頼りになる父親
なんで、この子がスリなんか...そんなことができるようには見えなかった。
誰かにやらされた?お金がなくて食べるのに困ったとか?ダメだ考えてもわからない。
倒れている彼女の顔を見ているとますます分からなくなっていくようだった。
「おい!動きが止まったぞ捕えろ!」
! まずい衛兵の声だ。ひとまずこの子を連れてどこかに逃げないと。
この子に今捕まられたら、分からないことだらけだ。
そうして俺は気を失っている少女を連れて裏路地を通り、デアルが借りている宿屋へと戻った。
「「癒しの精よ 再び立ち上がるため 従い導け」」
デアルが少女の頭にかざした手が淡く光り少女の体に癒しを与える。
よし、少し強めに治癒魔術をかけたからケガは問題ないだろう。
今は俺のベッドに寝かせておけば良いが、問題はデアルが帰ってきたときにどう説明するかだ。
できることならデアルが帰ってくる前に状況確認をしたいところだ。
「ほうほう、シディは黒髪エルフがお好みかぁ...」「フムフム。」
俺が少女の方を向いて考え事をしているといつの間にか後ろでデアルが腕組みして立っていた。
「なっ!!」
「なんでいるんだよ!? か?」
「お前程度に俺が気配を悟られると思うなよ?」
デアルは得意げな顔でニヤニヤしている。
「いや!そうじゃなくてまだ二時!」
「今日は早番だったから元々昨日と違って四時上がりなんだよ。」
「それと、部下が街中でガキが魔術でガキをぶっ飛ばしたって話しててな。」
「もしかしたらなーってことで、少々無理言って早く帰ってきたわけだ。」
まじか。なんの問題解決もしていないところでデアルが帰ってきてしまった。どう説明すれば...
「で?まさか、好みの女の子をどうにかしたくて魔術で気絶させて拉致って来ましたってワケじゃないんだろ?」
こいつほんとにあの適当なデアルか?ずいぶん話が早い。まあ今はその方が助かる。
「実は...」
俺は昨日の出来事を含めて全てをデアルに話した。
「なるほどな。でも、その話を聞く限りじゃお前の主観が強すぎて、
正直その子が純粋に盗みをしていたとしか思えない。と言いたいところだが、」
「賢いお前がその子は本意ではないと感じたなら何か理由があるんだろう。俺は父親としてお前を信じるよ。」
「幸い、被害者の女性は物が返ってきたから深追いするつもりはないらしい。」
この男を俺は勘違いしていたのかもしれない。
魔術と子供という単語だけで我が子のことかもしれないと心配して、仕事を抜けてきて、
情報収集までしてくるとは。仕事ができる上にとても頼りになる父親だ。
これからはこの男への評価を改めなくてはいけないな。
「いやぁ!にしてもこの子かわいいな!こりゃ大きくなったら美人になるぞ!
今のうち唾つけとけシディ!」
前言撤回だ。間違ってもこの男の評価は改めない。