メロスが周りの物を壊しながら走る話
メロスは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。
メロスには政治がわからぬ。
メロスは村の牧人である。
笛を吹き、羊と遊んで暮らしてきた。
だが、走ることだけは得意であった。
――いや、正確には走ると周囲が壊れる体質であった。
メロスは城へ向かって走り出した。
「待っていろ王!!」
ドゴォン!!
最初の一歩で村の門が吹き飛んだ。
「すまぬ!」
メロスは謝りながら走る。
ドン!ガシャーン!
市場の屋台が倒れ、果物が宙を舞う。
「メロスだ!!逃げろ!!」
住民たちは道の両側へ逃げた。
メロスはさらに速度を上げる。
ドドドドド!!
石畳が砕け、壁が削れ、犬が驚いて吠えた。
やがて城門が見えてきた。
「王よ!!覚悟しろ!!」
メロスは勢いそのまま突っ込んだ。
ドゴォォォン!!
城門は粉々になった。
城内の兵士たちは呆然とする。
「……何者だ?」
メロスは胸を張った。
「メロスだ。」
「何しに来た。」
「王を倒しに来た。」
その時、奥から王が現れた。
王は城の外を見て言った。
「……お前、来る途中で何をした?」
メロスは振り返った。
そこには
壊れた門。
倒れた屋台。
ひび割れた道。
半分崩れた城門。
王はため息をついた。
「兵士よ。」
「はっ。」
「この男を捕らえよ。」
「やはり反逆罪ですか?」
王は首を振った。
「いや。」
そして静かに言った。
「器物損壊罪である。」
メロスは叫んだ。
「ちょっと待て!!」
だがその声は虚しく、
メロスはその日、
王を倒す前に逮捕された。
――友情より先に、弁償が必要だったのである。




