初めての魔術
ついに七歳になった。そこで少し俺の現在の容姿について触れてみよう。
身長は百三十センチ程度で、歳の割には大きい方なんじゃないだろうか。
顔は洋風ではあるが幼いためか特別顔の彫りが深いというわけではないな。
次に髪と瞳の色についてだが、髪は金髪。これはおそらく母親譲りだろう。そして瞳は父親譲りの黒目なのだが、
この世界は顕性形質潜性形質については一体どうなっているのだろうか。普通瞳だけ黒とかありえるか?
まあ良いか。と、まあ容姿についてはこのくらいにして、俺が七歳になったということはビッグイベントがある。
そう、ついに魔術を習えるのである。ワクワクが止まらないぜ。
俺はさっそく自室から出てシフィリアの元へ向かった。
「はい!じゃあ約束通り今日からシディに魔術を教えます。」
そう言うとシフィリアは俺を連れて家から少し離れた林に向かった。
ちなみに我が家は異世界と言えどなかなかに田舎の方だろう、あたりには家が少し建っている程度
大きな建築物なんかはなく、人通りもそんなに多くはない。魔術の練習という点では、
人を巻き込む心配がないためむしろ好都合だ。
それにしても念願の魔術だ。これまでに覚えた魔術は基礎的なものばかりだったが火、水、風、土、雷、治癒と
魔術童貞の俺にとっては十分なものばかりだ。今日からはその全てが実際に使えるのだ胸が高鳴るというものだ。
「じゃあまずは、ストレッチから〜。」
ストレッチ?まあ確かに柔軟も大事か...
三十分後
それにしても入念すぎないか?もうかれこれ三十分はやってるぞ。
だがシフィリアはストレッチをやめる気配はない。
2時間後
いまだにストレッチである。
「明らかにおかしいでしょ!ストレッチ長すぎ!体フニャッフニャになっちゃうよ!」
「えー、もうシディったら根性ないのねー。」
「いや、根性とかじゃなくて!魔術の特訓は?まだ詠唱すらしてないよ!?」
「これじゃ体操教室だよ!」あまりに長いので思わず前世のもので例えてしまった。
「たいそうきょうしつ...?ってのが何かはわからないけれど、魔力を循環させる上でストレッチが必要なのよ。」
「一回流れを掴めば簡単なんだけど一度も流れを作ってない人の体内では変に魔力が集まってたり、
普段動かさないような部位に溜まったりしているから、血流をよくして血に魔力を中心に集めてもらうの。」
「だから一度も魔力を使ったことのないシディには入念なストレッチが必要なの!わかった?」
シフィリアが頬を膨らませて俺を指差す。
うぐっ。どうやら俺の早とちりだったみたいだ返す言葉もない。
1時間後
「はい!じゃあストレッチ終わり!」
「うゎぁ!やっと終わったぁ。」
はぁ、長かった。いくらなんでも長すぎた。
「どう?シディ。体の内側があったかくない?」
「そりゃ、あんなにストレッチしたんだからあったかくもなるよ。」
「そうじゃなくて。体の真ん中で波打つような温かい感覚があるでしょ?」
確かに言われてみれば普通に運動した後の温かさとは違う気がする。
何か胸の辺りで心地いい感覚がある。ふわふわと少しずつ少しずつ広がっていくような。
「うん、なんとなく...。」
「じゃあその感覚が血管を通って肩から腕そして手へと通っていくイメージをして。」
「わかった...」
俺は目を閉じて体内の感覚に集中する。
胸の辺りのじわじわと広がるような感覚が血管を通って肩に行きそこから腕、手と伝っていく。
「イメージができたら詠唱をしてみて。今回は水魔術にしましょう。詠唱はわかるでしょ?」
「...」
「恵みの精よ 渇きを潤すため 従い導け」
なにも...でない...。
失敗の理由はわかっている。魔力の感覚はあってもやはり心のどこかで疑っているのかどうしても流れの
イメージができないのだ。
「失敗かぁ。」
後ろで見ていたシフィリアはそう言うと俺の方へやって来た。
「たぶんイメージがうまくいってないんでしょ?」
「うん、どうしても胸の辺りから手の方へ流れていくイメージができない。」
「そうねぇ。もし魔力のイメージがうまくできないなら。他のもので考えてみるのはどう?」
「たとえばそうねぇ。電気が体を流れて来た時の感覚とか...」
電気か...。ありかもしれない。電流なら高校時代に実習で何回か配線に触って軽く流れた経験がある。
よし...。
俺が何か掴んだような顔をするとシフィリアは再度後ろに下がった。
胸に広がる魔力は電源、そして俺の手に至るまでの経路は配線だとして、出力される魔術は電球の明かり。
電源から電球までは一度スイッチを入れたら一気に流れる。
電流が流れていくイメージ...
......ビリッ
「「恵みの精よ 渇きを潤すため 従い導け」」
バシャァンッ
バケツの水を一気に壁に当てたような音と同時に、一気に倦怠感が俺を襲った。
「やったーー!!シディやったわね!!」
背後からシフィリアが喜びながら近づいてくるのが分かった、それに合わせたかのように
俺は倦怠感から足の力が抜けシフィリアに寄りかかるように倒れてしまった。
「わわっ」
シフィリアはしっかりと俺の体を抱き抱えてそのまま地面に横たわせて膝枕をしてくれた。
そして覗き込むようにして俺に顔を近づけると
「やったね!シディ。初めての魔術成功だよ!!」
と言ってまるで自分のことのように喜んで満面の笑みを見せてくれた。
あんなにも反対していたのに年数が経ったとはいえ、いざ魔術を学ぶとなったら全力で教えてくれるし、
成功すれば全力で喜んでくれるのだ。優しい母親だ。
それにしても初めての魔術成功か。
体の倦怠感は今後の課題ではあるがひとまず。
「第一段階クリアー。」