魔術師の体について
あの、シフィリアとの会話の翌日から魔術の特訓は始まった。
と言いたいところだが、実際は始まっていない。
なんでも、魔術というのは体内に滞っている魔力を循環させる必要があるらしいのだが、魔力はその性質上生命力の塊のようなものであり、それを循環させることで副次的なものとして老いを遅らせる効果があるらしい。
現にうちの母親シフィリアは見た目はせいぜい二十代前半といったところだが、実際は三十二歳とずいぶん
若く見えているのだ。この老いを遅らせる効果が成長を阻害する可能性もあるので、
ある程度の筋力がつく七、八歳頃までは座学とイメージトレーニングのみということになった。
まぁ、正直言ってこれがなかなかに退屈ではある。プログラミングも理論だけ学んで実際に打ち込まないのは
つまらないだろうそれと一緒だ。だが、まあ約束は約束だ。ずっと二歳児程度の体でいても困るしな。
約三年後
五歳になった。
この国の文化なのかこの世界の文化なのかは分からないが、誕生日を祝うという文化がないらしい。
なんとも寂しい文化である。その代わりに子供が生まれた時や、初めて子供が喋ったときなどなにか
特別なことがあると盛大に祝うという文化らしい。まあこれはこれで気分は悪くないので少し気に入っている。
話は変わるのだが、五歳まで生きてみて疑問に思ったことがある。
というのも、俺は現在シデア・レントの体で生きているわけだから当然脳もシデア・レントのものである。
となると、前世の俺の記憶があるのはどうもおかしい。今世の脳に、知り得ない前世の情報があるわけがないから
他の場所に俺の前世の記憶があるとして、それは一体どこだろう?魂?あまりに非現実的だが、
魔術のある世界だ。ないこともないだろう。まあ現状どう足掻いても理解できないものは考えても仕方ない。
また、後で考えよう。今日もしっかり魔術の理論について学ぶとしよう。