カピパランドへようこそ!
──春風ほのかは、今日も学校帰りに河原の土手を歩いていた。
薄い雲が流れる午後の空は、少しだけ金色が混じり始めていて、風が髪をやさしく撫でる。
「ふぅ……疲れたなぁ。」
ランドセルを背負ったまま、ほのかは小さなため息をついた。
テストで凡ミスをして、先生に「もっとしっかり!」と怒られたばかりだ。
そんなとき、ふと視界の端に、何か動く影が見えた。
草むらの向こう──そこにいたのは、
ぽてぽて、もふもふのカピバラだった。
「え!? カピバラ!? こんなとこに!?」
ほのかは目を丸くして駆け寄った。
カピバラはのんびりと草を食んでいたが、ほのかに気づくと、ぱちくりと大きな黒い目を瞬かせて見つめてきた。
「おいで~。怖くないよ~。」
手を差し出すと、カピバラはのそのそと近づいてきて、鼻をぴとっと触れてくる。
あたたかくて、ふわふわで、ちょっと湿った感触。
なんだか、心がふわっと軽くなるような、癒される感じだった。
「かわいいなぁ……。」
そうつぶやいた瞬間だった。
──風が止まり、世界が一瞬、止まったように感じた。
次の瞬間、ほのかの体はふわりと宙に浮き、
まばゆい光に包まれた。
「えっ!? なにこれ!? え、ええええええええっ!?」
叫ぶ暇もなく、光に吸い込まれる。
目を開けると、そこには見たこともない景色が広がっていた。
青い空、きらきら輝く川、
そして、広がるもふもふのカピバラたちの群れ。
温泉の湯気が立ちのぼり、心地よい香りが漂っている。
「ここは……どこ?」
「ここはカピパランドである。」
低くてふわっとした、どこか癒し系な声が響いた。
振り向くと、そこには金色の王冠をかぶった、めちゃくちゃ大きなカピバラがいた。
カピバラたちは一斉に頭を下げ、ほのかに向かってこう言った。
「ようこそ、我らがプリンセスよ。」
「えっ!? 私がプリンセス!? なんで!?」
ぽかんとするほのかの頭の上に、
ふわふわのモフモフ王冠がふわっと載せられる。
その瞬間、カピバラたちが大歓声をあげた。
「わああああ! プリンセスだ!プリンセスばんざーい!」
「プリンセス、にんじんをどうぞ!」
「一緒にお風呂に入ろう!」
「プリンセスに癒されたいのだー!」
カピバラたちがほのかの周りを囲み、
モフモフの洪水のように押し寄せてくる。
「ちょ、ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇ!」
カピバラたちのふわふわアタックに埋もれながら、
ほのかの新しいモフモフ生活が幕を開けた──。