第二話
その日、私は中庭で昼食をとっておりました。快晴で時折吹き抜ける風がとても気持ちよく、思わず寝てしまいそうになるほどでした。
するとどこからか何かがひらひらと落ちてきました。私はそれを拾い上げ、何か見ようとしました。そのとき、私に大きな影がふっとかぶさってきたと思うと、大量の紙が空から、否、教室から降ってきたのです。私は驚きのあまり立ちすくんでしまいました。
しかし紙というのは存外に綺麗なもので、ひらひらと舞う姿はまるでモンシロチョウのようでした。
私が一人ぼーっと立っていると頭上から声がしました。
「君、大丈夫かっ!?」
私は声のする方へ顔を向けました。
「大丈夫ですー!」
「すまない、今から僕もそちらへ行く」
そうして声の主は教室の窓を閉めると、こちらへとやってきました。
なんと声の主は電車でいつも会う男子学生でした。まさか同じ大学とは思わず、私は思わず目の前の人物を凝視してしまいました。
「すまなかった。けがは・・・してないようだな」
「大丈夫です。紙ですから。なかなか綺麗でしたよ」
私は微笑んでそういうと、男子学生は驚いたような顔をしました。
私は何か変なことを行っただろうかと少し考え、ほどなくして紙を拾い始めました。
男子学生は私につられるように紙を拾い始めます。
「化学部か何かですか?」
私は男子学生が私服の上に来ていた白衣を見て、あたりをつけました。
「あ、はい。実は実験の準備をしていたんです。僕、本当は物理専攻なんですけどね、化学も好きでサークルでやってるんです」
「そうだったんですか」
「はい、でもさっき強い風が吹いて、準備に夢中で紙が飛んでいってしまったのに全然気付かなかったんですよ」
男子学生の視線を感じて私がふっと顔を上げると、
「助かりました。どうもありがとう。」と言って、にこりと笑いかけ去っていきました。
実に礼儀正しく、爽やかな人です。
風に靡く黒髪と涼しげな目を縁取る黒ぶちの眼鏡のフレーム、真っ白な白衣がとてもよく似合っておりました。
私はついお付き合いするなら、あんな方が良いな、などと柄にもないことを考えてしまいました。
そしてこれが、私史上最大の事件の始まりなのです。