6.思い込みには思い込み(演技)を
反撃回はこれで最後となります。
「…なん、だって?」
ヴィクトルは何とか振り絞るように声を出した。アンネは悲しそうな顔をしながら話し続ける。
「“私を孤立させて恨みを晴らす為に私を側妃にする”。そんな計画を立てるほどに、ヴィクトル様に私は恨まれているのだと、ようやく理解したのです…。」
「いや、だから…」
「ヴィクトル様!! もう、正直に話してください!」
「いい加減にしてくれっ!! これ以上訳の分からない事を言わないでくれ!!」
自分の言葉が通じない苛立ちと焦りからか、ヴィクトルの口調はどんどん荒くなっていく。しかし、それでもアンネは主張を止めない。
「私が何度も、何度も断っても聞いて下さらない理由なんて、私に嫌がらせをしようとしているとしか考えられませんっ!!」
「そんな訳ないだろう! たかだか嫌がらせをする為だけに、側妃にしようだなんてありえない、考えすぎだっ!!」
お互い譲る事なく大声で飛び交う主張の中で、ヴィクトルの最後の言葉にアンネは怯えたような顔をした。
「っ……もしや、暗殺まで考えていたのですか?」
アンネは席を立ち、怯えたようにヴィクトルを見下ろしながら一歩後退った。
「っ!? な、なぜそうなるんだっ!! ちがうちがう! 僕の話を聞けっ!! 全ては君の思い込みだっ!!」
バンッ!! と両手を机に叩きつけながらヴィクトルも立ち上がる。アンネは何も言わずにヴィクトルを警戒したように見ている。マリーは机の音に驚いた様子を見せるも、座ったまま二人を不安げに見つめるだけで声一つ出さない。ヴィクトルは片手で頭を抱えた。
「くそっ、アンネがこんなに思い込みが激しいだなんて知らなかったよ。今までこんな事は一度もなかったのに…。」
態となのか無意識なのか、ヴィクトルの独り言のような口調の言葉は、アンネにしっかりと届いた。アンネは一瞬、眉をひそめて口を開きかけたがすぐに噤んだ。
「ちゃんと、僕の話を聞け、アンネっ! 僕は、君を、憎んでなんかないっ! ましてや、暗殺なんて、考えたことはないっ!! 全て、君の、思い込みでしかないっ!!」
「……そう、ですか。」
ヴィクトルは言葉を何度も区切り、強い口調でアンネに叫ぶように話した。アンネはヴィクトルの言葉を聞いて少し沈黙した後、頷いた。ヴィクトルはアンネの返事を聞いて、疲れ切った様子で座り込んだ。
「はぁ~、やっと分かったんだねアンネ。」
「…では、側妃の話を無かった事にして下さい。それなら、信じられます。」
安心したのもつかの間、アンネの言葉にヴィクトルはまた固まってしまった。
「ヴィクトル様、誤解してしまって申し訳ありませんでした。後日改めてお詫び致します。」
そう言って頭を下げるアンネの姿に、ヴィクトルは唖然とした。マリーはもう、何も言わずに俯いてしまった。
「いや、待ってくれ…それは…。」
「…やはり、私を殺そうとしているのですね。」
ヴィクトルが煮え切らない言葉を出すと、アンネは生徒会室の出口へと後ずさりながら近づいていった。ヴィクトルは慌てて立ち上がると、アンネを引き留めようと腕を伸ばしながら近づく。
「ま、待てアンネっ!!」
「近づかないで下さい!!」
しかし一足先にアンネが扉を開けて廊下に出て走り出した。ヴィクトルもアンネを追って走り出す。女性のアンネよりも男性のヴィクトルの方が速度は当然速い。このままでは玄関に到達する前に、アンネはヴィクトルに捕まるだろう。廊下の曲がり角で消えたアンネに続いてヴィクトルも曲がり角を曲がったが、ヴィクトルはすぐに足を止めてしまった。
「っな!?」
そこには、アンネを背後に隠すように佇むテレーゼ公爵家の護衛が3人いた。
「なっ、なぜ公爵家の者が学園に?!」
「…身の危険を感じましたので、念の為ここで待機して貰っていたのです。」
護衛越しにアンネとヴィクトルはお互いを見た。
「…ヴィクトル様、今回のお話は全て、陛下にお話しさせて頂きます。」
「…っ。」
アンネが玄関に向かって歩き出すと、護衛はヴィクトルに一礼した後にアンネの後を続いて歩き始めた。
ヴィクトルはもう、何も言わずに立ち尽くすだけであった…。
マリーの影がとても薄くなってしまいました 笑
次回は国王を交えた話し合いの回になります。まだ書けていないので更新速度が遅くなるかもしれませんがよろしくお願いします。
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