10.後悔の始まり
主人公不在のダメ王子回です。
「どうしてこんな愚かな事をしたのよ!!? アンネ公女はとても優秀で、王子妃に相応しい娘だったじゃない!!」
話し合いで何度も責められた挙句、部屋から出ないように言われた後も王妃がやってきてヴィクトルを責め続けた。
「陛下のお陰で穏便に済みそうだけれど、テレーゼ公爵家を敵に回してしまうかもしれなかったのよ?!」
「……。」
「ヴィクトル、貴方は王子としての自覚が薄れてしまったの?! …はぁ、貴方がそんな風になってしまったのは、リンネ男爵令嬢と関わってしまった事が原因ね。」
気不味そうに俯いて話を聞いていたヴィクトルだが、マリーの名前が出た途端に顔を上げた。
「母上、マリーの事を悪く言うのは止めて下さいっ! 僕に非があるのは分かっています、だからもう…。」
「何故、止めなくてはいけないのかしら? アンネ公女に迷惑をかけたのはヴィクトル、貴方だけだと思っているの? 思い上がらないで頂戴。迷惑をかけたのは貴方とリンネ男爵令嬢、そして私達王家と、リンネ男爵家よ。」
「っ、……。」
「真実がどうであれ、権力を持つ私達王家と貴族の振る舞いは、個人の問題では済まなくなる。昔の貴方ならそんな事は分かっていた筈よ。ほんっとうに、リンネ男爵令嬢と関わった事が間違いだったわ。」
呆れたようにそう言うと、王妃はそのまま部屋を去っていった。一人きりになったヴィクトルは頭を抱えて座り込んだ。
「アンネ…どうしてなんだよ。」
ヴィクトルはなぜ、アンネはヴィクトルに恨まれている等とありもしない思い込みをしたのかと何度も考えていた。歴代の王妃に側妃は必要なかったなんて詭弁を持ち出して、ヴィクトルの話を聞かず、理解しようとしなかったアンネの姿を思い出す。
…やはり、思い込みをしてしまうほど、婚約解消を告げられた事がショックだったのだろうか。勿論、愛する人から振られたのだから傷付くのは当然だ。でも、それで恨まれているだなんて、なぜそう思ってしまったのだろうか…。
「側妃に、なる事も嫌だった…のか。」
ふと思い付いたのは、側妃になる事をお願いした事だった。アンネは未来の王妃となる存在だった。王妃は王の次に権力を持つ存在だ。その権力を手に入れられなくなった事にもショックを受けたのではと、今になって思い至った。正妃の座をマリーに渡そうとしたから、恨まれていると勘違いをしたのでは…。
「…いやでも、側妃にして孤立させて、恨みを晴らそうとしたなんて、やっぱり目茶苦茶だ。」
アンネを傷付けてしまった自分が悪い事は、ヴィクトルも承知している。けれど、アンネの思い込みに関しては、アンネ自身の性格の問題だとヴィクトルは自分に都合の良い結論を出した。
「王妃の座なんかよりも僕の傍に居られる事の方が大事に思うに決まっている。」
王となったヴィクトルの傍らに、王妃となったマリーが幸せそうに笑い、側妃となったアンネがヴィクトルとマリーを支えて国を守る…そんな描いていた未来を思い浮かべて、ヴィクトルは首を振った。
アンネが、“ヴィクトルはアンネを恨んでいる。復讐の為に側妃にしようとしている”、だなんて思い込みをしてしまったせいで、全てがおかしくなってしまった。
「アンネがあんな思い込みさえしなければ、こんな事にはならなかったのに…。」
一人呟くヴィクトルの声が、部屋の中で静かに響いた。
◇◆◇
「マリー・リンネ男爵令嬢が王子妃になる事は認められない。男爵家には今回の件の謝罪として、慰謝料をテレーゼ公爵家に支払うように命じる事になった。」
2日後、ヴィクトルは国王に呼び出された。呼び出されて早々、決定事項を告げられた。
「そ、そんな…マリーとの婚約が…。」
「当然、王家もテレーゼ公爵家に慰謝料を支払う。そしてヴィクトル、お前がテレーゼ公女に接近する事を禁じる。もし公女に話があるならば、まず何の話をするかを私に報告しろ。そして公爵家に許しを貰い、公爵家側の人間が立会いの元でなら許可を出す事にする。」
狼狽えるヴィクトルの言葉を遮り、国王は話を続けた。
「今回の件は婚約解消として、お互いの理解を得たと世間には公表するつもりだが、お前が身勝手な行動をとれば、お前が有責の婚約破棄だったと公表される事になる。」
婚約解消と公表したいのは、少しでも世間に王家の印象を悪くしない為だが、学園でのヴィクトルとマリーの様子を見ていた生徒及び関係者達には、誰が悪いのか分かってしまうだろう。それでも公にしなければ、表向きにはそれ相応の対応をするのが貴族というものである。
「お待ち下さいっ! テレーゼ公女との事は、理解しました…。しかし、マリーとの婚約を禁止されてしまうのは…。」
ヴィクトルの言葉に、国王の目線は冷たいものとなっていった。
「王家の婚約解消の原因となった、低位貴族の令嬢だ。もし、そんな令嬢を王子妃にすれば王家の信頼は地に落ちるだろうな。」
そんな事も分からない、いや、考えようともしないヴィクトルの様子に、国王は何かを決めたように話しだした。
「だがヴィクトル、私は“王子妃になる事は認められない”と言ったのだ。“婚約”なら出来なくはないぞ。」
婚約という言葉と、王子妃にはなれないという言葉の意味を把握しきれず、困惑した様子でヴィクトルは国王を見た。
「お前が、王の座を捨てるのならば考えよう。」
自分で書いててこんなダメ王子が、今までまともだったという設定に驚きました 笑
誤字脱字報告ありがとうございます。
ここまで読んで下さりありがとうございました!!




