板の箪笥。
全体的に真っ白い部屋だった。普通に生活しただけで汚れそうなものだが……
俺なら正直住みたくないな。こんなに綺麗だと気を遣いすぎてベッドに横になるのも厭いそう。
「まあ適当なとこに座ってえな。座布団とかクッションとかはないねんけど」
そう言って彼女は、床に胡坐を掻いた。背中を預けたベッドがかすかに軋む。
俺たちも、適当な場所に腰を下ろした。
「なんか他人の部屋みたいやわあ」
久しぶりに帰ってきたからかなあ、と、サンはこちらに笑みを向けた。
「サン、話がある」
俺は彼女の言を、あえて無視して言葉を作っていた。
俺が不甲斐なかったからか、彼女が辛かったのか。
とにかく、彼女は、俺たちの前から姿を消したのだ。
聞くべきことが、あった。
「どうして、俺たちを置いていったんだ?」
「なんでって――」
いや、責めてるわけじゃないんだ。純粋に気になっただけって言うか……少ししどろもどろになりながら付け足す。本当に、彼女を責めに来たのではないのだ。俺が不甲斐なかったのなら謝ろう、そう思ったわけである。
「僕の手ェ見せてな――なんか、寂しくなってもうてん」
ぽつりぽつり、と、彼女が語り始める。
「僕はやっぱり人外のバケモンやし……気付いてへん振りしとったけど、やっぱり僕は、クロウを――」
――――殺しかけてるし。
己の膝の辺りをたいして面白くもなさそうに眺めながら、彼女は言った。
「お前、記憶――残ってんのか?」
「残ってへんけど――やっぱり僕の意識はあるみたいで、ふとした瞬間に思い出すってゆうか、今はクロウの顔見たら、フッと、死にそうなクロウに馬乗りになってボコボコにしてる……映像が……」
やはり彼女の目線は膝から上がらない。
下を向いた目に、睫毛が長い影を落としていた。
「僕は……やっぱり、自分の力抑えられそうに無いし、このまま一緒におって、これ以上情が移ってもうたら別れづらなる思たし……」
まあ、俺たちはあくまで依頼人とその依頼を受けた人間の関係だからなあ。
俺がここに来たのは、他でもなく干ばつに喘ぐこの地域を助けるためであって――あれ? そういえば、この城の庭は普通に草木が生えていたのだが、それについては触れないでおくべきか……? この国のこの城の周りだけは水があるが、領地自体には水が無い、実は皇帝一族が水を独占している可能性、とか。まあとりあえず、あとでバルグサンドールに聞けば良いとして、今はサンだ。
話を戻すと、今すぐ水を大量に出して、干ばつ助けたよね、はいさよなら、ってことも可能なわけであり、それだとサンは寂しい……そういうことらしい。
「かといって、僕も旅ついてく! ……ってわけにもいけへんしなあ……」
「俺は構わないぞ」
良いよな?
と、振り向く前に虎姫とユージュから背中に激しい殴打を食らう。両の腎臓にそれぞれ一撃貰った。痛みに目を白黒させる俺。額から絨毯に倒れ込み、擦って火傷。
「いや、そう言ってくれるのは嬉しいんやけど……ホラ、また、迷惑かけるかもしれへんし……」
そのままの姿勢で見上げると、指ぬきグローブでかっちり包まれた両手を見つめるサン。
暴走して俺たちが怪我することを言っている……のだろう。あるいは今度こそ死ぬかも、とか。
「別に気にすんなよ。海の王兼空の王代理、あと地の王と旧・空の王はそんなに弱くねえ」
「アホゆうな。覚えてんやで? 僕に全然敵わんと、ボロボロになってたとこ」
「きゅ、急に辛辣な言葉!」
視線を下ろすとホットパンツの隙間から覗く足の付け根。
城に帰ってきてから着替えたらしい。ちなみに上は相も変わらず黒のノースリーブだ。隙間から覗く肌色には何の凹凸も無く、色気の欠片も無い。別に見てはいないけどね!
サンが溜息をついて身を捩った。そのタイミングで顔を逸らし、あたかも今まで倒れたまま惰性でそうしていたかのように体を起こした。
「あの時の俺は本気じゃなかった。三割くらいだった」
俺の言葉に、サンは少し笑った。
いや、嘘じゃないのだが。実際、海の王の力を行使するたびに、未だ憑依状態が解けないでいる空の王が邪魔をするのだ。その逆も然りである。どちらかというと海の王の力の方が強いようで、空の王の力はかなり弱体化しているが。
だから、実質今俺が出す事が出来る力は、本来の三割切るくらいで合っている――
「それなら僕は、二割五分くらいやったわ」
「なんで張り合った!?」
再び笑顔を見せた彼女につられて、俺も笑った。
☆☆☆
「そう言えばサンちゃん、海の王は連れて来てくれたん?」
「え? 兄上、何言ってんの? クロウがそうやで」
「……ほ、ホンマ?」
サンの部屋にやって来たバルグサンドールは、彼女の言葉を聞いて窺うように俺の方を見た。えっと。
「改めまして、う、海の王でーす」
「…………はあ?」
「………………な、ナンチャッテー」
訝しむ顔があまりに強面で、つい逃げてしまった。こんな強面でシスコンとか、サンに結婚は可能なのだろうか、と要らぬ心配をしていると。
「う、うみ、うみの、王……ホンマ――ちゃう、えっと、ほ、本当ですか?」
揉み手をしながら、やたらと下手に問うバルグサンドール。関係ないけど略したらバルサンだな。
彼の問いに答えたのは、俺ではなくユージュであった。
「それだけではないのかしら! クロウは海の王兼空の王代理なのだし!」
やたらに自慢げな表情である。コイツはコイツで、俺の事をまるで自分の事であるかのように自慢するよな……
しかも、こんな風に要らない場面で――
「ほ、本当でゴザイマスかっ!?」
「事実なのだし!」
「し、しつッ! 失礼いたしました――ッ! 今までの不敬な言葉遣い、および態度、正体を知らなかったとはいえ責任問題でありますッ! 命をもってお詫びいたしますので、なにとぞ――」
こうなることは。
もう、わかっていた。
☆☆☆
「それじゃあ、干ばつをどうにかしてきます」
「えっ! そんなすぐにできるもんなん? 思い立ってパッとやってできるもん?」
「ええ、恐らく。貯水池か何かはありませんか?」
暇そうにしていたバルグサンドールを捕まえ、俺たちは庭園に出て来ていた。すっかり機嫌を治したように見えるサンも、少し気恥かしそうな顔で付いて来る。彼女はただ、寂しかったから、俺たちと離れたくなかったから、そうであるからこそ逃げた――そういうことらしい。
そうであるなら、別に、今まで通り接していて何の問題も無い――
「ああ、このへん、全部貯水池跡やで」
確かに、この城があるところと煉瓦の道、その周りの樹木が生えているところは芝生だけの所より小高くなっていて――は!?
「ここ、全部!? 明らかに手入れされた形跡があるけど、庭園とかじゃなくて!?」
敬語どっか行った。
ですか!? と、慌てて付け加える。
彼は頑なに俺にへりくだろうとしたが、海の王兼空の王代理として命令して、俺の正体を知らなかったときと同じように接してもらっている。自分より三倍四倍年上の人間(ではないか?)に敬語を使われるのはなんというか気持ち悪い。
あと、向こうも自分に対して敬語を使うのはやめてほしい、というようなことを、二重どころか三重くらいの敬語で、敬いすぎてもはや何を言っているのかわからないような言葉で懇願してきたのだが、それは却下した。俺に敬語を使うのをやめさせたのと理由は同じである。
「あ、ちゃうちゃう、この城の正面側だけ」
ほら、あそこの方、ボコってなってるとこあるやろ――? そう言って彼は、城の正面百メートルほどの所を指差した。なるほど確かに、そこで地面は凹んでいる。
「あっこから先、向こうの山んところまで、全部湖やってん」
「一応聞くけど、これ、全部水で埋めるんですか……?」
「海の王やったらできる思たんやけど……無理?」
一体何ヘクタールあると思ってやがる。
ちょっと数値を思いつかないほど広いぞ……? こんなに水出せるかなあ。
「い、一応、やるだけやってみます」
貯水湖のところまで移動。
城の入口の地面と同じ高さから底までは大体二十メートル程か。
水は枯れていても、地下水脈はあるようで、雑草が生えまくっている。さすがにこの広さを手入れするのは無理があるのか。本来貯水湖であるところを手入れする必要もないだろうしな。
一度目を瞑り、意識を集中させる。なにせこの量の水だ。五桁六桁リットルくらいでは全然足りないだろう。そもそも、そんなに魔力が持つだろうか。
体内の全魔力を左の手のひら一点に集め、一気に放出する。海の王が水を生み出すのに、わざわざ詠唱などする必要は無いのだ。例えるなら呼吸と同じだ。二酸化炭素を排出するのに人間は呪文を詠唱しない。まあ別に水を排出しているわけではないけれども。
「うおっ」
背後、貯水湖の淵でバルグサンドールが驚きの声を上げる。
俺の左手から溢れた水は、凄まじい勢いを持って貯水湖の半分ほどを覆い――そして、地面に吸い込まれた。これじゃあ埒があかないぞ……
MPポーションを飲み干して、もう一度チャレンジ。今度はMPポーションを咥えながらの二連続だ。ところどころに水溜りができて、ようやく草原は湿地帯に変わり始める。三回魔力全開放してこれかよ……
うへえ、と、溜息ともつかない声が漏れた。
一体何回水を出せば、この貯水湖は満タンになるのだろう……
再びMPポーションを煽り、水を出す。MPポーション、水、MPポーション、水……
十数回繰り返してやっとくるぶし辺りまで水が溜まった。
「もう……無理……」
疲れた。
浅い水の中に倒れ込む。
泥が付くのも気にならないくらいに体に疲労が溜まっていた。
というかこれ――無理だろッ!
貯水湖、広すぎるわッ!
正直小さな池程度のものを想像していたのである、こちらは。
世界最大の湖、琵琶湖よりもさらに大きいのではないだろうか。一度中学校の時の修学旅行で見に行ったが、近畿地方の実に六割を占める琵琶湖の巨大さには圧倒された思い出がある。
翻って、今、俺の目の前にあるのは、その琵琶湖と同じかさらに大きいような湖――の跡地。
どう考えても個人でどうこうできる大きさではなかった。うん。無理。笑うしかねえ。
遥か向こうに霞んで見える山脈が琵琶湖の南端、紀伊山脈にすら見えてきた。というかここ、本当に琵琶湖なんじゃねえの? そんな錯覚すら覚える。
「御主人、様……お疲れ……?」
斜面を滑って下りてきた虎姫が、寝転ぶ俺の頭側に立って顔を覗き込んできた。
「スカートの中見るぞ」
「見せてる……」
生憎逆光で見えない。チクショウ。
「さすがにこの広さは疲れたわ。もう今日はこれ以上水出せそうにない」
「御主人様……立て、る……?」
「あー、なんとか」
言いつつ、体は起こさない。
海の王であるせいか、それとも疲れているからか、寝転ぶと耳辺りまであるかないかの水が心地よかったのだ。ちょうど下草が生えているおかげで、あまり泥に汚れないというのも大きい。
時折吹く風が水面をさざ波立てて駆け抜け、熱を溶かす。
もうすぐ、夏――そんな感じの気温である。
やはりユージュの趣味か、真白いサマーワンピースに身を包んだ虎姫が俺の隣に座った。
「濡れるぞ」
「見え、た……? やっぱり……はいて、なかった……から」
「俺は服の話をしてたつもりだったけどなあ!」
というかなんでナチュラルにはいてないのこの人。逆光というか元からはいてなかったらそりゃあ見えないはずですよ。
「ユージュは?」
「ハンモック出して……昼、寝……」
らしいなあ、おい。
俺が必死に湖埋めようとしてんのに、呑気に昼寝とか……
「それじゃあ、サンとバルグサンドールさんは?」
「ん、ユージュと……一緒に、寝た」
あいつ人数分ハンモック出しやがったなッ!?
というかサンとバルグサンドールも何寝てやがる。あのバルサン兄妹めェ……
そこで、重大なことに気付いた。
「ちょ、待、サンって、寝たら暴走するんじゃ――」
「んーん、それは、夜だけ……らしい。だから普段は夜型、って、聞い……た」
「俺がバルグサンドールさんと話してる時か?」
問うと、虎姫は、
「うん――そう」
静かな声で、答えたのであった。
柔らかな涼風が髪を揺らす。
疲れて火照る体にはちょうど良い。
虎姫から視線をずらして、空を見上げると抜けるような晴天、雲一つなかった。
「御主人様――私たちも、このまま、寝る?」
虎姫が俺の耳元で囁くように言う。
それも良いかもしれない、と、俺はそんなことを思ったのだった。
――次回(※まだ未定)――
「だー! 無理! 雨降らなくなった理由探した方が楽な気がしてきた! もういっそ探すわ! そうしよッ!」
―――(予告は変わる可能性アリ)―
では。
誤字脱字、変な言い回しの指摘、感想、評価、レビューお待ちしております。




