15.経験で知っている
最終話になります。今までお付き合いくださりありがとうございました!
「…私からも宜しいでしょうか?」
立会人として黙って話を聞いていたシナモンが口を開いた。アンネとヴィクトルは何を言われるのか疑問に思いながらも頷いた。
「ヴィクトル王子、今回の婚約解消は貴方が恋をした事が原因でした。アンネという決められた婚約者ではなく、貴方自身が好きになった人。初めての感情に振り回されたのでしょうね。」
王子として、これまで全く非難された事のなかったヴィクトルが、非常識な考えと行動をしてしまった。ヴィクトル自身も自分にそんな一面があるだなんて思わなかっただろう。“恋をすると人が変わる”という感じの言葉を誰もが聞いた事があったが、良くも悪くも本当の事だったのだとアンネは思った。
「そして貴方は、アンネや周りの言葉に耳を傾ける事を忘れてしまった。でも今こうして話す事が出来たのは、王子がアンネと似たような経験をしたからだと思います。」
ヴィクトルがアンネにした事、言った事が似たような形でヴィクトルに返ってきた。だから、アンネとの話が拗れずに済んだのだろう。
「もし、また似たような事が起こったとしても、王子は同じ過ちを犯さないと私は思います。でも、経験をしていなくても相手がどう感じるのか、そしてどうなるのかを想像して判断をしなければなりません。それが王であるなら尚更です。」
国王は国の為に判断をするのが仕事。王族、貴族、平民、奴隷という身分の違う存在の事も考えながら、他の国との協力、対立をしなければならない。だが、全ての立場を経験する事なんて出来る訳がない。
「そして、今回のように思い込まない為にも周りの意見を、言葉をしっかりと聞いて下さい。相手はこう思う筈だ、と自分で考える事も大事ですが、相手の発する言葉にも耳を傾けて下さい。公爵夫人として、貴方よりも長く生きる者として、そして何より貴女に傷付けられたアンネの母親としての、願いです。」
「…はい。」
シナモンはそう言って頭を下げた。ヴィクトルは気を引き締めるように返事をした。ヴィクトルが国王になる為に応援をしようとは思わないけれど、可能性は残っていると感じたアンネだった。
「ああ、それともう一つ。2人が経験した事、学んできた事は王にも、王妃にもなれなくても何処かで役に立つかもしれない。無駄なんて事はきっとないと思いますよ。」
シナモンの言葉にアンネは笑顔で頷いた。ヴィクトルも少し嬉しそうに頷いた。
◇◆◇
そして3日後、アンネは隣国へと旅立った。今後については何も考えていないけれど、焦らずに過ごしていくつもりだ。
もし、素敵な出会いがあるなら嬉しいが、思い込みが激しくない相手であって欲しいとアンネは思う。ヴィクトルのような経験はもう懲り懲りだからだ。でも万が一同じような状況になってしまったら、どうすれば良いのかをアンネは経験で知っている。
…出来ればやりたくないけど。
ここまで本当にありがとうございました! 書きたい時に気分で書いた作品なので、読みにくさや矛盾している部分もあったと思います。そんな作品を読んで頂けてとても嬉しかったです。また機会がありましたら目に留めて頂けると嬉しいです。
マリーの影が薄く、ヴィクトルの方がアンネよりも目立ちすぎた事が心残りです 笑




