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友達はいないけどゾンビなら大勢いる  作者: たしぎ はく
第三部:The_dragon_of_the_thunder_cried_
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第三話:朝の処理

○○○○子(ぼそっ

 明けて翌日。


「マスター。客人がお見えになりませんので呼んで参ります」

「あ、いいよ、部屋に忘れ物したからついでに呼んでくる」

「それでしたら私は朝餉の準備に戻ります。できるだけ早くにお戻りください」


 忘れ物と言っても、特に大したものではない。

 というかほとんどのアイテムがアイテムボックスに収納できるわけなので、忘れ物なんてものはする方が逆に難しいわけなのだが。

 とにかく、昨日夜中に目が覚めた時に、水を入れて持って上がったコップを忘れていたのである。別に朝食の後でも良いかもしれないが、サンが起きていないというのならまあ、ついでかなあ、と。

 ノックを四回。


「起きてるか?」

「――お、起きてる! 起きてたよ!? ホンマやで!?」


 何を焦ってるんだよ。

 ドア越しにサンの声が届く。やけにバタバタと……暴れてる?


「入るぞ――」


 手に持っていたコップを床に置き、ドアノブに手をかけていざ開けようとしたら、数ミリで押しとどめられた。サンが向こうから押している。


「い、今着替え中やから!」

「別に良いだろー?」


 男同士なんだからさ。

 ぐい、っと一歩押し込むが、片手だからかびくともしない。どれだけ全力で押さえてるんだ。


「あ、あかんねんあかんねんて! ほら、えっと、その……なんや、朝はほら、大変やん?」

「え、あ――」


 ああ、なるほど。ようやく合点がいった。

 そりゃ気になるかもしれないな。


「生理現象だもんな」

「え? あ、そうそう! もう朝は大変でなー!」

「気にすんなって、男はみんなそうだからさ……」

「ん、男? 何の話?」


 とぼけようとする彼に話を合わせることにして、早く着替えて降りてこいよ、皆朝食待ってるからな、と言い残して、俺は彼の部屋を後にした。

 左手でコップを持ちながら。


          ☆☆☆


 若干頬を赤くしたままのサンが降りて来てから、皆で朝食を摂った。ちなみに食堂は三階にある。

 その後、俺は、妹に声をかけ、全員に集まってもらった。

 全部で二百十六人――人間なのもそうでないのも、全部でそれだけいる。


「忙しい中集まってもらってありがとう。数分で終わらせるつもりだから、ちょっとだけ我慢してくれな」


 皆には椅子に座ってもらい、俺はホールの最奥の少し高くなっているところに登っていた。

 ごちゃごちゃと前振りをするのも面倒だし、いきなり本題から切り込む。


「お前たちに町を任せても――大丈夫か? ……いや、仮にの話なんだけどな? 仮に仮に」


 大丈夫か、と言った瞬間の彼女らの表情を見て、つい要らないことを付け足してしまった。

 仮にってなんだよ。


「俺はさ、そもそも余所者だろ?」


 ホール中を見渡して、続ける――


「ここに来る前は旅をしていたんだ」


 旅と言ってもまあ、行先もないし目的もなし、とりあえず最終的に伝説級宝レジェンダリー・トレジャー全部集めて、ゲームをクリアして脱出できたらそれで良い――そんな適当な旅だったのだ。あるいは旅とも呼べないのかもしれない。


「だから俺は、今後ここを出なければならないんだ。――絶対に」


 仮に?

 何の話だ。元から口にするつもりのなかったワードなので発言の矛盾についての言及は受け付けておりません。悪しからず。


「マスターは――この町を出たいんですよね?」


 一人が挙手と共に言った。ウサ耳の子だ。


「出たい」

「それは、この町が嫌いだからですか?」

「それは違う。俺が出ていきたいから、出ていかなければならないから、出るんだ」


 それなら――と、一人が思わずと声を出し、その後慌てて挙手、言葉を続ける。


「僕達はここを守ります。すべてはマスターの御心のままに」


 その意見に異を唱える者はいない。

 こうまですんなりと送り出しに反論が無ければ逆に不安になるのだが。


「本当に大丈夫か? 海の王(おれ)がいなくても」

「大丈夫です。町を脅かす脅威は取り去ってくれましたから。今度は私たちがこの町を守る番です」


 その後も特に反対意見は出なかったので――

 俺は、サンの国に行くことを決めた。


          ☆☆☆


 思い立ったが吉日、というわけではないのだが、俺たちは、その日のうちに出発することになった。その方が面倒な見送りにならなくて済むと思ったからだ。盛大なお見送りなんか用意されてしまったら申し訳ないし、用意する分手間にもなるだろう。

 だから、簡素な見送りとなった。ホールに全員が整列して、俺たちを見送る。それだけ。

 それだけで良い。何にもしてやれない海の王に、意匠を凝らしたお見送りなんていらないのだ。

 代表として前に出ている二人に、声をかける。


「もしも何かがあったら駆けつけるから――」

「大丈夫ですよ。安心して旅を続けてください。たとえ離れていても――私たちには、海の王の加護がありますから」


 海の王の直接眷属である彼女たちは、その真祖である海の王の力が強ければ強い程得られる加護も大きくなるのだ、という説明を受けた。俺は海の王だけでなく空の王も兼任しているから――過去最強の加護を受けられるから大丈夫、ということも加えて説明される。

 早口言葉から察したが――彼女たちの厚意を無駄にはしたくないので、気付かないふりをしておいた。

 海の王の加護は確かに存在するが――別に俺が強くたって、それ程までに強化される類のものではない。ただ、俺が出ていきやすいようにしてくれているだけなのだ。

 本当に――


「もし疲れたら、いつでもこの町に戻ってきてください。すべての水はこの町に繋がっています」

「ここは、貴方の――マスターの故郷なのですから」


 ――ありがとう。


          ☆☆☆


「僕はこっから来た……っていうかこの町入ろう思たらみんなこっからやと思うんやけど、クロウら、どっから来たん?」

「えっと……」


 裏道です。

 実は密入国ですね僕達。今更思い出した。


 ヤマト・タタールの中心から東西南北に延びる道をまっすぐ進むと、当然壁に突き当たる。この町を囲んでいる外壁だ。

 そこに、この町の出入り口はある。計四か所――海底から陸上への出入り口があるのだ。


「この船に乗って降りて来んねん。……えっと、僕が乗ってきたのは……」


 あったわー、と言って彼が転がしてきたのは、三メートルほどの大きさの鉄球であった。


「よいしょ、っと」

「え、鉄球、持ち上げ――!?」

「ああ、ちゃうねん、これ見た目ほど重ないねん。中身空やから」


 ほら見てー、と、鉄球の背面……と言えるかどうかはわからないがとにかく鉄球の一部をドアの様に持ち上げてくれた。

 中には人が一人、少しキツめながらも横になれるだけのスペースがあり、そのスペースの外縁と鉄球の間にはスペースを固定する足以外何も入っていない空洞。

 この空洞に、行きは液体状の錘を入れて降りてきて、帰りはそれをすべて抜いて浮き上がる仕組みなんだとか。


「魔力コーティングで強度もばっちり! 圧力に負けることはないねんて」


 早く自分らの鉄球探してきぃや、と彼は言うが――

 俺たち。

 鉄球。

 持ってない。

 だってこの町に来たのは、裏ルートからなのだもの!


「お、泳いで行こう」

「正気か!?」


 ちょうどこの鉄球置き場から外壁の外に出られるしな。

 見た所予備の鉄球なんてものは存在しなさそうだし……うん、それが良い。そうしよう。


「ちょいちょいちょい、アホか!? こんな深海から泳いで外出れるワケ無いやろ!? パアンやで!? 水圧ガッてなるで? バアンやで!?」

「俺、海の王。水、友達。平気」

「なんでカタコトなん!? めっちゃ不安なんやけど! 大丈夫なん!?」


 海の王のスキル、水中生活だってあるし。水中環境に被術者を適応させ、生存を可能にするものだ。

 俺からあんまり離れるなよ、と注意してから、壁外に続く水路に飛び込む。

 

 まず、エラが生えた。

 そういえば服を脱ぎ忘れたことに気付いたが……もう別に良いや。服も含めて溺れることが無い様にするスキルなのだから。着衣水泳でも無問題。

 俺の後についてユージュと虎姫が水に入り、そして残されたサンは、


「え、冗談ちゃうん!? ちょっと笑えへんギャグとかやなかったん? ホンマに!? 嘘やろ?」


 とか何とか言いながら、恐る恐るといった体で水中に身を投じたのであった。

 サンだけ鉄球で浮上し、陸で合流すれば良かったのに、ということは――陸が見えてから言おうと思う。


          ☆☆☆


「丸一日掛かったな」

「……太陽……が、眩しい……ぜ……」

「海水でべとべとするのだし……」


 町に行った時とは違い、帰りは浮上するだけなのですぐだった。それでも一日掛かったわけだが。

 まっすぐ上へ、海の王の力で水流を操って進んだのである。水圧の急激な変化をスキル水中生活のおかげで無視出来たのも大きい。

 で、海上に出たらちょうど正面に陸が見えたので――それから数十分泳いでようやく上陸できた、と。

 目に入ってくる白い髪の毛を掻き上げて、周囲を見渡す。砂浜だ。松の木が生えている。

 虎姫が右手を(ひさし)にして目を細めた。海底にいる間一度も会えない太陽が燃えていた。というかドラキュラは日光は大丈夫なのだろうか? 今まで特に気にしたことは無かった。銀が弱点として機能したのだから、日光もなんらかのダメージを与えてくるはずなのだが……

 ドラキュラの知識を覗いてみてもめぼしい回答は得られなかったので、とりあえず保留ということにする。多分ドラキュラの肌がたまたま強かったとかそういう類じゃないかな。それかゲーム内であるがゆえに「日焼け」という概念が存在しないから――とか。


「ちょっと自分らなにやりきった顔してるねん……?」


 砂浜に倒れ込んで荒い息を吐いているサンが言う。泳ぎが苦手だからと言ってはいるが移動はほとんど俺の水流操作であったので、苦手なのは泳ぎというか水なのでは。


「服も……これ、もうダメかしら? 新しいの出した方が早いのだし」


 フレアスカートの水を絞っていたユージュが呪文を唱え、俺とサンに服を出してくれた。


「それじゃあ虎姫、付いて来るのだし」

「肌は……御主人様以外の男に見せられ、ない……ごめんね御主人様……」

「それは俺に生着替えを見せる事が出来ないことに対する謝罪なのでしょうかっ!」

「覗くのは……大丈夫、だから」

「わ、私まで覗かれるのだし! も、もし覗いたりなんかしたら死刑かしら!」


 そう言って彼女は、分厚い四枚の鉄壁を出し、四方を囲ってしまう。むしろどうやって覗けっちゅうねん。

 壁は、上は見上げるほど高く、その厚さは二メートルほど。一体何を持って来れば貫けるんだろう。シェルターじゃねえか。


「おいサン、これ、着替え」


 ユージュが出してくれた服をサンに受け渡す。

 彼が服を受け取ってくれたので、俺も自分の分の服を着替えようと、水に濡れてすっかり重たくなってしまった服を脱ぎ去ってしまう。


 俺が着替え終わった時、彼はまだツナギのポケットから荷物を出しているところだった。四次元ポケットかよ。小道具やら瓶やらの山ができている。

 すべてのポケットから中身を出し終えたサンは、今度はその黒いタンクトップシャツに手をかけた。

 ……どうしてだろう。

 同性であるはずなのに、やけにその動きが艶めかしく見えて、目が離さない。乳首も綺麗な薄桃色――少女のものと見紛うほど綺麗な体をしている。なるほどホモの気があったんですね分かります。俺が!?


 っていう一人遊び。

 別にホモの気なんてない。ただ単に、動くからなんとなく見ていた――それだけである。別に他意なんて無いし、ましてや性的興奮を得ているわけでもない。

 ただ単に、あまりにすぐに着替え終わってしまって暇というか、あのゴツい指ぬきグローブの下はどうなっているのとか、そんな感じで。

 タンクトップを綺麗に畳み、近くの岩の上に置いたサンは、次に、そのツナギからするりと足を抜いた。下着は履いていなかったようなので、それで正真正銘の全裸である。

 というか――


「え? ちょ、ちょっと待って、ままま待っててってってってててって」


 目を擦った。

 一日中海の王の力を使っていたから疲れたのかな。ハハッ。なんだか目がおかしいんだ。

 一度キツく目を瞑り、再び開いて見直してみるも、どうやら見間違いでは無いようで。

 なるほどさんはい。


「お、おまっ! お、女かよぉぉお――ッ!?」


 サンは「彼」じゃなくて。

 どうも、「彼女」だったらしい。


 サンは別に隠すでもなく、ただ堂々と、その裸身を、太陽に晒していた。


「え? いや、うん、そうやけど……」

「か、隠せ! 前!」


 慌てて目を逸らした。

 男だと思っていた分不意打ちで、かなりの衝撃である。耳が熱いのは太陽光線のせいだけではないはずだ――


「お、男じゃナカ……なかったのかよッ!」


 途中で声が裏返る。

 それに対し、きょとんとした顔で、依然前を隠そうともせずに彼――じゃない、彼女が言うには――


「いや、そもそも、僕、自分の事男やなんて言ってへんやん? いっこも」


 ……今までのサンとのやり取りを思い出してみる。

 確かに。

 確かに――言ってない。

 言ってないけど!


「普通男だと思うだろッ!? 一人称僕だし、胸無いし、髪短いし、男っぽい態度だし!」

「胸無いはセクハラちゃうかなあ……」

「全裸が何言ってやがる!」

「なんなん? 無い胸に欲情しとるん?」


 ニヤニヤ笑い腹立――あ、いや、違、見てないから!


「別に見られても減れへんし、ええんやけどなあ。なんでみんな必死に隠すんか分かれへんわ」

「なんという――男前ッ!」

○○○○子

雄んなの子


――次回――

「僕の体に興味あるん?」

―――(予告は変わる可能性アリ)―


では。

誤字脱字、変な言い回しの指摘、感想、評価、レビューお待ちしております。


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