初めての祭りと無感情
あのクソ親父遊んで忘れるのが一番とか適当なこと言いやがって!今フューと2人で話すだけの技量がないから困ってんだろうが!
いや、無駄に腹を立てるのはやめよう。
もう来てしまったのだから仕方ない、フューになるべく寄り添うようにしよう。
それにしてもこの世界にも花火があるのには驚いた。
それどころか浴衣まである。これ明らかに日本の文化だろ。花火までは火魔術で納得がいくが、これには、どうも違和感を覚える。
「フュー浴衣は初めて?俺は初めて着たよ。
花火大会も初めてだけど。」
俺たちは浴衣を着ていた。それに加えてフューの髪は綺麗な髪飾りでまとめられている。おそらく
シフィリアがやったのだろう。
「うん。」
相変わらずたんぱくな返事だ。俺を認識しているのかもわからない。
苦しい、彼の事情を知っているだけに余計に。
「はい!安いよ安いよー。たこ焼き一皿銅貨六枚!」
「たこ焼き!?」
そんなバカな...すでに滅んだはずでは!
俺は思わず声のする方へと駆け出した近づくにつれ、
芳醇なソースの香りと鰹節の香りがしてくる。
まさか...まさか!
「たこ焼きだぁあぁ。」
この匂いこの丸く輝くビジュアル。ほかの何でもない
正真正銘たこ焼きだ。
「おう、坊やたこ焼き好きなのか?」
たこ焼き屋の男が興奮する俺に話しかけた。
「うん!大好き!」
七年ぶりだぞ食わざるをえん。
「よーし、そんなに好きなら特別に銅貨四枚だ!」
「やった!ありがとおっちゃん!」
念願の日本食だ。この世界の飯も悪くはないが故郷の飯ってのは恋しくなるもんだ。
さて、ではさっそく一つ。
口に含んだ瞬間ソースの味が強烈に舌を刺激し、
その後青のり、鰹節の香りが鼻腔を突き抜ける。
俺は口をハフハフとさせながらゆっくりと味わった。
ごくん。
「うめぇーーー。数年振りってのもあるだろうが、
何より味の再現度が高い。このレベルなら日本で
売っててもなんの問題もないレベルだ。一体誰が
こんなの作ったんだよー。」
俺は思わず涙目になって感動した。
「ワケのわからねぇことを饒舌に語るガキだな。」
「えへへ。あまりに美味しいもので。」
年甲斐もなくはしゃいじまったぜ。
...って、フューを放ったままだ!
まずい、失望されたか?勝手に自分だけ楽しんでた。
フューのことを一切考えてなかった。
「フュー...」
「...。」
俺が振り返るとフューは相変わらずの無表情だった。
何にも興味がないといったふうに。
フューは何か悪いことをしただろうか?フューくらいの歳の子ならはしゃぐであろう祭りの場でなんの感情も持てないぐらい酷い目にあわなければいけないほどの悪事を働いただろうか。
なんでフューがそんな目に合わなければいけなかったんだ...。
「おいなんだよボウズ女の子連れてんのかよ!」
さっきのたこ焼き屋のオヤジが話しかけてきた。
「いや、フューはおとこ...」
「だったらとっておきのスポットを教えてやるよ。」
俺の訂正を遮るようにオヤジがそう言った。