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決闘:壱 『生徒会戦(第一回戦)』

決闘壱 『生徒会戦(第一回戦)』


「即ち、君は私を敵と認識しているわけだ」

 あの日、会長が俺に放った言葉。冷淡で、それでいてどこか嬉しげな表情が俺には忘れられなかった。

 あれから数日が経ち俺は走りながら考えている。去年の春、彼女に敗北して以来、ずっと考えているのだ。つまり『どうやって彼女に勝つか?』という事だ。そして、俺はある一つの方法に辿り着いた。

 どうやら彼女には全て見透かされていたらしい。まあ、それは当たり前の話だ。彼女の元にいて一年近くの間、彼女を敢えて頼らなかったのだから。

 しかも、ご丁寧な事に舞台を用意してくれたらしい。それが『生徒会戦』だ。一番偉い奴をどつきあいで決めようってノリで約二十年前に始まった伝統の行事らしい。最強の生徒が生徒会長となる。実に我が校らしい発想だ。

「ここ一年近くの間、君を観察してきた。リサ君との一件を見て私は確信したよ。君は何と言うか――つまりはヘタレだ。私に挑む気があるのは実の所、生徒会に誘った時に解っていたし、その為に努力している事も認めよう。しかし、君は契機を自分で作れない男だ。だから、この守上院鏡花が用意してやろうじゃないか」

 思い出して苦笑した。彼女の言う通りだ。俺は問題を先送りにする悪癖がある。しかし、なんとも上から目線のむかつく言い方じゃないか。その傲慢な横っ面をはっ倒してやりたくなるってもんだ。

だから、俺は覚悟を決めた。



「うーん、これはちょっとやりすぎじゃないんですかね?」

 二月に入り学年末試験まで後一週間となるとポスターが張り出される。無論『生徒会戦』の告知のやつだ。『誰からの挑戦も受ける』とのコピーにまるでミスコン・クイーンの様な格好をした会長が仁王立ちしている、そんなポスターだった。

「それにセンスも具体性も全くない」

 こういう雑用は俺とマコトの仕事となる。今日は加えて会長の三人での作業だ。

「おいおい、酷い言いようじゃないか」

「だって、そうじゃないですか」口を尖らせて抗議する会長をスルーして俺は続けた。「デザインは……まあ、この際だから置いておいて、参加するのは誰でとか、いつやるとか書いてないじゃないですか」

「風間君、それは仕方がないと言うものだよ。現在五名がエントリーしているが応募の締め切りは試験が始まる前日までだし、期間はちゃんと第三週から四週とあるだろ」

「なるほど、そういう事情なら人数は了解です。でも、その二週間の内いつやるんだって話ですよ」

「む? ああ、君には敢えて何も教えていなかったが、各戦毎に一週間程度の期間を設けているのだよ。だから、トーナメントの第一戦は第三週の月曜日からだね。うむ。よい機会だから君にもちゃんと教えておこうではないか。『生徒会戦』の勝利条件なのだが原則として『相手に負けを認めさせる』なのだよ。つまり、誰の目から見ても勝敗が明らかな場合でも相手がマイッタしなければ勝ちとはならないのだ」

 会長はここで一旦、言葉を切ったが俺の表情を見ると『もちろん解っているよ』と、ばかりに話を続けた。

「しかし、それだと延々と相手が負けを認めない場合がある。私個人の意見としては相手が二度と自分に歯向かわないように心を折るまで徹底的にやるべきだと考えているが――それでは行事として成り立たんな。と、言う訳で運営側が『翌日に戦闘参加不能と認めた場合』『決着が引き延ばされた場合、その週が終わった時点で判定を行う』という追加条件があるのだ」

 俺が「ほうほう」と相槌を打つと彼女は「まあ、大抵の場合はその日に決着がついているようだがね」と付け加えた。

「それにしても意外と参加人数が少ないですね。これって例年だと締め切り前に一気に増えるんですか?」

 こんな校風だ。お祭り騒ぎが好きな馬鹿は結構いるはずなのに意外な話だ。

「まだ、多少は増えるだろうが、決勝で私とやらなければならないからね」

 なんて事をしれっとした顔で言う彼女を見て思わずげんなりする。しかし、なるほどっと疑問が解けた。

「つまり、参加人数が少なすぎると場が盛り上がらない。だから、この行事を選んだんですね」

「フフッ、やはり君は慧眼だね。確かに理由の一つだよ。――まあ、兎にも角にも決勝に残れるように頑張りたまえ。ただ、簡単に決勝に行けるとは思わない事だ」

「自分に挑んでくる心意気のある者が一筋縄でいくはずがないって言いたいんですか?」

 ヤレヤレと俺はポーズを取りながらこう尋ねた。しかし、答えは違ったらしい。会長は少し間をおいてニヤリとするとこう答えた。

「風間君、私はそこまで自惚れていないよ。私が言いたいのは君用の刺客を用意しているって事なんだ」

「ボクだよ!」

 今まで会話に参加していなかったマコトがニコリとした。



 『第一戦』当日になってようやく渡されたトーナメント表を見て俺は会長に抗議した。結局のところ参加者は七名。つまりトーナメントだと一人がシードとなるわけだ。

「マコトがシードってずるくないですか?」

「なんだよ。小さい男だな、君は。確かに組み合わせは抽選ではなく私の一存で決めたよ。それに、君は抽選中に乱入して『んー、俺はここでいいや』とか言って一番難易度が高い場所を選ぶタイプだろ?」

「どこの修羅ですか……。まあ、実の所そんなのはどうだっていいんですよ。問題は第一回戦の相手ですよ。何なんですか! 科学部部長って……確かに名前は強そうですよ。ですが、どうせ一存で決めるのならこっちの空手部主将の方にしておいてくださいよ……」

 俺の抗議はもっともだと自負している。科学部って言えばヒョロヒョロの色白で白衣だぜ? そんなのを本気で殴ったら俺が避難轟々になるんだって……。

クロガネ 鉄人テット君か。安心したまえ。彼は私の様な器用貧乏と違って本物の天才だ」

「もしかして……それは……」

 思わず唾をゴクリと飲み込んだ。そうか、確かにそういうのもアリ……だな。

「期待したまえ。では、私は別の組みの解説役なのでそろそろ失礼するよ」

 そう言ってニヤリと笑うと会長はこの場を去った。

そして、俺のテンションは上がっていった。



 会場は校舎の屋上、体育館の裏、そして、俺の居る校庭の三か所。決闘に相応しい場所との事だが会長の基準が俺にはいまいち理解できなかった。

 その後者では二人の男が対峙していて、それを円状に取り巻くギャラリーと実況&解説席がある。春はまだなのに今日は強い風が吹いていて、それが緊張感を煽った。

 俺は学ランを脱ぎ捨て構えると試合開始の合図を待った。

 しかし、先ほどから気になる事がある。それは何か? 相手である鉄 鉄人が俺の想像通りのヒョロヒョロの色白で白衣だったからではない。彼が二本の突起が伸びている箱を手にして不敵な笑みを浮かべていたからでもない。

 一体、あれは何なのだ? 例えるなら、ミカンのダンボール。正確に言うのなら複数のミカンのダンボールで作られた全長二メートル強の人型オブジェ。それの存在が俺にはまったく理解できなかった。

「さて、今年も始まりました。生徒会戦第一戦。東はご存知『常敗無勝』の男――風間 猛ぅぅ! そして西は『天才』鉄 鉄人! 果たして勝者はどちらか! どうでしょう、解説の山城さん?」

「私はこの二人に興味がないので、試合そのものに興味がありません。ですので、早くおわらせてくれれば何よりです」

 そりゃないぜ、カスミさん! いつの間にかに付いていた不名誉な二つ名より、寒いので早く部屋に戻らせろ、とばかりに冷たく言い放った彼女にガックリときたよ。

「確かに寒いので長期戦はかんべんですね。解説ありがとうございました。では、そういう事で始めちゃってください」

 畜生、男のみじゃ華がないってか? 実況の女の子も何となくぞんざいな気がするぜ。

まあいい。ひさびさの戦いだ、いっちょ派手にやろうぜ!

「じゃあ、やろうか」

 そう言って俺は相手ににじり寄る。相手の流派がわからないのだ。ここは焦ってはいけない。慎重に相手を観察しつつ、ゆっくりとゆっくりと。やがて射程圏内に入ると大きく振りかぶる。

 対して相手は驚くべき行為に出たのだ。

「ま、ま、ま、ま、待つのである!」

 は? 俺は唖然とした。彼の動きは素人のそれで、まるで運動自体をあまりしない人間の様にぎこちなく後ろに下がるとやがて尻もちを着いたのだ。

「キ、キミの相手は吾輩ではない。鉄人テット二十六号である」

 は? 俺には理解できなかった。あれが俺の相手だって? 彼はかすかに震える指でダンボールを指さしたのだ。

「さて……」彼は立ち上がり尻に着いた土を払うと手にしていた箱の突起部分に手をやり「行け、鉄人!」と叫んだ。するとダンボールがガオーのポーズを取り動き出す……。

「こいつ……動くぞ……。って事で風間選手の対戦相手は実は! 漢字で書くと危険なので敢えてカタカナで行きましょう。テット二十六号です!」

 アナウンサーが興奮気味に叫んだ。そして、それに呼応するようにデモンストレーションとばかりにシャドーボクシングを始めるソレ。

 実に素早いパンチだった。その拳は余りに早く、俺の優れた動体視力でも追い切れないほどだった。なるほど、こいつはすげえ。確かに鉄 鉄人――彼は天才だ。

「フーッハッハ、吾輩の鉄人は人間如きでは倒せん! 今からそれを証明してやるのである!」

「おもしれえ!」

 再び対峙する一人と一体。俺は構えを取ると、先ほどより慎重に相手を観察した。今度は後先で行こう。まずは相手に打たせて力量を測る。

「パンチだ、鉄人!」

 彼の叫びに呼応しキーンというモーター音を伴ない物凄いスピードで俺に迫ると、これまた凄いスピードのパンチを放つ鉄人。

 余りの速度に俺は反応する事ができなかった。しかし、そのパンチは俺には届かない。なぜなら、ラッキーな事に俺まで僅か数センチの所で腕が伸びきってしまったからだ。その事実を確認すると俺は素早く後ろに跳びのく。

 ふう、危なかった。俺に見えないと言う事はつまりリサ並かあるいはそれ以上のスピードって事だ。世の中じゃアシモにスゲー、スゲー言ってるレベルなのになんて奴なんだ……。

 再び襲い来る鉄人。しかし、結果は同じだった。やはり、素早く後ろに跳びのくと俺はニヤリとした。ロボットの方は凄いが操縦者がヘボイ。こう結論付けたからだ。

 なら、彼が操縦に慣れる前に叩く。相手の百パーセントなんてどうでもよかったし、俺はこんな所で負けるわけにはいかないのだ。

「今度は俺から行くぜ」

「守れ、鉄人!」

 俺の言葉に反応して胸の辺りで腕をクロスさせて防御態勢を取る鉄人。

 フン、素人が! 俺は胸に正拳突きをすると見せかけて拳を引くとその動きを使って回し蹴りを放つ。見事にヒット。そして、鉄人の腰の部分がグニャリとヒン曲がる。その回転を使い更に回し蹴り。 今度は鉄人の右腕が膝の辺りから千切れ飛び宙を舞った。

 こいつ……脆いぞ……。

「うおおおおおおおおおおお!」

 慟哭であった。彼の。胴がひん曲がり右腕を失った鉄人を見て彼は絶叫した。そして、両膝を地面に着けると頭を抱えて尚も泣き叫んだ。

「き、貴様……。吾輩の鉄人二十六号の最大の弱点を着くとは……。軽量化の為に我々がどれだけ苦労しているのか貴様は知らんのか! 軽量化の為にフレームは薄いプレート、外殻はダンボール……。それなのに貴様はそれでも人間か!」

 訳のわからない断罪であった。そんなに大事なら部屋にでも飾っとけって……。尚も罵倒は続いたがやがてそれに満足したのか彼は「覚えておけ!」と、捨て台詞を吐きロボ共々逃げ去ってしまった。

「俺、WIN!」

「えー、鉄選手。戦闘続行の意思ありとみて試合は明日に持ち越しです。それではまた!」

 勝利宣言をして突き上げた俺の拳が虚しかった。そして、アナウンサーの宣言の後、すぐに去ってしまったギャラリーが非情であった。



 二日目。

「それでは第一回戦二日目行ってみましょう!」

 アナウンサーの叫び声が虚しかった。

 再び対峙する二人と一体。

「フーッハッハ、今日は貴様の思い通りにはいかんぞ。今日は防御重視型にしてみたのである! さあ、鉄人二十七号と戦うのだ!」

「あのさ……」

 俺は、何というか……彼に失望していた。確かにロボは変わっていた。確かにロボは堅そうであった。確かに実際はどうか知らないが俺の拳で壊せるような代物ではない様に思えた。

 だが……。

「そのダルマで俺と戦うわけ?」

 そう、例えるなら台車に乗った鉄のダルマ。例えなくても鉄のダルマ。それ以外の何物でもなかった。

 そのダルマは中からウイン、ウインとモーター音らしき音が聞こえたが動く気配がなかった。俺は後頭部をポリポリと掻きながらそれに近づくとゆっくりとそれの頭に足を置き、これまたゆっくりとゆっくりと足で押した。

 やがて、コロリとダルマが横倒しになる頃、鉄 鉄人の姿がその場から消えていた。


 三日目。

「えっと、今日もやるんでしたっけ?」

「はっきり言うと時間の無駄ですね」

 アナウンサーの声が寂しかった。いや、彼女だけではない。ギャラリーは既に数名になっていたし俺もうんざりしていたのだ。それが例え、ロボが凄そうだとしてもだ。

「風間猛! 貴様は恐ろしい奴である。貴様のお陰でロボット工学は一気に十年は進歩したぞ!」

 三度対峙する二人と一体。確かに凄そうだった。これは進化と呼んでも差支えは無いだろう。例えるなら、いや、例える事などできなかった。それは黒金の戦士。もし、中に人間が入っているのであれば、恐らく中の人は筋骨隆々のタフガイだろう、と予感させる屈強の騎士。それが俺の前に立ちふさがっていた。

「二十六号の機動性。そして、二十七号の防御力。それらを兼ね揃えたのがこの鉄人二十……」

「おい、その名は偉大すぎるから止めろ!」

「ふん、俗物め。まあよい。今日こそ決着である! 行け、鉄人!」

 彼の叫びによりガオーのポーズを取りズシン、ズシンと俺に迫りくる。彼の言う通りの性能なのだろう。鉄人は俺にパンチの連打を浴びせてくる。その速度はとても人間に追い切れるものではなく、やはり、俺は反応しきれない。しかし、その全ては俺に届く事がなかった。

「鉄 鉄人。確かにアンタはすげー科学者だ。だが、操縦者としては三流以下だな。俺に全く当たらないぞ!」

 うーむ、強がりは言ってみたもの、これは困った。二十七号の防御力があるのであれば二十六号の時のようにはいかない。つまり、現状では相手に倒される心配はないが、相手を倒す事が出来ない状況なのだ。

 ……どうする俺?

「わ、吾輩の負けだ……」

「え!?」

 急に膝から崩れ落ちて、そう呟いた彼の言葉に耳を疑った。何故だ? 操縦になれれば最早、俺に勝機などないのに。

「一つ……」解説席で黙していたカスミさんが語りだす。「ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過する事によって、人間に危害を及ぼしてはならない。一つ……」

「もう、いいのだ。もう、止めたまえ解説の君よ……。吾輩は……」

「いえ、貴方は余りに科学者だっただけなのです」

 そう言ってガックリとうなだれる彼の方をカスミさんは優しく叩いてやった。

「おーっと、風間選手、勝利です! 決まり手は『ロボット三原則』だー!」


 なんだ、そりゃ!



自律型じゃなきゃ関係ないのでは?なんてツッコミは勘弁。

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