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この恋、止まれません! ③

 富永と並んでホールの端に待機し、そのあいだにもいろいろと細かいことを教えてもらう。緊張するのは大好きな店で働けるようになったから、だけではない。あの男性――創の視界に入ることが脈を速くさせる。

「富永さん、村瀬さんと休憩入って」

 店長が富永に声をかけた。

「わかりました。じゃあ休憩入ろうか」

「はい」

 ついに休憩時間になった。頑張れ自分、と手を握り込んで創を見る。

「村瀬さん?」

 訝るような富永の声を聞きながら、四人がけのテーブル席に近づいて創の前に立つ。彼は不思議そうな顔で実里を見あげた。食事は終わっているようだが、お皿をさげに来たわけではない。

「好きです」

 創だけではなく、一緒にいる男も呆気に取られたように動きも表情も止まった。実里は内心緊張しているのを隠して反応を待つ。背後から富永が焦ったようになにか言っているのが聞こえるが、今は振り返れない。まっすぐに創を見ると、創の視線も実里からずれない。目を見て話す人だとわかった。

「本気?」

 返ってきたのは問いかけだった。先ほど吸い込まれそうになった黒い瞳には、なんの感情も見えない。その瞳をじっと見つめて頷く。目を逸らしたら本気だと信じてもらえない気がした。

「本気です」

 解凍した連れの男が、敵意を持って実里を見ているのを無視する。実里の相手は創だ。男がなにかを言おうと口を開くと、創が手で制した。今にも噛みついてきそうな男は、顔を歪めて唇を結んだ。

「本気の恋愛は他のやつとしたほうがいい」

「どうしてですか?」

 間髪容れずに聞き返すと、創は興味がなさそうなままで実里に視線を向ける。

「俺は遊ぶ相手しかいらない」

「でも僕はあなたがいいです」

 そう言われたからと実里も易々と引く気はない。言いきると、綺麗な眉を片方あげた創が、それでも無関心な瞳で実里をとらえる。彼に興味を持ってもらうためには、この程度ではだめなようだ。

「なんで?」

「ひと目惚れしたからです」

 間を置かない返答に、創は「ふうん」とすげない声を出した。これほどに整った見た目なら、こうやって言われるのは慣れているのかもしれない。たしかにひと目で魅入られるほどに恰好いい。吸い寄せられるように視線が向くのは、たぶん誰もが同じだ。

「他に理由は?」

「好きだと思ったら貫くのが、僕の主義です」

 重ねて聞かれ、考えるより先に答えが口から出た。実里の本気が伝わったのか、軽く瞠目した創はすぐに無表情に戻ったが、それでも瞳の色が変わった。実里に向けられた瞳が細められ、ふっと噴き出したかと思ったら笑い出した。

 食事を楽しむ客たちも創を見る。その笑いの意図がはかりかねて、実里はぴりっと全身に緊張の糸が張る。

「変なやつ。ここのスタッフ? 名前は?」

「今日から入った村瀬実里、二十三歳です」

 創が実里に問うと、連れの男の眉がつりあがった。見なかったことにして、淡々と答えているふりをする。内心では緊張で心臓が暴れまわっている。

「俺は糸賀いとが創。年は二十八。創でいいよ」

 一応情報として年齢も言ってみたがきちんと応えてくれた。悪くない反応に緊張がほぐれる。創の向かいに座る男は実里に胡乱な目を向けているが、気にしない。こんな視線を気にしていたら創に近づけない。

「創さんの男遊びをやめさせてみせます」

 はっきりと宣言すると、創はまた目を見開いた。どんな反応が返ってくるだろうと思っていたら、こんなにおかしいことはない、というように彼は笑う。本気なのだが、そう取ってもらえなかっただろうか。向かい側の男の視線がきつくなったのを感じる。

「やれるものならやってみな」

 受けて立つ、と創は口角をあげる。本気だと伝わったことに安堵しながら、力強く頷く。

 宣言したからには絶対にやり遂げる。決意する実里に、創の挑発的な視線が向けられた。


「村瀬さん……」

「すみません」

 創の席から戻ると、一部始終を見ていた富永が呆れを満面に表した。あれほど言ったのに、とため息までつかれたが自分は本気だ。心配してくれているのであろう富永の気持ちは嬉しいけれど、それでも止まれないときはある。

「本気なの?」

「はい。めちゃくちゃ本気です」

 富永の目をまっすぐに見て言いきると、相手はまたため息を吐き出した。

「そこまで言うなら、俺もこれ以上余計なことは言わないけどさ。でも創さんかあ」

 たしかに見た目はいいよな、と頷いている。外見もいいけれど、突然落ちてきた人間を咄嗟に受け止める勇敢さも恰好いい。下手をしたら自身が怪我をするのに見捨てずに助けてくれた優しさが、一番のひと目惚れ要因だ。あのとき彼が実里を受け止めてくれなかったら、今頃病院にいたかもしれない。場合によっては大変なことになっていたとも考えられる。

「ま、頑張って」

「ありがとうございます!」

 富永とのやり取りを聞いていた他のホールスタッフたちが、次々に手をあげてくれる。

「私、協力するよ」

「俺も。わかることなら教えられるし」

 なんて恵まれた職場だ、と感動で胸が熱くなりながら感謝する。店長にも呆れられながらも応援してもらえた。

 皆の期待に応えないわけにはいかない。絶対に創の男遊びをやめさせる。

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