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ドーナッツ太り

とある下級貴族の五男坊の私、つまりアルヴァーは少し弱虫な男の子だ。

好きなものは母の作るドーナッツで嫌いなものはピーマンによく似た味のする赤い野菜。

甘いものが好きで少し、・・・少しぽっちゃりしている。

顔にも子ども特有の丸みとは誤魔化せないレベルでお肉が付いてしまっている。


「コレは由々しき事態だ」


私がアルヴァーになって二週間、呆けたり呆けたり・・・つまり現実逃避するために書庫に無意味に篭っていた私は二週間掛けて「これはむしろラッキーなんだ」と思うことにした。

前世の記憶を持ったままもう一度人生をやり直すことができるなんてきっと私以外にこの世にいる筈もない。

むしろ他の同い年より100メートルは先を進んでいる。そう考えることにした。


幸い私にはアルヴァーの記憶がある。

いや、私がアルヴァーなんだから当たり前か。私が死んでその後私はアルヴァーになった。

アルヴァーの僕が女子高生だった頃の私を思い出した。


そうしたら今度は私がアルヴァーを見ることができた。


「コレは由々しき事態だ」


二回言った。大切なことだから。


アルヴァーは少しぽっちゃりしている。


そうか。


引っ込み思案で弱虫だ。


そうか。


甘いものが大好きでバクバクとたくさん食べる。


そうか。


野菜は嫌いだ。


そうか。


運動が大嫌いだ。


そうか。


「・・・全然私と違う、・・・・・・当たり前か」


私は頭を抱えてため息を吐いた。



『私』は他の女の子と比べて身長ばかりが高かった。


『私』は男勝りだった。


『私』は甘いものは好きだが、食事制限をしてダイエットをするのも好きだった。


『私』は野菜も魚も肉も何でも食べた。


『私』は、



「運動は好きだったんだけどなぁ」


ポツリとこぼれた言葉に私はもう一度ため息を吐いた。

いや、別に運動でも何でも好きにすればいいんだけど、・・・家族の中ではアルヴァーはイェルドに誘われてじゃないと外に遊びに行かない子だったし。


「でもねぇ・・・これはさすがに」


母の部屋に忍び込んで全身の映る鏡にその体を映した私は自分の頬をつまんだ。


「女子高生としての私が許せない・・・」


ダイエットは女の子だけがするんじゃない。やりすぎはよくないけど健康にも良いしアルヴァーもするべきね。


「あら、アルヴァー?」


「あ、母様」


「こんなところで何してるの?」


「ごめんなさい勝手に入って、鏡が見たかったんだ」


「あら、そうなの」


「うん」


母はどういう意味なのか図りかねているようだった。

確かにアルヴァーは寝癖も自分では直さないし、たまにどこか汚れる場所で遊んでいたのか顔を真っ黒にして帰ってきたりもしていた。

とてもじゃないが自分の見た目を気にする子ではなかったのだ。


「アルヴァー、そろそろおやつの時間よ。食べに行きましょう」


「え」


「今日はアルヴァーの好きなドーナッツを作ったのよ」


母の言葉に私のお腹がぐぅと鳴った。

さっきお昼食べたばかりなのに、これがアルヴァーの体なのか。

私は別にお腹がものすごい空いているわけじゃないんだけどなぁ・・・


「ねぇ母様」


「なぁに?」


「今日は僕のドーナッツ半分こしない?」


「・・・いいの?」


えらく母は驚いたが、それも無理はない。

いつものアルヴァーは他の兄弟がくれる分も全部食べてしまうほど食いしん坊なのだから。


私は私の気とお腹の調子が変わらないうちに母の手を掴んで食堂へと歩いていった。





「はい」


「アルヴァー・・・ありがとう」


私はドーナッツを半分に割って片方を母に手渡した。

席についているのは母と私と四つ下の双子で合わせて四人。

双子の後ろに立っている乳母やメイドの子、母もだけれど・・・驚きすぎだから、


確かにアルヴァーは食い意地が張っていて、特に母の作るこのドーナッツは大好物だわ。

でも女子高生の私はこの高カロリーのおやつを一人でバクバク食べるのを躊躇ってしまうのよ・・・

このドーナッツでカロリーはいくつ?

これだけカロリーを消費するならどれくらいどんな運動をすればいいの?

頭を回るのはこの二つの事柄だけ、


母には悪いけれど見た目は男の子でも中身は思春期の女の子なんだもの。


「にーちゃ、おなかいたいの?」


「違うよ、今日は母様と半分こしようと思っただけ」


「はんぶんこ?」


「そう、半分こ」


「・・・ハンネスもアデラとはんぶんこしゅる」


「しゅる」


そう言って双子は互いのドーナッツを半分に割って片方を相手に渡した。


「「はい」」


「(それは半分こじゃなくて取替えっこ?)」


結局味の同じドーナッツを二人で半分こして合わせて一個食べている双子だったが、満足そうな二人に私も同じように鼻を鳴らした。

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