4.目には目を
反撃開始です。
「…え?」
アンネの突然の言葉に、ヴィクトルは困惑する。マリーもキョトンとした顔をした。
「ヴィクトル様、私を憎む理由を教えて頂けませんか?」
「何を言っているんだアンネ?」
「もう分かっております。私を苦しめる為に側妃にしようとしている事を…。」
アンネは少し俯きながらも、2人に聞こえるようにハッキリと話し続ける。
「お願いします、どうか許していただけないでしょうか?」
「待ってくれアンネ、僕は君を憎んでいないし苦しめようだなんて思った事はないよ!」
「ずっと考えていたのですが…すみません、原因が分からないのです。」
「いや、だから君を憎んでなんていない!」
「何時から私の事を憎んでいたのですか?」
「っアンネ!!! 僕の話をちゃんと聞いてくれ!!!」
アンネの言葉を遮りヴィクトルは声を張り上げた。ヴィクトルの声にアンネは俯いていた顔を上げた。マリーはヴィクトルの声に驚いたようにビクッと反応するものの、二人の異様な雰囲気に涙ぐむ事もなく困惑しているだけだ。
「どうしたんだいアンネ?! いきなりそんな事を言い出すなんて…どうしてそう思ったのか説明してくれないか?」
「…昨日の夜からずっと考えてました。なぜヴィクトル様は何度もお断りしているのに、私を頑なに側妃にしようとするのかと。」
アンネの言葉に、ヴィクトルは少し呆れたような様子を見せた。
「それは昨日も言っただろう? 君が側妃になれば僕の傍にいる事が出来るんだ。それに王妃となる為に身につけてきた教養を、マリーを補佐するという形で無駄にしなくて済む。君にとっても良い事だからだよ。」
「そ、そうですよ! よろしくお願いしますね、テレーゼ公女様!!」
「それはありえません。」
ヴィクトルの言葉にマリーも頷いたが、そんな2人の言葉を切り捨てるようにアンネは言った。
「はぁ…アンネ。一晩待ってもまだ気持ちの整理がついていないんだね? 昨日から言っているけれど、僕が悪いのは分かっているし君がマリーを受け入れられない気持ちも分かるよ。でも、もういい加減に分かって貰えないかな?」
「そ、そうですよ…。」
ため息をついたヴィクトルに、同感だと言わんばかりにマリーも頷いた。しかしアンネは首を振った。
「リンネ嬢が王妃となった未来が訪れた時、私の力など必要なくなります。」
「…え?」
ヴィクトルとマリーは訳が分からないといった様子でアンネを見た。
「確認しますが、ヴィクトル様が“リンネ嬢を私が支えろ”というのはリンネ嬢の教養が乏しいからですよね?」
「っ…ひ、酷い。」
マリーは顔を歪めて涙ぐみ始めた。ヴィクトルはそんなマリーを抱きしめるとアンネを睨んだ。
「アンネ!! マリーに酷い事を言うのは止めてくれ!」
「何も酷くありませんよ。リンネ嬢は王妃となるための教養を一切受けていないのですから、当たり前です。」
マリーは涙をピタリと止めて驚いたような顔をしてアンネを見た。
「リンネ嬢はヴィクトル様を慕うまで、自分が王子妃になるなどと考えた事もない筈です。そんな貴女の教養が充分である筈がありません。リンネ嬢を責めているのではありませんよ。」
アンネの言葉に、ヴィクトルは安心したように笑った。マリーもどこかほっとしたような様子になった。
「ああ、その通りだ。だからマリーを支える為にアンネに側妃になって欲しいんだよ。君も力を発揮することが出来るし、お互いにとっても良い事だよ。」
「ですが、それは今だけの話です。リンネ嬢がヴィクトル様の婚約者になるからには王妃教育が始まります。ですので、リンネ嬢が王妃となった時には充分な教養が身に付いてますよ。」
ヴィクトルは微笑んだまま固まった。マリーは少し困惑した様子でアンネとヴィクトルを見た。
「私も幼い頃から教育を受けてきましたが、一日中机と向き合い外に出られない日なんて何度もありました。礼儀作法を間違えればそれなりの罰もありましたし、何度泣いたことか…。それでも数年かけてようやく講師に認めて貰えました。もちろん、未来の王妃となる者として当然の義務なのですから当たり前ですよね。リンネ嬢は今から教育を開始するとなると、私以上に過酷なモノになると思いますがそれは仕方ありません。絶対に、王妃に相応しい教養をどんな手を使ってでも、身につけさせて下さる筈です。」
「……えっ?」
安心させるように微笑みながら話すアンネの言葉に、マリーの顔色は悪くなっていく。そんなマリーの様子を見たヴィクトルは焦り始める。
「いや、その待ってくれ…そんな事を言わずにマリーを助けてくれアンネ!」
「助ける助けないではなく、王子の婚約者となるからには当然の義務です。ヴィクトル様だって、誰かに支えて貰わずとも王としての務めを果たせるように教育されてきてますよね。」
もちろん、側近や宰相のように政治の相談をしたり、使用人など手足となって働いてくれる者の存在は必要不可欠である。しかし、この場でアンネの言いたい事がそうではない事は、ヴィクトルとマリーにも伝わっていた。
「王妃となったリンネ嬢は、その知識と立ち振る舞いをもって、王となったヴィクトル様と共に国を支えていくのです。側妃など必要ありません。」
「王妃としての務めを、誰かに支えて貰わなければ出来ない王妃なんてありえませんもの。」
しばらく反撃という名のざまぁ回が続きます。この手の話でよくあるお花畑思考の王子が実際にいたら嫌ですよね 笑
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