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第二話:スケアリー

scary(スケアリー):意味:怖い


日曜日はお休みの方向でお願いします。


たぶん平日と土曜日は穴が開かない……かな?


もしかしたら、もう一つ休みになるかもしれません。最有力候補は土曜日ですが、今はまだ未定です。とりあえず日曜日だけ連続更新はストップします。


土曜日(もしくは他の曜日)に更新がなかったら、この曜日がお休みになったんだなあ、と認識していただいて結構でございますー。


では、本編。


「うぃ、アサクラのプレイヤーカードですよ」


 アサクラがぞんざいに突き出してきたプレイヤーカードを受け取り、俺も自分のものを渡す。

 それと同時にパーティ勧誘メッセージも送った。その間にアサクラの職業を確認。プレイヤーカードには「道具職人」とある。どうやら生産職のようだ。それなら、前線に出ていなかったこともうなずけた。道具職人というからには、アイテムを作成できる生産職なのだろう。むしろ室内でも十分スキルレベルを上げられる。

 と、


「はいりますよー、っと」


 視界の左上に「パーティにアサクラが入りました」と表示される。何となく感慨深いものを感じ、意味もなくアサクラのプレイヤーカードを握りしめる。――消えろ、と念じることでプレイヤーカードは虚空に溶けて消えた。


「あのさ、ギルドってどうやって作るの?」


 聖夜が寄越した「覚えておかないと絶対に困る用語集」には、ギルドの説明は書いてあったがギルドの作り方までは書いていなかった。だから、アサクラに聞いてみたのだが――


「え、知らないのでございます。君が知っているのではなかったのかい?」


 う、と言葉に詰まる。そりゃそうだよなあ。俺のギルドに入れ、って言ってスカウトしたのに、ギルドの作り方がわかりません、じゃ。

 とりあえず調べるか、と右手に刻印された職業紋様(ジョブマーク)に左手を添え、メニュー画面を表示させる。その中からヘルプの項目を選び、ギルドの欄を読む。

 それによると、


====

 ギルド創設について


 ギルドの創設は、基本的に誰でもできるものとします。ギルドの設立条件はメンバーが二人以上いることと、そのメンバーがどのギルドにも属していないことです。

 ギルドの創設は基本的に無制限ですが、設立するにはアイテム「ギルド創設・虎の巻」が必要です。これは、とある町のとある人間から受けることができるクエストをクリアすることで手に入ります。

 町のヒントは、巨木の上にある、妖精たちが暮らす小さな集落です。

 

 「ギルド創設・虎の巻」を手に入れたら、そこに書かれている通りに行動してください。

====


 妖精なんか存在するのか、どうでもいいところに食いつく俺。


「妖精なんているんだねっ! 行く、アサクラそこに超行きたい!」


 どうやらアサクラもそこに食いついたようだった。

 ただ、脱線し続けても仕方がないので妖精の話は打ち切り、ギルド創設の話に戻した。


「この、集落っていうのがどこにあるのかアサクラには皆目見当もつきません」


 瞑目して首を左右に振りながらアサクラが言った。それもそうか、彼女はずっと引きこもっていたのだ。

 だから、彼女の答えはハナから数に入れていない。

 なぜなら、俺がこの集落に心当たりがあるからだ。


          ☆☆☆


「ほぉぉぉ、きれいでございますねっ! なんだいここはっ! 海か!? 泳げるのですか!?」


 ナイロック湖に着いた。以前一度踏破しているため、さほど時間がかかることもなく、さくっと到着だ。

 湖の波打ち際まで行って水に触っていたアサクラに、スキルがないと泳げないぞ、と注意する。確かに、ナイロック湖は巨大だ。見様によっては海にも見えるだろう。


「あれを見ろ」


 その湖の大部分を占める巨木を指差した。


「んぃ、巨木でございますな。……ああ、あれがそうか!」


 得心が言ったのか、「ダマスナット・ヒュージ」を見たアサクラは叫んだ。あの木の上には集落がある、というようなことを以前俺が入っていたパーティ……のリーダー、リードが言っていたからだ。

 ちなみに、俺と交換していたプレイヤーカードは完全に拒否設定されていたので、こちらからもプレイヤーカードを全削除した。

 ……今はそんなことはどうでもいい。


「ああ、あそこに「ダマスナット集落」というのがあるそうだ」

「じゃあ、登るんだねー? どこから?」

「向こう岸だ。取りあえず歩くぞ、もう少し」


          ☆☆☆


 モンスターにはあまりエンカウントしないエリアなので、巨木のふもとまでは割とスムーズについた。ただ、道中に枯れた木があり、そこに止まっているカラスをアサクラが怖がったせいで、せっかく迷わない道であったのにもかかわらず。せっかく二回目なのに、結局時間がかかってしまった。


「さて、これを登ればいいのだね? ……お、あれかなー?」


 アサクラが、右手でひさしを作って巨木を仰ぎ見た。空いた左手は巨木の中腹を指差している。つられて空を見た俺の目にも、「それ」ははっきりと映った。

 巨木の全高は空にかすんで消えているために見えない。また、木の太さだって皆目見当もつかなかった。まるで壁だ。右を見ても左を見ても、木の幹がある。現実(リアル)での木を例に出すと、ポプラとメタセコイア、ガジュマルの木を足して三で割ったような形をしている。

 湖畔に接地しているのはわずかに一メートルだけの範囲で、あとは水没していた。他にもねじくれた根のようなものがあちこちから突き出しているが、どうやらここからは登れないようだった。スキル木登りでも必要なのだろうか。聞いたこともないが。

 

 唯一接地している、湖面に水平な根は、ほかのねじれた根が作る空洞の奥に続いているようだった。

 俺は一つアサクラに頷きを送ると、先頭になってその道を進んだ。


          ☆☆☆


 数歩進むと、すぐに暗闇に包まれた。

 根が作る天然のアーチだ。VRMMOのポリゴンでできた木は天然かどうかは賛否両論となるだろうか。一瞬気になったが、今はどうでもいいことなので放置する。

 それまで騒いでいたアサクラが急に静かになったので、声をかける。


「…………アサクラ?」


 声は帰らなかった。

 

 やっぱり(・・・・)無視するのか、とトラウマモードに入りかけたのだが、それを押しとどめた動きがあった。

 手だ。

 小さな手が、後ろからローブの腰あたりをつまんで引っ張ったのだ。

 一瞬悲鳴をあげそうになったが、それがかすかに震えているのを感じ取り、飲み込む。振り向いて、暗闇に少し慣れ始めた目がとらえたのは、うつむくアサクラのつむじだった。


「…………」


 一度話の流れを切られたゆえに、こちらから声をかけるのがためらわれた。もちろん空気を読んでというわけではない。トラウマが原因だ。

 アサクラもしゃべらなかった。気まずい沈黙が場を満たし、息苦しさに溺れそうになる。

 そんな沈黙を破ったのは、やはりアサクラだった。


「……ぁ……ちょっと……いい……ですか……?」


 声はとぎれとぎれにして声量はかすれ気味。あれだけ快活にしゃべっていたアサクラに比べて、まるで別人のようだった。


「……ん? ど、どうした?」


 つむじを見下ろしながら、声を落とす。

 向こうが話しかけてくれたことで、こちらの呪縛は解けるのだ。なんとなく声が詰まったのは気のせい以外の何物でもないのだ。


「……ん。その……しばら、く、……こうして、て、いい……?」


 急激にしおらしくなったアサクラの言葉に、肯定の言葉を返す。

 ああ、そうか。

 暗いところが怖いのか。もちろんそんなことを口に出して言うことはしない。それくらいの気遣いができないと、友達なんか作れないのだ。――そもそも友達いないけど。

 先ほどプレイヤーカードを交換した時に、年齢が十一歳だったことは確認した。正直年齢の割には背丈が大きいな、と思ったのだが、それは関係ないことだ。まだ、暗いところが怖くても仕方がないことだろう。……今、ものすごく怖いことに気付いたのだが、特に何も言わない。聖夜と同じ病気――明言はしたらダメだ、左手よ首を絞めるのもだめだ。

 アサクラの頭に軽く手を乗せて、軽く撫でてやる。自分でも無意識の行動だった。妹も、こうすれば落ち着くから、かもしれない。


「……お兄ちゃん……」


 アサクラが、意識したわけではないのだろう、ぽつりと小さくもらした。


「ん? お兄ちゃんがいるのか?」


 しまった。これで死に別れたとかだったらどうするんだ俺。友達がいない俺に、そんなフォローの仕方なんてわかるわけがない。

 あわあわと、きっと傍目にもわかるように動揺する俺だったが、周りにはアサクラしかおらず、そのアサクラは視線を下げている。


「……ううん、いないのですぅ……」

「え? だったらなんでお兄ちゃん?」


 ひとまずは、死に別れでもなさそうだ。ほっと胸をなでおろす。


「アサクラには兄弟も姉妹もいないのです。一人っ子なので、ずっとお姉ちゃんがいたらこんな感じ、お兄ちゃんがいたらこんな感じ、というのを想像してたのですよ」

「そうか。それなら、しばらく――とりあえず暗闇から抜けるまでは俺のことをお兄ちゃんだと思ってくれればいい」


 何が正しいのかなんて俺には分からない。

 ただ、普通の奴ならそうするのだろうなぁ、という行動を、クラスメイトを盗み見て培ったデータの蓄積(、、、、、、)の中から探し、最善のものを選んだ結果がこれだった。


「わかりました、お兄ちゃん!」


 まだ少しシュンとした感じは抜けないが、それでも先ほどまでのアサクラの様子に戻りつつあるようだった。

 よし、それじゃあ先に進むぞ、と声をかけ、先に進もうとする。

 しかし、アサクラがしがみついて離れず、足が止まる。


「それでも怖いので、こうして顔をうずめててもいいでしょうか……?」


 俺の腰あたりに顔をうずめたままでアサクラが言った。歩きにくいことこの上ないが、この際仕方がないだろうと目を瞑り、ああいいぞ、と返事を返しておく。

 と、その時だった。


 入口から数歩入っただけなのにその場にとどまっていた俺たちに、後方から声がかかったのだ。


「あの、誰かいるのですか?」


 声は後方、入口――つまりナイロック湖畔のほうから響いた。足音が反響し、こちらに近づいてくる。


「すいません、ちょっと暗闇とか苦手なので一緒に「ダマスナット集落」まで――」


 足音が止まり、声も中途で途切れた。

 どうしたのだろうか、と首だけ後ろに向けた。暗いから細部がよく見えないが、声のトーンと背丈、体型から女性だろうということがわかる。たぶん、年は俺とほとんど変わらないはずだ。

 暗闇のうごめきから、どうやら視線が上下しているらしい。――俺とアサクラを交互に見ているようだ。

 どうしたのですか、なんて言えるわけがない。俺に普通の対人スキルを求められても困るのだ。アサクラもしゃべらない。俺の腰に手をまわして抱き着き、背中に顔をうずめたままだからだ。

 

 はたして、先にアクションを起こしたのは向こうだった。

 ゆるりとした動きで口元に手を添えたかと思うと、ムンクの「叫び」のようなポーズをとったのだ。なんだなんだ、と思うこちらの思いが通じたのか否か、さらなるアクションがあった。

 きゃ、から始まり長く続く悲鳴を上げたのだ。

 背中でアサクラがビクッ! とはねた。腰にまわした手により一層力が籠められるのを感じ、俺は左手をアサクラの腕に置いた。

 続きがあるのか、向こうのプレイヤーが息を吸ったのが小さな吸気の音として耳に届く。

 その吸気の音が途切れ、一瞬の完全な静寂ののち、絶叫が木霊した。


「ロリコンがいますっ!?」

「違ぇぇぇ――――よっ!?」


 気づけば、無意識のうちに叫び返していた。……哀れアサクラは、より一層怖がっていた。


          ☆☆☆


 しばらく歩くと階段があった。どうやら木の幹の周りを回転する螺旋階段になっているようで、横幅は三メートルほどだった。

 左手に幹があり、右手は湖の形になる。……大丈夫だとは思うのだがが、あまり右端を歩きすぎると落ちるのではなかろうか。

 そこまで来るうちは、正体不明の女性プレイヤーに延々と俺がロリコンでないことを諭していたのだが、よく考えたら人見知りとか、コミュ障とか、そんなことすっかり忘れて普通に「会話」していたと思う。

 聖夜――成也が自分はロリコンではない、ということを前に語ってい(、、、、、、)たことを聞い(、、、、、、)ていたから(、、、、、)だろうか。


 暗いところから急に明るいところに出て、光量オーバーの瞳孔が白く焼けるのも一瞬で、一度まぶたを閉じるうちにはもうクリアで鮮明な視界が戻ってきていた。

 ところで、と女性プレイヤーの容姿を確認する。

 身長が一七〇センチメートルちょいある俺から見ても、かなり大きい。流石に俺より大きいことはないが、一六五センチくらいだろう。

 自然に明るい茶髪を右耳の後ろで一つにくくり、肩から前に垂らしている。髪色は地毛だろうか、あまり不自然な感じはしない。

 やや細く尖る眉毛は力なく垂れ下がり、黒目の部分は明るい鳶色の、大きな瞳。なにより、バツグンのプロポーションだった。女性にしては長身な体躯に、弱々しく控えめながらもしっかりと自己主張する胸はモデルを思わせる。

 ときおり、何か言いたそうにその桜色の唇がモニュモニュと動くのだが、やはり言葉を発することはなかった。それはこちらも同じである。いや、言葉が出ない、の部分だけだが。

 学校の先輩によく似た人がいるのを俺は覚えていた。

 というかぶっちゃけ――


「黒羽君!?」

「敷里先輩!?」


 叫んだ声が重なった。


アサクラの幼児退行。


次回、敷里先輩のアバターネームが明らかに。というか「死体がないなら作ればいいじゃない♪」の登場人物紹介見たら載ってるんですけどね。

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